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番外編 エルダーボンバー 前編
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それはソフトクリームみたいな入道雲が、空を泳いでいる夏の日に起きた。
その日は大学が三限までで、静弥も休みなので一緒に夕飯を作ろう。と、話していたのだ。
いつも連んでいる同じ学部の奴らも三限で今日の授業が終わりなので、大学近くのラーメン屋に駆け込んだ。
久々に食べる外のラーメンは、悪魔的に美味かった。
まるで薬物でも、入っているかのようだ。
夕飯をちゃんと食べられるように、ハーフサイズにしておいた。
ラーメンを食べ終わり、電車に乗り、家に着いたのは夕方四時過ぎ。四時半と言った方が、良い時間。
玄関の扉を開けると、静弥が家系ラーメンの店主かの如く腕を組んで俺を待ち構えていた。
あれ? 俺、なんかやっちゃいました……?
「遅い」
遅い。その三文字に、苛立ちを全て乗せていた。まるで「僕は、君に怒ってるんだからね? 理由は、分かるよね?」と、言わんばかりの声のトーンだ。
「おかえりから、言えよ。ただいま!」
「おかえり。何処で、誰と、何してたの?」
「え? 大学の奴らと、ラーメン食ってた」
俺の発言を聞いた静弥の顔面から、みるみる血の気がなくなっていく。
うわぁ~。来ちゃいますか~。パターン青、使徒です!
「は!? 夕飯一緒に作ろうって、言ってたよね!?」
「間に合ってんじゃん! 今から作っても、夕飯食えるじゃん! 夕飯ちゃんと食えるように、ハーフサイズにしたし!」
「もういいよ! 勝手に一人でハンバーグ捏ねて、パンッパンッって音で興奮してろ! AV脳が!」
吐き捨てるように静弥は言い、廊下を駆け抜けて自室へと入って行った。
走るフォームは俺が描いた絵みたいなポーズで、笑いそうになってしまった。
何をそんなに怒ってるのか、意味が分からねえ……。
静弥と「夕飯、一緒に作ろう」と、約束はしていた。
だけど、明確に四時までに帰って来てね。とか、言われていた訳じゃない。
あっ! アレか!? 俺が大学の奴らと仲良くして、妬いたのか?
可愛い奴め。
俺は静弥の部屋の扉の前まで歩き、小さくノックする。
「静弥、ごめんな。一緒に行った奴ら、彼女居るから大丈夫だよ」
「違うよ!! 手洗いしてない手で、ノックしないでくれる!?」
バーン! そんな効果音が背景につきそうなくらい、勢いよく扉が開かれるやいなや静弥はそう言った。
「バイ菌扱いかよ! お前、もっと汚いもん触ってるし舐めてんだろ!」
さすがに、イチャモン過ぎだろ。なんだ、コイツ……。
セイヤは、いちゃもんをつけた! ヒカルは、同じ技を2回連続で出せなくなった!
「え!? 違うの!? じゃあ、なんで!?」
静弥は何も言わず、また勢いよく扉を閉めた。
マジで、なんなの……。常日頃やらかしまくってるから、心当たりしかないんだけど。
パジャマを脱ぎ散らかして、ベッドの上に置いて出かけてること。メルカルでチェーンソーマンコラボのカードを売るのに、良い感じの厚紙がなかったからリビングのティッシュの箱を使ったこと。ゴミ箱に投げ捨てようとした、使用済み綿棒がゴミ箱に入らなかったのに二日間放置したこと。宅配の荷物を、ドンっと雑に床に置いたこと。静弥がお茶をこぼした時に、台拭きで手を拭いてやったこと。その他にも、た~くさん。
手洗いうがいをしてから、静弥の部屋の扉をまたノックしたけど開くことはなかった。
*
クソ~! なんなんだよ、静弥の奴! ムカつくなら、理由を言えって! 言わなきゃ、分かんねえじゃん!
一人で挽肉をパンッパンと捏ねて、鍋で煮込み、煮込みハンバーグを作った。
俺がやらかしたとは言え、一緒に作りたかったな……。
そういや、なんで献立が煮込みハンバーグなんだろうか。
俺がぼんやりしながら、返事した間に決まっていたのか?
俺が好きそうだから、決めてくれたのか?
