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新しい世界
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「わたくしがお仕事を……?」
姉から魔力装填のことを告げられ、ルクレツィアは瞳を輝かせた。
なかなか外出の許可が出ず、ルクレツィアは月に2回孤児院に行く以外は蒼玉宮に引きこもっている。そんなルクレツィアにとって、とても嬉しい提案だった。
注いで貰うばかりで使う機会がめったにないせいで、ルクレツィアの魔力は増大し続けている。ルクレツィアの生命維持には過ぎた量だし、誰かの役に立てるならこんなに嬉しいことはない。
隣に座るラファエロのことを窺い見ると、多少渋い表情ではあるが頷いてくれた。
「もちろん無理をする必要はない。君の身体に障らない程度にね」
「はい。お姉さま。とても楽しみです」
ルクレツィアはにっこり微笑んだ。
オクタヴィアから提案があった翌日、ルクレツィアは王城に来ていた。
「大まかに説明すると、ここは国で必要とされる魔力を分配するところです。今日はここで魔石に魔力を装填しましょう」
なぜかユリウスも同行している。いつもながら楽しそうだ。
「魔力は魔石として運ばれるのですね」
「大きな魔力を必要とする機器には現場で直接魔力を装填しますが、市民の日常生活を支える魔力は魔石に装填して流通させます。貴族には家ごとにここで魔力を装填する義務が課せられているんですよ」
家庭教師から学んでいたとはいえ、詳しい実務について知るのは初めてだ。
「失礼する」
オクタヴィアが声をかけると、エネルギー局のトップが現れた。
「よくおいでくださいました。私は局長のグロッチェと申します」
髪に白いものが混じっている壮年男性は、伯爵家の当主だとオクタヴィアが教えてくれた。
「ルクレツィアです」
軽く腰を下げる。
「妃殿下に足を運んでいただけるとは本当にありがたくももったいないことです。どうぞ奥へ」
「ここで魔力を装填した魔石は国の管理のもとに流通しています。魔石のおかげで、魔力を持たない平民たちも、日常の料理や空調に不自由ない暮らしを送ることができるのです」
局長は施設の中を一通り案内しながら説明をしてくれた。
「ここは魔力装填を行う場所で、あちらが魔石の流通管理を行うところ、他にも石の補充、回収、廃棄など様々な業務が行われています。石にもいくつか種類があって、属性別に魔力を装填した小さいものから、属性無関係にエネルギーとして活用される大きい石があります。妃殿下にはわざわざお運びいただかなくても、次からは離宮に石をお持ちいたします」
「それには及びません。わたくしはもっと国のことを知らねばなりません」
通されたソファーに腰を下ろし、周囲を見回す。
ルクレツィア達が通された部屋には4か所に応接セットが置かれていて、その2か所で実際に魔力装填が行われていた。
「最も大きいサイズの石を持ってきてください」
ユリウスが局長に向かってオーダーを出す。
「よろしいのですか? 初めての方はご自分の属性の小石から始めるのですが」
「妃殿下は全属性です。魔力量も多くていらっしゃいます。商業施設用の大きいものをお持ちください」
「承知いたしました」
局長の指示で石を運んできた部下は懐疑的な様子でこちらを窺っている。
「こちらでよろしいでしょうか」
「はい」
ルクレツィアは石に手を翳し魔力を装填し始めた。
実のところ、ルクレツィアは属性の使い分けができない。一度だけ魔力を発動した時にも、属性ごちゃまぜの攻撃魔法だったと現場にいたユリウスが言っていた。魔力をエネルギーに変換して使用する魔道具のための、属性を問わない石にしか魔力装填できないのだ。
ほどなくして人の頭ほどの大きさの石が6色の光を放ち始めた。光はどんどん強くなり、部屋全体が眩く照らし出される。
局長も職員も呆然とルクレツィアの手元にある石を見下ろしている。
「これでよろしいでしょうか」
ルクレツィアが顔をあげると、局長はため息をついた。
「なんてすばらしい。これほど美しい石は見たことがありません」
「よろしければ、もうひとついたしましょうか?」
「よろしいのですか!?」
呆然としていた職員が、局長の指示で石を取りに行く。
「ルクレツィア様、その前に魔力量を計測させてください」
ユリウスがルクレツィアの手に聖石を当てた。いつものようにルクレツィアの魔力量を計測し、その数値を書き留めている。
「まだ10個くらいはいけそうですね。ひとつと言わず、たくさん持ってきて貰いましょうよ」
「駄目だ。ルクレツィアの身体に障る」
オクタヴィアが眉を顰めたがユリウスは平然と言い返す。
「1個や2個では魔力漏れは止まりませんよ。ルクレツィア様の魔力漏れが起こらないラインをこれから探っていきましょう」
役に立てて魔力漏れも防げるなんて理想の職務である。ルクレツィアは姉を見上げた。
「お姉さま、お願いします」
「ルクレツィア……そんな目で見てはいけないよ。私が君に弱いのは知っているだろう」
「具合が悪くならない程度にいたします」
「……仕方がないな。1個装填するごとに魔力値を計測して、ある程度で止めるんだよ」
「はい」
「話はまとまったようですね。ルクレツィア様、どんどん行きましょう」
運ばれてきた石のひとつをユリウスが差し出した。先ほど同様に魔力を装填していく。
