20 / 62
番外編 ヘマタイトワイライト 後編
しおりを挟む
「ンぎっ……!」
今現在の俺は壁に両手足をXの文字になるように、はりつけにされている。
入り口からは見えなかったがはりつけには位置調節が可能な手錠や足枷がついていて、がっちりと両手首と足首を固定されてしまった。
それだけじゃ静弥は飽き足らず例の血圧計首輪や、乳首にローターまでつけられてしまった。
例の血圧計首輪は、クソ親父の手によって更に改造された。
血圧計首輪改はアナルプラグを繋がれただけだったが、血圧計首輪改二はリードをつけられた挙句アナルプラグが伸縮するようになったのだ。
それも、手動のポンプで。
いやもう、我ながら絵面がすごい。大人のおもちゃ博覧会なの?
首輪、ローター、アナルプラグの振動が全部ちょっとずつズレていて、すごく気持ちイイ。
しかもアナルプラグに関しては手動なので、俺の反応を見て静弥が適格に俺の快感を探り当てていく。
「せ、静弥、俺、もう……」
はりつけにされてから、十五分は経っている。
こんなおもちゃの振動を感じ続けて、辛くない訳がない。
脚はガクガクと震えているし、同じ姿勢を取り過ぎたせいで身体はしびれている。
ここから解放してくれ。懇願の意を唱える為に、静弥を見つめた。
静弥はろうのように白い頬を、紅潮させながら俺を見つめている。
「まだ、射精しちゃ駄目だよ」
そっちじゃねーよ! そう、声に出す元気すらない。
俺の胸の頂きに、自分で貼ったテープを剥がしてローターを外しながら言う静弥。
「我慢出来たら、褒めてあげるからね」
褒める……? この俺を? いい子いい子してくれる? そうしたら、悲しかったこと辛かったことが帳消しに出来る。
やっと、体が少し軽くなった気がする。
そのまま、首輪とアナルプラグも外してくれ。
なんて願いは叶わず、静弥は左手にポンプを持ち替えた。
あ。イヤな予感がする。
俺のイヤな予感は的中して、静弥の右手は俺の胸の突起を上下に擦ったりつまんだりし始めた。
それだけじゃ飽き足らず、もう片方の胸の突起は静弥の舌全体に這われている。
這われたと俺が認識した頃には吸われたり、搾り取るように吸い上げられたり……。
静弥の左手のポンプも動きを止めず、俺のナカに挿れられたモノが変幻自在に暴れている。
首もギチギチに締め上げられ、身体中の力が抜けていく。
「や、ヤら、こわい」
こんな場所に、居るからだろうか? まるで、処刑人のような気分になって来るのだ。
自分の罪を償うために、はりつけにされている。
そんな馬鹿げた、妄想を繰り広げちゃっている。
いつもは、縛られて気持ちいい。くらいしか、思わないのに。
静弥は俺の様子に気付いたのか、はりつけの手錠と足枷の鍵を開錠してくれた。
手招きされるままに、真っ赤な診察台に四つん這いに跨る。
「ふぁあ……あっ」
静弥の手によって、抜けかけのアナルプラグが奥へ奥へと押し戻される。
俺の気持ちいいところにプラグの先端が当たり、思わず腰が浮いてしまった。
「あっ……」
今まで浅いところを焦らすように刺激されていた反動か、俺の男性器は絶頂を迎えたのを静弥の目が見逃す訳がなかった。
まるで散歩で先へ先へと行こうとする犬を止めるかのように、リードを引く静弥。
俺の身体はのけ反り、姿勢を正す。
「ご、ごめんなしゃ……」
「射精しちゃ駄目って、言ったのに……。晄君は、悪い子だなあ。お仕置きだね」
静弥はそう言って、自身のベルトを外して俺の首輪に結びつけてアナルプラグが浮かないようにガッチリと背骨に合わせて固定した。
恋人との約束すら守れない、悪い子なんだ。俺は。
自責の念と裏腹に締め上げが強化されて、興奮する気持ちもある。
静弥に、全てを委ねてしまいたい。俺の身体も、心も、罪も全部全部。
ベルト外したって、ことはそう言うことだよな? イラマされるんだよな!?
「晄君。今から十回お尻を叩くから、一緒に数えようね」
え……? け、ケツを叩く? なんで?
