光彩濁りて愛となる

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番外編 ヘマタイトワイライト 前編

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※晄の誕生日記念。

 テレビのワイドショーでは、お天気キャスターが「まだまだ暑さが、続きます」なんて言っていたけれど、三十度を切った気温は涼しくて過ごしやすい。
 秋の空は、ハケで描いたような筋雲が見れるから好きだ。
 大学生になるまで、俺は海に行ったことがなかった。子供の頃は秋の空を見ながら、秋の空を海の水面に見たてて海で楽しく泳いでいる自分をよく想像していた。
 明日十月十三日は、俺の誕生日だ。
 今年は祝日なので、大学は休み。
 静弥も俺の誕生日に合わせて、休みを取ってくれた。
 明日は二人で、東京スカイツリーとアフタヌーンティーにお出かけする。
 静弥は夜景を見たがっていたけど、クリスマスに延期した。
 それは、何故かって? お誕生日配信を、やる為だ。
 毎年やっているし、急に今年は配信無しです! とか言ったら、勘繰るリスナーは絶対に沢山居る。
 鈍い俺だって、推しの配信者がいきなりお誕生日配信を辞めたら疑うだろう。
 夜景を見てからの弾丸帰宅で、生配信がしんどいってのもあるけど……。
 それに夜は、別のお楽しみもあるじゃないですかー。って、言い方がおっさんくせぇな。
 さて。お出かけ先の話をしようと、思う。
 東京スカイツリーは一回登っておきたいと思ってはいたものの、一人暮らしをしていた頃は
「これに登るだけで、二千円!? セット券なら、三千円!? 高ッ!!」と貧乏人精神が働き登っていなかったのだ。
 アフタヌーンティーは、まず男同士で行かない場所なので選択肢としてなかったのだ。
 いやだってその金額出すなら、あとニ~三千円払ってネズミーランドへ行くし。
 何故明日行くのかと言うと、静弥が紅茶好きだからと言うことが一点目。
 二点目は静弥がぬい活にハマっていて、映えスポットで撮影したそうだったから。
 ぬいぐるみは静弥の手作りで、コウ君と晄の二体持ちだ。
 俺の予想以上にぬいぐるみの出来は良くて、目なんかきゅるきゅるで可愛い。
 お金取れるレベルで、お世辞抜きにマジで上手い。
 三点目は、金額。東京スカイツリーからの帰り道になる場所で、リーズナブルな店があったのだ。
 アフタヌーンティーと言えば! な三段のお皿の上にケーキやサンドイッチやスコーンが数個ずつ乗って、お値段約二千五百円。
 喫茶店のケーキセットにプラス千円で、アフタヌーンティーを食べれるなら静弥と食べたいと思ったのだ。
 静弥は「ホテルのバイキングとかじゃなくって、良いの?」って聞いてくれたが、馬鹿舌の人間には勿体ない。
 何より静弥が世間一般の成人男性より少食なので、バイキングは勿体なさ過ぎる。
 居酒屋の食べ飲み放題プランや、ショッピングモールに入っているバイキングですら余程の大食いでない限り代金分食えないのに……。
 静弥には言えないけれど、俺の誕生日の思い出は悲しいものばかりだった。
 四歳の誕生日は、覆面ライダーの変身アイテムとケーキ屋さんのケーキでお祝いしてもらって嬉しかったのを覚えている。
 五歳の誕生日は、シュトレーゼのケーキに覆面ライダーのアクションフィギュアだった。これも、嬉しかった。
 六歳の誕生日から、暗雲が立ちこみ始めたのだ。
 俺が年長の頃。親父が当時勤めていた建設会社を一ヶ月近く無断欠勤して、クビになった。
 親父の肥大化したプライドは己の過ちを認められなかったようで「俺が居なかったら現場回らないのに、現場主任は分かってない」だの「周りの奴らの、頭が悪すぎる。俺のやり方の方が、良いのに」などと、愚痴を溢していた。
 俺の予想だが、あの性格だ。周りの人間と、争いを起こして辞めさせられたのだろう。
 幼かった俺は誕生日プレゼントのスーパーのケーキと覆面ライダーのステーショナリーセットを見つめながら、お父さん大変だもんね。仕方ないね。来年は、きっと素敵な誕生日プレゼントをくれるよ。
 なんて、思っていた。
 だけれど七歳の誕生日からは、スーパーの小さなケーキしか貰えなくなった。
 まさか「仕方ない」が十年以上続くなんて、思いもしなかった。
 俺の諦め癖は、めでたいハズの誕生日プレゼントが始まりだった。
 一番悲しいのは、誕生日プレゼントやケーキがしょぼくなっていったグラデーションでもなく、同級生達の誕生日を祝って貰った話を聞くことでもない。
 内心は「悲しかった」と思ってる癖に、コウ君としてリスナーに話す時は
「貧乏大家族の誕生日の思い出」として、話していることだ。
 秋の澄み渡った空と肌寒い風が、余計に俺をみじめにさせる。







