鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人

文字の大きさ
4 / 20

lv.4 イシルの村

しおりを挟む
   [Ⅰ]


 イシルの村は、森を抜けて暫く進んだ所にある、大きな山の麓にあった。
 日は山の影に隠れ、辺りは夕闇が覆っている。
 もうすぐで、夜の帳が降りてくる事だろう。
 俺とドムさんはそんな頃に、イシルの村へ到着した。
 十数件程度の小さな村で、ログハウス調の丸太小屋ばかりであった。住民は少なそうだ。
 しかし、なかなか長い道のりだった。
 ドムさんと出会ってから、時間にして10時間近い移動だったからである。
 おまけに、森を出た後は太陽が照りつけてくる為、かなり疲弊したのだ。
 気温も意外と高い。30度近くあるんじゃないだろうか。
 それもあり、途中の河川で生水を摂取し、喉を潤しながらの旅であった。
 とはいえ、あのガルマとの戦闘以降は、剣を抜く事もなかったので、そっち方面は少し安堵したところだ。
 流石に今の状況で頻繁に戦うのは、命取りになりかねないからである。
 それはともかく、この道中、ドムさんから色々と話を聞けた。
 その中には、2年前、北の大国グランゼニスに滅ぼされたオヴェリウスの話もあった。
 ドムさんの話によれば、今はもうオヴェリウスの名は完全に消え去り、グランゼニスの植民地状態のようである。
 シュレンの記憶によると、その当時の戦いは熾烈を極めていたようだ。
 ちなみにオヴェリウスは、この大陸の西に広がるオヴェル海の島国で、海洋国家であった。
 周囲を海という天然の防壁に囲われたオヴェリウスであったが、グランゼニスの大艦隊によって、わずか10日ほどで陥落したのだ。
 しかも、シュレンの記憶によれば、オヴェリウスは地獄のような戦いを強いられていた。
 特に、亡者を操る非人道的な死人使いが厄介だった。
 記憶によると、死んだ味方が敵となり、みるみる戦況が悪くなっていったからだ。
 まるでゾンビ映画状態である。
 そして、オヴェリウスは滅んだのだった。
 何とか逃げ延びたシュレンも、シムという従者によって毒殺されているので、他の王族も同じ運命を辿ってそうである。
 シムはあの時、ルザリア様の御命令と言っていた。
 その名はオヴェリウス王家に仕える宮廷魔導師の女の名前であった。
 つまりルザリアは、グランゼニスと通じていたという事なんだろう。
 しかし……大国グランゼニスは血も涙もない手法で、他国を攻め立てているみたいだ。
 シュレンの記憶を紐解くと、元はそんな国ではなかったようである。
 だが、先代の国王が崩御してから、非道の覇権国家になったみたいだ。
 とはいえ、一言、俺は言いたい。
 グランゼニスのゾンビ戦法……それはやったらアカンやろ。
 もはや悪の帝国だ。

「ふぅ……本格的に暗くなる前に着けてよかったよ。そういや、コジローさん、イシルの村は初めてだと旅の途中で言ってたな。見ての通りの寂れた小さい村だよ。村人も30人くらいだしな。若い奴もそんなにいないし」
「そのようですね」

 まぁ確かに、そんな感じの村である。
 見た感じだと、小さな集落といったところだ。
 村の入口には、自警団と思われる武装した村人が2人ほど篝火の前にいた。
 夜は魔物や獣が活発に動くので、警戒しているんだろう。
 ちなみにここで言う魔物とは、勿論、異形の化け物の事である。
 森で倒したガルマは魔物ではない。アレはただの獣だ。
 シュレンの記憶には、神話やゲームに出てくるドラゴンやマンティコアのようなモノまであった。
 流石はファンタジーな異世界である。
 正直、勘弁してほしい記憶であったが、見てみたいと思ったのは言うまでもない。 
 怖いモノ見たさというやつだ。

「ドムさんはこの村が出身なんですか?」
「いや、違うよ。私はこの村に住んでる男に用があって来たんだ。ま、この村には宿もないし、とりあえず、その男の家に今から向かうつもりだよ。たぶん、寝場所は用意してくれる筈だ。さ、行こうか。付いて来てくれ」
「ええ」

