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番外編 エルダーボンバー 中編
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※受けによる、攻めの乳首を吸う描写がございます。
二人とも、大分と様子がおかしいです。
大学が四限までだったので、寄り道などせずにマッハで帰宅した。
講義が終わったのは夕方四時時過ぎだけど、急いで帰宅しても夕方五字前にはなってしまった。
静弥は早番だから、定時が夕方五時。
よし! 風呂洗いとか、洗濯物の取り入れとか、夕飯の準備とか掃除機かけとか出来るところまでしよう。
いつもより、丁寧に。
風呂洗い、洗濯物の取り入れ、掃除機かけ、各種補充兼足りないものチェックなど終わらせたのに静弥は帰って来ない。
特に補充や足りないもののチェックは、とんでもなく大変だった。
牛乳や胡椒やトイレットペーパーや歯磨き粉がないなんて序の口で、部屋の芳香剤やキッチンペーパーやトイレのクリーナーシートやおしゃれ用洗剤やら諸々なかった。
静弥が家事に参加しないだけで、こんなことになんの……?
普段自分がどんだけしていないかと言うことと、静弥がめちゃくちゃしてくれているのだと思い知る。
いつも「働きに行くついでに、僕が買って来るよ」ってなんでもないように言ってたけど、めちゃくちゃ大変じゃん……。
俺だって一人暮らしをしていたから、大変さは分かっていたハズなのに甘えてしまっていた。
静弥から「帰りに、牛乳買って来て」とかメッセージが来たら買いに行ってたけど、指示されてからの買い出しだ。
こんなのやってる内に、入らない。
きっとこう言うところも含めて、爆発したんだろう。
サイテーじゃん、俺……。
時刻は、夜七時を回っていた。
もしかして、残業してんのか……?
いつもなら「残業してるから、先にご飯食べて寝てていいよ」と、メッセージが来るのに。
問題は、夕食だ。静弥の好物のカルボナーラを作ろうとしているんだけど、いつ帰って来るか分からないなら作りにくい。
帰って来てから作るのも出来るけど、明日は一限から授業あるんだよな……。
いやいや! 自分の睡眠を、優先してどうする。己の睡眠より、恋人への食事とフォローだ。
もしかしなくても、静弥はプチ家出を決行中……とかか?
行き先は、九さんの家か? いやカプセルホテルとかネカフェとか、可能性は無限にある。
俺の足りない知能では、コナン君みたいに推理出来ない。
本人に、連絡入れるか……。
『静弥。帰り遅いけど、大丈夫?怒ってごめんな。俺はもう怒ってないから、帰って来てよ。今、どこにいんの?』
コンマ数秒後に、俺のメッセージの左下に既読印が浮かび上がって来た。
反射速度チャンピオン選手権かよ。コワ、キモ……。
『今、渋谷に居ます』
渋谷ってなんで?
日用品の買い足しなら、ショッピングモールやスーパーで事足りる。
渋谷みたいな大都会にしか、店舗がない服屋でも行っているのか? と思ったけど、あいつはHUで売っているキャメルのハーフパンツを見て「晄君の服だ!」って、目を輝かせる男だ。
そのハーフパンツ、HUなら大概どの店舗でも売ってんだよ……。
そんなオシャレとは程遠い男が、渋谷の服屋で買い物するとは思えない。
まさか、ゲイ同士によるオフ会とかか!?
俺の脳内には、山崎夏の筋肉祭りと言うトリコロールっぽいロゴが浮かび上がる。
隼将君みたいな筋肉の男やオダギルジョウ気取りの髭の男達と飲んだり、王様ゲームしたり、ツイスターゲームしたりしてんのか!?
うわぁあ!! そんなオスの匂いをプンプンと充満させてる奴らの集団の中に、静弥が居るの耐えられねぇええ!!
