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14話
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「ん……」
「あ、おきた」
瞳を開くと、レヴが私の手を握って寝台の横に座っていた。
身体を起こせば沢山の花が置いてある。
「これは?」
「えへへ、ナディがたすけてくれた。おれい!」
「……ありがとう。レヴ」
私が起きたのが分かったのか、グラスランさんが歩いてくる。
そしてレヴと並ぶように、寝台横に立った。
「起きたか、丸二日も寝ていたから心配していたぞ」
「ふ、二日も!?」
そんなに寝ていたのか。
いや、でもあの癒しの魔法を使って何も代償がない方が怖い。
むしろ二日間、意識を失うぐらいで済むだけいいと思うべきなのだろう。
「ちょうど、嬢がここに来た時のような気絶の仕方でな。起きないか心配だったよ」
ここに来た時と同じと聞いて、思い出すのは王都での傷が癒えていた事。
あれはもしかして、自身の傷を私が治していたの?
馬のスードが説明できない距離を走っていたのも、癒しの魔法で体力が尽きなかったのでは?
今になって、疑問だった事の全てがこの力のおかげだと説明がつく。
「ちょうど起きてくれて助かったよ。実は嬢に聞いてもらいたい事があってな」
「聞いてもらいたい事?」
「準備をしたら外に出てくれるか? 皆を呼んでくる」
皆さんを呼ぶとは、いったいなんだろうか。
戸惑いつつも外に出ると、驚きの光景が広がっていた。
「え……これは、一体。どうして皆さんが荷物をまとめて……」
外には、この村に住んでいた全員と思われる人々が荷物を持って立っていた。
皆が戦地から逃げてきた際に身に付けていたらしき、鎧を身に付け、剣を差している。
その光景に疑問を漏らした私に、一人の男性が口を開く。
「あんたが寝ている間に、皆で話し合ったんだ。俺らも……あんたみたいになりたいって」
「私みたい……ですか?」
「レヴの件で自省したよ、こんな幼子を犠牲にしてまで隠れ住んでいても、どっちみち未来はない。ならせめて……不名誉を負ったこの身を、救ってくれたあんたのために役立てたい」
「皆さん……」
「俺達は、これからは全力でナディアさんに加勢する」
「っ!」
「半数はナディアさんの護衛となろう、何が来ても全力で守り通す。そしてもう半分は王家に投降する予定だ」
私の護衛とは願ってもない申し出だ。
でも、それ以上に気になる事があった。
半数が王家に投降する意味を、思わず問いかける。
「よ、良いのですか? 護衛は有難いです……しかし王家に投降するのはいったいどうして」
「ただ投降するつもりはない。元は王家に戦地で捨て駒のように扱われた俺らも、あんたと同じく王家に一矢報いるつもりだ」
「どうするつもりですか?」
「前にあんたが言ってくれただろう? 噂を絶えず民や貴族に浸透させると」
荷物を持った男性達は強い瞳で私を見つめて、頷いた。
「王都に向かう半数が、その役目を負う。もう一波乱を起こしてみせる」
「っ!?」
「脱走兵がこの人数で帰還すれば、王都でも騒ぎになるだろうさ。上手く扇動して……ルーベルとやらを俺らが追い詰める」
「いいのですか?」
「任せろ。皆とレヴを救ってくれたあんたが、一日でも早く平和に暮らす助けとなれるなら脱走兵の不名誉も少しは晴れるさ」
「なら……せめて王都にてセトアという騎士に頼ってください。あの人ならきっと、助けになってくれます」
「分かった。どうか無事でな、ナディアさん」
集まっていた半数が、荷物を持って歩き始める。
その背中には以前のような怯えはなく、どこか誇らしげだった。
