呪いの忌子と祝福のつがい

しまっコ

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蒼玉宮3

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「んぁ……」
鼻から甘い吐息が漏れ、ルクレツィアはいたたまれなくなった。
蒼玉宮の日当たりの良いテラス。ルクレツィアはラファエロの膝に乗せられキスをされている。
舌を絡められ互いの唾液が混じりあい、ぴちゃぴちゃと淫靡な音が響く。
つがいであるラファエロの体液から魔力を摂取するのだと教えられた。いわば栄養摂取のようなもの。けれど、キスを与えられるたびに全身に震えが走るほどの快楽を感じてしまう。きっと今、とてもはしたない顔をしているに違いない。
そんな二人の横では、ユリウスがルクレツィアの手に聖石を当てて魔力を測定していた。
「わずかですが、今日も魔力が観測できましたよ」
ラファエロは名残惜し気にキスをやめたものの、ルクレツィアを膝に乗せたままユリウスに答えた。
「増えているのか」
「微妙ですね。でも数値以外の成果はだいぶはっきりしてきました」
「そうなのですか……?」
確かに寝込むことは減ったけれど、それ以外に成果があるのだろうか。
「そうですとも。この離宮に来てからルクレツィア様のつがい紋がかなりはっきりしてきました。その上、背が伸びて、お体にも丸みが出てきたじゃありませんか」
つがい紋の形はまだぼんやりしているが、それでも色はかなり濃くなりつつある。
それよりも、ルクレツィアは体の成長のことが嬉しかった。自分でもちょっとだけ女性らしくなった気がしているが、人から言われるのは格別だ。
「このまま体が大きくなれば、もっと効率的に魔力を摂取できようになります。頑張ってくださいね」
「はい」
にっこり微笑むルクレツィアの膝裏と腋下に腕を入れ、ラファエロはぎくしゃくとした動作で体をずらした。
「ラファエロ様?」
「いや、何でもない。おまえが愛らしすぎてどうしたらいいかわからないだけだ」
なぜか顔を赤くしている王子を不思議に思いながら、ルクレツィアはガレットに手を伸ばした。
「美味しい」
食べた直後再び唇にキスを受ける。
「美味いな」
見つめあう二人にかまうことなく、ユリウスが別の聖石をルクレツィアの手に当てた。
「まだ属性は現れてないですね」
魔力を探知する聖石にはいくつか種類があって、量を測るものと魔力の属性を見るものが一般的である。通常は石の色や光を見て判断するだけだが、ユリウスが使用している聖石には何かの装置がつけられていて、量を数値化したり色別に強さを比較できるようになっていた。
膝の上にぴょんとミアが乗ってくる。白い毛並みがもふもふの愛猫を撫でながらルクレツィアは尋ねた。
「ユリウス様、質問してもいいですか」
「もちろん」
「王都の施設や魔道障壁に魔力装填する方は、属性によって選ばれているのですか?」
かねてから不思議に思っていたことだ。
「以前はそうでした。しかし今は属性とは無関係に魔力量が重視されています。というのも、僕が開発した魔力変換機というものがあってですね、どんな属性の魔力もただのエネルギーに変えてその時々に必要なシステムに使われるようになりました。多くの人は僕の最大の功績を魔道障壁だと思っていますが、この変換機こそが革新的な発明なんですよ。とはいえ、治水工事などの現場には土属性と水属性の者を集めるのが今でも効率的です」
「この魔力を測る装置もユリウス様が?」
「はい。以前からアイデアがあったものを、貴女に出会ってから急遽完成させました。ラファエロ様が魔力を注ぐ方法・量と、貴女の体内に蓄積される魔力量、そしてつがい紋の関係をいずれ論文にして後世に残す必要がありますから。忌子と呼ばれた者たちが実は王族や高位貴族のつがいだということになれば、王侯貴族の人口低下に歯止めがかかるかもしれません」
ルクレツィアを研究することで、魔力を持たない者たちの生活が変わるなら、こんなに嬉しいことはない。
「貴女がラファエロ様の魔力で満たされ、全属性の魔力持ちになる日が待ち遠しいですね」
「ユリウス様は本気でそうなるとお考えなのですね?」
「もちろんです」
忌子が全属性の魔力持ちになるなんてルクレツィアには信じられないが、天才の名をほしいままにしているユリウスはそう確信しているらしい。
「さあ、もういいだろう。今日は体調もよさそうだ。庭園を歩いてみるか」
二人の話を静かに聞いていたラファエロがルクレツィアを抱いたまま立ちあがった。
「殿下、自分で歩けますので……」
この姿で外に行くのは恥ずかしい。
「殿下ではない、ラファエロだ」
「ラファエロ様、お願いです」
「歩いたり適度に運動することも、ルクレツィア様の健康維持には必要ですよ」
ユリウスの口添えを受けてラファエロはしぶしぶルクレツィアを降ろしてくれた。
傍に控えていたアンナが日よけの傘をさしかけてくれる。
はじめは不安だらけだった離宮での生活を、ルクレツィアは幸福だと感じ始めていた。

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