俺が疑問を口にするより前に、静弥の平たい手が俺の尻で威勢が良い音を立てた。
今の俺は炭酸が抜けたサイダーみたいにただただぼんやりしていたのに、一気に意識が叩かれた場所に持っていかれる。
「いっ……」
「いーち」
あ。俺のうめき声を、一としてカウントするのか。
それから叩かれる回数を重ねるに連れて、更に言葉ではなくなっていった。
最後の十なんて舌に力が入らず「ひゅ」って、感じだったし。
「頑張ったね、いい子いい子」
静弥は、優しく俺の頭を撫でた。まるで壊れ物を触るように、大事そうに。
ああ、そっか……。俺ずっと誰かに、こう言われたかったんだ。
お兄ちゃん、いい子で助かるわ。晄、ありがとう! 晄が居てくれて、良かったわ~。
だけどそう思って欲しいって感情は、恩の押し売りみたいだ。
こう言う感情を持つこと自体、人間の美学に反するような気もしてしまう。
それで誰かに感謝とか褒めの言葉を貰っても、あんなに欲しがっていた癖に気持ちが冷めたり素直に受け止められなかったりするのだ。
きっと友達や家族に言っても、理解されないだろう。
だって、自分でも意味が分からねえもん。
意味分からねえけど、自分が面倒くせえ人間だってのは分かる。
なのに、いや、だからこそ。
篠塚 晄も、コウ君も単純で分かりやすい人間を演じているんだ。
「ご褒美、あげなきゃね」
俺は悪い子なのに……?
俺の拘束が解かれていき、羽が生えたみたいに身体が軽い。
なのに気持ちは、沈んだままだった。
天井の照明はゆらゆらと揺れて、どんな色かすらもわからないくらいだ。
「晄君、大丈夫……?」
俺の反応が悪いことに、薄々勘付いていたのだろう。
静弥は心配そうに、俺を見つめて来た。
まるで友達から「今日、生理で~」って聞いた時の女の子みたいな大袈裟なリアクションだった。
取り繕わなきゃ。大丈夫って、笑わなきゃ。
折角の誕生日だし、心配かけたくないし……。
頭では、分かってる。
「ごめん……しんどい。静弥が嫌なんじゃなくって、俺の問題で。誕生日、いい思い出あんまりなくって」
ああ。言葉にしてしまった。
これで、静弥にとって可哀想な篠塚 晄になってしまう。
もしかしたら、呆れられるかもしれない。
だって静弥の方が、大変な経験をして来ているから。
誕生日プレゼントや父親の小言くらいで、甘えてんじゃねえよ。って、思われるかもしれない。
*
上京して来て、初めての誕生日。
夏野からはスポーツブランドのスポーツタオルと名入れされた有名な五色ボールペンを貰い、廣笠からは小型加湿器を貰った。
歩夢からは着る毛布とパスケースを貰って、智顕からは海外産の香水を貰った。
二人がくれたプレゼントは俺からしたら、よくその金額のを恋人でもない奴にあげられるな……!? ってものばかりで、泡を吹いて倒れそうになった。
特に智顕がくれた香水は三万近くして、歯茎を剥き出しにしてしまったのだ。
外箱の作りからしっかりしていて、高そうだと素人目にも思ったけども! まさか三万もする消耗品を、寄越されるって思わないだろ!
