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18話 クロヴィスside
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暗闇の中で、向かうべき道へと歩む。
そこへ向かえば、二度と戻ってこれないだろう。
二度と目を覚ます事は叶わないと分かっているのに、俺の歩む足は止まらない。
これは、死へと向かう道なのだろう。
不思議とそう感じた。
もう戻れない。
しかし未練なんてない……ラシェルはきっと、幸せになったはずだ。
だから、もう戻る必要なんてない。
そう、思っていたのに……
『クロヴィス様!』
覚悟を決めていたはずなのに、聞き慣れた声が俺の名を呼ぶ。
思わず足を止めた瞬間、周囲の暗闇に光が差し込み、かつて幼いラシェルに絵本を読み聞かせてやっていた光景が見えた。
『なんで、俺がこんな本を読む必要がある。一人で読んでろよ』
『私、今度はこれを読んで欲しいです!』
六歳の子供。
わずらわしいと思っていたのに、明るく笑う彼女を突き放すことはできなかった。
かつて自分自身が味わった孤独を、幼い彼女に感じさせたくなかったのかもしれない。
『分かった…………読んでやる。貸せ』
『やったー!』
それに俺自身も……
明るく笑う彼女に、救われていた。
『ラシェルはずっと、クロヴィス様の傍にいますからね』
『なんだよ、急に』
『前に、クロヴィス様が下民の血が流れているから、自分は要らないと言っていましたよね?』
庭園でセドアと会った時の事か。
確かにそんな言葉を言ってしまったが、まさか気にしていたとは。
『忘れろ、気にす––』
『クロヴィス様が、要らないなんてことはありません!』
『っ!!』
『私を救ってくれて、優しくしてくれるクロヴィス様はとっても大切な人です。だからこれからも……ずっと傍にいます』
『……』
『それが、婚約者の務めだと……本で読みました!』
相変わらず、変な事ばかり覚えやがって……
でも、俺の胸にあった孤独感は、彼女の明るさで確かに消えていくのを感じた。
『なら、ずっと傍にいろよ。俺も一緒にいるから』
『はい! もちろんです』
十分だった。
俺は、ラシェルが傍にいてくれたおかげで救われたんだ。
それで、十分に満たされたんだ。
もう……いいんだ。
再び暗闇に戻されて、流れた涙を拭う。
ラシェルは悲しむだろうが、俺の心は満たされた。
もう、誰もあの国にラシェルを不幸にする者などいないだろうしな。
やり遂げた……
だから、死ぬことに未練はない。
そう思い、再び死に向かって歩き出す。
さよならだ。
ラシェル……
––––
––––
「待てよ。クロヴィス」
「っ」
振り返って、驚きで声が出ない。
なぜか……見知った男が居たのだ。
「セドア?」
「お前が行くのは、そっちじゃないだろ」
「っ!?」
身体をセドアに引かれた瞬間、暗闇に光が差し込んでくる。
先程まで向かっていた死への道が、消えていくのだ。
「なっ!?」
「戻ってろ。いくのは俺だけでいい。お前は暫く来るな」
「セドア、いったいなにを……?」
「一つだけ言っておく。これは……俺が望んで迎えた結末だ。お前に感謝される気は無い」
だめだ。
もう、セドアに何かを聞こうにも……
俺の意識が、引き戻されていく。
声が、出せない。
「セ……ドア」
「なぁクロヴィス……俺の最期は、情けなくはないよな」
俺と違い、セドアの周りには先程の暗闇が広がっていく。
死が、セドアを引き込んでいく。
「じゃあな。クロヴィス」
「……っ!!」
「不甲斐ない兄で、ごめんな」
「……兄上!」
最後に叫んだ言葉に、セドアが少し微笑む。
その姿は……かつて幼い頃に彼が見せた。
優しい……兄としての笑みだった。
そこへ向かえば、二度と戻ってこれないだろう。
二度と目を覚ます事は叶わないと分かっているのに、俺の歩む足は止まらない。
これは、死へと向かう道なのだろう。
不思議とそう感じた。
もう戻れない。
しかし未練なんてない……ラシェルはきっと、幸せになったはずだ。
だから、もう戻る必要なんてない。
そう、思っていたのに……
『クロヴィス様!』
覚悟を決めていたはずなのに、聞き慣れた声が俺の名を呼ぶ。
思わず足を止めた瞬間、周囲の暗闇に光が差し込み、かつて幼いラシェルに絵本を読み聞かせてやっていた光景が見えた。
『なんで、俺がこんな本を読む必要がある。一人で読んでろよ』
『私、今度はこれを読んで欲しいです!』
六歳の子供。
わずらわしいと思っていたのに、明るく笑う彼女を突き放すことはできなかった。
かつて自分自身が味わった孤独を、幼い彼女に感じさせたくなかったのかもしれない。
『分かった…………読んでやる。貸せ』
『やったー!』
それに俺自身も……
明るく笑う彼女に、救われていた。
『ラシェルはずっと、クロヴィス様の傍にいますからね』
『なんだよ、急に』
『前に、クロヴィス様が下民の血が流れているから、自分は要らないと言っていましたよね?』
庭園でセドアと会った時の事か。
確かにそんな言葉を言ってしまったが、まさか気にしていたとは。
『忘れろ、気にす––』
『クロヴィス様が、要らないなんてことはありません!』
『っ!!』
『私を救ってくれて、優しくしてくれるクロヴィス様はとっても大切な人です。だからこれからも……ずっと傍にいます』
『……』
『それが、婚約者の務めだと……本で読みました!』
相変わらず、変な事ばかり覚えやがって……
でも、俺の胸にあった孤独感は、彼女の明るさで確かに消えていくのを感じた。
『なら、ずっと傍にいろよ。俺も一緒にいるから』
『はい! もちろんです』
十分だった。
俺は、ラシェルが傍にいてくれたおかげで救われたんだ。
それで、十分に満たされたんだ。
もう……いいんだ。
再び暗闇に戻されて、流れた涙を拭う。
ラシェルは悲しむだろうが、俺の心は満たされた。
もう、誰もあの国にラシェルを不幸にする者などいないだろうしな。
やり遂げた……
だから、死ぬことに未練はない。
そう思い、再び死に向かって歩き出す。
さよならだ。
ラシェル……
––––
––––
「待てよ。クロヴィス」
「っ」
振り返って、驚きで声が出ない。
なぜか……見知った男が居たのだ。
「セドア?」
「お前が行くのは、そっちじゃないだろ」
「っ!?」
身体をセドアに引かれた瞬間、暗闇に光が差し込んでくる。
先程まで向かっていた死への道が、消えていくのだ。
「なっ!?」
「戻ってろ。いくのは俺だけでいい。お前は暫く来るな」
「セドア、いったいなにを……?」
「一つだけ言っておく。これは……俺が望んで迎えた結末だ。お前に感謝される気は無い」
だめだ。
もう、セドアに何かを聞こうにも……
俺の意識が、引き戻されていく。
声が、出せない。
「セ……ドア」
「なぁクロヴィス……俺の最期は、情けなくはないよな」
俺と違い、セドアの周りには先程の暗闇が広がっていく。
死が、セドアを引き込んでいく。
「じゃあな。クロヴィス」
「……っ!!」
「不甲斐ない兄で、ごめんな」
「……兄上!」
最後に叫んだ言葉に、セドアが少し微笑む。
その姿は……かつて幼い頃に彼が見せた。
優しい……兄としての笑みだった。
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