【完結】五年苦しんだの、次は貴方の番です。~王太子妃は許す気はありません~

なか

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11話

「放せ、俺はどうやっても止めねばならない……この国の王太子として、フィリアを止める!!」

「フィリア様、どうなさいますか」

 リューグの瞳に私情はない。
 彼はただ冷静に、騎士としての役割をこなしている。
 王家の揉め事に騎士は冷徹に、私情を挟まずに対応するのが我がシルヴァン王国が誇る王家騎士の掟。

 リューグは恐らく、ここで私がエリクを殺せと命じれば……ためらいなく実行する。
 それが我が国の騎士でもあるから。

「襲われたも同然のこと。リューグ、助けられたわ」

「務めを果たしただけです」

「その上で……一つだけお願いがあるの」

 私は寝台から身を起こした後、部屋の扉を閉じる。
 鎮まった部屋の中で私は浅い呼吸と共に、祖国を背負う王女として非情で、最善を命じた。

「また犯される訳にはいかない。だから不慮の事故と偽れる程度で、私の安全を確保できる?」

「承知」

「な…………なにをっ!! ぐっ!?!!」

 リューグが咄嗟にエリクの口元に布を入れて声を出せぬようにした。
 そして王太子の彼の指を三本、逆方向に曲げた。
 くぐもった小さな絶叫が、部屋の中で虚しく聞こえる。

「––––っ!!!?!」

「フィリア様への強姦まがいの行為、止めるため取り押さえた際に三指の骨折。いかがでしょうか」

「上出来よ。流石シルヴァン王家の騎士ね」

 シルヴァンの騎士団は幾つかあり、その中でも王家直属の王家騎士団は、一切のためらいなく王家の判断に従う組織となっている。
 それこそがかつての戦争にて小国ながらも生き抜いた知恵でもある。
 他国に嫁いだ今はそれが恐ろしくも、頼もしいのだと認識している。

「さて、エリク」

「ふ……ふぅ。こ、こんなことをして……」

 口元に入れられていた布が出されて、唾液を吐き、痛みに悶えるエリク。
 犯す行為の代償にしては軽いものだけど、これで不義の調査中に私を組み伏せる事はもうできないだろう。

「この判断、貴方は非情だとのたまうのでしょうが。私からすれば貴方の方が恐ろしい獣よ」

「っ!!」

「自らの私欲のために嫁いできた王女を貶してきただけでなく……私の身体へと『子が出来ぬ』と偽りの情報を塗りつけた」

「っ…………やはり、知って」

 驚く表情のエリク、そんな彼の折れた指を撫でる。

「あっ! ぐぅぃう ふぅぅ……」

 苦痛に歪む彼は、痛みに青ざめてダラダラと冷や汗を流す。
 その表情に対して囁く。

「この怪我、みっともなく叫んで私を責めればいいわ。こちらは正当防衛だと示すだけ」

「……くっ」

「貴方は逃げられない。どれだけ喚こうが……私の身を穢す偽りを吐き、祖国を背負う私を凌辱してきた五年。全てを真実に晒して責任をとってもらう」

「やめ……やめてくれ。頼む」

「もう理解してもらえる? 大人しく、最後の時を待っておきなさい」

「……お願いだ。お願い……だ」

 リューグに目線を送れば、彼は意図を察してエリクの身を部屋から出す。
 彼は指を押えながら、最早説得は出来ないと悟って去っていく。
 明日は国王陛下との謁見、今は彼に用は無い。

 それよりも……

「リューグ、駆けつけてくれて感謝するわ。助かりました」

「いえ」

「おかげで身の純潔は保たれました」

 リューグは無言のまま、ただ私の指示を待つように佇む。
 この冷徹な忠実さが、我が国が誇る王家騎士の特徴。
 そんな彼に、抱いていた疑問を問う。

「リューグ。貴方に聞きたい事があるの」

「幾らでもご質問ください」

「一年前……私に真実を教えてくれたのは、貴方なのですよね」

 あの時、ヘルムを被っていた騎士。 
 顔も見えぬが、我が国の鎧を身に付けており、あの日に入城申請していたのは彼のみ。
 だから確信を持った問いかけを彼にしたが……