肉髭肉肉髭肉髭、肉髭肉肉髭肉髭、
肉髭肉肉髭髭肉髭肉髭、髭肉髭肉髭肉肉髭
(ニヨニヨ動画の男女を整列させる歌で、お送りしております)
た、助けて……。静弥がガチムチと髭に魔改造されて、帰って来たら心肺停止するかもしれない。
*
家のインターホンが鳴ったのは、約一時間半後だった。
セックスしても大丈夫なように、後ろの準備も済ませた。
静弥の白い手には、ショッキングピンクのデカい紙袋が下げられている。
俺はドアを開けるなり、静弥に抱きつき
「ガサツでごめん……。家のこと、全然しなくてごめん! 気付かない男で、ごめん! AV見て、ごめん!!」
と、海賊漫画みたいに目と鼻と口から出るもの全部出す勢いで泣きじゃくるのだった。
「え、え……僕の方が、悪いんだけど。あの日はね、晄君と買い物も一緒に行きたかったの」
「……へ?」
あの日って、ケンカした日だよな? 意味分からないくらい、キレてた日だよな?
えーっと。つまり買い物から、一緒に過ごしたかったって……コト!?
なにそれ、可愛い~。
買い物へ行くつもりなら、静弥は部屋着から小綺麗な服装に着替えて待っていたんだろう。
ワクワクしながら待ってるのにいくら待っても俺が帰って来なくて、ウキウキとワクワクの気持ちをぐちゃりと踏み潰されたような感情になったんだろうな。
気付いてやれなくて、ごめん。って気持ちと、言われてないから、分かんねぇよ~! って、二律背反な二つの気持ちが生まれた。心が、二つある~。
「ごめんね、晄君……」
静弥は俺を抱きしめながら、俺の肩に顔を埋めている。
「いいよ。なぁ。今日からしばらく家のもんの補充とか買い出し、俺にさせて。習慣づけたいし、気付くようになりたいから。今までしなかった分、やらせてよ」
「え。僕の方が、効率良いよ?」
「だから、それじゃダメなんだよ。静弥に、負担ばかりかけるから」
静弥を抱きしめ返しながら、優しい声音で俺は言った。
静弥は「わ、分かった」と、小さく頷くのだった。
*
静弥と一緒にカルボナーラを作り、食べて、お皿洗いも一緒にした。
「食洗機を割り勘して、買う?」とか、風呂で一緒に話した。
後ろの用意もしたし、仲直りセックスの時間だぜ。
いいよぉ、来いよぉ。
風呂から上がって、俺は自室で待機している。
静弥は何故か準備して来るから、ちょっと待っててね。と、言っていた。
挿れられる側の俺じゃなくって、挿れる側の静弥が何を準備するんだろうか?
まさか、バイアグラ飲んでるとか……?
そんなことを考えていると、珍しく沢井からメッセージが来た。
いつもはエンスタのDMでやり取りをしているので、何事かと構えてしまう。
『篠塚君。他人の性癖に口を出したくないけど、元恋人として黙ってられない。ちょっと、どうかと思うよ』
え? まさかの、元彼参戦……!? 静弥が俺のことを、沢井に言っていたのか!?
やっぱりAVのこと、気にしてんのか!?
沢井にどう返事をしていいか分からず、スマホをじっと見つめていると今度は雲雀丘からメッセージが来た。
『沼黒に、キモいもん送って来んな。って、ちゃんと叱っといて』
え? マジで、何が起こっているんだ!?
俺の疑問と焦りをかき消すように、自室の扉がノックされたので「はーい」と短く返事する。
振り返ると、そこにはほぼ裸体の静弥が居た。
ほぼ裸体と表現したのは、静弥がまとっている布がパステルグリーンのエプロンだけだったからだ。
いつもは布に隠れている、スラリとした白い肢体が俺の視界に飛び込んで来た。
裸エプロンって……コト!?
