死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

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最終章

129話 

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 アイゼン帝国の庭園を彩る花畑。
 風にそよがれて散っていく花弁が、そこに倒れた女性の頬へと落ちる。

「ヒルダ……」

 名を呼んだ彼女は、私が思う以上に清々しい表情で瞳を閉じていた。
 頬に僅かな笑みを添えながらも、もうその瞳が開かれる事は無い。

 護衛騎士のグレインが倒れる彼女の首元に手を当て、少しの時間を置いて首を横に振った。
 その仕草で、結果は分かった。

「亡くなっています」

「そうか」

 グレインの報告に、シルウィオは淡々を答える。
 かつてはアイゼン帝国だけでなく、私が王妃であった国––––グラナートさえも混乱に陥らせた悪女。
 そんな彼女の最期は、帝国の庭園にて終えた。

「お母様、この人……もう亡くなっちゃったの?」

 私の手を握って呟く娘のリルレット。
 純粋な問いかけに、返す言葉に迷いながら頷いた。

「この人、最初に会った時、冷たくて怖かったけど」

 リルレットはヒルダを見つめながら、声を絞り出す。
 自らを救ってくれた女性の死を自覚しながら、向きあうように……

「ありがとうって言ったら、笑ってくれたの」

「そうね。ヒルダにとっても、いい最期だったと……そう思いたいわね」

「リルレット、この人に助けて、もらったんだよね」
 
 そう言った途端、リルレットは急に駆け出した。
 どうしたのかと思えば、庭園を管理する庭師に話しかけていたのだ。
 少し時間を置いて、なんと庭園に咲いていた花を何輪か分けてもらっていた。

「リルレット……なにをして」

「助けてもらったから……ちゃんと、ありがとうってしたいの」

 ヒルダへと花を手向けるリルレット。
 そんな姉の行動を見て、息子のテアやイヴァも真似するように花を持って来る。
 
「ヒルダ……私に貴方の気持ちは分からない。だけど最期に貴方がした事は確かに子供達を救ってくれたわ」

 かつてこの国だけでなく、多くの人々を戦火に巻き込んだ悪の華。
 そんなヒルダの最期……子供達に手向けられた花に囲まれた姿は、決して悲惨だと思えなかった。
 許されない行為を多くしてきた、きっともう取り戻しなどできない。

 それでも……子供達を救ってくれた貴方に、もう憎む気持ちは潰えた。

「…………弔ってやれ」

 シルウィオも同じ気持ちなのか、ヒルダの遺体は丁重に弔われた。
 その遺体は花に囲まれながら、運ばれていったのだ。


   ◇◇◇


 その夜、無事に助かった子供達が眠りについたのを見届ける。
 シルウィオは諸々の手続きが残っているため、今日の夜は部屋で一人だった。


 子供達のために、ヒルダを犠牲にした。
 その選択が間違いだったとは思わない、私も子供達を救いたかった。
 だけど、他に選択肢はなかったのか……そう迷う気持ちは当然あった。

「お休みのところ申し訳ありません。カーティア様」

 考えていると、部屋の外から宰相のジェラルド様の声が聞こえた。
 どうしたのかと扉を開けば、彼は一通の手紙を渡してくる。

「実は、ヒルダを捕らえていた部屋の中に置手紙がありました。カーティア様宛てのようです」

「ヒルダが、私に?」

「はい。よろしければ、お読みになりますか?」

 ヒルダが私に抱く感情なんて、憎しみしかないのではないか。
 そう思いつつも、彼女が残した言葉を、読まぬ訳にはいかないと手紙を開いた。


『愚かなカーティア皇后様へ––––』


 はい?
 こっちが感傷に浸っている気持ちを逆なでするような文面だ。
 ヒルダ……貴方は最後まで文章にしてまで煽ってくるのね。

 そう思いつつも続きを読んでいく。


『貴方はきっと馬鹿な考えを抱いているのでしょうね』

 そんな文の始まりと共に、ヒルダの気持ちが書かれていた。
 ずっと兄を救えなかった後悔、自分のしてしまった過ちへの自覚。
 多くの後悔を抱える文面と共に、彼女は最後に私への言葉を残す。

 
『文の始まりでも伝えた通り、貴方はきっと愚かで馬鹿な考えを抱いているのではなくて? 私が貴方の子供のために犠牲になったのではと』

 図星を突かれたような文面。
 だけど続くヒルダの文字は、憎しみではなかった。

『私の選択に後悔なんてない。自分の意志で決めたの。だから私の事は気にせずに、私には望めなかった二度目の人生を歩んでちょうだい』

 私にとって最大で、最悪の仇敵。
 だけどヒルダの最期に残した文面には、もう互いへの憎しみは無くなって––––


『どうか、二度目の人生を楽しんで』


 私が二度目の人生を歩み出した際。
 たった一つ決意していた意志を思い出させてくれるように……ヒルダは最期の文を締めた。
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