そんな疑問よりも、イライラが勝つ。
察してちゃんかよ。エスパーじゃないんだから、無理に決まってんだろ。性欲大魔神妖怪ヌマクローめ。
こんな時は、シコるに限るぜ。
俺はスマホで大手検索エンジンを開き、HANZAと検索バーに打ち込む。
アレ? なんか、ログアウトしてんな。
面倒くさいけど、メールアドレスとパスワードを打ち込むけど弾かれてしまった。
ガサツ柱がログイン用のメールアドレスと、パスワードを使い分ける訳がなく、スマホのユーザー辞書に登録しているものを打ち込んでいるのに入れない。
静弥の言葉が、脳内でリピート再生される。
「パンッパンって音に興奮」に「AV脳」って……。
試しにパスワードを忘れた場合をタップして、再設定用のメールを待つ。
しかし何分経っても、メールは来ない。
迷惑メールに入っている訳でも、iPhoneのストレージが足りない訳でもない。
間違いねえ、コレは……。
「せいやぁあああ!! お前ッ……!! 俺のHANZAのメルアドと、パスワード変えただろ!! ふざけんなよ!!」
取り立て屋の如く静弥の部屋の扉をノックして、ドアノブをガチャガチャと下に動かす。
しかし鍵がかかっているため、扉は開けられない。
HANZAでダウンロードした「ヤンデレ美男子に監禁されるAMSR」とか「インテリ鬼畜教師に犯されるDK」以下省略とか、もう見れないの!? 死にそう!!
「ドア壊す気なの!? 山南原人が! 原始人らしく、山の中に捨てられたアダルト雑誌読んでなよ! バーカ!!」
「今になって、猫ミームハマってるお前に言われたかねーわ!! 一生部屋で、ニヨニヨ動画の『やらないか?』見とけ! アホ! ボケ!」
もしかして、不機嫌の原因コレ? 俺がHANZAのAVやASMS買ってたから……? それなら、もっと可愛くやきもち妬けよ。
プリウスミサイルみたいな、勢いで気持ちぶつけて来てんじゃねえよ。
静弥にとってAVが不貞行為にあたるならば、言ってくれたら、頑張ってやめるし……。
もう知らねぇ!! 静弥が泣いて謝って来るまで、許さねぇ……!!
明日はゴミ出しだから、ゴミは俺一人で回収しよう。
クソ。ガサツに、分別なんか出来るかってんだ……。
どうせ後で、ぶちぶち言われんだろうな。
*
夕飯の煮込みハンバーグを食べ終わり、皿洗いも済ませて、風呂にも入り、スキンケアに歯磨きも済ませた。
静弥は徹底して俺を避けていて、すれ違うことすらなかった。
時刻は、夜の十時半。
歩夢が今日の件で話を聞いてくれると言うので、今現在進行形で通話をしている。
「てな感じでさー。マジで、意味分かんねえ」
『アレじゃね? 沼黒君結構女っぽいし、積み重ねでキレたんだって。よく言うじゃん。女の怒りは、ポイント制って』
「はー!? なら、爆発する前に言えよな」
『これもよく聞くけど、男って女より感情読み解く機能が劣ってるらしいぜ。沼黒君がこうなる前に、百パーの怒りをぶつけてもお前が気付かなかったんじゃね? あとAVは、もっと本気で隠せよ。他人に突発されるパスって、ネットリテラシー低すぎ』
「うるせー!!」
歩夢は「うーん」とスマホの向こうで唸ってから、言葉を続けた。
『裸にリボンつけて、プレゼントは俺。俺を好きにしていいよ。って言ったら? それで、機嫌治るっしょ!』
何を、言ってんだよ。コイツは……。
「斧やスタンガンで、襲って来る奴なの! リアルにヤンデレに愛されすぎて、眠れないCDしてんの! そんなんしたら、何されるか……」
そんなんしたら、手足とか切り落とされる可能性あるだろ!
『晄。メンヘラに手出したなら、腹ぁ括れよ。それが、男としての筋だぞ』
メンヘラに手出したなら、筋通しましょうや……。ってか? やかましいわ。
歩夢は「明日一限からあるから、寝るわ。おやすみ~」と言葉を続けた。
マイペースすぎる……。
*
日付を何日間か跨いでも、静弥は俺を避け続けていた。
もしかしなくても、同居解消の危機……か?
そうなら、さすがに一言言って来るとは思うけど、不安なもんは不安だ。
老舗和菓子屋の羊かんをプレゼントしようと冷蔵庫に入れて「冷蔵庫にある羊かん食べてね」と、メッセージを入れたら
「そんなの要らないから、一分一秒でも早く帰って来てよ」なんて返信が返って来たのだ。
ハァー!? 早く帰ったところで、お前、俺のこと避けてんじゃん!?