手には例の紙袋を、下げている。
「服、着ろ!! どアホ!!」
「それは、無理だよ。僕、晄君のママだもん」
曇りなき眼で、じっと俺を見つめる静弥。
俺にずんずんっと近寄って来て、ベッドに押し倒すわ、指まで絡めて来やがった。
「うちの母親は、裸にエプロンまとったことねえよ! お前、なに見たの!?」
「九さんに晄君のことを、赤ちゃんって思って接しなさい。って言われたの」
「そう言うことじゃ、ねーだろ! あ、お前、まさか! その格好、沢井と雲雀丘に送った!?」
「え? 送ってないよ。だってエプロンは、伴侶の正装でしょう? 他人に、見せないよ」
うっとりした目で俺を、見下ろす静弥。
静弥の瞳に俺が映っているくらい距離が近いし、二人の息が混じり合っている。
「ママじゃねえのかよ! あと、俺は、赤ちゃんじゃないから!」
「晄君はさあ」
「は、はい」
急に任侠映画の極道みたいな声を出されて、俺は思わず畏まる。
「何回言っても分別収集ちゃんと出来ないし、靴下裏返しのまま脱ぐし、外でパペットツンツンの動画を音漏れさせながら聞くし、大学のプリントをくしゃくしゃにして帰って来るし、僕があげたクリアファイルも、ぐしゃぐしゃにしたし、飲みかけのペットボトル放置したり、新聞紙丸めてなんとかの呼吸! って壁に技放って穴開けたりしたよね? 何処が、大人なの? 赤ちゃんでしょう?」
「はいっ……僕は、赤ちゃんです! ごめんなさい!」
「はぁ? 赤ちゃんの癖に、なんで言葉を話してるの?」
「ば、ばぶ? あー! ちゃーん!」
ちゃーんは、違うだろ……と、言った後に気が付く。
静弥は紙袋を開き、何かを探っている。
ヤバい。嫌な予感しか、しねぇ……。
紙袋から出て来たのは、よだれかけと哺乳瓶とチュッチュとガラガラとオムツだった。
ま、まさか、まさかだよな……!?
「はーい。お着替えしましょうねぇ」
満面の笑みで、俺のぱじゃまを脱がしていく静弥。
去年の九月末にHUのセールで、千五百円くらいで買ったパジャマはキレイに畳まれてタンスの上に置かれた。
「ば、ばぶばぶ! ほぎゃー!! あーっ!!(それを着せるのだけは、勘弁して下さい! 許してください!! なんでもしますから!!)」
スーパーで玩具を買って貰えなくて、床に仰向けで寝転がり手足をバタバタさせて泣く子供のようにジタバタしてみせる。
マジで、赤ちゃんじゃねえか。
「ひーくん。そんなに期待しなくても、おっぱいは逃げないよ」
「ばーぶぶぶぶ! ばぶぶぶぶぶー!(ちーがうだろ! 違うだろー!)」
俺が小さい頃に、母親が呼んでた呼び方で語りかけんじゃねえよ!! ガチ感するだろ!!
俺の抗議はむなしく散り、よだれかけとオムツを装備させられた。
挙句、右手ガラガラを握らされてしまった。
親から貰った大事な体を、なんてことに使ってしまっているんだろうか……。
赤ちゃんプレイなんて、風俗店でしかしないようなプレイじゃねえか! 少なくとも、普通の二十代前半のカップルはしないだろ! まあ、ケツ穴確定してる俺が普通か? って聞かれたら、それはノーなんだろうけども!
俺の気持ちなどお構いなしに、静弥はエプロンを真ん中に寄せてパステルピンクの胸の突起を露出させた。
「やー! やー!(要らない! やめろ!)」
「そんなに泣いて……。ママのおっぱいでちゅよ~」
「やめろや!!」
静弥の薄い腹を足で蹴り、俺は言葉で「嫌」と意思表示した。
静弥の顔色が、いつものパターン青へと変化していく。
「え……? なんで? 晄君『静弥のおっぱい吸うと、落ち着くし嫌なこと全部忘れられる』って言ってたじゃない」
静弥を監禁した時のことを、言っているのだろう。言い訳する気はないが、あの時は正気を保っていなかった。
その時に言ったことを、さも俺の考えのように記憶しないで欲しい。
「あの時は、俺、普通じゃなかっただろ! ノーカンだよ!」
「え……? いつも、様子が可笑しいよ?」
「お前にだけは、言われたくない!!」
静弥は見るからに、落ち込み始めた。
そんな捨てられた犬みたいな、顔すんなって……。
「僕、晄君のお世話がしたいだけなのに……」
「赤ちゃんプレイ以外に、あるだろうがよ!」
「乳首、吸ってくれないの……?」