値段がするだけあって、少なくともドラストや大手量販店に置いてあるプチプラのボディミストのラインナップ入らないオーシャン系と柑橘系が混じったいい匂いがした。
高校時代の友人の相澤と犬山は、誕生日にファミレスに連れて行ってくれて奢ってくれるのが誕生日プレゼントだった。
中学時代は、そこまで深い関係の奴は居なかったし。
智顕には「お返し、何が良い?」って聞いたら、「何も要らない」とか言われてしまって困ったのも覚えている。
何も返さない訳にもいかないから、有名ブランドのキーケースを返したけど……。
誕生日プレゼントを貰って、ハッピー!! って気持ちより、世の中の人は普通にプレゼントを贈り合うのか。俺って、何も経験してないんじゃ? やっぱり、家がおかしいのか? なんて、思ってしまった。
夏野が悪気なく世間話として
「誕生日プレゼント、今日届くの? 楽しみだな」って言われた時は、親戚の売れていないお笑い芸人のショーを見ている時のような顔で「あ、ウン」とだけ返事をして会話を終わらせてしまった。
そんなことを、静弥に話した。
静弥は俺を強く強く抱きしめて「辛かったね、話してくれてありがとう」って優しい声で言ってくれた。
どしたん? 話、聞こか? じゃねえか。場所が、場所だし。
「ごめん……愚痴って」
「ううん。辛いって気持ちを教えてくれない方が、不安になるから。話せそうなことだけでも、話してよ」
そう言いながら、また抱きしめる力を強める静弥。
辛いことがあったら、絶対に言って! と、強制してこないところに優しさを感じる。
「……うん。ありがとう。プレゼントがショボくなった話とか、してたっけ?」
「してないよ?」
「その割には、驚いてねえじゃん。なんで?」
困ったように、俺から視線を逸らす静弥。何か、後ろめたいことでもある様子だ。
「え、な、なに」
「幼稚園の頃の僕って、晄君のことが好きすぎるあまりなんでも知りたい。って思ってたんだよね」
言われてみれば、血液型とか誕生日とか好きな色とか好きな歌とかを聞かれたような気がする。
幼稚園の頃の俺は、質問されたから答えているだけだった。
だってこんな化け物めいた恋慕の気持ちを、向けられてるって思わないじゃん……。
「え、うん」
「それで晄君の家が出したゴミ袋を、漁る癖があって」
「は!? キモ!! それで潔癖の気あるの、意味分かんねぇ!」
いくらガサツな人間からしても、ゴミ袋を漁るのは無理!!
「ご、ごめんね……。治そうとは、してるんだけど」
治そうと、している。つまり、治っていない……?
「待って。お前、もしかして、分別にやたらうるさいのってさあ……」
まさか、下着を回収したりしてんのか……? 有り得る! コイツなら、有り得る!
「靴下とか、下着とか、綿棒とか、歯ブラシのお宝を食品とかで汚したくなくて」
「もうやだーーッ!! 俺を好きにしていいから、やめて下さる!?」
「セックスの性欲と、その性欲は違うって言うか」
「家をゴミ屋敷にする気か! やめろ! 今すぐに! やめなきゃ、別れる!」
「え……」
空気が抜けていく風船みたいに、静弥がしょぼしょぼと縮んでいくように見えた。
「あ、や、綿棒とか歯ブラシはやめて。パンツは分かるから、三つくらいまでなら良いよ」
このド変態に、なんで譲歩をしてるんだ。俺は……。
それからは俺が落ち着くまで、静弥はずっと抱きしめててくれた。
終バスには間に合うように、ラブホを後にしたのだった。
*
帰宅して部屋の扉を開けると、内側のドアノブにプレゼント用の白い紙袋がかけられていることに気がついた。
俺でも知っている、有名アクセサリーブランドのやつだ。
おお……。色々ありすぎて、忘れてたわ。
首輪とか、はりつけとか、スカイツリーとか、スパンキングとか、ローターとか、アフタヌーンティーとか、ゴミ袋漁りとか、俺の下着とか歯ブラシをコレクションされてたりとか……。
我ながら性欲に、脳みそが支配され過ぎだろ!
プレゼントボックスの、赤いリボンを丁寧に解いていく。
箱を開けると出て来たのは、金属製のゴールドのツイストバングルだった。
派手な装飾とかはなく、シンプルな造形のバングル。
だからこそデザイナーのセンスが問われる代物なのだが、キレイな曲線を描いていてセンスが良いと思う。
このデザインならどんな服にでも合わせられるし、なんなら大学やバイト先に着けて行っても目立たないだろう。
バングルをよく見ようと、くるくる回して観察を続ける。
バングルの内側に、何やら文字が刻印されている。
『Hikaru&Seiya Eternal Love』
中学生カップルの、エンスタのカップル垢のIDなの!?
良かった……! 内側で! 絶対に、落とさないようにしよう!!
店とかで落としたら、絶対に店員に大爆笑されるやつだ!!
俺はバングルを左手の手首につけて、部屋を後にする。
静弥の部屋の前に立って、静かに扉をノックした。
「どうしたの?」
「誕生日プレゼント、ありがとう」
「どう致しまして。ところで、晄君。アクセサリーのプレゼントの意味って、知ってる?」
「え。何それ。知らない」
静弥は小さく頬を膨らましてから、俺の首にかけられたネックレスを触った。
「ネックレスは『独占』で、ブレスレットは『束縛』だよ」
「……」
え、つまり。俺が『独占』の意味を持つネックレスを送ったから、気持ちに応えようとブレスレットにカテゴライズされるバングルを贈って来たって……コト!?
