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8話

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早朝、鳥のさえずる音が聞こえ瞳を開く
カーテンの隙間から差し込む僅かな光、サッとカーテンを開くと
眩しい光が私を覆った

「いい朝…」

呟きながら、窓の外を見る
誰かが屋敷の庭に出ていた、よく見てみるとウィリアム様だった
汗をタオルで拭いながら
畑に種をまき、水をあげていた
楽しそうに土いじりする彼、私の知らない姿を見つめていると
彼がこちらに気づいて手を振り、近づく

「おはよう、シャーロット」

「おはようございます、ウィリアム様…畑の世話を毎日しているのですか?」

「あぁ、趣味でね…こうして土をいじる時間は楽しいものだよ」

「そうなのですね…私もやってみたいです」

私の言葉に、ウィリアム様は目を開き驚いていた

「どうしたのですか?」

「いや…こうして作物を育てていることを昔、貴族令嬢の方に言った時は薄汚い事をするのだと馬鹿にされてね、農夫の仕事は貴族のやることではないと…君が興味を持ってくれると思わなくて」

「まぁ…失礼な令嬢がいるのですね…私は作物を育てる知識なんてありませんし、体験してみたいです」

「そう言ってくれると嬉しいよ、でも先ずは朝食にしようか…オルターが作ってくれているだろう」

「ウィリアム様はどうしますか?」

「僕はあと少ししたら食べに行くよ、君は先に食べていてくれ」

私は窓から彼を見つめながら、首を横に振る

「待ちます…私はウィリアム様と一緒に食べたいのです」

ウィリアム様は少し驚き、持っていた農具を落とす
慌てて拾い、嬉しそうな笑顔で微笑んでくれた

「わ、わかったよ…もう少しだけ待っていてくれるかい?」

「はい、いつまでも」

畑を耕すウィリアム様を見つめる
好きな気持ちに蓋をした、けど素直な考えは伝えよう
いつか、彼が振り向いてくれることを信じて

と思っているとウィリアム様から声がかかる

「見てくれ、シャーロット!大きな野菜が取れたんだ…こんな大きなのは見た事がない」

大きな野菜を大事そうに抱えるウィリアム様は土で汚れた服で
一見して貴族には見えないが、子供のように笑う彼の姿にやはり可愛いと思ってしまうのだ

「素晴らしい野菜です」

私の称賛の声に嬉しそうに満面の笑みを浮かべる彼

醜い豚公爵と蔑み呼んでいる貴族達には分からないのだろう
彼のこの愛おしさが















「お待ちしておりました」

「ありがとう…オルターさん」

ウィリアム様も屋敷に戻り、朝食のために2人でリビングに向かうと
木製の机の上には朝から多くの料理が並んでいた
私が座る席には適度な量だが、ウィリアム様の席の前には山のような料理


「朝から、これだけ食べるのですか?」

「あぁ…この量でないと…消費しきれないですから」


オルターさんの答えに首を傾げる
消費しきれない?どういうことだ

「なにか食べないといけない理由があるのですか?」

「もう少し待てば、分かりますよ」

にこやかな笑顔で答えるオルターさん
疑問は残るが、お腹は空いている
食前の挨拶を済ませると同時に、私とウィリアム様は朝食を食べ始める

美味しい、王宮で食べた料理はどれも最高の食材を使った料理だった
だが、王宮で食べたどの料理よりも美味しく、思わずほほが緩むほどだった

「…美味しいかい?」

ウィリアム様の問いに、私は食べていたパンを飲み込んでから
明るい声で答える

「とても!美味しいです!」

「恐れいります」

オルターさんが頭を下げながら、嬉しいと感じて下さったのだろう
ウィリアム様の前に並んでいた料理から一皿、私の前に出してくださった

どこか惜しそうにその料理を見つめるウィリアム様に微笑みながら

「大丈夫ですよ」と
料理を半分ずつ分けていると



屋敷の玄関扉を叩く音が聞こえた

「旦那様、お招きしてもいいですか?」

「あぁ…事情を説明しないとな」

心配そうな表情のウィリアム様をよそにオルターさんが玄関へと向かう

「誰が来たのですか?」

私の質問に、ウィリアム様が答えようと口を開いた瞬間
バンっ!!とリビングの扉が大きく開かれる
振り向いた私の視線に見えたのは

幼い子供?
それも大勢だった

「おはようございます!ウィリアム様!」「ウィリアムさん!今日も持ってきたよ!」
「私も!」「おれも!!」

幼い少年、少女たちの手には玉子や野菜、果物など様々な食材が
それをウィリアム様の元へ楽しそうに持っていく



全員が隣に座る私を見つめる
私も呆気にとられて互いの目が合う
驚いたような彼ら、1人の少女が指をさして声を上げる


「ウ…ウィリアムさん………この美人な人…誰?」


私は、状況がわからないままだったが
その質問には答えた

「私は、ウィリアム様の妻です」

「「「おおーーーーー!!!」」」

歓喜の声を上げる子供達
ウィリアム様は、顔を赤くして照れていた

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