こんな状態で謝っても「何が悪いか分かってない癖に、謝らないでくれる!?」とか、言われかねない。
マジで、どうしたら良いんだ。コレ……。
俺の友達は単純な奴が多くて、嫌なことがあったらその場で言う代わりに怒りが持続しないタイプの奴しか居ない。
ムカつくこと直して欲しいことはその場で言って、ちゃんと自分で消化するのだ。
俺は青い鳥ランドを開き、検索コマンドに
「恋人 喧嘩 仲直りの仕方」だの「恋人 怒らせた」だの打ち込む。
表示されたのは、二次元男アイドルの夢小説のツイートや怪しい恋愛コンサルのツイートばかりだった。
tmitterのオススメタブに、ワイドショーかなんかで放映されたのであろう「妻のトリセツ 心と裏腹な妻の言葉」の画像が出て来た。
えーっと、なになに? ケンカした時の「あっちへ、行って!」は「あなたのせいで傷ついたんだから、側に居て慰めて!」で、怒っている理由を聞いた時の「なんでもない!」は「私、怒ってるの! 放っておかないで!」らしい。
意味分かんねえ!! なんだ、コイツ!! 情緒不安定過ぎだろ!! 鉄分と、カルシウムと、ミネラル摂れって!!
こんだけ情緒不安定なんが許されるのは、スクールアイドルアニメのメンカラ赤の子くらいだろうが!!
そんな俺の気持ちを代弁するかのように、ピンク髪ウェーブの上まぶたが濃い美少女の絵がクソコラされている画像も出て来た。
アニメアイコンの陰キャ達は
「はぁはぁ、ルイズ可愛いよ、ルイズ」だの「ルイズなら、許しちゃうなぁ」だの言っている。
なんなんだよ、このルイズって女はよ。
つーか、このアニメアイコンの奴ら普通の女とすら恋愛出来ねえだろ。こんなめんどうくせぇ女となんて、ムリムリ。
とは言っても、ずっとこのままなのも嫌だな。
よし、決めた。大学終わったら、マッハで帰って謝ろう。
*
晄君に一方的に怒りをぶつけてから、数日が過ぎた。
一度口にしたことは、取り消せない。その日の内に謝れば良かったのに、僕はそれが出来なかった。
あの日は晄君とスーパーに買い物に行って、一緒に献立を考えたかった。
大学に、バイトに、レッスンに忙しいから、やっと一緒に過ごせると思ったのに……。
わざわざ外行きの服に着替えて、待っていたのに。
また勝手に僕が一人で期待して、裏切られた気分になって当たり散らかしてしまった。
僕の話を聞いた、九さんと松田さんは「期待し過ぎだよ。約束してた訳じゃないから、沼黒君が悪い」と言ったのだ。
松田さんはため息を吐きながら
「うちの同棲してる彼氏なんか、夜七時に宅配便届くから家に居といて。って言ってるのに、コンビニにアイス買いに行くの。化け物でしょ」と、言い放った。
他人様の恋人に「そうですね」なんて、頷けない。
一個不満を口にしたら芋蔓式に出て来て、晄君の直して欲しいところが出て来た。
ゴミの分別収集が出来ないところ、ボーイズラブもののアダルト ビデオで自慰しちゃうところ、アナルオナニーに使ったボールペンを普通に使用するところ、飲み切れる量とは言え牛乳をラッパ飲みするところ他。
流石に下な話はしなかったけど、松田さんは僕の肩に平べったい手を置いた。
「沼黒君。男って、そんなもんなのよ。教育しましょう」
「僕は、お母さんですか?」
九さんは、心底面倒臭そうに言葉を紡いだ。
「沼黒君。相手のことを、赤ちゃんだと思って接しなさい。君から謝って際どい服着てヤらせたったら、あの子機嫌治るやろ」
横で聞いていた松田さんは、まるで自称環境活動家がペンキで美術館の絵を塗りたくる様子を見るかのような視線で九さんを見た。
「うわ、サイテー」
際どい服って、セクシーランジェリーとかボンテージとか上半身が網タイツみたいに、なっているのとかってことだろうか?
晄君のそういうのは、正直に言うとめちゃくちゃ見たい。着せたい。
着せたい! じゃ、ダメだ。着せよう!
だけど僕の貧相な身体で、性欲が刺激されるものなんだろうか?
