死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

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最終章

118話

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 庭園で過ごしていると、明るい声が聞こえてくる。

「お母様、これ見て。ジェラルドじいじのテストで満点だよ」

 私が視線を向ければ、娘のリルレットが飛び上がりながら紙を見せてきた。
 多くの赤丸と共に、花丸を付けてもらったリルレットは嬉しそうだ。

「リルレット、最近はすごく勉強を頑張っているのね」

「うん。だってジェラルドじいじ、教えるの上手だもん!」

 笑っているリルレットの頭を撫でながら、伸ばした手が高い位置になるのに気付く。
 産まれた時はあんなに小さかったのに、今では私に届きそうな勢いで身長が伸びている。

 それもそうか……
 なにせこの子はもう、十二歳となっているのだから。
 年数が経つのは早いもので、私ももうすっかり三十歳を超えているのだ。

「ふふ……もうこんなに年が経ったのね。楽しい日々ばかりだからあっという間だわ」

 リルレットに頬笑みかけながら、私は再度机の上に目線を移す。
 束になった紙と、今しがた握っていたペンが置かれていた。

「こっちもあと少しね」

「カーティア様。良ければ今日は休憩なされてはいかがですか?」

 気遣う言葉をくれたのは、対面に座っているリーシアだ。
 彼女がアイゼン帝国に来てから早三年目、今も私は小説の書き方を教わりながら少しずつ進めている。
 その間に彼女は、何作も小説を書いているのだから驚きだ。
 彼女に教えられているのだから、止まってられないとペンを再び握る。

「あと少しで完成だもの。休んでいられないわ」

「シルウィオ陛下にお見せするのが楽しみですね。カーティア様」

 リーシアの傍に立っていたグレインが、笑いながらそう呟く。

「とはいえ、どうか夜はご休憩くださいね。シルウィオ陛下がカーティア様と話す時間がないと、俺に愚痴をこぼしておられましたから」

 彼はすっかりシルウィオとも気の合う仲となっている。
 もちろん主従関係が消えた訳ではないが、根っこに友情らしき縁が見えるのは確かだろう。

「ねね、お母様。リルレットお勉強がんばったから……お菓子たべてもいい?」

 グレイン達と話していると、リルレットが私の裾を掴む。
 その言葉に、近くの原っぱでコッコちゃんと眠っていた……末っ子のイヴァが起き上がった。

「イヴァも、おかしたべたい。おねちゃんと、たべたい。だめ?」

 イヴァはもう五歳で、一人で歩いて私の傍までやってくる。
 お菓子が欲しくておねだりしてくるのは、姉と弟揃って可愛らしいものだ。

「分かった、いいよ。行っておいで、リルレット、イヴァ」

「っ!! やった」
「やた。おねちゃ、やた~」

「ただし、テアと一緒にお菓子を食べること。分かった?」

 テア、長男のあの子はもう九歳であり、すっかりお兄ちゃんだ。
 きっとテアが一緒ならば、リルレットとイヴァがお菓子を食べ過ぎるのも止めてくれるだろう。

 了承して送り出せば、子供達は元気な返事をして、手を繋いで仲良く駆けていく。
 その後ろを任せろとばかりに付いて行ってくれるコッコちゃんを見送る。

「カーティア様は、とても素敵なお母様ですね」

「リーシア……そうなれているかしら」

「ええ。私には見えませんが……御子様達の声はとても幸せそうなのが伝わってきますから」

「良かった。ちゃんと母になれているか不安はあったから……」

「不安ですか?」

「ええ、私はあまり母と過ごした時間はなかったからね」

 私の言葉に、グレインが頷く。

「そういえば、カーティア様のお母様は早逝されたのですよね」

「ええ、以前にお墓参りにいったわね。その時に言っていたように、私が十を超えた年には亡くなったわ」

 母が亡くなったのは病死であり、母は私が幼い頃から病床に伏していた。
 記憶にあるのはよく本を読んでいる姿で、その影響で私も本を読み始めた程だ。
 本を読む間は、母と一緒にいれたから……

「そうだったのですね。カーティア様のお母様が亡くなっていたなんて」

「もう二十年以上前の話だから気にしないでリーシア」

 しかし、ついぞ病が治らずに亡くなった母を思い出すと今でもくるものがある。
 懸命に生きようとしていた母は、病にはやはり勝てなかった。
 今思えば……私も本来ならそのように病で亡くなっていたかもしれない。
 
 そう思うと、今の幸せは大事にしないといけないと改めて思えた。


「ところで、二人の方はどうなのかしらね」

「え……あ、あの」

 亡くなった母の話で雰囲気が暗くなっていたので、別の話題を切り出す。
 この三年、ほんのりと見守っていたグレインとリーシアの関係性についてだ。
 
 聞いた途端に、二人は赤面して俯く。
 あぁ……どうやらまだまだ初心なままのようだ。


「あ、えっと……」
「カーティア様、その話はまた別の機会に……」
 
 
 アタフタしている二人を見ているのは面白いが、あまり邪推で聞いて二人の仲を邪魔したくもない。
 だから頬笑みながら、再びペンを握る。


「まぁ、この小説を書き終える頃には……また聞かせてちょうだい」

「は、はい」
「よい報告ができるよう……が、がんばります」

 そこまで言っていたら、もう告白のようなものだろうに。
 なんて思いながら、ペン先を紙に落とした時だった。

「コケコッコーッッ!!!!」

 あれ、コッコちゃんの声?
 昼間でこんなに大きな鳴き声を出すなんて、どうしたのだろうか。
 思わず手を止めた時、小さな影がこちらに走って来るのが見えた。


 イヴァだ。


「おかさま! おねたんが! こっちきて」

「え……どうしたの。イヴァ」

 泣きながらこちらに走ってきたイヴァ。
 その様子に、グレインが笑みを消す。
 私も同様にすぐにイヴァを抱き上げて、直ぐにこの子が来た方向へと走る。

「おねたんが……うわぁぁぁん」

「イヴァ。落ち着いて、大丈夫……大丈夫だから」

 抱き上げるイヴァの背を撫でながら、走っていた時だった。
 庭園にて、その光景が見えて息が止まる。
 そんな……なにが。
 
「お母様! リルレット姉様が……姉様が!」

 長男のテアが焦った声と共に、その背にリルレットをおぶっていた。
 周りをコッコちゃんが心配そうに走っている。
 なにがあったのか、それはおぶられているリルレットを見れば一目瞭然だった。

「っ!! リル!」

 おぶられたリルレットは、口元から血を出していたのだ。
 テアが歩く度に、血の雫が地面を赤く染める。

 まるでそれは……
 かつて私が、シルウィオの前で倒れた時と同じように。

 
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