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君だけは認められない⑧ クドスside
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「陛下!」
ルーカスは立ち上がり、僕の言葉に反対の意を表した。
「そのような判断、決して受け入れられるものではありません!」
「ルーカス……これは」
「貴方は王としての判断を誤っている。嫉妬に狂い、冷静な判断ができていません。思い出してください、幼少期の貴方を。王となるために励んでいた貴方自身の考えを思い出して、どうか冷静な判断を!」
「聞け!」
僕の一喝が部屋に響き渡る。その声にルーカスは見つめてくる。
それ以上の言葉を発することなく、静かになった彼に僕は言葉を返した。
「僕は王として決断を下した。それに従え。さもなくば、お前自身に罪を課すことになる」
流す視線で、イェシカを見つめる。
「クドス……」
「君と僕で培ってきた時間を、決して無駄にしてはならない。君の罪を許すからこそ……今度こそ僕のために励むと誓ってくれ」
「……」
「ラツィアよりも、相応しい王家となろう。イェシカ」
イェシカは涙を流しながら頭を下げた。
「クドス…………ごめんなさい。私、私は……」
僕は彼女を見つめたまま、しばらく沈黙する。
周囲の文官が見せる視線。
ルーカス大臣の呆然と、諦めたように俯いた表情。
それらの仕草に、王としての威厳がまた一つ揺らいでいるように感じる。
だが、だが僕は認める訳にはいかないんだ。
このままラツィアに、全てを奪われたくはない
「……話は終わりだ。イェシカの疑惑への調査は即刻中止するように貴族家に伝えろ。僕が許した今、もはや罪はない」
もう、覚悟を決めた。
僕はいつだってラツィアの下で、添え物のような人生を歩んでいた。
それを変えるために、何年も機会を待っていた。
ようやく、ようやく僕が王として真の価値を示す機会がきたんだ。
手放す訳にはいかない、認める訳にはいかないんだ。
これまでの努力を、自分自身で否定するような、終わらせるような選択だけはできない。
自らの選択に悔いを残さぬために励もう。
襟を正して、この選択が正しかったと皆に示すほどの統治を果たしてみせる。
覚悟と共に、僕は玉座の間を後にする。
その時だった。
見た事がない景色、しかし懐かしい景色が脳内に蘇ってきた。
◇◇◇◇
階段下に突き落とされて、頭から血を流す堂本の姿。
咲いていく血の花が広がっていく中で、彼女を突き落とした人物が僕を見つめる。
『やっぱり、見ていたんですね』
その人物は、堂本の後輩にあたる人物。
今朝も堂本に対して、新商品の売れ行きを報告していたはずだ。
仲が良かったはずの彼女が、目の前で階段から堂本を突き落とした姿を見てしまった。
いや……実際には突き落とす前、止められる瞬間であった。
それを止めなかったのは……心の内にある嫉妬が行動を止めたのだ。
(ここで堂本が死ねば、俺が仕事の評価を得る機会が巡って来る)と……
そんな浅はかな嫉妬を見透かしたように、突き落とした後輩が言葉を続ける。
『止められたのに、黙って見過ごしたのなら共犯ですね』
『どうして、こんな……』
『田口さんと同じですよ。堂本さんがいなくなれば、評価は自分のものでしょ?』
『っ!』
『でも、恐らく堂本さん。死んでいないし、いつか起きちゃうかもしれない。その時に突き落とされたと供述されれば調べられて終わりです』
『な、何が言いたい』
『考えがあるんです。ねぇ田口さん少し手を組みませんか? 堂本さんの評価、全部をもらっちゃうんです』
嫉妬心を撫でるような問いかけ。
後輩だった彼女は、俺を見つめて言葉を続けた。
『堂本さんの仕事、きっと私が引き継ぐ事になります。その際に……データを改ざんして私達からアイデアを奪った事にしましょう?』
『なにを……そんなことが、できるはずが』
『できますよ。田口さんが突き落とした犯人として疑われてください。皆の疑惑が貴方に集まる間に私がやっておきますから』
『……』
『ね? 私達だって頑張ってきたんです。報われたっていいじゃないですか』
『どうして……こんなことを』
『それは––––』
◇◇◇◇
「っ!!」
思い出した記憶。
もう見てみぬふりはできない。
これは……前世の記憶で、俺は、僕は田口という人物の生まれ変わりなのではないか。
「……僕は一体」
僕は明確に、前世の記憶を思い出していくのを感じる。
だが、まだおぼろげな記憶だ。
しかしながら、前世の記憶を思い出すと同時に胸に……強烈な罪悪感を感じるのだ。
これが前世の記憶というなら、あちらの僕は死んだのか?
そしてこの胸の内に宿る強烈な罪悪感。
全てを思い出せないが、微かに蘇ってくる記憶だけで後悔が胸を締め付ける。
この記憶はなんだ、僕は……前世でいったいなにをした?