 日曜の夜七時半から放送されている海の生き物の名前がついた一家アニメを、夕飯を食べながらぼんやりと静弥と見て、二人で皿を洗い、風呂に入り、スキンケアや筋トレやダンスの基礎練を
して、歯だって磨いた。
 時刻は夜十時前。
 あと一回時計の針が、十二のところで重なれば誕生日を迎える。
 後は、寝るだけだ!
 誕生日を迎えました~! って言う青い鳥ランドの独り言は、ノートパソコンから予約投稿しておいたしな。
 自室の扉を開けたら、居る。
 静弥が、居る。
 暇な時のインドカレー屋のインド人の店員みたいに、俺を見つめて来た。
 虚無顔って、こういうことかぁ。
 もしかして、もしかしなくても。
「する……?」
 我ながらどうしてもっとロマンティックに、出来ないのだろうか?
 そう考えたら、恋愛映画や少女漫画ってすげえよな。
 乙女の夢を物語にして、読者の心に響かせているんだもん。
「し、しない」 
 え。しないんかーい。性欲大魔神の癖に!? 俺にあんなこと、こんなこと、そんなことをしてるのに!?
 やっぱり、アレか!? ムードなさすぎて、嫌なのか!?
「な、なんで」
「明日、お出かけするんだよ? 身体を、休めた方がいいし」
「あ、ハイ」
「晄君に一番に『お誕生日おめでとう』って、言いたい。セックスしてたら、他の人に越されちゃう」
 ぽ、ポチャーン!! なんて、可愛いことを言ってくれるんだろうか。
 子宮恋愛ならぬ、金玉恋愛してしまう。
 効果音は、海賊漫画みたいにドン! か、ドーン! にしよう。
 静弥は俺のベッドに上がり込み、平たい手のひらでシーツを柔らかく叩いて手招きしてきた。
「お、お邪魔します……」
 自分のベッドなのに、何故かそう口から漏れた。
 静弥はツボに入ったのか、小さく笑う。
 静弥は俺を頭を己の胸にすっぽりと収まるように、抱きしめた。
 こういうことは何回もあったけど、今日は一段とドキドキする。誕生日マジック、すごい。
 



 


