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8話
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レイクスが最低最悪の事をしている。
それをどうして、夜になって無言の指先が教えてくれるのか。
理由は分からないけど、これが真実だった場合に備えて動き出さねばならない。
「シルヴァ、シルヴァはいますか?」
無言の彼は、伝え終わった後にすぐに部屋を出て行ってしまった。
そのため私は手探りで立ち上がり、まだ屋敷に家令のシルヴァが残っていると信じて歩く。
壁伝いに歩いていくが、今は夜のために使用人達も残っていないだろう。
けれど誰か一人でも居れば……
「誰か、誰かいますか」
誰かが残っていると信じて声を張り上げる。
すると……慌ただしい足音が幾つも響いていきた。
「アイラ奥様? どうして一人でお歩き!?」
「ご無理なさらないでください、見えぬ中で歩くなど危険です!」
使用人の声がいくつもする。
もう夜だと聞いていたのに、こんなに残ってくれているなんて……
「こんな時間にごめんなさい……ありがとう。助かったわ」
「なにを言っておられるのですか。この時間であれば、呼び鈴を鳴らしてくだされば向かいましたのに」
こんな夜更けに使用人が居ると思わなかった。
だけど、この時間まで私のために残ってくれているのは感謝しかない。
「私のためにこの夜更けまで残ってくれていたのよね。また謝礼を弾むわ、だからシルヴァを呼んでほしいの」
「夜更け……奥様、なにをおっしゃって……」
「アイラ奥様、どうしてお部屋を出ておられるのですか」
やり取りを交わしていると、シルヴァの声が響く。
どうやら彼も屋敷に残っていたようだ。
「シルヴァ、良かった。話があったの」
「そうでしたか。お前たち、あとは私に任せて業務に戻ってなさい」
「し、承知いたしました。シルヴァさん」
家令のシルヴァの指示によって、使用人達が去っていく。
私はシルヴァの手を取りながら部屋を戻る道を歩く。
「シルヴァ、もう夜なのよね? 業務は終えて自宅に帰ったのではなかったの?」
「……いえ、書類作業が残っていたため残っておりました」
彼に連れられて部屋の寝台に戻してもらう。
シルヴァは落ち着いた私を見て、本題を問いかけた。
「それにしても、どうして一人で部屋を出られたのですか? なにかあれば明日にでも……」
「シルヴァ、貴方はレイクスがなにをしているのか知っている?」
「レイクス様が、なにを?」
この口ぶりは本気で知らない様子だった。
だからこそ、私は先ほど知った事実をシルヴァへと伝える。
レイクスが私を事故の衝撃で精神を病んだと侮辱する内容を流布している事。
それを無言の彼自身に伝えられたことも。
「あの方が……ならば、事実なのですね」
「理由は分からないけど、本当であれば直ぐに動かねばなりません。悪評が周知のものになれば立場が変わってしまいます。レイクスが……気が狂った妻を献身的に庇う夫だと評価される」
恐ろしい事だが、私が気が狂ったと皆が周知すれば一気に立場は悪くなる。
なにを言っても信じてもらえなくなって、レイクスの評判が良くなるだけだ。
嫌らしくて残忍な手段で、あの人には怒りが沸きあがる。
「なんと、なんと酷い事を……目が見えず屋敷から出られぬアイラ奥様を、そんな醜聞で貶めるなど」
「このまま屋敷に居ても、醜聞が広がるだけだわ」
「どうすれば……」
私は包帯がまかれている傷口を撫でる。
馬車の横転事故からまだ日は経っておらず、怪我はいまだ癒えていない。
安静にしているべきだが、その間に醜聞は広められる。
だったら。
「馬車の用意をしてください。屋敷から出て、頼りたい人がいるの」
「なっ! まだ傷も癒えておりません。そんな状態で……」
「シルヴァ、頼みます。やるしかないんです」
ここでもし立ち止まっていれば、私の人生は取り返す事ができないかもしれない。
それに……あの指先が教えてくれた意味が、なくなってしまうもの。
傷の癒えておらず、動いていると痛みが広がる。