「皆さん、どうしてここまで」
「ナディア嬢のおかげじゃよ」
グラスランさんが呟いて、私の肩を叩く。
「儂らも立ち向かってみたくなった。逃げて終える人生ではなく、嬢一人ぐらいは救える人生にしたいんだ」
「グラスランさん……」
「それに皆も分かっている。ナディア嬢、今や君が王家に口封じされる損失は大きい。あの力は大勢を救えるはずだ」
呟いたグラスランも、腰に剣を差していた。
腰まで伸びていた髭は三つ編みに整えられて、彼も荷物を持っている。
後ろにいたレヴも、ちっちゃな鞄を背負って私を見つめた。
二人共、準備万端といった様子だ。
「グラスランさん? レヴ?」
「儂を含めて半数で嬢を護衛する。そこらの一兵卒よりは腕がたつもりだ。安心してくれ」
「レヴも、ナディとおそといけるの。たのしみ!」
「一緒に来てくれるのですか?」
「あぁ、もうこの村の役目は終え。儂らはナディア……君の正当性を示す手伝いをしたい」
なんて有難い言葉だろうか。
一人での逃走に比べれば、これほど安心できる事は無い。
「ナディア。王都にも協力者は居るのだろう?」
グラスランさんの呟きに、私はセトアやパン屋の常連の皆を思い出す。
彼らは私を信じて待ってくれているはずだ。
「そんな彼らに加えて、此度の脱走兵の皆がお主の味方となった。儂らは弱者かもしれんが、されど人の繋がりは個を超えて集となり、きっとお主の力となる」
「っ……」
「大きな一歩のはずだ。王家に対して嬢が正当性を示すためにも、次は貴族も巻き込もう。きっと出来るはずだ」
出て来た時を思えば、頼れる人達が増えている。
そう思えば、逃亡したあの日が無謀ではないと思えた。
私がまた平穏な生活に戻るために、もう歩みは止められない。
「ヒヒン!」
厩舎の男性が馬を連れてきており、スードが嬉しそうに私の元へ走って来る。
護衛となってくれる皆が、準備万端の様子だ。
私も元々出て行くつもりだったので、今すぐに発てるだろう。
「スード、また一緒に走ってくれる?」
「おうまさん、レヴものりたい!」
「ブルル」
任せろというようにスードが足踏みして、私はレヴと共に騎乗する。
グラスランさん達も自前の馬に跨り、私を見つめる。
出立の声がけを、任せる眼差しだ。
「皆さん、ありがとうございます。私に着いて来てくれますか?」
「もちろんだ。ナディア嬢」
「任せてくれ」
「しゅっぱーつ!」
グラスランさんや皆の返答、レヴの明るい声と共に、馬の蹄が地面を蹴る。
王家に正当性を示す戦いは本格的に始まっていく。
新たに着いて来てくれる皆と共に、貴族すら巻き込むため再び風を切った。
そしてこの時の私は知らなかった。
王都に向かった脱走兵の半数が起こす波乱が、さらにルーベル達を追い詰めていく結果となる事を。
「あ、おきた」
瞳を開くと、レヴが私の手を握って寝台の横に座っていた。
身体を起こせば沢山の花が置いてある。
「これは?」
「えへへ、ナディがたすけてくれた。おれい!」
「……ありがとう。レヴ」
私が起きたのが分かったのか、グラスランさんが歩いてくる。
そしてレヴと並ぶように、寝台横に立った。
「起きたか、丸二日も寝ていたから心配していたぞ」
「ふ、二日も!?」
そんなに寝ていたのか。
いや、でもあの癒しの魔法を使って何も代償がない方が怖い。
むしろ二日間、意識を失うぐらいで済むだけいいと思うべきなのだろう。
「ちょうど、嬢がここに来た時のような気絶の仕方でな。起きないか心配だったよ」
ここに来た時と同じと聞いて、思い出すのは王都での傷が癒えていた事。
あれはもしかして、自身の傷を私が治していたの?
馬のスードが説明できない距離を走っていたのも、癒しの魔法で体力が尽きなかったのでは?
