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誤解
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ルクレツィアが捕らえられていた屋敷はバイロン商会の持ち物とされているが、その商会の実態がつかめていない。地下道の存在はいざという時の脱出経路として、大貴族が好む建造物だ。二人の司祭とその下男と思われる数人の男を捕縛したが、屋敷の持ち主は見つからなかった。
これが司祭たちによる単純な誘拐事件なのか、裏に何かがあるのか、現段階では決めがたい状況だ。あの司祭たちの自白をとってから、裏を洗い出す必要があるだろう。
一通り見て回り屋敷を出てくると、ラファエロの目にとんでもない光景が飛び込んできた。ルクレツィアとマリオという少年が抱き合っている。あまりの衝撃に息が止まりそうになった。
つがいが他の男の腕の中にいるのを冷静にみられる男がいるだろうか。腹立たしいことに、平民とは思えぬほど端正な顔立ちをした少年は年齢的にラファエロよりルクレツィアと似合っているように見えた。
頭の中が沸騰し、ルクレツィアを取り戻すことしか考えられない。大股で近寄り、ルクレツィアとマリオを引きはがす。
「オクタヴィア、ユリウスとともに実況見分を続けろ。ルクレツィアは連れ帰る」
騎士見習の引いてきた馬にルクレツィアを乗せ、その後ろにまたがる。馬の腹を蹴り、離宮に向けて駆け出した。
帰ったら、ルクレツィアが嫌がろうと蜜口に精を注ぎ孕ませる。孕むまで注ぎ続けてやる。離宮に閉じ込め二度とあの男には触れさせない。
馬上での横座りが怖いのか、ルクレツィアは必死にラファエロにしがみついてくる。つがいに対して加虐心など持ち合わせていないが、こんな風にしがみつかれるのは悪くない。
離宮まで一気に駆け抜け、馬を降りる段になり、ラファエロはルクレツィアの異変に気付いた。唇まで真っ白になり生気のない顔。ラファエロにしがみ付いていた腕の力は抜け、今は全身ぐったりしている。
「ルクレツィア」
焦って呼びかけても返事はない。気を失うほどの恐怖を与えてしまったらしい。それも無理のないことだ。ルクレツィアは生まれてから成人するまで公爵家から一度も出たことがないという深層の令嬢だ。これまでの人生で馬に乗ったことがなかったに違いない。初めて乗るのが選りすぐりの軍馬で高さも速度も尋常でなかったのだ。恐怖して当たり前である。
その上、すでに夕闇に包まれ外気温は低い。風をきる冷たさで、ルクレツィアの体温は低下してしまった。
つがいをひたすら愛したいと望んできたラファエロにとって、こんな状況は想定外だった。ぐったりと動かないルクレツィアを横抱きにして離宮に入っていくと、出迎えに来た使用人たちは騒然とした。
「妃殿下はお怪我をされたのですか」
「ルクレツィア様!」
ルクレツィア付きの侍女アンナの顔色は真っ青だ。
ラファエロは使用人たちを目で制し、口を開いた。
「怪我はない。寝室のバスに湯を張っておけ」
「すぐにご用意いたします」
ジョバンニの指示を受け使用人たちはそれぞれの部署に戻り、主のために湯やお茶の用意を始めた。
ラファエロは自室にルクレツィアを運び、ソファーに横たえた。呼吸がしやすいようにドレスをくつろげる。
「殿下、よろしければお着替えを」
ジョバンニがラファエロの上着を脱がせ、アンナがルクレツィアの顔に温めたタオルを当てた。
「んっ」
ルクレツィアの瞼がゆっくり持ち上がる。
「ルクレツィア」
「ラファエロ様」
よほど怖かったのだろう。ヴィクトリアブルーの瞳にじわじわと涙が浮かび、あっという間に溢れ始めた。
「怖い思いをさせてすまなかった。起きられるか」
抱き起こして顔を覗き込むと、ルクレツィアは俯いて「ごめんなさい」と言った。
「なぜ謝る?」
「怒ってらっしゃったから。わたくしがお気に障ることをしてしまったのかと」
言われた瞬間、先ほどの不快な光景が脳裏をよぎった。
「おまえはあのマリオという男が好きなのか」
ルクレツィアはハッとしたように顔を上げた。
「誤解してらっしゃいます。マリオとはそのような関係ではありません」
「どのような関係であろうと、おまえを渡す気はない。二度と会うことは許さない」
「お願いです、聞いて下さい。マリオは」
「二度とその名を口にするな」
