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最終章
130話
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「––––言われなくても、楽しむに決まってるわよ」
ヒルダからの手紙を閉じながら、誰もいない空間へと呟く。
彼女とは、きっと相容れぬ関係であった事に変わりはない。
だけど今はただ子供達を救ってくれた感謝と共に、彼女に馬鹿にされないように、改めて楽しく生きていこうと思えた。
「カティ、なにを読んでる?」
ふと、部屋へとシルウィオが入って来る。
すでにジェラルド様は席を外しており、今日は帰ってこないと思っていた彼が、私を抱き寄せながら尋ねるのだ。
「ヒルダからの手紙です。彼女なりの……最期のメッセージです」
「……楽しく生きろ。か」
「えぇ、言われなくても楽しんで生きていくに決まってます」
手紙を置きながら、シルウィオを抱きしめる。
身体から伝わってくる温もりを感じながら、彼へと口付けをする。
「大切な人が無事でいてくれる。子供達も無事なら……もう不安もないから」
「そうだな。もう君に不安がないよう、俺も最善を尽くす」
互いの幸せを再確認するように……
子供達が無事だった事を喜び合うように、私達は互いに抱き合う。
暫くの時間をかけて安心を感じた後、気になった事を問いかけた。
「ヒルダの遺体については、どうするのか聞いてもいいですか?」
「カルセインに、家族が眠っている共同墓地がある。そこに埋葬する予定だ」
「そうですか」
「アイゼン帝国に出来るのはそこまでだ。最期の行為に感謝はあれど……国家間の戦火を企んだ罪は消えない」
「分かっています。私もそれで、充分だと思いますから」
ヒルダの最期を聞き終えながら、私は部屋にある机の引き出しを開いて、入っていた紙束を取り出す。
「それは?」
「リーシアに教えてもらいながら、書いていた小説です」
グレインと恋仲であり、盲目の物書きであるリーシア。
彼女に教示してもらいながら書いていた小説を、改めて最期まで書きたいと思えたのだ。
「ヒルダに楽しめと言われたように、私はこれからもやりたい事を、楽しんでやっていこうと思います」
「……」
「二度目の人生を悔いなく生きるため、この小説も書き切りたいと、改めて思えました」
「俺も待つ。カティがそれを書き終えて、いつか読めるのを楽しみにしている」
嬉しい言葉をくれるシルウィオへと、頷きで返す。
そして、ヒルダの残した置手紙を机に仕舞いながら、そっと呟いた。
「これが、私なりの弔い方よ。貴方の言う通り、楽しんで生きてみせるから」
手向けの言葉を手紙に贈り、私はこれまで通り生きていくと改めて決意する。
二度目の人生。
手に入れる事など、本来は出来るはずもなかった奇跡。
その幸せを噛み締めながら、楽しんで生きていく。
今日も、明日からも……
◇◇◇
と、覚悟を決めたはいいが……
小説を書くというのは辛い事も多くて、思った以上に時間がかかるものだ。
ただ書き殴るだけでなく、読めるように色々と文を整えたり。
リーシアに教示を何度も受けながら、ヒルダが亡くなって二ヶ月が経ち……
ようやく、私の小説は完成した。
「で……できたぁ」
書き終わった達成感、やり切った充実感。
それらを胸にしみこませながら、書いていた筆を置く。
隣で待ってくれていたリーシア、そしてグレインも感嘆の言葉をくれた。
「お疲れ様です、カーティア様。物語を書き切るのは……簡単に思えて一番難しい事ですよ。凄いです」
「カーティア様! 完成したんですね。俺にも読ませてくれますか?」
賞賛の声と、早速の読みたいという言葉が嬉しい。
どこから話を聞いたのか、娘のリルレットが、弟のテアやイヴァを連れてくる。
「お母様、書き終わったの!? リルにも見せて!」
「テアも読みたい、お姉様の後でもいいから!」
「イヴァも~」
私がかなり前から書いていたのを知っているからこそ、子供達がせっつく。
そんな皆に笑っていると、シルウィオとジェラルド様までやって来た。
「どうした」
尋ねたシルウィオに、リルレットが嬉しそうに報告してくれる。
聞き終えたジェラルド様は、ふむふむと頷いてから呟いた。
「カーティア様は、誰に一番に読んでほしいのですか? もちろん私も立候補させてください。読んでみたいですから」
ジェラルド様の嬉しい言葉と共に、誰に読んでほしいのかという問いかけ。
それを聞かれたなら、私の答えは決まっていた。
「私には、書いていた時から読んでほしい人がいます」
呟いて、シルウィオの前へと進む。
彼へと書き終えた紙束を手渡す。
「私に幸せをくれたシルウィオ。貴方に読んでほしいの」
「……カティ。いいのか?」
「もちろん。貴方がいいから、書いたの」
私はシルウィオと初めて打ち解けたように、また彼に小説を読んでもらう。
今度は私のオススメではなく、私の書いた小説だけど。
きっと、また私達を深く繋いでくれると信じて––––
「分かった、読むよ。カティ」
初めて会った頃と違って、素直にそう言ってくれるシルウィオ。
変わった彼に頬笑みながら、私は言葉を告げた。
「読んで、シルウィオ。題名は––––」
『死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます』
◇◇◇◇
それから、十五年の月日が経ち––––
シルウィオが、皇位を子供に継承する日がやってきた。
ヒルダからの手紙を閉じながら、誰もいない空間へと呟く。
彼女とは、きっと相容れぬ関係であった事に変わりはない。
だけど今はただ子供達を救ってくれた感謝と共に、彼女に馬鹿にされないように、改めて楽しく生きていこうと思えた。
「カティ、なにを読んでる?」
ふと、部屋へとシルウィオが入って来る。
すでにジェラルド様は席を外しており、今日は帰ってこないと思っていた彼が、私を抱き寄せながら尋ねるのだ。
「ヒルダからの手紙です。彼女なりの……最期のメッセージです」
「……楽しく生きろ。か」
「えぇ、言われなくても楽しんで生きていくに決まってます」
手紙を置きながら、シルウィオを抱きしめる。
身体から伝わってくる温もりを感じながら、彼へと口付けをする。
「大切な人が無事でいてくれる。子供達も無事なら……もう不安もないから」
「そうだな。もう君に不安がないよう、俺も最善を尽くす」
互いの幸せを再確認するように……
子供達が無事だった事を喜び合うように、私達は互いに抱き合う。
暫くの時間をかけて安心を感じた後、気になった事を問いかけた。
「ヒルダの遺体については、どうするのか聞いてもいいですか?」
「カルセインに、家族が眠っている共同墓地がある。そこに埋葬する予定だ」
「そうですか」
「アイゼン帝国に出来るのはそこまでだ。最期の行為に感謝はあれど……国家間の戦火を企んだ罪は消えない」
「分かっています。私もそれで、充分だと思いますから」
ヒルダの最期を聞き終えながら、私は部屋にある机の引き出しを開いて、入っていた紙束を取り出す。
「それは?」
「リーシアに教えてもらいながら、書いていた小説です」
グレインと恋仲であり、盲目の物書きであるリーシア。
彼女に教示してもらいながら書いていた小説を、改めて最期まで書きたいと思えたのだ。
「ヒルダに楽しめと言われたように、私はこれからもやりたい事を、楽しんでやっていこうと思います」
「……」
「二度目の人生を悔いなく生きるため、この小説も書き切りたいと、改めて思えました」
「俺も待つ。カティがそれを書き終えて、いつか読めるのを楽しみにしている」
嬉しい言葉をくれるシルウィオへと、頷きで返す。
そして、ヒルダの残した置手紙を机に仕舞いながら、そっと呟いた。
「これが、私なりの弔い方よ。貴方の言う通り、楽しんで生きてみせるから」
手向けの言葉を手紙に贈り、私はこれまで通り生きていくと改めて決意する。
二度目の人生。
手に入れる事など、本来は出来るはずもなかった奇跡。
その幸せを噛み締めながら、楽しんで生きていく。
今日も、明日からも……
◇◇◇
と、覚悟を決めたはいいが……
小説を書くというのは辛い事も多くて、思った以上に時間がかかるものだ。
ただ書き殴るだけでなく、読めるように色々と文を整えたり。
リーシアに教示を何度も受けながら、ヒルダが亡くなって二ヶ月が経ち……
ようやく、私の小説は完成した。
「で……できたぁ」
書き終わった達成感、やり切った充実感。
それらを胸にしみこませながら、書いていた筆を置く。
隣で待ってくれていたリーシア、そしてグレインも感嘆の言葉をくれた。
「お疲れ様です、カーティア様。物語を書き切るのは……簡単に思えて一番難しい事ですよ。凄いです」
「カーティア様! 完成したんですね。俺にも読ませてくれますか?」
賞賛の声と、早速の読みたいという言葉が嬉しい。
どこから話を聞いたのか、娘のリルレットが、弟のテアやイヴァを連れてくる。
「お母様、書き終わったの!? リルにも見せて!」
「テアも読みたい、お姉様の後でもいいから!」
「イヴァも~」
私がかなり前から書いていたのを知っているからこそ、子供達がせっつく。
そんな皆に笑っていると、シルウィオとジェラルド様までやって来た。
「どうした」
尋ねたシルウィオに、リルレットが嬉しそうに報告してくれる。
聞き終えたジェラルド様は、ふむふむと頷いてから呟いた。
「カーティア様は、誰に一番に読んでほしいのですか? もちろん私も立候補させてください。読んでみたいですから」
ジェラルド様の嬉しい言葉と共に、誰に読んでほしいのかという問いかけ。
それを聞かれたなら、私の答えは決まっていた。
「私には、書いていた時から読んでほしい人がいます」
呟いて、シルウィオの前へと進む。
彼へと書き終えた紙束を手渡す。
「私に幸せをくれたシルウィオ。貴方に読んでほしいの」
「……カティ。いいのか?」
「もちろん。貴方がいいから、書いたの」
私はシルウィオと初めて打ち解けたように、また彼に小説を読んでもらう。
今度は私のオススメではなく、私の書いた小説だけど。
きっと、また私達を深く繋いでくれると信じて––––
「分かった、読むよ。カティ」
初めて会った頃と違って、素直にそう言ってくれるシルウィオ。
変わった彼に頬笑みながら、私は言葉を告げた。
「読んで、シルウィオ。題名は––––」
『死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます』
◇◇◇◇
それから、十五年の月日が経ち––––
シルウィオが、皇位を子供に継承する日がやってきた。
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