「ぽ、ポチャーン」
「そうだね。ポチャーンだね。どしたん? 話、聞こか? ベッド行こうね」
「散々、ヤっただろ! 明日、大学なんだよ! 寝かせろ!! あと歯ブラシとか綿棒とか、捨てろよな!!」
「ヘマタイトワイライト」Fin.
今現在の俺は壁に両手足をXの文字になるように、はりつけにされている。
入り口からは見えなかったがはりつけには位置調節が可能な手錠や足枷がついていて、がっちりと両手首と足首を固定されてしまった。
それだけじゃ静弥は飽き足らず例の血圧計首輪や、乳首にローターまでつけられてしまった。
例の血圧計首輪は、クソ親父の手によって更に改造された。
血圧計首輪改はアナルプラグを繋がれただけだったが、血圧計首輪改二はリードをつけられた挙句アナルプラグが伸縮するようになったのだ。
それも、手動のポンプで。
いやもう、我ながら絵面がすごい。大人のおもちゃ博覧会なの?
首輪、ローター、アナルプラグの振動が全部ちょっとずつズレていて、すごく気持ちイイ。
しかもアナルプラグに関しては手動なので、俺の反応を見て静弥が適格に俺の快感を探り当てていく。
「せ、静弥、俺、もう……」
はりつけにされてから、十五分は経っている。
こんなおもちゃの振動を感じ続けて、辛くない訳がない。
脚はガクガクと震えているし、同じ姿勢を取り過ぎたせいで身体はしびれている。
ここから解放してくれ。懇願の意を唱える為に、静弥を見つめた。
静弥はろうのように白い頬を、紅潮させながら俺を見つめている。
「まだ、射精しちゃ駄目だよ」
そっちじゃねーよ! そう、声に出す元気すらない。
俺の胸の頂きに、自分で貼ったテープを剥がしてローターを外しながら言う静弥。
「我慢出来たら、褒めてあげるからね」
褒める……? この俺を? いい子いい子してくれる? そうしたら、悲しかったこと辛かったことが帳消しに出来る。
やっと、体が少し軽くなった気がする。
そのまま、首輪とアナルプラグも外してくれ。
なんて願いは叶わず、静弥は左手にポンプを持ち替えた。
あ。イヤな予感がする。
俺のイヤな予感は的中して、静弥の右手は俺の胸の突起を上下に擦ったりつまんだりし始めた。
それだけじゃ飽き足らず、もう片方の胸の突起は静弥の舌全体に這われている。
這われたと俺が認識した頃には吸われたり、搾り取るように吸い上げられたり……。
静弥の左手のポンプも動きを止めず、俺のナカに挿れられたモノが変幻自在に暴れている。
首もギチギチに締め上げられ、身体中の力が抜けていく。
「や、ヤら、こわい」
こんな場所に、居るからだろうか? まるで、処刑人のような気分になって来るのだ。
自分の罪を償うために、はりつけにされている。
そんな馬鹿げた、妄想を繰り広げちゃっている。
いつもは、縛られて気持ちいい。くらいしか、思わないのに。
静弥は俺の様子に気付いたのか、はりつけの手錠と足枷の鍵を開錠してくれた。
手招きされるままに、真っ赤な診察台に四つん這いに跨る。
「ふぁあ……あっ」
静弥の手によって、抜けかけのアナルプラグが奥へ奥へと押し戻される。
俺の気持ちいいところにプラグの先端が当たり、思わず腰が浮いてしまった。
「あっ……」
今まで浅いところを焦らすように刺激されていた反動か、俺の男性器は絶頂を迎えたのを静弥の目が見逃す訳がなかった。
まるで散歩で先へ先へと行こうとする犬を止めるかのように、リードを引く静弥。
俺の身体はのけ反り、姿勢を正す。
「ご、ごめんなしゃ……」
「射精しちゃ駄目って、言ったのに……。晄君は、悪い子だなあ。お仕置きだね」
静弥はそう言って、自身のベルトを外して俺の首輪に結びつけてアナルプラグが浮かないようにガッチリと背骨に合わせて固定した。
恋人との約束すら守れない、悪い子なんだ。俺は。
自責の念と裏腹に締め上げが強化されて、興奮する気持ちもある。
静弥に、全てを委ねてしまいたい。俺の身体も、心も、罪も全部全部。
ベルト外したって、ことはそう言うことだよな? イラマされるんだよな!?