アダルトビデオの男優よりすごい景色を見せてあげたら、晄君はアダルト ビデオを見るのをやめるかもしれない。
よし。そうと決まれば、仕事終わりに買いに行こう。
善は急げ、だ。
その日は大学が三限までで、静弥も休みなので一緒に夕飯を作ろう。と、話していたのだ。
いつも連んでいる同じ学部の奴らも三限で今日の授業が終わりなので、大学近くのラーメン屋に駆け込んだ。
久々に食べる外のラーメンは、悪魔的に美味かった。
まるで薬物でも、入っているかのようだ。
夕飯をちゃんと食べられるように、ハーフサイズにしておいた。
ラーメンを食べ終わり、電車に乗り、家に着いたのは夕方四時過ぎ。四時半と言った方が、良い時間。
玄関の扉を開けると、静弥が家系ラーメンの店主かの如く腕を組んで俺を待ち構えていた。
あれ? 俺、なんかやっちゃいました……?
「遅い」
遅い。その三文字に、苛立ちを全て乗せていた。まるで「僕は、君に怒ってるんだからね? 理由は、分かるよね?」と、言わんばかりの声のトーンだ。
「おかえりから、言えよ。ただいま!」
「おかえり。何処で、誰と、何してたの?」
「え? 大学の奴らと、ラーメン食ってた」
俺の発言を聞いた静弥の顔面から、みるみる血の気がなくなっていく。
うわぁ~。来ちゃいますか~。パターン青、使徒です!
「は!? 夕飯一緒に作ろうって、言ってたよね!?」
「間に合ってんじゃん! 今から作っても、夕飯食えるじゃん! 夕飯ちゃんと食えるように、ハーフサイズにしたし!」
「もういいよ! 勝手に一人でハンバーグ捏ねて、パンッパンッって音で興奮してろ! AV脳が!」
吐き捨てるように静弥は言い、廊下を駆け抜けて自室へと入って行った。
走るフォームは俺が描いた絵みたいなポーズで、笑いそうになってしまった。
何をそんなに怒ってるのか、意味が分からねえ……。
静弥と「夕飯、一緒に作ろう」と、約束はしていた。
だけど、明確に四時までに帰って来てね。とか、言われていた訳じゃない。
あっ! アレか!? 俺が大学の奴らと仲良くして、妬いたのか?
可愛い奴め。
俺は静弥の部屋の扉の前まで歩き、小さくノックする。
「静弥、ごめんな。一緒に行った奴ら、彼女居るから大丈夫だよ」
「違うよ!! 手洗いしてない手で、ノックしないでくれる!?」
バーン! そんな効果音が背景につきそうなくらい、勢いよく扉が開かれるやいなや静弥はそう言った。
「バイ菌扱いかよ! お前、もっと汚いもん触ってるし舐めてんだろ!」
さすがに、イチャモン過ぎだろ。なんだ、コイツ……。
セイヤは、いちゃもんをつけた! ヒカルは、同じ技を2回連続で出せなくなった!
「え!? 違うの!? じゃあ、なんで!?」
静弥は何も言わず、また勢いよく扉を閉めた。
マジで、なんなの……。常日頃やらかしまくってるから、心当たりしかないんだけど。
パジャマを脱ぎ散らかして、ベッドの上に置いて出かけてること。メルカルでチェーンソーマンコラボのカードを売るのに、良い感じの厚紙がなかったからリビングのティッシュの箱を使ったこと。ゴミ箱に投げ捨てようとした、使用済み綿棒がゴミ箱に入らなかったのに二日間放置したこと。宅配の荷物を、ドンっと雑に床に置いたこと。静弥がお茶をこぼした時に、台拭きで手を拭いてやったこと。その他にも、た~くさん。
手洗いうがいをしてから、静弥の部屋の扉をまたノックしたけど開くことはなかった。
*
クソ~! なんなんだよ、静弥の奴! ムカつくなら、理由を言えって! 言わなきゃ、分かんねえじゃん!
一人で挽肉をパンッパンと捏ねて、鍋で煮込み、煮込みハンバーグを作った。
俺がやらかしたとは言え、一緒に作りたかったな……。
そういや、なんで献立が煮込みハンバーグなんだろうか。
俺がぼんやりしながら、返事した間に決まっていたのか?
俺が好きそうだから、決めてくれたのか?