乱暴なキスでルクレツィアの唇をふさぎ、逃げ惑う舌を絡めとる。
それからラファエロはルクレツィアを抱きあげ、心配そうなジョバンニとアンナを置き去りにして、主寝室の寝台に運んだ。
これが司祭たちによる単純な誘拐事件なのか、裏に何かがあるのか、現段階では決めがたい状況だ。あの司祭たちの自白をとってから、裏を洗い出す必要があるだろう。
一通り見て回り屋敷を出てくると、ラファエロの目にとんでもない光景が飛び込んできた。ルクレツィアとマリオという少年が抱き合っている。あまりの衝撃に息が止まりそうになった。
つがいが他の男の腕の中にいるのを冷静にみられる男がいるだろうか。腹立たしいことに、平民とは思えぬほど端正な顔立ちをした少年は年齢的にラファエロよりルクレツィアと似合っているように見えた。
頭の中が沸騰し、ルクレツィアを取り戻すことしか考えられない。大股で近寄り、ルクレツィアとマリオを引きはがす。
「オクタヴィア、ユリウスとともに実況見分を続けろ。ルクレツィアは連れ帰る」
騎士見習の引いてきた馬にルクレツィアを乗せ、その後ろにまたがる。馬の腹を蹴り、離宮に向けて駆け出した。
帰ったら、ルクレツィアが嫌がろうと蜜口に精を注ぎ孕ませる。孕むまで注ぎ続けてやる。離宮に閉じ込め二度とあの男には触れさせない。
馬上での横座りが怖いのか、ルクレツィアは必死にラファエロにしがみついてくる。つがいに対して加虐心など持ち合わせていないが、こんな風にしがみつかれるのは悪くない。
離宮まで一気に駆け抜け、馬を降りる段になり、ラファエロはルクレツィアの異変に気付いた。唇まで真っ白になり生気のない顔。ラファエロにしがみ付いていた腕の力は抜け、今は全身ぐったりしている。
「ルクレツィア」
焦って呼びかけても返事はない。気を失うほどの恐怖を与えてしまったらしい。それも無理のないことだ。ルクレツィアは生まれてから成人するまで公爵家から一度も出たことがないという深層の令嬢だ。これまでの人生で馬に乗ったことがなかったに違いない。初めて乗るのが選りすぐりの軍馬で高さも速度も尋常でなかったのだ。恐怖して当たり前である。
その上、すでに夕闇に包まれ外気温は低い。風をきる冷たさで、ルクレツィアの体温は低下してしまった。
つがいをひたすら愛したいと望んできたラファエロにとって、こんな状況は想定外だった。ぐったりと動かないルクレツィアを横抱きにして離宮に入っていくと、出迎えに来た使用人たちは騒然とした。
「妃殿下はお怪我をされたのですか」
「ルクレツィア様!」
ルクレツィア付きの侍女アンナの顔色は真っ青だ。
ラファエロは使用人たちを目で制し、口を開いた。
「怪我はない。寝室のバスに湯を張っておけ」
「すぐにご用意いたします」
ジョバンニの指示を受け使用人たちはそれぞれの部署に戻り、主のために湯やお茶の用意を始めた。
ラファエロは自室にルクレツィアを運び、ソファーに横たえた。呼吸がしやすいようにドレスをくつろげる。
「殿下、よろしければお着替えを」
ジョバンニがラファエロの上着を脱がせ、アンナがルクレツィアの顔に温めたタオルを当てた。
「んっ」
ルクレツィアの瞼がゆっくり持ち上がる。
「ルクレツィア」
「ラファエロ様」
よほど怖かったのだろう。ヴィクトリアブルーの瞳にじわじわと涙が浮かび、あっという間に溢れ始めた。
「怖い思いをさせてすまなかった。起きられるか」
抱き起こして顔を覗き込むと、ルクレツィアは俯いて「ごめんなさい」と言った。
「なぜ謝る?」
「怒ってらっしゃったから。わたくしがお気に障ることをしてしまったのかと」
言われた瞬間、先ほどの不快な光景が脳裏をよぎった。
「おまえはあのマリオという男が好きなのか」
ルクレツィアはハッとしたように顔を上げた。
「誤解してらっしゃいます。マリオとはそのような関係ではありません」
「どのような関係であろうと、おまえを渡す気はない。二度と会うことは許さない」
「お願いです、聞いて下さい。マリオは」
「二度とその名を口にするな」
乱暴なキスでルクレツィアの唇をふさぎ、逃げ惑う舌を絡めとる。
それからラファエロはルクレツィアを抱きあげ、心配そうなジョバンニとアンナを置き去りにして、主寝室の寝台に運んだ。
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