「晄君。今から十回お尻を叩くから、一緒に数えようね」
え……? け、ケツを叩く? なんで?
俺が疑問を口にするより前に、静弥の平たい手が俺の尻で威勢が良い音を立てた。
今の俺は炭酸が抜けたサイダーみたいにただただぼんやりしていたのに、一気に意識が叩かれた場所に持っていかれる。
「いっ……」
「いーち」
あ。俺のうめき声を、一としてカウントするのか。
それから叩かれる回数を重ねるに連れて、更に言葉ではなくなっていった。
最後の十なんて舌に力が入らず「ひゅ」って、感じだったし。
「頑張ったね、いい子いい子」
静弥は、優しく俺の頭を撫でた。まるで壊れ物を触るように、大事そうに。
ああ、そっか……。俺ずっと誰かに、こう言われたかったんだ。
お兄ちゃん、いい子で助かるわ。晄、ありがとう! 晄が居てくれて、良かったわ~。
だけどそう思って欲しいって感情は、恩の押し売りみたいだ。
こう言う感情を持つこと自体、人間の美学に反するような気もしてしまう。
それで誰かに感謝とか褒めの言葉を貰っても、あんなに欲しがっていた癖に気持ちが冷めたり素直に受け止められなかったりするのだ。
きっと友達や家族に言っても、理解されないだろう。
だって、自分でも意味が分からねえもん。
意味分からねえけど、自分が面倒くせえ人間だってのは分かる。
なのに、いや、だからこそ。
篠塚 晄も、コウ君も単純で分かりやすい人間を演じているんだ。
「ご褒美、あげなきゃね」
俺は悪い子なのに……?
俺の拘束が解かれていき、羽が生えたみたいに身体が軽い。
なのに気持ちは、沈んだままだった。
天井の照明はゆらゆらと揺れて、どんな色かすらもわからないくらいだ。
「晄君、大丈夫……?」
俺の反応が悪いことに、薄々勘付いていたのだろう。
静弥は心配そうに、俺を見つめて来た。
まるで友達から「今日、生理で~」って聞いた時の女の子みたいな大袈裟なリアクションだった。
取り繕わなきゃ。大丈夫って、笑わなきゃ。
折角の誕生日だし、心配かけたくないし……。
頭では、分かってる。
「ごめん……しんどい。静弥が嫌なんじゃなくって、俺の問題で。誕生日、いい思い出あんまりなくって」
ああ。言葉にしてしまった。
これで、静弥にとって可哀想な篠塚 晄になってしまう。
もしかしたら、呆れられるかもしれない。
だって静弥の方が、大変な経験をして来ているから。
誕生日プレゼントや父親の小言くらいで、甘えてんじゃねえよ。って、思われるかもしれない。
*
上京して来て、初めての誕生日。
夏野からはスポーツブランドのスポーツタオルと名入れされた有名な五色ボールペンを貰い、廣笠からは小型加湿器を貰った。
歩夢からは着る毛布とパスケースを貰って、智顕からは海外産の香水を貰った。
二人がくれたプレゼントは俺からしたら、よくその金額のを恋人でもない奴にあげられるな……!? ってものばかりで、泡を吹いて倒れそうになった。
特に智顕がくれた香水は三万近くして、歯茎を剥き出しにしてしまったのだ。
外箱の作りからしっかりしていて、高そうだと素人目にも思ったけども! まさか三万もする消耗品を、寄越されるって思わないだろ!
