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二十話
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高校時代。天谷市にあるコンビニで、アルバイトをしていた。
アルバイトに慣れ始めた、夏を迎える下準備をするかのように強い日差しの春の日のことだ。
時刻は夜九時前。退勤まであと約三十分。それなのに、この三十分が一番長いんだよな。そんなことを思いながら、俺は店を閉める為に二台ある内のレジの精算作業をしていた。
都会暮らしの人には信じられないと思うが、地方のコンビニは二十四時間営業しない方が主流だ。
天谷市のコンビニの開店時間は、朝七時。閉店時間は、夜九時。
地方故の人員不足や店を開けたところでお客さんが来ないことから、営業時間が短めなのだ。
閉店十分前から流れる「蛍の光」が余計に眠気を誘発して、この時間帯はいつも眠いんだよな。とか思いながら、レジ金を精算時に使うフラットポーチにお金を詰めていた。
その女性客の見た目は、今でもはっきりと思い出せる。
ぼうぼうに伸び切った、枝毛だらけのロングヘアー。赤縁の眼鏡のレンズは薄汚れていて、肌は乾いた土のよう。死んだ魚のような目は、店員の俺を見つけるなり瞳孔が開かれて怖かった。
服装は毛玉だらけの「銀魂」の定春のパーカーに、穴が空いた薄汚れたジーパン。真っ白だった筈のスニーカーは黒と言った方が良い色をしていて、靴紐はいつ千切れても可笑しくないくらいボロボロだった。
一目見るなりヤバい客だと察知して、短く「いらっしゃいませ~」と、挨拶した。
「ここのお店、営業時間なんとかならないんですか?」
金切り声でいきなりそんなことを言われて、俺は首を傾げてしまった。
何とかって、二十四時間営業にしてください。ってことか? 昔はしてたらしいけど、お客さん来なかったから営業時間を短めにしたってパートさんから聞いた。
仕事が夜遅くまであるから、もう少し遅くまで営業して欲しいって言う可能性もある。
「えっと、二十四時間営業にして欲しいってことですか?」
「さっきから、そう言ってるじゃないですか!」
言ってない。言ってない。言ってないよ~。
「一番くじを日付変わったタイミングで買ってツイートしてる人も居るのに、私は朝七時からしか手に入らないんですよ!」
知らんがな。知らんがなすぎて、法隆寺建てられるわ。
そんなことを思いながら「はぁ」と返事しながら、レジ金を袋に詰めると女の顔色から血の気が引いて行った。
「みんな、私の話を聞いてくれない! 不公平はダメって、言ってるだけなのに! 難しいことを要求してないのに!」
お前の都合と思考だけで、世の中回ってねぇんだよ!
店を開けたところで、一番くじを引きに来る客なんてコイツくらいしか居ない。何回引くつもりなのか知らないが人権費や光熱費その他諸々を考えても、どう考えてもこっちのマイナスだ。
「あの、俺、バイトなんで、店長に言っておきますので……」
「私のこと、クレーマー扱いするんですか!? この店のことを思って、言ってるのに!」
コイントレーに代金を投げて来る客、急かして来る客、煙草の年齢確認しただけでキレて来る客。ムカつく客は、沢山居た。
だけどコイツは、そいつらと比べて段違いに可笑しかった。
同じ人間の筈なのに、何かが可笑しい。人間と言う皮を被っているけれど、入っている中身が違う気がした。
例えるなら、塩が入ったケーキのようだ。
ケーキは自分で、自分の味見をしない。だから自分の欠陥に気付けないし、周りのケーキと自分は同じだと思っている。
一緒のシフトに入っていた、大学生の男(名前とか顔は忘れた)は、ただ見ているだけで助けてくれなかった。
十五歳にして化け物と遭遇して、大人は冷たいもんだと知った。
そんな違和感と言う名のチグハグさを、仮にも恋人の静弥に感じるなんて……。
*
だけど、分からねぇんだよな。
レジとかの順番はきちんと守るし、ゴミをポイ捨てする訳でもなく、万引きとかをする訳でもない。社会的なモラルは、かなり守っている方だと思う。
それなのに、なんで他人の感情を思いやれないのだろう……?
