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夜の東京は、まるで二人のためにだけ灯りを落としたようだった。青い高級車がの窓外を、銀色の光の粒が流れていく。美咲は膝の上で握りしめ窓の向こうの夜景を眺めていた。
「……綺麗」
思わず呟くと、隣でハンドルを握る悠真が小さく笑った。
「初めて見たときから、思ってた。あの夜、酔って頬を赤くした君が、カウンターに突っ伏して眠ってる姿が……忘れられなくて」
車が信号で止まる。赤い光が車内を妖しく染めた。悠真は初めて真正面から美咲を見つめた。
「だから、連れて帰った。……許してくれなくても、構わなかった」
美咲の瞳が潤む。
「私……怖くなかったんです。目が覚めたとき、あなたがそばにいてくれて、すごく安心した。だから土下座したのは、迷惑をかけたからじゃなくて……」
言葉が詰まる・・・
「ありがとうって、ちゃんと伝えたかったから」
悠真の指が、そっと美咲の頬に触れた。温かかった。
「美咲」
初めて、名前を呼ばれた。
「僕のそばにいてくれる? ずっと」
美咲は小さく頷いた。涙が頬を伝って、悠真の指に落ちる。
「……はい」
ふたりはゆっくりと身を寄せた。美咲も目を閉じる。触れるだけの、優しいキス。
まるで壊れ物を扱うように、大切に、大切に。離れた瞬間、美咲は恥ずかしさのあまり顔を伏せた。悠真は微笑みながら、彼女の髪を梳いた。
「今日は特別な場所に連れて行く」
車は再び走り出す。着いたのは、東京湾を見下ろす高台にある、一軒のプライベートレストラン。店内には客が二人だけだった。窓際のテーブルに通されると、外は満天の星と、遥か下に広がる光の海。
「ここ、僕が気に入ってる場所なんだ。……初めて、誰かを連れてきた」
悠真はワインを注ぎながら、静かに告げた。
「君にだけ、見せたかった」
ディナーが進むにつれ、二人の距離は自然と縮まっていく。
デザートの頃、美咲はふと呟いた。
「私……社長秘書なんて、荷が重すぎて。毎日失敗ばかりで、怒られるんじゃないかって怖くて」
悠真はグラスを置いて、彼女の手をそっと包んだ。「怒らない。君が失敗しても、君が泣きそうになっても、全部僕が受け止める。だから、怖がらないで」
美咲の目から、また涙がこぼれた。
「……ずるい。そんなこと言われたら、もう逃げられない」
「逃がさないよ」
悠真は立ち上がり、美咲の椅子の後ろに回った。そして、小さな箱を取り出した。開けると、そこには一粒のダイヤが静かに輝いていた。ネックレスだった。
「これ、君にあげる」
後ろからそっと首にかけながら、耳元で囁く。
「僕のものだって、印をつけたかった」
美咲は震える手でネックレスに触れた。冷たいダイヤが、熱い胸の上で溶けていくようだった。食事が終わり、外に出ると、夜風が優しく二人を包んだ。高台から見える夜景は、まるで天の川が地上に降りてきたようだった。悠真は美咲の手を握り、指を絡めた。
「美咲」
「……はい」
「好きだよ」
突然の告白に、美咲は息を止めた。悠真は恥ずかしそうに目を逸らしながら、でも確かに続けた。
「初めて会った瞬間から、ずっと。……酔っ払って泣きそうな顔で土下座してきた君に、完璧にやられた」
美咲は笑いながら涙をこぼした。
「私も……です」
そして、今度は美咲から。背伸びして、悠真の唇に自分のを重ねた。星が降るようなキスだった。夜風に髪が揺れ、二人の影が一つに重なる。遠くで花火が上がった。夏の終わりを告げる、最後の花火。悠真は美咲を抱きしめながら、耳元で囁いた。
「これから先、ずっと一緒にいよう」
美咲は強く頷いた。
「……はい、悠真さん」
名前を呼ぶたびに、心が溶けていくような甘さが胸に広がる。もう、離れられない。この人の腕の中で、永遠に醉っていたい。星空の下、二人の新しい物語が、静かに、確かに始まった。