「何を、期待してんだよ! 吸う!」
「吸うんだ」
据え膳食わぬは男の恥。
乳首だけに、吸えってか。がはははは。やかましいわ。
俺は静弥の胸の頂きに、舌を這わせた。
舌を動かす度に静弥は口の端が上がったり眉が動いたりするのを見て、たまんねぇな……と、ぼんやり思う。
男のを吸って、何が楽しいんだ? とか思っていた。
今なら、分かる気がする。
「静弥ママのおっぱい、美味しいでちゅ」
「ひーくん……!」
「その呼び方は、勘弁して……」
恋人に自分がガキの頃に親に呼ばれてた呼び方で言われても、俺は嬉しくない。
「ご、ごめんね。オムツ、濡らしてない? 変えようか?」
「要らねえよ!」
「僕が、したいの……」
懇願するように、じっと俺を見る静弥。
眉目秀麗に容姿端麗。この二つの四字熟語が、頭に浮かんだ。
本当に、キレイな顔をしている。
滑らかな肌に、綺麗な山を描いた眉毛、人の意識を向けさせる瞳、鼻筋が通った程よい高さの鼻に、薄い唇。
一昔前の少女漫画から、抜き出て来たような容姿をしていると思う。
中身は、おじいちゃんだけど。
「赤ちゃんプレイは、嫌だつっただろ! 漏らしてねえし! 好きな男に、オムツ触られるとかマジで無理!」
「晄君、赤ちゃんなのに!」
「大人だよ! 大人だから、キスしたり、セックスしたり、フェラしてんだろ!」
自分で言いながら、性に関することしか言ってないと恥ずかしくなって来た。
性の悦びを、知りやがって……。
「そうだよね。晄君は、大人だもんね」
静弥は口の端だけ上げていて、瞳は全く笑っていない。
手には例の紙袋の取っ手を握っていて、嫌な予感がする。
根拠はないけど、男の第六感がそう言っているのだ。
二人とも、大分と様子がおかしいです。
大学が四限までだったので、寄り道などせずにマッハで帰宅した。
講義が終わったのは夕方四時時過ぎだけど、急いで帰宅しても夕方五字前にはなってしまった。
静弥は早番だから、定時が夕方五時。
よし! 風呂洗いとか、洗濯物の取り入れとか、夕飯の準備とか掃除機かけとか出来るところまでしよう。
いつもより、丁寧に。
風呂洗い、洗濯物の取り入れ、掃除機かけ、各種補充兼足りないものチェックなど終わらせたのに静弥は帰って来ない。
特に補充や足りないもののチェックは、とんでもなく大変だった。
牛乳や胡椒やトイレットペーパーや歯磨き粉がないなんて序の口で、部屋の芳香剤やキッチンペーパーやトイレのクリーナーシートやおしゃれ用洗剤やら諸々なかった。
静弥が家事に参加しないだけで、こんなことになんの……?
普段自分がどんだけしていないかと言うことと、静弥がめちゃくちゃしてくれているのだと思い知る。
いつも「働きに行くついでに、僕が買って来るよ」ってなんでもないように言ってたけど、めちゃくちゃ大変じゃん……。
俺だって一人暮らしをしていたから、大変さは分かっていたハズなのに甘えてしまっていた。
静弥から「帰りに、牛乳買って来て」とかメッセージが来たら買いに行ってたけど、指示されてからの買い出しだ。
こんなのやってる内に、入らない。
きっとこう言うところも含めて、爆発したんだろう。
サイテーじゃん、俺……。
時刻は、夜七時を回っていた。
もしかして、残業してんのか……?
いつもなら「残業してるから、先にご飯食べて寝てていいよ」と、メッセージが来るのに。
問題は、夕食だ。静弥の好物のカルボナーラを作ろうとしているんだけど、いつ帰って来るか分からないなら作りにくい。
帰って来てから作るのも出来るけど、明日は一限から授業あるんだよな……。
いやいや! 自分の睡眠を、優先してどうする。己の睡眠より、恋人への食事とフォローだ。
もしかしなくても、静弥はプチ家出を決行中……とかか?
行き先は、九さんの家か? いやカプセルホテルとかネカフェとか、可能性は無限にある。
俺の足りない知能では、コナン君みたいに推理出来ない。
本人に、連絡入れるか……。
『静弥。帰り遅いけど、大丈夫?怒ってごめんな。俺はもう怒ってないから、帰って来てよ。今、どこにいんの?』
コンマ数秒後に、俺のメッセージの左下に既読印が浮かび上がって来た。
反射速度チャンピオン選手権かよ。コワ、キモ……。
『今、渋谷に居ます』
渋谷ってなんで?
