呪いの忌子と祝福のつがい

しまっコ

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生活の変化

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いつもより半刻ほど早く執務が終わり、ラファエロは上機嫌でルクレツィアの居室に向かった。これだけ時間があれば、ルクレツィアを膝に乗せ昼食を一口ずつ食べさせてやれる。小さな口を開きラファエロの差し出すフォークから食べ物を口に入れる様は、ひな鳥のように愛くるしい。口の端に着いたソースを舐めとってやると恥ずかしそうに頬を染める初々しいつがいを思い、ラファエロの頬は自然と緩む。
しかし、ドアの前でラファエロは足を止めた。
「あ、お姉さま、」
「きつすぎる?」
「いえ、でも、うまくできな、あンっ」
「私の言ったとおりに動いてごらん。そう、上手だ」
「んっ……っ」
ルクレツィアの声が睦言のように響く。ラファエロの頭は瞬時に沸騰した。
勢いよくドアを開くと、そこには背後からオクタヴィアに抱きつかれ羽交い絞めにされたルクレツィアがいた。
「離れろ」
言った傍からつかつかと歩み寄り強引に二人を引き離す。
「一体どういうことだ」
ルクレツィアを抱き込んでオクタヴィアを睨みつけると、腕の中のルクレツィアがびっくり眼でラファエロを見上げた。
「護身術を習っておりました」
「護身術だと?」
「はい。今は背後から抱き着かれた時に抜け出す方法を教えて貰っています」
オクタヴィアがやれやれというように肩をすくめた。
「本当は魔法の使い方を教えてやりたいのですが、騎士団に行くことを許可いただけないので、仕方なくここでできることをしているんですよ」
ルクレツィアが頷く。
「必要ない」
ラファエロはにべもなく却下した。
しかし、ルクレツィアは必死に言い募った。
「ラファエロ様、お願いです。先日捕らえられたとき、わたくしは自分の無力を痛感いたしました。できることから頑張りたいのです」
「大切なのはおまえが危険な目に遭わないようにすることだ。護身術が必要な状況などあってはならない」
「そうは言いますが、離宮に閉じ込めておくことがルクレツィアの幸福とはいいがたい。ルクレツィアはお人形でも幼子でもない、大人の女性です」
「……」
もっともらしいオクタヴィアの言葉にルクレツィアが頷く。
「また孤児院に通いたいのです」
「……」
「ラファエロ様、お願いです」
ヴィクトリアブルーの大きな瞳で縋るように見つめられ、ラファエロはこのまま寝室に運んで抱きつぶしたい衝動にかられた。
「あまり束縛が強いと嫌われますよ」
ラファエロはギリリと奥歯を噛みしめる。
言われずともわかっている。起き抜けにラファエロに抱かれ、日中はこの離宮から出ることを許されず、また夜になればラファエロを受け入れる。囲われ者のような生活だ。ルクレツィアが退屈したとしても当然だ。
ラファエロが黙り込むと、オクタヴィアが追撃を開始した。
「せめて騎士団くらいは許可を頂きたい。あそこが危険だというなら、どこにも行けない」
「魔法訓練がしたいなら、ここですればいい」
「やりましたよ。ブルーベリーの生け垣が2ブロック木っ端みじんになり、庭師に申し訳ないことをしました」
そんなこともあった。庭の一角で爆発音がしたときは、ルクレツィアの身を案じて肝が冷えた。
「環境の整った騎士団で訓練する方がルクレツィアにとってもメリットが大きい。ぜひ許可を」
「……仕方がない。執務の合間に連れて行こう」
腕の中から見上げてくる期待に満ちた瞳に負けて、ラファエロは許可の言葉を口にした。
「ラファエロさまが連れて行って下さるのですか」
「ああ」
「ありがとう存じます」
飛びつくように抱き着かれ、ラファエロは愛しいつがいを抱きしめ返した。
それから2度ほどラファエロが付き添って騎士団に行き、なし崩しに騎士団通いが始まったのだった。

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