本だって、沢山読んでいるのに。
今日の静弥の反応は、はっきり言うと予想外なものだった。
俺なりに反省したから、歩み寄る為に謝ったのだ。
仲直りのつもりで言った言葉を、まるで宣戦布告のように受け取られたのは正直に言うとかなりショックだった。
何が、ダメだったんだろう? 俺が静弥に対して「何に対してのごめんなんだ?」って、思ったのと同様に静弥も俺に思うことはあったって言うことだろう。
「あのさ。何に、引っかかってんの?」
静弥の前に俺も正座して、静弥の拳を自身の手で優しく包み込む。
「……ぁ、う。言っても、分からないと思う」
「わかんないで、終わらせないよ。知りたいもん」
静弥が何を見て、何を思い、何に心を痛めて来たのか。
恋人だから、分かってあげたいじゃん。
「ひ、晄君は謝ったら許されるのに、僕は許されないから……前提から違う。って思ったら、悲しかった」
何だそれ。違う人間なんだから、違うのは当たり前じゃんか。同じ血を分けた俺と蓮達すら、違うんだから。そう思ったけど、静弥はもっと深いことで疑問に感じているのだろう。
静弥が謝っても許されないのは、自分のことを含めて心当たりがある。
中学校の頃。学校に警察官を呼んで、薬物撲滅の講習会が開かれたことがあった。
体育館に全校生徒を集めて、天井から垂れ下がって来るスクリーンに薬物患者がどういう末路を辿るのか? みたいな内容だった。
物語のヒロインは女子高生で、渋谷の街へ遊びに行った時に知り合った危険な香りがする男から「気持ち良くなれる薬がある」とか言われて、薬物に手を染めた気がする。
物語のラストは、太陽に照らされた川の水面が宝石か何かに見えたとか何とかでヒロインが入水自殺をして命を落とした。とか、そんなんだった気がする。
正直ラストシーンに関しては、金八先生なの? とか思ったけど口には出さなかった。
授業の最後に講習会の感想文を書かされて発表しあったのだが、静弥は先生に呼び出しを喰らっていた。
静弥が書いた感想文の内容は「ラストシーンが絵画のオフィーリアみたいで、綺麗だった」とか書いていたのだ。
勝本達は手を叩きながら爆笑を決めていて、沢井は目を白黒させていたし、雲雀丘はじっと静弥を観察していた。
半端にガキだった当時の俺は静弥の感想を「面白い」と笑い飛ばす非常識さはなく、かと言って沢井のように異常性に気付く知能はなかった。
コイツ、やっぱり変わってんな……。くらいしか、思ってなかった気がする。
今なら、沢井が目を白黒させた理由もちょっとは分かる。
美術の教科書に載っている訳でもない「オフィーリア」を知っているくらいには教養があるのに、お芝居とは言え悲惨な死を迎えたヒロインに対して抱く倫理観の無さ。
そのアンバランスさを、不気味に思うのは分かる。
まだ「こんな倫理観ない感想文を、書ける俺ヤベェだろ!」みたいな思春期特有のイキり行動なら理解出来る。
静弥が変わった感性を持っているのは今に始まったことじゃないが、だからといって犯罪行為を許容する訳にはいかない。
さっきは言い忘れたけど、廣笠の家に襲撃を含めたらコイツは二回やらかしているのだ。
実家へのチェーンソー襲撃もカウントするならば、三回。
廣笠には俺から謝罪のメッセージを入れて許して貰えた。だけど二回目三回目は、分からない。
「なるほどなー。違うのが、辛いって思ってんだ。分かった。これからは、すり合わせていこうよ」
そう言って笑ってみせるけど、この笑顔は母親に向ける笑顔と同じ型をしているんだろうな。
「……うん」
そう言いながら、静弥は自身のスマホと俺のスマホからGPS系のアプリをアンインストールした。
言うこと聞いてくれたし、これ以上言うのは可哀想だよな。既に、一回言っているし。