 目を覚まして青い鳥ランドを開くと、たくさんのお誕生日おめでとうリプが届いていた。
 気温的には夏と呼ぶべきかもしれないが、朝方から太陽は活発に活動していない。
 大分と過ごしやすくなった。と、感じるのは感覚マヒだろうか。
 朝の八時前。ファンからのリプや、通話アプリのメッセージを一つ一つを見る度に、じ~んと胸が温かくなった。
 俺の横で寝転がっている静弥さんは、この世の終わりのような顔をしている。
 そう。俺達二人してあの後寝落ちして、静弥の計画は崩れたのだ。
「そんな気にすんなよ。朝一番に『おめでとう』って言われて、嬉しかったから」
 そう言って歯を見せて微笑んでみせたけど、静弥の顔は明るくならなかった。
 ポチャらないんかい。
 あっ……! 誕生日に一緒に居るのに、俺がスマホを見てるからか!?
 そりゃそうだよな。恋人の僕より、画面の向こうの他人を優先するの? って、思うよな。
「静弥。スマホ見てて、ごめんな」
「違うよ。僕が約束守らなかったこと、もっと気にして欲しいの。僕に期待してないのかな? って、不安になっちゃう……」
 ドーーーンッ!! インターネットで駄作と評される、邦画の爆発音みたいな効果音が聞こえて来た。
 全米が泣いた「金玉恋愛」、今秋公開ーー。衝撃のラスト四分に、あなたは必ず涙する。
「そんな怒るようなことじゃないから、言わなかっただけだよ。俺だって寝落ちしたのに、責められないじゃん。怒らないイコール、静弥に期待してないじゃないよ」
 静弥の寝癖がついた頭を撫でながらそう言って静弥に微笑むと、やっと固い表情が柔らかくなった。
 ほつれた糸の結び目が、解けたような気がする。
「晄君は、優しいね……」
「そう言ってくれる静弥が、優しいんだよ」
 まるで消えないしゃぼんが、ふわふわと浮遊してるような錯覚を覚える。
 しゃぼん玉は、静弥の周りを妖精のように舞っている。
 あ。そっか、今だ。
 静弥と視線が重なり合った数秒後に、お互いの体温を混ぜ合わせるように唇を重ねた。
 



 


 誕生日と言うことで、静弥はパンケーキを作ってくれた。
 パンケーキに蜂蜜をふんだんにかけて生クリームを添えた上で、缶詰のさくらんぼやパイナップルや桃や蜜柑まで乗せてくれる豪勢っぷり。
 本物の金持ちには有名製菓メーカーのパンケーキミックスで作られたパンケーキ如きで……と、鼻で笑われるかもしれない。
 だけど俺からしたら、可愛い恋人が俺の為に作ってくれた世界で一つだけのパンケーキだ。
 それをご馳走と言わずして、なんと言うのだろうか。
 一人暮らし時代に同じパンケーキミックスを買ってパンケーキを焼いたら、生焼けか焦げたかの二択だった。
 誰がどう見ても失敗作でしかないものでも食うしかなかったので、食べていた。
 そう言う意味でも、このフルーツに生クリーム山盛りのパンケーキはご馳走だ。
 いただきます。と言ってから、パンケーキに口付けようとナイフとフォークに手を伸ばす。
 が。それは叶わず、静弥に握られてしまった。
「え?」
「はい。あーん」
「あ、あーん?」
 言われた通り、歯医者でやるかのように「あ」と口を開ける。
 静弥は聖母のような笑顔で、俺の口にパンケーキをあーんした。
 口の中で広がる、優しい味。
 蜂蜜の甘く粘っちい液体が、俺の舌の上で唾液に混じって溶けていくのが分かる。
「うま……ありがとう」
「どう致しまして」
 そう言いながら、静弥はパンケーキをまた俺の口に投入する。
 俺も仕返しにパンケーキにフォークを突き刺して、静弥の口にパンケーキを入れた。
 すっごく、幸せ。今までの悲しい誕生日を、帳消しにして黒字になるくらいに幸せ。
 静弥の整った白いマネキンのような顔が、近づいてくる。
 磁石のように、ぴったりと重なった唇。
 小学校の理科の授業で、磁石なんだからくっつくのなんて当たり前じゃん。そんなことを思いながら、S極とN極の話を聞いていた。
 思い返せば、俺達は最初はたくさん反発し合っていた。
 それこそ磁石の同じ極をぶつけ合うように、お互い反発し合っていたな。
 今でもすれ違うことあるけど、その時は言葉にして少しずつ確かめ合って来ている。
 今こうしている間の過ぎていく時を拒むほど、深く激しいキスだった。
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