値段がするだけあって、少なくともドラストや大手量販店に置いてあるプチプラのボディミストのラインナップ入らないオーシャン系と柑橘系が混じったいい匂いがした。
高校時代の友人の相澤と犬山は、誕生日にファミレスに連れて行ってくれて奢ってくれるのが誕生日プレゼントだった。
中学時代は、そこまで深い関係の奴は居なかったし。
智顕には「お返し、何が良い?」って聞いたら、「何も要らない」とか言われてしまって困ったのも覚えている。
何も返さない訳にもいかないから、有名ブランドのキーケースを返したけど……。
誕生日プレゼントを貰って、ハッピー!! って気持ちより、世の中の人は普通にプレゼントを贈り合うのか。俺って、何も経験してないんじゃ? やっぱり、家がおかしいのか? なんて、思ってしまった。
夏野が悪気なく世間話として
「誕生日プレゼント、今日届くの? 楽しみだな」って言われた時は、親戚の売れていないお笑い芸人のショーを見ている時のような顔で「あ、ウン」とだけ返事をして会話を終わらせてしまった。
そんなことを、静弥に話した。
静弥は俺を強く強く抱きしめて「辛かったね、話してくれてありがとう」って優しい声で言ってくれた。
どしたん? 話、聞こか? じゃねえか。場所が、場所だし。
「ごめん……愚痴って」
「ううん。辛いって気持ちを教えてくれない方が、不安になるから。話せそうなことだけでも、話してよ」
そう言いながら、また抱きしめる力を強める静弥。
辛いことがあったら、絶対に言って! と、強制してこないところに優しさを感じる。
「……うん。ありがとう。プレゼントがショボくなった話とか、してたっけ?」
「してないよ?」
「その割には、驚いてねえじゃん。なんで?」
困ったように、俺から視線を逸らす静弥。何か、後ろめたいことでもある様子だ。
「え、な、なに」
「幼稚園の頃の僕って、晄君のことが好きすぎるあまりなんでも知りたい。って思ってたんだよね」
言われてみれば、血液型とか誕生日とか好きな色とか好きな歌とかを聞かれたような気がする。
幼稚園の頃の俺は、質問されたから答えているだけだった。
だってこんな化け物めいた恋慕の気持ちを、向けられてるって思わないじゃん……。
「え、うん」
「それで晄君の家が出したゴミ袋を、漁る癖があって」
「は!? キモ!! それで潔癖の気あるの、意味分かんねぇ!」
いくらガサツな人間からしても、ゴミ袋を漁るのは無理!!
「ご、ごめんね……。治そうとは、してるんだけど」
治そうと、している。つまり、治っていない……?
「待って。お前、もしかして、分別にやたらうるさいのってさあ……」
まさか、下着を回収したりしてんのか……? 有り得る! コイツなら、有り得る!
「靴下とか、下着とか、綿棒とか、歯ブラシのお宝を食品とかで汚したくなくて」
「もうやだーーッ!! 俺を好きにしていいから、やめて下さる!?」
「セックスの性欲と、その性欲は違うって言うか」
「家をゴミ屋敷にする気か! やめろ! 今すぐに! やめなきゃ、別れる!」
「え……」
空気が抜けていく風船みたいに、静弥がしょぼしょぼと縮んでいくように見えた。
「あ、や、綿棒とか歯ブラシはやめて。パンツは分かるから、三つくらいまでなら良いよ」
このド変態に、なんで譲歩をしてるんだ。俺は……。
それからは俺が落ち着くまで、静弥はずっと抱きしめててくれた。
終バスには間に合うように、ラブホを後にしたのだった。
*
帰宅して部屋の扉を開けると、内側のドアノブにプレゼント用の白い紙袋がかけられていることに気がついた。
俺でも知っている、有名アクセサリーブランドのやつだ。
おお……。色々ありすぎて、忘れてたわ。
首輪とか、はりつけとか、スカイツリーとか、スパンキングとか、ローターとか、アフタヌーンティーとか、ゴミ袋漁りとか、俺の下着とか歯ブラシをコレクションされてたりとか……。
我ながら性欲に、脳みそが支配され過ぎだろ!
プレゼントボックスの、赤いリボンを丁寧に解いていく。
箱を開けると出て来たのは、金属製のゴールドのツイストバングルだった。
派手な装飾とかはなく、シンプルな造形のバングル。
だからこそデザイナーのセンスが問われる代物なのだが、キレイな曲線を描いていてセンスが良いと思う。
このデザインならどんな服にでも合わせられるし、なんなら大学やバイト先に着けて行っても目立たないだろう。
バングルをよく見ようと、くるくる回して観察を続ける。
バングルの内側に、何やら文字が刻印されている。
『Hikaru&Seiya Eternal Love』
中学生カップルの、エンスタのカップル垢のIDなの!?
良かった……! 内側で! 絶対に、落とさないようにしよう!!
店とかで落としたら、絶対に店員に大爆笑されるやつだ!!