日用品の買い足しなら、ショッピングモールやスーパーで事足りる。
渋谷みたいな大都会にしか、店舗がない服屋でも行っているのか? と思ったけど、あいつはHUで売っているキャメルのハーフパンツを見て「晄君の服だ!」って、目を輝かせる男だ。
そのハーフパンツ、HUなら大概どの店舗でも売ってんだよ……。
そんなオシャレとは程遠い男が、渋谷の服屋で買い物するとは思えない。
まさか、ゲイ同士によるオフ会とかか!?
俺の脳内には、山崎夏の筋肉祭りと言うトリコロールっぽいロゴが浮かび上がる。
隼将君みたいな筋肉の男やオダギルジョウ気取りの髭の男達と飲んだり、王様ゲームしたり、ツイスターゲームしたりしてんのか!?
うわぁあ!! そんなオスの匂いをプンプンと充満させてる奴らの集団の中に、静弥が居るの耐えられねぇええ!!
肉髭肉肉髭肉髭、肉髭肉肉髭肉髭、
肉髭肉肉髭髭肉髭肉髭、髭肉髭肉髭肉肉髭
(ニヨニヨ動画の男女を整列させる歌で、お送りしております)
た、助けて……。静弥がガチムチと髭に魔改造されて、帰って来たら心肺停止するかもしれない。
*
家のインターホンが鳴ったのは、約一時間半後だった。
セックスしても大丈夫なように、後ろの準備も済ませた。
静弥の白い手には、ショッキングピンクのデカい紙袋が下げられている。
俺はドアを開けるなり、静弥に抱きつき
「ガサツでごめん……。家のこと、全然しなくてごめん! 気付かない男で、ごめん! AV見て、ごめん!!」
と、海賊漫画みたいに目と鼻と口から出るもの全部出す勢いで泣きじゃくるのだった。
「え、え……僕の方が、悪いんだけど。あの日はね、晄君と買い物も一緒に行きたかったの」
「……へ?」
あの日って、ケンカした日だよな? 意味分からないくらい、キレてた日だよな?
えーっと。つまり買い物から、一緒に過ごしたかったって……コト!?
なにそれ、可愛い~。
買い物へ行くつもりなら、静弥は部屋着から小綺麗な服装に着替えて待っていたんだろう。
ワクワクしながら待ってるのにいくら待っても俺が帰って来なくて、ウキウキとワクワクの気持ちをぐちゃりと踏み潰されたような感情になったんだろうな。
気付いてやれなくて、ごめん。って気持ちと、言われてないから、分かんねぇよ~! って、二律背反な二つの気持ちが生まれた。心が、二つある~。
「ごめんね、晄君……」
静弥は俺を抱きしめながら、俺の肩に顔を埋めている。
「いいよ。なぁ。今日からしばらく家のもんの補充とか買い出し、俺にさせて。習慣づけたいし、気付くようになりたいから。今までしなかった分、やらせてよ」
「え。僕の方が、効率良いよ?」
「だから、それじゃダメなんだよ。静弥に、負担ばかりかけるから」
静弥を抱きしめ返しながら、優しい声音で俺は言った。
静弥は「わ、分かった」と、小さく頷くのだった。
*
静弥と一緒にカルボナーラを作り、食べて、お皿洗いも一緒にした。
「食洗機を割り勘して、買う?」とか、風呂で一緒に話した。
後ろの用意もしたし、仲直りセックスの時間だぜ。
いいよぉ、来いよぉ。
風呂から上がって、俺は自室で待機している。
静弥は何故か準備して来るから、ちょっと待っててね。と、言っていた。
挿れられる側の俺じゃなくって、挿れる側の静弥が何を準備するんだろうか?
まさか、バイアグラ飲んでるとか……?
そんなことを考えていると、珍しく沢井からメッセージが来た。
いつもはエンスタのDMでやり取りをしているので、何事かと構えてしまう。
『篠塚君。他人の性癖に口を出したくないけど、元恋人として黙ってられない。ちょっと、どうかと思うよ』
え? まさかの、元彼参戦……!? 静弥が俺のことを、沢井に言っていたのか!?
やっぱりAVのこと、気にしてんのか!?