そんな疑問よりも、イライラが勝つ。
察してちゃんかよ。エスパーじゃないんだから、無理に決まってんだろ。性欲大魔神妖怪ヌマクローめ。
こんな時は、シコるに限るぜ。
俺はスマホで大手検索エンジンを開き、HANZAと検索バーに打ち込む。
アレ? なんか、ログアウトしてんな。
面倒くさいけど、メールアドレスとパスワードを打ち込むけど弾かれてしまった。
ガサツ柱がログイン用のメールアドレスと、パスワードを使い分ける訳がなく、スマホのユーザー辞書に登録しているものを打ち込んでいるのに入れない。
静弥の言葉が、脳内でリピート再生される。
「パンッパンって音に興奮」に「AV脳」って……。
試しにパスワードを忘れた場合をタップして、再設定用のメールを待つ。
しかし何分経っても、メールは来ない。
迷惑メールに入っている訳でも、iPhoneのストレージが足りない訳でもない。
間違いねえ、コレは……。
「せいやぁあああ!! お前ッ……!! 俺のHANZAのメルアドと、パスワード変えただろ!! ふざけんなよ!!」
取り立て屋の如く静弥の部屋の扉をノックして、ドアノブをガチャガチャと下に動かす。
しかし鍵がかかっているため、扉は開けられない。
HANZAでダウンロードした「ヤンデレ美男子に監禁されるAMSR」とか「インテリ鬼畜教師に犯されるDK」以下省略とか、もう見れないの!? 死にそう!!
「ドア壊す気なの!? 山南原人が! 原始人らしく、山の中に捨てられたアダルト雑誌読んでなよ! バーカ!!」
「今になって、猫ミームハマってるお前に言われたかねーわ!! 一生部屋で、ニヨニヨ動画の『やらないか?』見とけ! アホ! ボケ!」
もしかして、不機嫌の原因コレ? 俺がHANZAのAVやASMS買ってたから……? それなら、もっと可愛くやきもち妬けよ。
プリウスミサイルみたいな、勢いで気持ちぶつけて来てんじゃねえよ。
静弥にとってAVが不貞行為にあたるならば、言ってくれたら、頑張ってやめるし……。
もう知らねぇ!! 静弥が泣いて謝って来るまで、許さねぇ……!!
明日はゴミ出しだから、ゴミは俺一人で回収しよう。
クソ。ガサツに、分別なんか出来るかってんだ……。
どうせ後で、ぶちぶち言われんだろうな。
*
夕飯の煮込みハンバーグを食べ終わり、皿洗いも済ませて、風呂にも入り、スキンケアに歯磨きも済ませた。
静弥は徹底して俺を避けていて、すれ違うことすらなかった。
時刻は、夜の十時半。
歩夢が今日の件で話を聞いてくれると言うので、今現在進行形で通話をしている。
「てな感じでさー。マジで、意味分かんねえ」
『アレじゃね? 沼黒君結構女っぽいし、積み重ねでキレたんだって。よく言うじゃん。女の怒りは、ポイント制って』
「はー!? なら、爆発する前に言えよな」
『これもよく聞くけど、男って女より感情読み解く機能が劣ってるらしいぜ。沼黒君がこうなる前に、百パーの怒りをぶつけてもお前が気付かなかったんじゃね? あとAVは、もっと本気で隠せよ。他人に突発されるパスって、ネットリテラシー低すぎ』
「うるせー!!」
歩夢は「うーん」とスマホの向こうで唸ってから、言葉を続けた。
『裸にリボンつけて、プレゼントは俺。俺を好きにしていいよ。って言ったら? それで、機嫌治るっしょ!』
何を、言ってんだよ。コイツは……。
「斧やスタンガンで、襲って来る奴なの! リアルにヤンデレに愛されすぎて、眠れないCDしてんの! そんなんしたら、何されるか……」
そんなんしたら、手足とか切り落とされる可能性あるだろ!
『晄。メンヘラに手出したなら、腹ぁ括れよ。それが、男としての筋だぞ』
メンヘラに手出したなら、筋通しましょうや……。ってか? やかましいわ。
歩夢は「明日一限からあるから、寝るわ。おやすみ~」と言葉を続けた。
マイペースすぎる……。
*
日付を何日間か跨いでも、静弥は俺を避け続けていた。
もしかしなくても、同居解消の危機……か?
そうなら、さすがに一言言って来るとは思うけど、不安なもんは不安だ。
老舗和菓子屋の羊かんをプレゼントしようと冷蔵庫に入れて「冷蔵庫にある羊かん食べてね」と、メッセージを入れたら
「そんなの要らないから、一分一秒でも早く帰って来てよ」なんて返信が返って来たのだ。
ハァー!? 早く帰ったところで、お前、俺のこと避けてんじゃん!?