「ありがと。俺に言いたいこと、他にある?」
重い空気に耐えられず、カラカラと笑いながらそう言うと静弥は頬を赤らめた。
え。何、このリアクション……。
「あ、アダルト ビデオ見て欲しくない……」
*
静弥の言い分は、こうだった。
例えフィクションでも自分以外の対象に性的興奮を感じるのは、妬いてしまう。
特にアダルト ビデオは、そう言うニーズで作られているから。と、言うことだった。
自分が買わないことも相まって、余計に嫌悪感が募るのだろう。
誤解をされたままなのは嫌なので、女優の身体やBLもんの俳優に時めいている訳ではなく「こんな真似されたら、絶対に気持ち良い! って言う受け手への感情移入と言うか……」と、口籠もりながら言ったら静弥は「なんて、可愛いの……」と甘い吐息を吐いていた。
静弥に「監視行為をやめろ」と言って、アプリまで消させたのだから俺もやめる! と決意したからと言って、すぐに実行出来なかった。
一度も見ていないAV(約三千円)を一思いに捨てられるほど、人間が出来ていないのだ。
せめて一回見させて! それから、捨てさせて! と懇願すると静弥は首を縦に振り、至福の笑みで俺の服を脱がしたのだった。
目にも留まらぬ早業で静弥が着ていた天使界隈のジャージワンピースを着せられ、天使の羽がついた服と同系色のヘッドドレスまで頭につけられてしまった。
感情移入って、そう言うことじゃないんですけど!? 女装したいなんて願望は、一ミリもないって!!
え、何、この罰ゲーム。鏡を見ずとも、分かる。壊滅的に、似合っていないのだろう。
大体こんな服装相当顔とスタイルが良い人間じゃないと、似合わないのだ。
SNSで見る天使界隈を着ている可愛い子なんて、ほぼ加工の力だと思っている。かわいいは、作れる。CANMAKE TOKYO。
静弥の細い太ももの上に乗せられ、テレビに再生された『素人トー横立ちんぼM女子 お持ち帰り』を二人で、見る。
黒髪ボブの女はホストへの売り掛け代金を稼ぐ為に立ちんぼをしていて、お持ち帰りされるって言う王道中の王道な内容な訳だけど……。
『イくっ、イくっ、はぁあん。イっちゃう~』
ホテルのベッドで仰向けにされて、膨張し天を向いた男性器で激しく自身の中を突かれているトー横女子は同じ言葉を延々と繰り返していた。
流石、素人トー横女子。語彙力、ねえな。せめて、気持ちいいくらい言えよ。
静弥の顔色を伺うと、死んだ魚のような目でテレビの画面を見ている。
うん。ですよね。
期待外れだったわ。捨てるなー。って、言おうとしたその瞬間だった。
俳優が「追加でお金払うから、おもちゃ使わせて」とトー横女子に言ったのだ。
ベッドに並べられる、大人の玩具の数々。
電マに、ローターに、男性器型のディルドに、他にもた~くさん。
な、なにそれ~!! 絶対に気持ちいいぃ~!!
食い入るようにAVを見る俺を見て、静弥はハロウィンの渋谷でトラックをひっくり返す若者を見るような視線で睨み付けている。
さっき「可愛い」って言ったのは、ドコのどいつだよ!!
静弥の死んだ魚のような目に、一筋の光が宿った。
嫌な予感が、プンプンしますねぇ!!
「しねぇぞ! 玩具は大歓迎だけど! ヤるなら、脱がせろ!」
こんな学園祭の女装コスプレ以下のクオリティーのコスプレ姿で、セックスとか出来るか!
どんな感情で、抱かれたら良いの? って言う純粋な疑問が、小さい脳みそを支配するに決まっている。
静弥の通勤用の鞄から、またまた見覚えのあるDVDが出て来た。
『メイドさん ご奉仕えっち♡ ~メイドさん大好きなご主人様の為に全て着衣でございます』
すごく身に覚えが、ありますねぇ!! 平成のアキバブームの時代の産物で、中古屋で子供の小遣いみたいな値段で売ってたから買ったヤツ!!