だけど、私は止まってはいられない。
それをどうして、夜になって無言の指先が教えてくれるのか。
理由は分からないけど、これが真実だった場合に備えて動き出さねばならない。
「シルヴァ、シルヴァはいますか?」
無言の彼は、伝え終わった後にすぐに部屋を出て行ってしまった。
そのため私は手探りで立ち上がり、まだ屋敷に家令のシルヴァが残っていると信じて歩く。
壁伝いに歩いていくが、今は夜のために使用人達も残っていないだろう。
けれど誰か一人でも居れば……
「誰か、誰かいますか」
誰かが残っていると信じて声を張り上げる。
すると……慌ただしい足音が幾つも響いていきた。
「アイラ奥様? どうして一人でお歩き!?」
「ご無理なさらないでください、見えぬ中で歩くなど危険です!」
使用人の声がいくつもする。
もう夜だと聞いていたのに、こんなに残ってくれているなんて……
「こんな時間にごめんなさい……ありがとう。助かったわ」
「なにを言っておられるのですか。この時間であれば、呼び鈴を鳴らしてくだされば向かいましたのに」
こんな夜更けに使用人が居ると思わなかった。
だけど、この時間まで私のために残ってくれているのは感謝しかない。
「私のためにこの夜更けまで残ってくれていたのよね。また謝礼を弾むわ、だからシルヴァを呼んでほしいの」
「夜更け……奥様、なにをおっしゃって……」
「アイラ奥様、どうしてお部屋を出ておられるのですか」
やり取りを交わしていると、シルヴァの声が響く。
どうやら彼も屋敷に残っていたようだ。
「シルヴァ、良かった。話があったの」
「そうでしたか。お前たち、あとは私に任せて業務に戻ってなさい」
「し、承知いたしました。シルヴァさん」
家令のシルヴァの指示によって、使用人達が去っていく。
私はシルヴァの手を取りながら部屋を戻る道を歩く。
「シルヴァ、もう夜なのよね? 業務は終えて自宅に帰ったのではなかったの?」
「……いえ、書類作業が残っていたため残っておりました」
彼に連れられて部屋の寝台に戻してもらう。
シルヴァは落ち着いた私を見て、本題を問いかけた。
「それにしても、どうして一人で部屋を出られたのですか? なにかあれば明日にでも……」
「シルヴァ、貴方はレイクスがなにをしているのか知っている?」
「レイクス様が、なにを?」
この口ぶりは本気で知らない様子だった。
だからこそ、私は先ほど知った事実をシルヴァへと伝える。
レイクスが私を事故の衝撃で精神を病んだと侮辱する内容を流布している事。
それを無言の彼自身に伝えられたことも。
「あの方が……ならば、事実なのですね」
「理由は分からないけど、本当であれば直ぐに動かねばなりません。悪評が周知のものになれば立場が変わってしまいます。レイクスが……気が狂った妻を献身的に庇う夫だと評価される」
恐ろしい事だが、私が気が狂ったと皆が周知すれば一気に立場は悪くなる。
なにを言っても信じてもらえなくなって、レイクスの評判が良くなるだけだ。
嫌らしくて残忍な手段で、あの人には怒りが沸きあがる。
「なんと、なんと酷い事を……目が見えず屋敷から出られぬアイラ奥様を、そんな醜聞で貶めるなど」
「このまま屋敷に居ても、醜聞が広がるだけだわ」
「どうすれば……」
私は包帯がまかれている傷口を撫でる。
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安静にしているべきだが、その間に醜聞は広められる。
だったら。
「馬車の用意をしてください。屋敷から出て、頼りたい人がいるの」
「なっ! まだ傷も癒えておりません。そんな状態で……」
「シルヴァ、頼みます。やるしかないんです」
ここでもし立ち止まっていれば、私の人生は取り返す事ができないかもしれない。
それに……あの指先が教えてくれた意味が、なくなってしまうもの。
傷の癒えておらず、動いていると痛みが広がる。
だけど、私は止まってはいられない。
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