今になって、疑問だった事の全てがこの力のおかげだと説明がつく。
「ちょうど起きてくれて助かったよ。実は嬢に聞いてもらいたい事があってな」
「聞いてもらいたい事?」
「準備をしたら外に出てくれるか? 皆を呼んでくる」
皆さんを呼ぶとは、いったいなんだろうか。
戸惑いつつも外に出ると、驚きの光景が広がっていた。
「え……これは、一体。どうして皆さんが荷物をまとめて……」
外には、この村に住んでいた全員と思われる人々が荷物を持って立っていた。
皆が戦地から逃げてきた際に身に付けていたらしき、鎧を身に付け、剣を差している。
その光景に疑問を漏らした私に、一人の男性が口を開く。
「あんたが寝ている間に、皆で話し合ったんだ。俺らも……あんたみたいになりたいって」
「私みたい……ですか?」
「レヴの件で自省したよ、こんな幼子を犠牲にしてまで隠れ住んでいても、どっちみち未来はない。ならせめて……不名誉を負ったこの身を、救ってくれたあんたのために役立てたい」
「皆さん……」
「俺達は、これからは全力でナディアさんに加勢する」
「っ!」
「半数はナディアさんの護衛となろう、何が来ても全力で守り通す。そしてもう半分は王家に投降する予定だ」
私の護衛とは願ってもない申し出だ。
でも、それ以上に気になる事があった。
半数が王家に投降する意味を、思わず問いかける。
「よ、良いのですか? 護衛は有難いです……しかし王家に投降するのはいったいどうして」
「ただ投降するつもりはない。元は王家に戦地で捨て駒のように扱われた俺らも、あんたと同じく王家に一矢報いるつもりだ」
「どうするつもりですか?」
「前にあんたが言ってくれただろう? 噂を絶えず民や貴族に浸透させると」
荷物を持った男性達は強い瞳で私を見つめて、頷いた。
「王都に向かう半数が、その役目を負う。もう一波乱を起こしてみせる」
「っ!?」
「脱走兵がこの人数で帰還すれば、王都でも騒ぎになるだろうさ。上手く扇動して……ルーベルとやらを俺らが追い詰める」
「いいのですか?」
「任せろ。皆とレヴを救ってくれたあんたが、一日でも早く平和に暮らす助けとなれるなら脱走兵の不名誉も少しは晴れるさ」
「なら……せめて王都にてセトアという騎士に頼ってください。あの人ならきっと、助けになってくれます」
「分かった。どうか無事でな、ナディアさん」
集まっていた半数が、荷物を持って歩き始める。
その背中には以前のような怯えはなく、どこか誇らしげだった。
「皆さん、どうしてここまで」
「ナディア嬢のおかげじゃよ」
グラスランさんが呟いて、私の肩を叩く。
「儂らも立ち向かってみたくなった。逃げて終える人生ではなく、嬢一人ぐらいは救える人生にしたいんだ」
「グラスランさん……」
「それに皆も分かっている。ナディア嬢、今や君が王家に口封じされる損失は大きい。あの力は大勢を救えるはずだ」
呟いたグラスランも、腰に剣を差していた。
腰まで伸びていた髭は三つ編みに整えられて、彼も荷物を持っている。
後ろにいたレヴも、ちっちゃな鞄を背負って私を見つめた。
二人共、準備万端といった様子だ。
「グラスランさん? レヴ?」
「儂を含めて半数で嬢を護衛する。そこらの一兵卒よりは腕がたつもりだ。安心してくれ」
「レヴも、ナディとおそといけるの。たのしみ!」
「一緒に来てくれるのですか?」
「あぁ、もうこの村の役目は終え。儂らはナディア……君の正当性を示す手伝いをしたい」
なんて有難い言葉だろうか。
一人での逃走に比べれば、これほど安心できる事は無い。
「ナディア。王都にも協力者は居るのだろう?」
グラスランさんの呟きに、私はセトアやパン屋の常連の皆を思い出す。
彼らは私を信じて待ってくれているはずだ。
「そんな彼らに加えて、此度の脱走兵の皆がお主の味方となった。儂らは弱者かもしれんが、されど人の繋がりは個を超えて集となり、きっとお主の力となる」
「っ……」
「大きな一歩のはずだ。王家に対して嬢が正当性を示すためにも、次は貴族も巻き込もう。きっと出来るはずだ」
出て来た時を思えば、頼れる人達が増えている。
そう思えば、逃亡したあの日が無謀ではないと思えた。
私がまた平穏な生活に戻るために、もう歩みは止められない。
「ヒヒン!」
厩舎の男性が馬を連れてきており、スードが嬉しそうに私の元へ走って来る。
護衛となってくれる皆が、準備万端の様子だ。
私も元々出て行くつもりだったので、今すぐに発てるだろう。
「スード、また一緒に走ってくれる?」
「おうまさん、レヴものりたい!」
「ブルル」
任せろというようにスードが足踏みして、私はレヴと共に騎乗する。
グラスランさん達も自前の馬に跨り、私を見つめる。
出立の声がけを、任せる眼差しだ。
「皆さん、ありがとうございます。私に着いて来てくれますか?」
「もちろんだ。ナディア嬢」
「任せてくれ」
「しゅっぱーつ!」
グラスランさんや皆の返答、レヴの明るい声と共に、馬の蹄が地面を蹴る。
王家に正当性を示す戦いは本格的に始まっていく。
新たに着いて来てくれる皆と共に、貴族すら巻き込むため再び風を切った。
そしてこの時の私は知らなかった。
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