「知らぬ事です」

「一年前、私に声をかけてくれたはずです」

「存じ上げません。一年前は別の任についており、記録もあります」
 
 嘘を吐いているような素振りではないし、王家騎士にそれは許されない。
 リューグは紛れもなく真実を語っているようだった。

 なら、なおさら疑惑が深まっていく。
 あの日の騎士は、我が国の騎士でもなかったのでは?
 入城申請を偽装してわざわざ鎧を着込み、真実を知らせた理由……
 正体も一気に分からなくなった。

「……考える事が増えたわね」

 私の言葉に対して、リューグはただ無言で見つめてくる。
 ただ、命令を待つだけ。
 シルヴァンの王家騎士とは、皆がこうして感情を殺しており……正直寂しくもある。

 しかしだ。
 ただ一つの合図をすれば、我が国の騎士は変わる。

「リューグ、任を一時解きます。話をしてくれる?」

 そんな合図をした途端。
 リューグは瞳を開いて、私の傍へと駆け寄った。

「フィリア様! 大丈夫でしょうか!? 先程は襲われておりましたがお怪我はありませんか? 無理強いでどこか汚されていたなら……俺はあいつを殺すしかなくなる」

「落ち着いてリューグ、大丈夫だから」

「あぁこんな事ならもっと早く来るべきだった。馬を替えながらだったなら夕刻には着けたはずが……俺の怠慢です!」

「だ、大丈夫だから」

「今まで御傍におれず申し訳ありません。くそ……俺が貴方の護衛として傍におれば……やはりただの騎士ではなく。王家直属騎士から護衛を選任すべきと陛下に提言すべきだった」

「私は無事だから、もういいの」

「無事では……ありませんよ。貴方はもっと苦労を吐いてくださってもいいんです。貴方の御身は我が国の至宝なのですから」

 この変貌ぶりには驚かされるが、彼らだって人間で当然だが心もある。
 騎士として私情を消す事を徹底されているが、愛国心と共に忠誠を抱いてくれる。

 任を解けば一人の臣下として接してくれる。
 それが今は少し……暖かい安心感を得られるのだ。

「フィリア様、きっと御父上も直ぐに動いてくれます。ご安心ください」

「ええ……それに貴方も来てくれたから、安心できるわ」

「御身に傷を付けさせません。我が心と身体は全て……王女様のためにありますから。お会い出来て、本当に良かった。フィリア様」

「嫁いだ式典以来ね、リューグ」

「えぇ、またお会いできて嬉しいです」

「本日より、特務として私の専属騎士になってくれる?」

 問いかけに、リューグは「御意」と呟く。
 途端に張り詰める空気、彼は今の言葉を『騎士』の任に戻る合図と受け取ったのだろう。
 癖の強い我が国の王家騎士だけど、仕事においては頼りになる。

「私の身はもう……エリクのものではない。この身は我が祖国と私だけのものよ」

 王家騎士という我が国の『力』が傍にある今。
 暗殺などという安易な手段さえ取らせない。
 ここからは、ずっと私だけの番だ。


   ◇◇◇


 翌日、玉座の間に向かう。
 ハーヴィン国の国王陛下が、事態の重さを鑑みて早急に謁見を設けてくださった。
 そこにはエリクやロザリン……そしてカミラ。

 第二王子のルアンスや、宰相のドルトン様もおられた。
 私の傍に立つリューグが無表情ながらも、絶対に手出しさせないというような雰囲気で横に立つ。
 
「くっ」

 指を痛そうに押えるエリクが、今の事態の重さに焦りと恐怖に染まった表情を向ける。
 そして私が着き……ハーヴィン国の国王陛下が立ち上がった。
 
「フィリア・シルヴァン。我が国に友好のために嫁いでくれた君に、不甲斐なき結果となってしまった事……まずは話合いの前に、王家を代表して謝罪させてほしい」

 国王自らが、直々に謝罪の意を示す。
 しかし私の心に喜びは無い。

 そんな感情を持つことなど、無意味だと分かっていたからだ。
 私はただただ、こぎ着けたこの謁見の時間にて……準備してきたものを示すだけ。
 決して言い逃れなどできないと、この王家に突きつけてみせよう。

 ねぇ、エリク。
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