俺はバングルを左手の手首につけて、部屋を後にする。
静弥の部屋の前に立って、静かに扉をノックした。
「どうしたの?」
「誕生日プレゼント、ありがとう」
「どう致しまして。ところで、晄君。アクセサリーのプレゼントの意味って、知ってる?」
「え。何それ。知らない」
静弥は小さく頬を膨らましてから、俺の首にかけられたネックレスを触った。
「ネックレスは『独占』で、ブレスレットは『束縛』だよ」
「……」
え、つまり。俺が『独占』の意味を持つネックレスを送ったから、気持ちに応えようとブレスレットにカテゴライズされるバングルを贈って来たって……コト!?
「ぽ、ポチャーン」
「そうだね。ポチャーンだね。どしたん? 話、聞こか? ベッド行こうね」
「散々、ヤっただろ! 明日、大学なんだよ! 寝かせろ!! あと歯ブラシとか綿棒とか、捨てろよな!!」
「ヘマタイトワイライト」Fin.
10
あなたにおすすめの小説
氷の檻に閉じ込められた月~兄上のすべては、私のもの~
春野ふぶき
BL
『兄上は私のものだ。魂も、肉体も。永遠に―—』
アーヴェント侯爵家の長男ライカは、妾腹として正妻に虐げられ続けてきた。
唯一の救いは、次期当主を目される異母弟カイエンの存在。
美しく聡明で、氷の騎士と呼ばれる彼だけは、常にライカの味方だった。
だが、その愛情は兄を守るものではなく、深く歪んだ執着だった。
母を排除し、兄を囲い込み、逃げれば鎖で捕らえる。
そしてついに、ライカの心身は限界に追い詰められていく。
——カイエンが下す「最後の選択」とは。
ふたりが辿る結末は、幸福か、それとも狂気の果てか。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
強欲なる花嫁は総てを諦めない
浦霧らち
BL
皮肉と才知と美貌をひっさげて、帝国の社交界を渡ってきた伯爵令息・エルンスト──その名には〝強欲〟の二文字が付き纏う。
そんなエルンストが戦功の褒美と称されて嫁がされたのは、冷血と噂される狼の獣人公爵・ローガンのもとだった。
やがて彼のことを知っていくうちに、エルンストは惹かれていく心を誤魔化せなくなる。
エルンストは彼に応える術を探しはじめる。荒れた公爵領を改革し、完璧な伴侶として傍に立つために。
強欲なる花嫁は、総てを手に入れるまで諦めない。
※性描写がある場合には*を付けています。が、後半になると思います。
※ご都合主義のため、整合性は無いに等しいです、雰囲気で読んでください。
※自分の性癖(誤用)にしか配慮しておりません。
※書き溜めたストックが無くなり次第、ノロノロ更新になります。
【連載中/BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
架月ひなた
BL
異世界に召喚されたけど、即クビ!?
しかも壊した魔法陣を直せと無茶振りされ、住む場所として案内されたところも廃墟のような別邸。
食事は小さなパンのカケラにグラスに三割しか入っていない水のみ。
帰還手段もなくどうやって生きていこうか悩んでいた千颯の前に現れたのは、もふもふ癒し系のホワイトタイガーだった(のち超絶イケメンに変化)。
「名をくれたお前をこれから先ずっと守ると誓おう」
溺愛MAXのもふもふイケメン精霊獣に「駆け落ちするぞ」ともちかけられ、元の世界へ戻る為に旅をする事になった平凡社会人(無自覚チート精霊術師)の契約異世界BLファンタジー。
行方不明になっていた祖父がこの世界で聖女に拉致されたのを知り、探し出して一緒にニホンへと帰るつもりだったが!?
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。
※ざまあ展開にもなりそうな予感。
※想定文字数10万〜13万文字くらい。
病み墜ちした騎士を救う方法
無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。
死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。
死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。
どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……?
※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です
モブなんかじゃ終わらない!?
MITARASI_
BL
気がつけばそこは、人気BLゲームの世界。
けれど与えられた役割は、攻略対象でも悪役でもない――ただのモブ。
本来なら物語の外でひっそりと生きていくはずだった。
だが、そんな彼の存在が、少しずつ“運命のルート”を揺さぶっていく。
選ばれないはずのモブが紡ぐ、新たな恋の物語。
ゲームの定めを超えて、彼が辿り着く未来とは――。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる