鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人

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lv.2 異世界

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   [Ⅰ]


 これは俺、桜木小次郎の異世界転生の記録である。
 我が生き様をここに記す。
 さぁ始めよう。

   *

 神を名乗る妙なペンギンとのやり取りの後、俺は目を覚ました。
 視界の先には、木々の枝葉が密集している。
 その隙間から木漏れ日が、申し訳程度に射し込んでいた。
 時折、鳥の鳴き声のような「キィキィ」という音が耳に入ってくる。
 また、ややヒンヤリとしたそよ風が、頬をそっと撫でていた。
 とはいえ、寒いわけではない。初夏の日陰を思わせる程度のものだ。
 その他に、檜のような香りも少し鼻に付く。
 それらは正に、生きていた頃のリアルな五感であった。
 つまり、転生が完了したという事なのだろう。
 自分の死を受け入れてからの急展開だが、とりあえず、また人生は続けられるようだ。
 しかし、頭の中がゴチャゴチャとしてはっきりしない上に、ガンガンと痛い。酷い二日酔いのような感じだろうか。
 嫌な痛みだが、この頭痛も生きてるという証なんだろう。
 俺は額を押さえながら、ゆっくりと半身を起こした。
 周囲は無数の木々に囲まれている。
 見たところ、広葉樹と針葉樹が入り混じる深い森だ。
 地面に目を向けると、湿っぽい褐色の土や小石、そして緑色の苔や雑草に加え、落ちた木の枝葉が見える。
 勿論、見覚えのない光景だ。が、しかし……不思議なことに、頭の中がはっきりするにつれ、見覚えのある景色へと、俺は認識を改める事になったのである。
 なぜなら、あのペンギンが言っていた通り、この男の生前の記憶があるからだ。
 俄には信じがたい記憶の数々だが、この男の記憶と、俺が日本で生きていた記憶が融合しているのである。
 頭の中がゴチャゴチャしてたのは、記憶の整理を脳がしていたからなのだろう。
 しかも、なかなかのアンビリーバブルな記憶の数々であった。
 物心ついてから死ぬまでの記憶が全てあり、何故死んだのかも、ハッキリと鮮明に憶えているからである。
 ペンギンの言ってた通り、確かにここは魔法があり、魔物もいるファンタジーな異世界だ。ご多分に漏れず、中世な世界観である。
 だが、この身体の素性が問題であった。
 しかも元の持ち主は、身体がひ弱で臆病な人生を送っており、その死に方も衝撃的であった。
 その為、俺は今、景色の事なんぞどうでもよくなっており、記憶についてかなり困惑しているところなのである。
 コイツはヤベー。色々とヤバい素性の男に転生してしまったみたいだ。

「名前はシュレン・エリア・ソルナンド・オヴェリウス。年は19歳。性別は男。そして……オイオイオイ、嘘だろ……マジかよ、コイツ。オヴェリウスとかいう滅ぼされた国の第一王子じゃねぇか。しかも、ちょっと前、従者に毒盛られて殺されてるやんけ。味方に暗殺されたのかよ。最悪じゃないか。不味い……生きてるとわかれば、また命を狙われるぞ。なんつー奴にインストールされたんだよ」

 俺は独り呟きながら、慌てて周囲を見回した。
 そう、この身体の持ち主はなんと、信じていた従者に裏切られ、毒殺されていたのである。
 その時、殺人犯であるシムという従者は、こんな事を言っていた。

『旅はここまででございます、シュレン様。ルザリア様から、オヴェリウス王家の者は根絶やしにしろとの御命令なのです。申し訳ありません。この隣国の地で、人知れず果てて下さい。では私はこれで……』と。

 どうやら俺は、凄いババを引いてしまったようだ。ちょっと後悔である。
 一応、今のところ危険はないようだが、少し前に殺された筈だから、安心はできない。
 というか、毒殺された遺体なのに、よく転生できたもんだ。
 体内に毒が残っていたら、また死ぬと思うんだが、そんな兆候は全然ない。どういう状況だよ、これ。 
 疑問は尽きないが、とりあえず、この場に留まるのは危険だ。
 場所を変えたほうがよさそうである。
 俺はそこで身なりと所持品を確認した。
 着ている衣服や武具は、死ぬ前と同じ物だ。
 チュニックのような布の服とボトム。その上から羽織る白いフード付きローブ。そして、腰に差した護身用の長剣と短剣だ。
 肩に掛けた革製の道具袋には、タオル代わりの布きれと傷薬に加え、路銀300ラウムが入っている。
 ちなみにラウムとは、この辺りで取引される貨幣単位だ。物としては、金貨や銀貨にカテゴライズされる貨幣である。これも生前と同じ所持金額であった。
 まぁその辺は変わりないが、1つだけ記憶にない物が、俺の横の地面に置かれていた。
 それは奇妙な書物であった。B5サイズ程度の黒い本で、それほど分厚くはない。
 何の材質で出来ているのか知らないが、硬い書物である。
 表紙には、ここの古代文字で『エールペンデュラムス』と書かれている。
 コイツの生前の記憶によると、意味は『神秘の契約の書』である。
 ペンギンが言っていた魔法書とは、もしかすると、これの事かもしれない。
 俺はそれを手に取り、パラパラと捲った。
 すると何か書いてあるのは1ページ目だけで、後は全て白紙だったのである。

「なんだこれ……何も書いてないじゃん。ノートか、バッタもんか? でも、1ページ目には何か書いてあるな。なになに……この書に認められし者よ……書を手に取り、願うがいい。書は汝の力量に応じて願いを聞き届けるだろう。但し、乱用すれば身を滅ぼす事になる。ご利用は計画的に……って、なんだよ、最後の消費者金融みたいな注意書きは……怖っ」

 よくわからんが、使い過ぎに注意しろという事なのだろう。
 嘘か本当か知らんが、今は殺人犯が戻って来る可能性がある。
 とりあえず、この場は離れるとしよう。


   [Ⅱ]


 俺はシュレンの生前の記憶を思い返しながら、森の街道へと向かって歩を進めた。
 勿論、顔がバレないようフードを深く被りながらだ。
 しかし、予想していた事だが、山は歩きにくい。
 慣れない身体で進むのもあり、違和感がありまくりの移動であった。
 おまけにローブを纏っているせいか、落ちた枝葉に裾が引っかかるのである。イラッとしてくる。
 実家は田舎なので、子供の頃はよく山にも行ったが、それとこれとは話が別だ。
 歩きにくいモノは歩きにくい。
 それに加えてコイツ、朝飯食ってないから、空腹感が半端ないのだった。
 早く飯を食いたいところだ。というか、腹減った。
 そんな感じで森の中を彷徨っていると、ある時、叫び声が聞こえてきたのである。

「ウワァァ……だ、誰かァァ! ガルマだぁぁ! 助けてくれぇぇ!」

 どうやら付近にガルマが現れたようだ。
 ガルマとは、この辺りにいるハイエナのような獣の事である。
 群れで狩りをするので、1体ではないんだろう。
 こういう場合、アニメやゲームなら可愛い女子か、貴族のご令嬢というのがご都合世界の定番だが、声の感じは男のモノであった。
 しかも若くない。オッサン系の声だ。
 不謹慎だが……燃えない展開のようである。
 さてどうしよう。
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