それから魔力値の計測をしてまた魔力を装填する。その日、ルクレツィアは20個の石に魔力を装填し、エネルギー局を騒然とさせたのだった。
姉から魔力装填のことを告げられ、ルクレツィアは瞳を輝かせた。
なかなか外出の許可が出ず、ルクレツィアは月に2回孤児院に行く以外は蒼玉宮に引きこもっている。そんなルクレツィアにとって、とても嬉しい提案だった。
注いで貰うばかりで使う機会がめったにないせいで、ルクレツィアの魔力は増大し続けている。ルクレツィアの生命維持には過ぎた量だし、誰かの役に立てるならこんなに嬉しいことはない。
隣に座るラファエロのことを窺い見ると、多少渋い表情ではあるが頷いてくれた。
「もちろん無理をする必要はない。君の身体に障らない程度にね」
「はい。お姉さま。とても楽しみです」
ルクレツィアはにっこり微笑んだ。
オクタヴィアから提案があった翌日、ルクレツィアは王城に来ていた。
「大まかに説明すると、ここは国で必要とされる魔力を分配するところです。今日はここで魔石に魔力を装填しましょう」
なぜかユリウスも同行している。いつもながら楽しそうだ。
「魔力は魔石として運ばれるのですね」
「大きな魔力を必要とする機器には現場で直接魔力を装填しますが、市民の日常生活を支える魔力は魔石に装填して流通させます。貴族には家ごとにここで魔力を装填する義務が課せられているんですよ」
家庭教師から学んでいたとはいえ、詳しい実務について知るのは初めてだ。
「失礼する」
オクタヴィアが声をかけると、エネルギー局のトップが現れた。
「よくおいでくださいました。私は局長のグロッチェと申します」
髪に白いものが混じっている壮年男性は、伯爵家の当主だとオクタヴィアが教えてくれた。
「ルクレツィアです」
軽く腰を下げる。
「妃殿下に足を運んでいただけるとは本当にありがたくももったいないことです。どうぞ奥へ」
「ここで魔力を装填した魔石は国の管理のもとに流通しています。魔石のおかげで、魔力を持たない平民たちも、日常の料理や空調に不自由ない暮らしを送ることができるのです」
局長は施設の中を一通り案内しながら説明をしてくれた。
「ここは魔力装填を行う場所で、あちらが魔石の流通管理を行うところ、他にも石の補充、回収、廃棄など様々な業務が行われています。石にもいくつか種類があって、属性別に魔力を装填した小さいものから、属性無関係にエネルギーとして活用される大きい石があります。妃殿下にはわざわざお運びいただかなくても、次からは離宮に石をお持ちいたします」
「それには及びません。わたくしはもっと国のことを知らねばなりません」
通されたソファーに腰を下ろし、周囲を見回す。
ルクレツィア達が通された部屋には4か所に応接セットが置かれていて、その2か所で実際に魔力装填が行われていた。
「最も大きいサイズの石を持ってきてください」
ユリウスが局長に向かってオーダーを出す。
「よろしいのですか? 初めての方はご自分の属性の小石から始めるのですが」
「妃殿下は全属性です。魔力量も多くていらっしゃいます。商業施設用の大きいものをお持ちください」
「承知いたしました」
局長の指示で石を運んできた部下は懐疑的な様子でこちらを窺っている。
「こちらでよろしいでしょうか」
「はい」
ルクレツィアは石に手を翳し魔力を装填し始めた。
実のところ、ルクレツィアは属性の使い分けができない。一度だけ魔力を発動した時にも、属性ごちゃまぜの攻撃魔法だったと現場にいたユリウスが言っていた。魔力をエネルギーに変換して使用する魔道具のための、属性を問わない石にしか魔力装填できないのだ。
ほどなくして人の頭ほどの大きさの石が6色の光を放ち始めた。光はどんどん強くなり、部屋全体が眩く照らし出される。
局長も職員も呆然とルクレツィアの手元にある石を見下ろしている。
「これでよろしいでしょうか」
ルクレツィアが顔をあげると、局長はため息をついた。
「なんてすばらしい。これほど美しい石は見たことがありません」
「よろしければ、もうひとついたしましょうか?」
「よろしいのですか!?」
呆然としていた職員が、局長の指示で石を取りに行く。
「ルクレツィア様、その前に魔力量を計測させてください」
ユリウスがルクレツィアの手に聖石を当てた。いつものようにルクレツィアの魔力量を計測し、その数値を書き留めている。
「まだ10個くらいはいけそうですね。ひとつと言わず、たくさん持ってきて貰いましょうよ」
「駄目だ。ルクレツィアの身体に障る」
オクタヴィアが眉を顰めたがユリウスは平然と言い返す。
「1個や2個では魔力漏れは止まりませんよ。ルクレツィア様の魔力漏れが起こらないラインをこれから探っていきましょう」
役に立てて魔力漏れも防げるなんて理想の職務である。ルクレツィアは姉を見上げた。
「お姉さま、お願いします」
「ルクレツィア……そんな目で見てはいけないよ。私が君に弱いのは知っているだろう」
「具合が悪くならない程度にいたします」
「……仕方がないな。1個装填するごとに魔力値を計測して、ある程度で止めるんだよ」
「はい」
「話はまとまったようですね。ルクレツィア様、どんどん行きましょう」
運ばれてきた石のひとつをユリウスが差し出した。先ほど同様に魔力を装填していく。
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