沢井にどう返事をしていいか分からず、スマホをじっと見つめていると今度は雲雀丘からメッセージが来た。
『沼黒に、キモいもん送って来んな。って、ちゃんと叱っといて』
え? マジで、何が起こっているんだ!?
俺の疑問と焦りをかき消すように、自室の扉がノックされたので「はーい」と短く返事する。
振り返ると、そこにはほぼ裸体の静弥が居た。
ほぼ裸体と表現したのは、静弥がまとっている布がパステルグリーンのエプロンだけだったからだ。
いつもは布に隠れている、スラリとした白い肢体が俺の視界に飛び込んで来た。
裸エプロンって……コト!?
手には例の紙袋を、下げている。
「服、着ろ!! どアホ!!」
「それは、無理だよ。僕、晄君のママだもん」
曇りなき眼で、じっと俺を見つめる静弥。
俺にずんずんっと近寄って来て、ベッドに押し倒すわ、指まで絡めて来やがった。
「うちの母親は、裸にエプロンまとったことねえよ! お前、なに見たの!?」
「九さんに晄君のことを、赤ちゃんって思って接しなさい。って言われたの」
「そう言うことじゃ、ねーだろ! あ、お前、まさか! その格好、沢井と雲雀丘に送った!?」
「え? 送ってないよ。だってエプロンは、伴侶の正装でしょう? 他人に、見せないよ」
うっとりした目で俺を、見下ろす静弥。
静弥の瞳に俺が映っているくらい距離が近いし、二人の息が混じり合っている。
「ママじゃねえのかよ! あと、俺は、赤ちゃんじゃないから!」
「晄君はさあ」
「は、はい」
急に任侠映画の極道みたいな声を出されて、俺は思わず畏まる。
「何回言っても分別収集ちゃんと出来ないし、靴下裏返しのまま脱ぐし、外でパペットツンツンの動画を音漏れさせながら聞くし、大学のプリントをくしゃくしゃにして帰って来るし、僕があげたクリアファイルも、ぐしゃぐしゃにしたし、飲みかけのペットボトル放置したり、新聞紙丸めてなんとかの呼吸! って壁に技放って穴開けたりしたよね? 何処が、大人なの? 赤ちゃんでしょう?」
「はいっ……僕は、赤ちゃんです! ごめんなさい!」
「はぁ? 赤ちゃんの癖に、なんで言葉を話してるの?」
「ば、ばぶ? あー! ちゃーん!」
ちゃーんは、違うだろ……と、言った後に気が付く。
静弥は紙袋を開き、何かを探っている。
ヤバい。嫌な予感しか、しねぇ……。
紙袋から出て来たのは、よだれかけと哺乳瓶とチュッチュとガラガラとオムツだった。
ま、まさか、まさかだよな……!?
「はーい。お着替えしましょうねぇ」
満面の笑みで、俺のぱじゃまを脱がしていく静弥。
去年の九月末にHUのセールで、千五百円くらいで買ったパジャマはキレイに畳まれてタンスの上に置かれた。
「ば、ばぶばぶ! ほぎゃー!! あーっ!!(それを着せるのだけは、勘弁して下さい! 許してください!! なんでもしますから!!)」
スーパーで玩具を買って貰えなくて、床に仰向けで寝転がり手足をバタバタさせて泣く子供のようにジタバタしてみせる。
マジで、赤ちゃんじゃねえか。
「ひーくん。そんなに期待しなくても、おっぱいは逃げないよ」
「ばーぶぶぶぶ! ばぶぶぶぶぶー!(ちーがうだろ! 違うだろー!)」
俺が小さい頃に、母親が呼んでた呼び方で語りかけんじゃねえよ!! ガチ感するだろ!!
俺の抗議はむなしく散り、よだれかけとオムツを装備させられた。
挙句、右手ガラガラを握らされてしまった。
親から貰った大事な体を、なんてことに使ってしまっているんだろうか……。
赤ちゃんプレイなんて、風俗店でしかしないようなプレイじゃねえか! 少なくとも、普通の二十代前半のカップルはしないだろ! まあ、ケツ穴確定してる俺が普通か? って聞かれたら、それはノーなんだろうけども!
