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10話

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「風邪………ですね」

「すいません…」

寝台で横になりながら、オルターさんが水に浸してくれた布を額にあててくれる
ひんやりとして気持ちが良かった
私はリビングの手前で倒れてしまったらしく
ウィリアム様とオルターさんが寝室まで運んでくださったようだ


「大丈夫か?シャーロット………」

「はい、きっと疲れていたのですよ…大丈夫です」

心配する彼に微笑みかける
頭痛はして、吐き気もある
正直辛いけど
お世話になっている身でこれ以上迷惑もかけたくない

「私は大丈夫です、寝れば明日にでも治りますよ……うつしてはいけませんし、一人でも大丈夫ですよ」

「しかし………」

「本当に………大丈夫です」

私が言うと、彼とオルターさんは何かあればすぐに呼んでほしいと言って
呼び出すためにベルを枕元に置いて部屋を出ていく

「なにかあればすぐに鳴らしてくれ」

「はい、ありがとうございます」

最後まで彼は心配してくれていた
嬉しいが、彼まで風邪になれば大変だ

汗が止まらない………
息も荒く、頭も痛い

横になると、音がなくなりシンと静まり返った部屋で孤独を感じた
風邪なんて子供の頃以来だ、私が思うより身体は疲れていたのかもしれない
小さな頃を思い出す
私が風邪を引いた時に、必ずお母様が隣にいて手を握っていてくれた
あの時、なにか言ってくれていた………
なんて言っていたのだろうか?

考えていると、私は眠ってしまった




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

幼い私は風邪を引き
横になっていると、お母様は手を握って微笑んでくれていた

「シャーロット、大丈夫?」

「うん………お母様…うつってしまっては大変です」

私の言葉に、お母様は笑う
水に浸した布を額にあててくれる

「お母さんはね、シャーロットが辛いのが一番辛いのよ、風邪なんて引いてもあなたが元気なら幸せよ」

「お母様………」

私が手を強く握ると、返すようにお母様も手を強く握ってくれた
なんだか嬉しくて、風邪で辛かったけどお母様が傍にいてくれて辛さもあまり感じなかった

「シャーロット」

「どうしました?お母様」

「こうしてあなたが辛い時に、孤独な時に、傍にいてくれる人と一緒にいなさいね…見た目がいい人も、凄く権力を持っている人も確かに魅力を感じると思うわ………でもね本当に大切なのはあなたを愛してくれる事が大切なの」

「まだ、私にはわかりません」

私の答えに、お母様は微笑みながら

「いずれ、わかるわよ」と言って額にキスしてくれた




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







あ、頭が痛い………
身体が重い、辛い
寝ていたのに体調の悪さから意識が戻ってしまう

瞳を閉じているが、違和感を感じる
手を誰かが握ってくれている?
お母様を思い出し、瞳を開けるとウィリアム様が心配そうに手を握ってくれていた


「ウ…ウィリアム様?」

私の声に気づいて彼は手を離してしまった

「す、すまない!薬を持ってきたんだが、うなされていたから…落ち着くと思って」

「い、いえ………大丈夫です」

手に残る彼の温もり、どこか気まずさを感じるなか
彼はコップに入った水と薬を手渡してくれる

「オルターが村のお医者様から頂いてきたんだ、風邪によく効くよ」

「ありがとうございます」

薬をのみ、再度横になると
彼は立ち上がった

「何かあれば呼んでくれ…すぐに来るから」

「はい…ありがとうございます」

彼が扉を開き、外に出ようとしている
彼の背中を見つめながら
また一人になるのだと思った時
寂しくて、思わず声を出してしまった


「行かないで」と


振り向いた彼は心配そうに近寄ってくれる

「どうした?何か具合が悪いのか?」

「い、いえ…その…」

私は俯き、呟くように彼にワガママを言った

「あの………さっきと同じように………手を握っていてくれますか?」

「………」

沈黙が流れる、迷惑だろうか?
そう考えた時には、彼は私の手を握って優しく微笑んでくれた

「君の辛さが和らぐなら僕はずっとここにいるよ」

「あ………ありがとうございます」

彼が両手で包み込んでくれた手は暖かくて
少し握ると、強く握り返してくれた
子供の頃を思い出しながら、瞳を閉じる

「優しいです、ウィリアム様は」

「はは……それぐらいしか取り柄がないさ」

そんな事はない
私はその包み込んでくれるような優しさに安心して
甘えてしまう

そしてどうしようもなく、惹かれてしまうのだ


蓋をしようとした気持ちを抑えることなんてできない
やっぱり私は彼の事が




「好きです………ウィリアム様」


薄れていく意識の中
考えていることなのか
実際に呟いた言葉なのかわからぬまま私は眠りについた

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