こんな状態で謝っても「何が悪いか分かってない癖に、謝らないでくれる!?」とか、言われかねない。
マジで、どうしたら良いんだ。コレ……。
俺の友達は単純な奴が多くて、嫌なことがあったらその場で言う代わりに怒りが持続しないタイプの奴しか居ない。
ムカつくこと直して欲しいことはその場で言って、ちゃんと自分で消化するのだ。
俺は青い鳥ランドを開き、検索コマンドに
「恋人 喧嘩 仲直りの仕方」だの「恋人 怒らせた」だの打ち込む。
表示されたのは、二次元男アイドルの夢小説のツイートや怪しい恋愛コンサルのツイートばかりだった。
tmitterのオススメタブに、ワイドショーかなんかで放映されたのであろう「妻のトリセツ 心と裏腹な妻の言葉」の画像が出て来た。
えーっと、なになに? ケンカした時の「あっちへ、行って!」は「あなたのせいで傷ついたんだから、側に居て慰めて!」で、怒っている理由を聞いた時の「なんでもない!」は「私、怒ってるの! 放っておかないで!」らしい。
意味分かんねえ!! なんだ、コイツ!! 情緒不安定過ぎだろ!! 鉄分と、カルシウムと、ミネラル摂れって!!
こんだけ情緒不安定なんが許されるのは、スクールアイドルアニメのメンカラ赤の子くらいだろうが!!
そんな俺の気持ちを代弁するかのように、ピンク髪ウェーブの上まぶたが濃い美少女の絵がクソコラされている画像も出て来た。
アニメアイコンの陰キャ達は
「はぁはぁ、ルイズ可愛いよ、ルイズ」だの「ルイズなら、許しちゃうなぁ」だの言っている。
なんなんだよ、このルイズって女はよ。
つーか、このアニメアイコンの奴ら普通の女とすら恋愛出来ねえだろ。こんなめんどうくせぇ女となんて、ムリムリ。
とは言っても、ずっとこのままなのも嫌だな。
よし、決めた。大学終わったら、マッハで帰って謝ろう。
*
晄君に一方的に怒りをぶつけてから、数日が過ぎた。
一度口にしたことは、取り消せない。その日の内に謝れば良かったのに、僕はそれが出来なかった。
あの日は晄君とスーパーに買い物に行って、一緒に献立を考えたかった。
大学に、バイトに、レッスンに忙しいから、やっと一緒に過ごせると思ったのに……。
わざわざ外行きの服に着替えて、待っていたのに。
また勝手に僕が一人で期待して、裏切られた気分になって当たり散らかしてしまった。
僕の話を聞いた、九さんと松田さんは「期待し過ぎだよ。約束してた訳じゃないから、沼黒君が悪い」と言ったのだ。
松田さんはため息を吐きながら
「うちの同棲してる彼氏なんか、夜七時に宅配便届くから家に居といて。って言ってるのに、コンビニにアイス買いに行くの。化け物でしょ」と、言い放った。
他人様の恋人に「そうですね」なんて、頷けない。
一個不満を口にしたら芋蔓式に出て来て、晄君の直して欲しいところが出て来た。
ゴミの分別収集が出来ないところ、ボーイズラブもののアダルト ビデオで自慰しちゃうところ、アナルオナニーに使ったボールペンを普通に使用するところ、飲み切れる量とは言え牛乳をラッパ飲みするところ他。
流石に下な話はしなかったけど、松田さんは僕の肩に平べったい手を置いた。
「沼黒君。男って、そんなもんなのよ。教育しましょう」
「僕は、お母さんですか?」
九さんは、心底面倒臭そうに言葉を紡いだ。
「沼黒君。相手のことを、赤ちゃんだと思って接しなさい。君から謝って際どい服着てヤらせたったら、あの子機嫌治るやろ」
横で聞いていた松田さんは、まるで自称環境活動家がペンキで美術館の絵を塗りたくる様子を見るかのような視線で九さんを見た。
「うわ、サイテー」
際どい服って、セクシーランジェリーとかボンテージとか上半身が網タイツみたいに、なっているのとかってことだろうか?
晄君のそういうのは、正直に言うとめちゃくちゃ見たい。着せたい。
着せたい! じゃ、ダメだ。着せよう!
だけど僕の貧相な身体で、性欲が刺激されるものなんだろうか?
アダルトビデオの男優よりすごい景色を見せてあげたら、晄君はアダルト ビデオを見るのをやめるかもしれない。
よし。そうと決まれば、仕事終わりに買いに行こう。
善は急げ、だ。
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ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
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