俺の気持ちなどお構いなしに、静弥はエプロンを真ん中に寄せてパステルピンクの胸の突起を露出させた。
「やー! やー!(要らない! やめろ!)」
「そんなに泣いて……。ママのおっぱいでちゅよ~」
「やめろや!!」
静弥の薄い腹を足で蹴り、俺は言葉で「嫌」と意思表示した。
静弥の顔色が、いつものパターン青へと変化していく。
「え……? なんで? 晄君『静弥のおっぱい吸うと、落ち着くし嫌なこと全部忘れられる』って言ってたじゃない」
静弥を監禁した時のことを、言っているのだろう。言い訳する気はないが、あの時は正気を保っていなかった。
その時に言ったことを、さも俺の考えのように記憶しないで欲しい。
「あの時は、俺、普通じゃなかっただろ! ノーカンだよ!」
「え……? いつも、様子が可笑しいよ?」
「お前にだけは、言われたくない!!」
静弥は見るからに、落ち込み始めた。
そんな捨てられた犬みたいな、顔すんなって……。
「僕、晄君のお世話がしたいだけなのに……」
「赤ちゃんプレイ以外に、あるだろうがよ!」
「乳首、吸ってくれないの……?」
「何を、期待してんだよ! 吸う!」
「吸うんだ」
据え膳食わぬは男の恥。
乳首だけに、吸えってか。がはははは。やかましいわ。
俺は静弥の胸の頂きに、舌を這わせた。
舌を動かす度に静弥は口の端が上がったり眉が動いたりするのを見て、たまんねぇな……と、ぼんやり思う。
男のを吸って、何が楽しいんだ? とか思っていた。
今なら、分かる気がする。
「静弥ママのおっぱい、美味しいでちゅ」
「ひーくん……!」
「その呼び方は、勘弁して……」
恋人に自分がガキの頃に親に呼ばれてた呼び方で言われても、俺は嬉しくない。
「ご、ごめんね。オムツ、濡らしてない? 変えようか?」
「要らねえよ!」
「僕が、したいの……」
懇願するように、じっと俺を見る静弥。
眉目秀麗に容姿端麗。この二つの四字熟語が、頭に浮かんだ。
本当に、キレイな顔をしている。
滑らかな肌に、綺麗な山を描いた眉毛、人の意識を向けさせる瞳、鼻筋が通った程よい高さの鼻に、薄い唇。
一昔前の少女漫画から、抜き出て来たような容姿をしていると思う。
中身は、おじいちゃんだけど。
「赤ちゃんプレイは、嫌だつっただろ! 漏らしてねえし! 好きな男に、オムツ触られるとかマジで無理!」
「晄君、赤ちゃんなのに!」
「大人だよ! 大人だから、キスしたり、セックスしたり、フェラしてんだろ!」
自分で言いながら、性に関することしか言ってないと恥ずかしくなって来た。
性の悦びを、知りやがって……。
「そうだよね。晄君は、大人だもんね」
静弥は口の端だけ上げていて、瞳は全く笑っていない。
手には例の紙袋の取っ手を握っていて、嫌な予感がする。
根拠はないけど、男の第六感がそう言っているのだ。
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帰還手段もなくどうやって生きていこうか悩んでいた千颯の前に現れたのは、もふもふ癒し系のホワイトタイガーだった(のち超絶イケメンに変化)。
「名をくれたお前をこれから先ずっと守ると誓おう」
溺愛MAXのもふもふイケメン精霊獣に「駆け落ちするぞ」ともちかけられ、元の世界へ戻る為に旅をする事になった平凡社会人(無自覚チート精霊術師)の契約異世界BLファンタジー。
行方不明になっていた祖父がこの世界で聖女に拉致されたのを知り、探し出して一緒にニホンへと帰るつもりだったが!?
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。
※ざまあ展開にもなりそうな予感。
※想定文字数10万〜13万文字くらい。
病み墜ちした騎士を救う方法
無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。
死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。
死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。
どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……?
※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です
モブなんかじゃ終わらない!?
MITARASI_
BL
気がつけばそこは、人気BLゲームの世界。
けれど与えられた役割は、攻略対象でも悪役でもない――ただのモブ。
本来なら物語の外でひっそりと生きていくはずだった。
だが、そんな彼の存在が、少しずつ“運命のルート”を揺さぶっていく。
選ばれないはずのモブが紡ぐ、新たな恋の物語。
ゲームの定めを超えて、彼が辿り着く未来とは――。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
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