 俺はドムさんの後に続いた。
 静かなイシルの村の中を俺達は進んで行く。
 出歩いている人々はあまりいない。
 暗くなってきたので、家に入ったんだろう。
 周囲を見回したが、今は薄暗い事もあり、どういう景観の村なのかまでは、流石にわからなかった。
 とはいえ、近くに案山子みたいなモノが立った畑が見えるので、長閑な場所なんだろう。
 そんな村の中を進んでゆくと、ドムさんは一番外れにある丸太小屋の前で立ち止まった。
 どうやらここが目的の人物の家のようだ。
 ドムさんは玄関扉を軽く数回小突いた。
 程なくして扉が開かれる。
 すると扉の向こうには、白い髭を蓄えたスキンヘッドの老人が立っていたのである。
 年は60代後半といったところか。
 ちなみにこの辺りは一応、太陽暦のようだ。1年を350日くらいで区切っている。なので、地球年齢と比べると誤差が結構あったりする。
 シュレンもここだと19歳だが、現代日本なら18歳くらいになるのかも知れない。
 まぁとはいえ、1日の長さも微妙に違うだろうから、何とも言えないところだ。
 老人はドムさんを見て、微笑んだ。

「誰かと思うたら、ドムじゃないか。久しぶりだな。エルの月に会って以来だ」
「おお、フレイの旦那。久しぶりだね」

 2人はそう言って、親しそうにハグをした。
 オヴェリウスやアルディオンにおける、親しい者とのコミュケーション方法である。つまり、欧米系だ。
 フレイという老人はそこで、俺をチラッと見た。

「ン、そちらさんは誰かな?」
「ああ、この人はオヴェリウスから来た旅の剣士で、コジローさんと言う。道中、ガルマに襲われて危ないところを助けてもらったんだよ。宛のない旅してるって言うから、護衛も兼ねて付いてきてもらったんだ」

 道中、軽く世間話的にオヴェリウス出身とだけは言っておいた。
 この程度なら、大丈夫だろう。
 ひ弱で引きこもり気味だったシュレンは、それ程に顔は知られてないからだ。

「ほう、そうだったか。では儂からも礼を言わんとな。儂はドムの友人でフレイという。我が友人を助けて頂き感謝する」

 男は胸に右手を当て、軽く頭を下げた。
 オヴェリウスやアルディオンにおける、一般的な礼の作法である。

「いえいえ、たまたま休んでいたところ、襲撃に出くわしただけですから、気にしないで下さい。あ、私はコジローという旅の者です。よろしくお願いします、フレイさん」

 俺は気楽な感じで挨拶した。
 あまり丁寧な挨拶はしないでおこう。
 素性がバレる可能性がある。

「しかし、オヴェリウス出身とはね。大変だったな、祖国があんな事になって……」

 フレイという老人は目尻を下げ、憐れんでいた。
 事の顛末を知っているんだろう。

「ええ、大変でした。ですが……悲しんでばかりもいられないので、生きていく為に旅してるところです」
「そうか……まぁ確かに、そう考えんとやってられんだろうな。さて、外でこんな話をするのもなんだし、中に入ってくれ。ドムもわざわざここに来たという事は、何か大事な用があるんだろう?」

 フレイさんはそう言ってドムさんを見た。
 ドムさんは意味ありげに微笑んだ。

「流石、フレイの旦那だ。察しが早くて助かるよ」
「そんな事だろうと思ったよ。さ、入ってくれ。といっても、大したもてなしはできんがな」――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る

丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。 現代では中世近世史を研究する大学講師。 史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。 ならば変える。 剣でも戦でもない。 政治と制度、国家設計によって。 秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、 戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。 これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。 戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。 敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。 結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。 だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。 「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」 謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。 少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。 これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。 【※作者は日本語を勉強中の外国人です。表現が拙い部分もあるかもしれませんが、温かく見守っていただけると嬉しいです。】

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...