羞恥心で、消えてしまいたい。
「えっちするから、許してクレメンス! えっちするンゴねぇ!」
アルバイトに慣れ始めた、夏を迎える下準備をするかのように強い日差しの春の日のことだ。
時刻は夜九時前。退勤まであと約三十分。それなのに、この三十分が一番長いんだよな。そんなことを思いながら、俺は店を閉める為に二台ある内のレジの精算作業をしていた。
都会暮らしの人には信じられないと思うが、地方のコンビニは二十四時間営業しない方が主流だ。
天谷市のコンビニの開店時間は、朝七時。閉店時間は、夜九時。
地方故の人員不足や店を開けたところでお客さんが来ないことから、営業時間が短めなのだ。
閉店十分前から流れる「蛍の光」が余計に眠気を誘発して、この時間帯はいつも眠いんだよな。とか思いながら、レジ金を精算時に使うフラットポーチにお金を詰めていた。
その女性客の見た目は、今でもはっきりと思い出せる。
ぼうぼうに伸び切った、枝毛だらけのロングヘアー。赤縁の眼鏡のレンズは薄汚れていて、肌は乾いた土のよう。死んだ魚のような目は、店員の俺を見つけるなり瞳孔が開かれて怖かった。
服装は毛玉だらけの「銀魂」の定春のパーカーに、穴が空いた薄汚れたジーパン。真っ白だった筈のスニーカーは黒と言った方が良い色をしていて、靴紐はいつ千切れても可笑しくないくらいボロボロだった。
一目見るなりヤバい客だと察知して、短く「いらっしゃいませ~」と、挨拶した。
「ここのお店、営業時間なんとかならないんですか?」
金切り声でいきなりそんなことを言われて、俺は首を傾げてしまった。
何とかって、二十四時間営業にしてください。ってことか? 昔はしてたらしいけど、お客さん来なかったから営業時間を短めにしたってパートさんから聞いた。
仕事が夜遅くまであるから、もう少し遅くまで営業して欲しいって言う可能性もある。
「えっと、二十四時間営業にして欲しいってことですか?」
「さっきから、そう言ってるじゃないですか!」
言ってない。言ってない。言ってないよ~。
「一番くじを日付変わったタイミングで買ってツイートしてる人も居るのに、私は朝七時からしか手に入らないんですよ!」
知らんがな。知らんがなすぎて、法隆寺建てられるわ。
そんなことを思いながら「はぁ」と返事しながら、レジ金を袋に詰めると女の顔色から血の気が引いて行った。
「みんな、私の話を聞いてくれない! 不公平はダメって、言ってるだけなのに! 難しいことを要求してないのに!」
お前の都合と思考だけで、世の中回ってねぇんだよ!
店を開けたところで、一番くじを引きに来る客なんてコイツくらいしか居ない。何回引くつもりなのか知らないが人権費や光熱費その他諸々を考えても、どう考えてもこっちのマイナスだ。
「あの、俺、バイトなんで、店長に言っておきますので……」
「私のこと、クレーマー扱いするんですか!? この店のことを思って、言ってるのに!」
コイントレーに代金を投げて来る客、急かして来る客、煙草の年齢確認しただけでキレて来る客。ムカつく客は、沢山居た。
だけどコイツは、そいつらと比べて段違いに可笑しかった。
同じ人間の筈なのに、何かが可笑しい。人間と言う皮を被っているけれど、入っている中身が違う気がした。
例えるなら、塩が入ったケーキのようだ。
ケーキは自分で、自分の味見をしない。だから自分の欠陥に気付けないし、周りのケーキと自分は同じだと思っている。
一緒のシフトに入っていた、大学生の男(名前とか顔は忘れた)は、ただ見ているだけで助けてくれなかった。
十五歳にして化け物と遭遇して、大人は冷たいもんだと知った。
そんな違和感と言う名のチグハグさを、仮にも恋人の静弥に感じるなんて……。
*
だけど、分からねぇんだよな。
レジとかの順番はきちんと守るし、ゴミをポイ捨てする訳でもなく、万引きとかをする訳でもない。社会的なモラルは、かなり守っている方だと思う。
それなのに、なんで他人の感情を思いやれないのだろう……?
