【完結】冷遇された私が皇后になれたわけ~もう貴方達には尽くしません~

なか

文字の大きさ
15 / 26

12話

しおりを挟む
「婚約支度金を全額返済しろだと? ふざけた事を言うな。ラシェルっ!!」

 声を荒げた父に、私は冷静に言葉を返す。
 
「いえ、ふざけておりません。これは正当な要求です」

「正当だと……? 親族である私がお前の支度金を管理する事に問題はない。私は誰よりも帝国の法令を遵守しているのだ、お前に返済する義務などない」

「ええ、確かに親族が支度金を管理する事は許可されておりますね」

 冷静に考え始めた父は支度金を使っている事に対して、悪い事をしていない絶対の自信があるのだろう。
 私を嘲笑して、足を机にまで上げる余裕ぶりだ。
 しかし……父は状況を変える手段が私にある事を忘れているようだ。

「分かるだろうラシェル。私に返済の義務などない。お前の支度金は、私のものでもあるのだから」

「いえ、返済の義務がないのは……親族に限った話ですよ」

「なに……?」

「私は、父のイベルトス伯爵家を分籍する事に決めました」

「は……?」

「つまり、この家の子供を辞めるという事です。お母様の実家であるリース子爵家に籍を移します」

 私が父の親族である事で費用が全て管理されてしまうなら。
 家族を辞めてしまえばいい。簡単なことだ。

「私が分籍をしてはリース子爵家の娘となれば……おのずと私の支度金の権利はリース子爵家に移ります」

「な……な……」

「さて、イベルトス伯爵様。誰よりも法令遵守すると豪語したのなら、私の支度金は返済して頂きますね?」

 もはや父とも呼ぶ気は無い。
 そんな意味を込めた私の言葉に、元父は焦りと怒りに満ちた表情を向けた。

「貴様……リース子爵家に籍を移すだと……?」

 お母様の祖父母には感謝している。
 彼らがリース子爵家を継続してくれている事で、私はそちらの籍に移す権利を有しているのだから。

「そんなことさせるか。そもそも、分籍の手続きが未成年のお前に実行する権利はない!」

「手続きはクロヴィスがしてくれます。皇子である彼の邪魔ができると?」

「……っ!! クロヴィス殿下が……帰ってきたのか」

「ええ、おかげで……もう元お父様に気を遣う必要はなくなったので、こうして家族を辞めにきました」

「この……恩知らずの娘が……」

「えっと……恩を感じるような事はしてもらった事がないですし。もう娘じゃありませんよ?」

 ニコリと笑いかけてそう言えば、元父は立ち上がって私に詰め寄った。
 まさか、ここまで短気だったとは。
 
「私をこれ以上馬鹿にするなら。娘であろうと……非道な手段をとらせてもらうぞ?」

「勝手に馬鹿にされる事をしているのでしょう?」

「黙れ、もういい。生意気なお前は我が家の騎士に捕えさせてやる。お前のような親不孝は娼館にでも売り飛ばして––」

「俺のラシェルを、娼館に売り飛ばすって言ったか?」

「誰だ。っ!?」

 元父の叫びを遮り、酷く冷たい声が部屋に響いた。
 途端に、元父の身体が吹き飛ばされたように転がっていき、壁に激突する。

「うっ……ぐぅ……」

「お前の家の騎士達は聞き訳が良かったよ。俺の名を告げれば、もうお前の指示には従わない事を誓ってくれたよ」

 そう、クロヴィスは万が一に備えて伯爵家の騎士を止めに向かってくれていたのだ。
 この元父が、最悪の手段を使って血が流れるのを避けるためだ。
 心配していたが、どうやら穏便に話は済んだらしい。