「……綺麗」
思わず呟くと、隣でハンドルを握る悠真が小さく笑った。
「初めて見たときから、思ってた。あの夜、酔って頬を赤くした君が、カウンターに突っ伏して眠ってる姿が……忘れられなくて」
車が信号で止まる。赤い光が車内を妖しく染めた。悠真は初めて真正面から美咲を見つめた。
「だから、連れて帰った。……許してくれなくても、構わなかった」
美咲の瞳が潤む。
「私……怖くなかったんです。目が覚めたとき、あなたがそばにいてくれて、すごく安心した。だから土下座したのは、迷惑をかけたからじゃなくて……」
言葉が詰まる・・・
「ありがとうって、ちゃんと伝えたかったから」
悠真の指が、そっと美咲の頬に触れた。温かかった。
「美咲」
初めて、名前を呼ばれた。
「僕のそばにいてくれる? ずっと」
美咲は小さく頷いた。涙が頬を伝って、悠真の指に落ちる。
「……はい」
ふたりはゆっくりと身を寄せた。美咲も目を閉じる。触れるだけの、優しいキス。
まるで壊れ物を扱うように、大切に、大切に。離れた瞬間、美咲は恥ずかしさのあまり顔を伏せた。悠真は微笑みながら、彼女の髪を梳いた。
「今日は特別な場所に連れて行く」
車は再び走り出す。着いたのは、東京湾を見下ろす高台にある、一軒のプライベートレストラン。店内には客が二人だけだった。窓際のテーブルに通されると、外は満天の星と、遥か下に広がる光の海。
「ここ、僕が気に入ってる場所なんだ。……初めて、誰かを連れてきた」
悠真はワインを注ぎながら、静かに告げた。
「君にだけ、見せたかった」
ディナーが進むにつれ、二人の距離は自然と縮まっていく。
デザートの頃、美咲はふと呟いた。
「私……社長秘書なんて、荷が重すぎて。毎日失敗ばかりで、怒られるんじゃないかって怖くて」
悠真はグラスを置いて、彼女の手をそっと包んだ。「怒らない。君が失敗しても、君が泣きそうになっても、全部僕が受け止める。だから、怖がらないで」
美咲の目から、また涙がこぼれた。
「……ずるい。そんなこと言われたら、もう逃げられない」
「逃がさないよ」
悠真は立ち上がり、美咲の椅子の後ろに回った。そして、小さな箱を取り出した。開けると、そこには一粒のダイヤが静かに輝いていた。ネックレスだった。
「これ、君にあげる」
後ろからそっと首にかけながら、耳元で囁く。
「僕のものだって、印をつけたかった」
美咲は震える手でネックレスに触れた。冷たいダイヤが、熱い胸の上で溶けていくようだった。食事が終わり、外に出ると、夜風が優しく二人を包んだ。高台から見える夜景は、まるで天の川が地上に降りてきたようだった。悠真は美咲の手を握り、指を絡めた。
「美咲」
「……はい」
「好きだよ」
突然の告白に、美咲は息を止めた。悠真は恥ずかしそうに目を逸らしながら、でも確かに続けた。
「初めて会った瞬間から、ずっと。……酔っ払って泣きそうな顔で土下座してきた君に、完璧にやられた」
美咲は笑いながら涙をこぼした。
「私も……です」
そして、今度は美咲から。背伸びして、悠真の唇に自分のを重ねた。星が降るようなキスだった。夜風に髪が揺れ、二人の影が一つに重なる。遠くで花火が上がった。夏の終わりを告げる、最後の花火。悠真は美咲を抱きしめながら、耳元で囁いた。
「これから先、ずっと一緒にいよう」
美咲は強く頷いた。
「……はい、悠真さん」
名前を呼ぶたびに、心が溶けていくような甘さが胸に広がる。もう、離れられない。この人の腕の中で、永遠に醉っていたい。星空の下、二人の新しい物語が、静かに、確かに始まった。
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