本だって、沢山読んでいるのに。
今日の静弥の反応は、はっきり言うと予想外なものだった。
俺なりに反省したから、歩み寄る為に謝ったのだ。
仲直りのつもりで言った言葉を、まるで宣戦布告のように受け取られたのは正直に言うとかなりショックだった。
何が、ダメだったんだろう? 俺が静弥に対して「何に対してのごめんなんだ?」って、思ったのと同様に静弥も俺に思うことはあったって言うことだろう。
「あのさ。何に、引っかかってんの?」
静弥の前に俺も正座して、静弥の拳を自身の手で優しく包み込む。
「……ぁ、う。言っても、分からないと思う」
「わかんないで、終わらせないよ。知りたいもん」
静弥が何を見て、何を思い、何に心を痛めて来たのか。
恋人だから、分かってあげたいじゃん。
「ひ、晄君は謝ったら許されるのに、僕は許されないから……前提から違う。って思ったら、悲しかった」
何だそれ。違う人間なんだから、違うのは当たり前じゃんか。同じ血を分けた俺と蓮達すら、違うんだから。そう思ったけど、静弥はもっと深いことで疑問に感じているのだろう。
静弥が謝っても許されないのは、自分のことを含めて心当たりがある。
中学校の頃。学校に警察官を呼んで、薬物撲滅の講習会が開かれたことがあった。
体育館に全校生徒を集めて、天井から垂れ下がって来るスクリーンに薬物患者がどういう末路を辿るのか? みたいな内容だった。
物語のヒロインは女子高生で、渋谷の街へ遊びに行った時に知り合った危険な香りがする男から「気持ち良くなれる薬がある」とか言われて、薬物に手を染めた気がする。
物語のラストは、太陽に照らされた川の水面が宝石か何かに見えたとか何とかでヒロインが入水自殺をして命を落とした。とか、そんなんだった気がする。
正直ラストシーンに関しては、金八先生なの? とか思ったけど口には出さなかった。
授業の最後に講習会の感想文を書かされて発表しあったのだが、静弥は先生に呼び出しを喰らっていた。
静弥が書いた感想文の内容は「ラストシーンが絵画のオフィーリアみたいで、綺麗だった」とか書いていたのだ。
勝本達は手を叩きながら爆笑を決めていて、沢井は目を白黒させていたし、雲雀丘はじっと静弥を観察していた。
半端にガキだった当時の俺は静弥の感想を「面白い」と笑い飛ばす非常識さはなく、かと言って沢井のように異常性に気付く知能はなかった。
コイツ、やっぱり変わってんな……。くらいしか、思ってなかった気がする。
今なら、沢井が目を白黒させた理由もちょっとは分かる。
美術の教科書に載っている訳でもない「オフィーリア」を知っているくらいには教養があるのに、お芝居とは言え悲惨な死を迎えたヒロインに対して抱く倫理観の無さ。
そのアンバランスさを、不気味に思うのは分かる。
まだ「こんな倫理観ない感想文を、書ける俺ヤベェだろ!」みたいな思春期特有のイキり行動なら理解出来る。
静弥が変わった感性を持っているのは今に始まったことじゃないが、だからといって犯罪行為を許容する訳にはいかない。
さっきは言い忘れたけど、廣笠の家に襲撃を含めたらコイツは二回やらかしているのだ。
実家へのチェーンソー襲撃もカウントするならば、三回。
廣笠には俺から謝罪のメッセージを入れて許して貰えた。だけど二回目三回目は、分からない。
「なるほどなー。違うのが、辛いって思ってんだ。分かった。これからは、すり合わせていこうよ」
そう言って笑ってみせるけど、この笑顔は母親に向ける笑顔と同じ型をしているんだろうな。
「……うん」
そう言いながら、静弥は自身のスマホと俺のスマホからGPS系のアプリをアンインストールした。
言うこと聞いてくれたし、これ以上言うのは可哀想だよな。既に、一回言っているし。
「ありがと。俺に言いたいこと、他にある?」