「ク……クロヴィス、で、殿下……? き、帰還していたのですか?」

「話を逸らすなよ。もう一度聞くが、誰を娼館に売り飛ばすって?」

「ぁ……ち、ちが……」

 もう一つクロヴィスが離れていた理由があるとすれば。
 今のように、元父の失言を引き出すためでもある。

「俺の妻となるラシェルへの暴言。もはや父でも無くなったお前の処遇は爵位のはく奪じゃ済まさねーぞ」

「お、お待ちください。私は貴方がいると知らずに……そうだ。一度ゆっくり、娘と三人で前向きに話し合いを」

「なぁ……どうして俺が、五年前に行方不明になる前から、ラシェルに与えられるはずの支度金を見逃してやっていたと思う?」

 問いの途中で、元父の両手足がクロヴィスの魔法によって凍り付いていく。
 逃げられないまま、自らの断罪となる宣告を受ける。
 その恐怖に、元父は瞳を潤ませていた。

「わ、分かりません!」

「俺は六歳という幼い娘に暴力を振るうようなクズを追い込むため……ずっとこの時を待ってた」

「あ……あぁぁぁ」

「俺が何も言わないのをいいことに調子に乗り、支度金で私腹を肥やさせ。お前がもう返済できない状況に陥るまで待ってたんだよ」

「ゆ、許してくださぁい! わ、わたしはぁ!」

「無理。俺のラシェルを傷つけた奴を許すはずないだろ。お前に見合ってない伯爵の立場は、支度金の返済と共に消えるんだ」

 見下す冷たい瞳に睨まれて、一切の慈悲もなく元父は希望を絶やされる。
 それを理解した途端に絶望の表情を浮かべていた。

 僅か半日もせず、全ての地位を失う程の額の返済義務が生じたのだ。
 元父の絶望感は、計り知れないものに違いない。

 
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

聖女の証を義妹に奪われました。ただ証だけ持っていても意味はないのですけどね? など 恋愛作品集

にがりの少なかった豆腐
恋愛
こちらは過去に投稿し、完結している作品をまとめたものになります 章毎に一作品となります これから投稿される『恋愛』カテゴリの作品は投稿完結後一定時間経過後、この短編集へ移動することになります ※こちらの作品へ移動する際、多少の修正を行うことがあります。 ※タグに関してはおよそすべての作品に該当するものを選択しています。

新しい聖女が優秀なら、いらない聖女の私は消えて竜人と暮らします

天宮有
恋愛
ラクード国の聖女シンシアは、新しい聖女が優秀だからという理由でリアス王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。 ラクード国はシンシアに利用価値があると言い、今後は地下室で暮らすよう命令する。 提案を拒むと捕らえようとしてきて、シンシアの前に竜人ヨハンが現れる。 王家の行動に激怒したヨハンは、シンシアと一緒に他国で暮らすと宣言した。 優秀な聖女はシンシアの方で、リアス王子が愛している人を新しい聖女にした。 シンシアは地下で働かせるつもりだった王家は、真実を知る竜人を止めることができない。 聖女と竜が消えてから数日が経ち、リアス王子は後悔していた。

婚約破棄を受け入れたのは、この日の為に準備していたからです

天宮有
恋愛
 子爵令嬢の私シーラは、伯爵令息レヴォクに婚約破棄を言い渡されてしまう。  レヴォクは私の妹ソフィーを好きになったみたいだけど、それは前から知っていた。  知っていて、許せなかったからこそ――私はこの日の為に準備していた。  私は婚約破棄を言い渡されてしまうけど、すぐに受け入れる。  そして――レヴォクの後悔が、始まろうとしていた。

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。 妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。 その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。 家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。 ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。 耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

聖女の妹によって家を追い出された私が真の聖女でした

天宮有
恋愛
 グーリサ伯爵家から聖女が選ばれることになり、長女の私エステルより妹ザリカの方が優秀だった。  聖女がザリカに決まり、私は家から追い出されてしまう。  その後、追い出された私の元に、他国の王子マグリスがやって来る。  マグリスの話を聞くと私が真の聖女で、これからザリカの力は消えていくようだ。

完結 王子は貞操観念の無い妹君を溺愛してます

音爽(ネソウ)
恋愛
妹至上主義のシスコン王子、周囲に諌言されるが耳をを貸さない。 調子に乗る王女は王子に婚約者リリジュアについて大嘘を吹き込む。ほんの悪戯のつもりが王子は信じ込み婚約を破棄すると宣言する。 裏切ったおぼえがないと令嬢は反論した。しかし、その嘘を真実にしようと言い出す者が現れて「私と婚約してバカ王子を捨てないか?」 なんとその人物は隣国のフリードベル・インパジオ王太子だった。毒親にも見放されていたリリジュアはその提案に喜ぶ。だが王太子は我儘王女の想い人だった為に王女は激怒する。 後悔した王女は再び兄の婚約者へ戻すために画策するが肝心の兄テスタシモンが受け入れない。

処理中です...