ルーカスは立ち上がり、僕の言葉に反対の意を表した。
「そのような判断、決して受け入れられるものではありません!」
「ルーカス……これは」
「貴方は王としての判断を誤っている。嫉妬に狂い、冷静な判断ができていません。思い出してください、幼少期の貴方を。王となるために励んでいた貴方自身の考えを思い出して、どうか冷静な判断を!」
「聞け!」
僕の一喝が部屋に響き渡る。その声にルーカスは見つめてくる。
それ以上の言葉を発することなく、静かになった彼に僕は言葉を返した。
「僕は王として決断を下した。それに従え。さもなくば、お前自身に罪を課すことになる」
流す視線で、イェシカを見つめる。
「クドス……」
「君と僕で培ってきた時間を、決して無駄にしてはならない。君の罪を許すからこそ……今度こそ僕のために励むと誓ってくれ」
「……」
「ラツィアよりも、相応しい王家となろう。イェシカ」
イェシカは涙を流しながら頭を下げた。
「クドス…………ごめんなさい。私、私は……」
僕は彼女を見つめたまま、しばらく沈黙する。
周囲の文官が見せる視線。
ルーカス大臣の呆然と、諦めたように俯いた表情。
それらの仕草に、王としての威厳がまた一つ揺らいでいるように感じる。
だが、だが僕は認める訳にはいかないんだ。
このままラツィアに、全てを奪われたくはない
「……話は終わりだ。イェシカの疑惑への調査は即刻中止するように貴族家に伝えろ。僕が許した今、もはや罪はない」
もう、覚悟を決めた。
僕はいつだってラツィアの下で、添え物のような人生を歩んでいた。
それを変えるために、何年も機会を待っていた。
ようやく、ようやく僕が王として真の価値を示す機会がきたんだ。
手放す訳にはいかない、認める訳にはいかないんだ。
これまでの努力を、自分自身で否定するような、終わらせるような選択だけはできない。
自らの選択に悔いを残さぬために励もう。
襟を正して、この選択が正しかったと皆に示すほどの統治を果たしてみせる。
覚悟と共に、僕は玉座の間を後にする。
その時だった。
見た事がない景色、しかし懐かしい景色が脳内に蘇ってきた。
◇◇◇◇
階段下に突き落とされて、頭から血を流す堂本の姿。
咲いていく血の花が広がっていく中で、彼女を突き落とした人物が僕を見つめる。
『やっぱり、見ていたんですね』
その人物は、堂本の後輩にあたる人物。
今朝も堂本に対して、新商品の売れ行きを報告していたはずだ。
仲が良かったはずの彼女が、目の前で階段から堂本を突き落とした姿を見てしまった。
いや……実際には突き落とす前、止められる瞬間であった。
それを止めなかったのは……心の内にある嫉妬が行動を止めたのだ。
(ここで堂本が死ねば、俺が仕事の評価を得る機会が巡って来る)と……
そんな浅はかな嫉妬を見透かしたように、突き落とした後輩が言葉を続ける。
『止められたのに、黙って見過ごしたのなら共犯ですね』
『どうして、こんな……』
『田口さんと同じですよ。堂本さんがいなくなれば、評価は自分のものでしょ?』
『っ!』
『でも、恐らく堂本さん。死んでいないし、いつか起きちゃうかもしれない。その時に突き落とされたと供述されれば調べられて終わりです』
『な、何が言いたい』
『考えがあるんです。ねぇ田口さん少し手を組みませんか? 堂本さんの評価、全部をもらっちゃうんです』
嫉妬心を撫でるような問いかけ。
後輩だった彼女は、俺を見つめて言葉を続けた。
『堂本さんの仕事、きっと私が引き継ぐ事になります。その際に……データを改ざんして私達からアイデアを奪った事にしましょう?』
『なにを……そんなことが、できるはずが』
『できますよ。田口さんが突き落とした犯人として疑われてください。皆の疑惑が貴方に集まる間に私がやっておきますから』
『……』
『ね? 私達だって頑張ってきたんです。報われたっていいじゃないですか』
『どうして……こんなことを』
『それは––––』
◇◇◇◇
「っ!!」
思い出した記憶。
もう見てみぬふりはできない。
これは……前世の記憶で、俺は、僕は田口という人物の生まれ変わりなのではないか。
「……僕は一体」
僕は明確に、前世の記憶を思い出していくのを感じる。
だが、まだおぼろげな記憶だ。
しかしながら、前世の記憶を思い出すと同時に胸に……強烈な罪悪感を感じるのだ。
これが前世の記憶というなら、あちらの僕は死んだのか?
そしてこの胸の内に宿る強烈な罪悪感。
全てを思い出せないが、微かに蘇ってくる記憶だけで後悔が胸を締め付ける。
この記憶はなんだ、僕は……前世でいったいなにをした?
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