重い空気に耐えられず、カラカラと笑いながらそう言うと静弥は頬を赤らめた。
え。何、このリアクション……。
「あ、アダルト ビデオ見て欲しくない……」
*
静弥の言い分は、こうだった。
例えフィクションでも自分以外の対象に性的興奮を感じるのは、妬いてしまう。
特にアダルト ビデオは、そう言うニーズで作られているから。と、言うことだった。
自分が買わないことも相まって、余計に嫌悪感が募るのだろう。
誤解をされたままなのは嫌なので、女優の身体やBLもんの俳優に時めいている訳ではなく「こんな真似されたら、絶対に気持ち良い! って言う受け手への感情移入と言うか……」と、口籠もりながら言ったら静弥は「なんて、可愛いの……」と甘い吐息を吐いていた。
静弥に「監視行為をやめろ」と言って、アプリまで消させたのだから俺もやめる! と決意したからと言って、すぐに実行出来なかった。
一度も見ていないAV(約三千円)を一思いに捨てられるほど、人間が出来ていないのだ。
せめて一回見させて! それから、捨てさせて! と懇願すると静弥は首を縦に振り、至福の笑みで俺の服を脱がしたのだった。
目にも留まらぬ早業で静弥が着ていた天使界隈のジャージワンピースを着せられ、天使の羽がついた服と同系色のヘッドドレスまで頭につけられてしまった。
感情移入って、そう言うことじゃないんですけど!? 女装したいなんて願望は、一ミリもないって!!
え、何、この罰ゲーム。鏡を見ずとも、分かる。壊滅的に、似合っていないのだろう。
大体こんな服装相当顔とスタイルが良い人間じゃないと、似合わないのだ。
SNSで見る天使界隈を着ている可愛い子なんて、ほぼ加工の力だと思っている。かわいいは、作れる。CANMAKE TOKYO。
静弥の細い太ももの上に乗せられ、テレビに再生された『素人トー横立ちんぼM女子 お持ち帰り』を二人で、見る。
黒髪ボブの女はホストへの売り掛け代金を稼ぐ為に立ちんぼをしていて、お持ち帰りされるって言う王道中の王道な内容な訳だけど……。
『イくっ、イくっ、はぁあん。イっちゃう~』
ホテルのベッドで仰向けにされて、膨張し天を向いた男性器で激しく自身の中を突かれているトー横女子は同じ言葉を延々と繰り返していた。
流石、素人トー横女子。語彙力、ねえな。せめて、気持ちいいくらい言えよ。
静弥の顔色を伺うと、死んだ魚のような目でテレビの画面を見ている。
うん。ですよね。
期待外れだったわ。捨てるなー。って、言おうとしたその瞬間だった。
俳優が「追加でお金払うから、おもちゃ使わせて」とトー横女子に言ったのだ。
ベッドに並べられる、大人の玩具の数々。
電マに、ローターに、男性器型のディルドに、他にもた~くさん。
な、なにそれ~!! 絶対に気持ちいいぃ~!!
食い入るようにAVを見る俺を見て、静弥はハロウィンの渋谷でトラックをひっくり返す若者を見るような視線で睨み付けている。
さっき「可愛い」って言ったのは、ドコのどいつだよ!!
静弥の死んだ魚のような目に、一筋の光が宿った。
嫌な予感が、プンプンしますねぇ!!
「しねぇぞ! 玩具は大歓迎だけど! ヤるなら、脱がせろ!」
こんな学園祭の女装コスプレ以下のクオリティーのコスプレ姿で、セックスとか出来るか!
どんな感情で、抱かれたら良いの? って言う純粋な疑問が、小さい脳みそを支配するに決まっている。
静弥の通勤用の鞄から、またまた見覚えのあるDVDが出て来た。
『メイドさん ご奉仕えっち♡ ~メイドさん大好きなご主人様の為に全て着衣でございます』
すごく身に覚えが、ありますねぇ!! 平成のアキバブームの時代の産物で、中古屋で子供の小遣いみたいな値段で売ってたから買ったヤツ!!
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