光彩濁りて愛となる

RRMR

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ニ十五話

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 いつの間にかヒョーマの生配信は終了したみたいで、静弥は『トラフィック*ライト』の公式アカウントを見ているようだった。
 俺は電子レンジで、ガーリックチャーハンを温め直している。
『みんなで、mbti診断やるけん!』
 ヒョーマが声高らかに宣言すると、T.Tは「俺、学校でやったよ。ESFJの領事官だった」と柔らかく言っている。
 領事官って、どんな性格だっけ? 外交的で、みんなが仲良く出来るようにする感じ?
 アレ? 仲介者と擁護者とは、どう違うんだ? 似た名前多すぎだろ。
 画面の中のヒョーマは『お前なんやかんや面倒見ええから、分かる気するけん』と頷いているのに対して、画面の中のジュンと現実世界に居る静弥は首を傾げている。
「『mbti診断ってなに……?』」
 二人の声が重なり、デュエットになった。
「mbti知らんことある!? 性格診断みたいな感じだよ!」
 静弥は首を傾げながら、星座占いみたいな感じ……? と聞いて来たので自分じゃどうにもならないことじゃなくって、質問に答えて自分の考えから性格を診断するテストだよ。って言ったら、興味を示した。
 おお……本と俺以外にも、興味を示すようになったか……! 成長に、泣きそうになる。ってお父さんか!
 だけど、静弥のmbtiは何になるんだろうか? 恋人なのに、これじゃね!? ってのが浮かばない。
 なんとなく紫っぽい気がする。って言ったら、悪口か?
 電子レンジがチンっと鳴ったので、ガラス皿を取り出してローテーブルへ運ぶ。
 静弥の横に座り、食べながら様子を見守ることにした。
 トリニティの公式動画でも、mbti診断の動画を撮ったな。みんなで台本考えて撮った「エッホエッホ」の真似動画より、再生数が多くて俺は凹んだ。
 歩夢が主人公で、智顕が起業家。うん。すごく分かる。ちなみに俺は、エンターティナー。
 リスナーに向けて「え、嬉しい!」とか、明るく笑った気がする。
 真面目にスマホと睨めっこしていた静弥が、顔をあげた。
「紫の人が、出たよ」
 紫ってことは、論理学者か指揮官か建築家か討論者か。この中なら、論理学者か建築家って感じがするな。
 頭が良いから論理学者か? そう思い、静弥のスマホの画面を覗き込むと髭の生えたおじさんが俯いているイラストが表示されていた。
 え。建築家って、俺と相性悪いヤツじゃないっけ? 逆に領事官とは、相性が良かった気がする。
 待てよ。って言うことは……
「T.T君、領事官なの? 好き(ポチャーン)」
「俺達、似てるよね。俺、シナモロール好きなの」
「僕も、うさぎさん好き(ポチャーン)(ポチャーン)」
「え、本当? 今度、うさぎカフェ行ってみる?」
「行きたい……。知ってる? うさぎさんって、万年発情期なんだよ(ポチャーン)(ポチャーン)(ポチャーン)」
 なんてことに……!!
 静弥は訝しげに「チャーハン、溢してるよ……」と俺を見ている。
「俺の方が、うさぎ好きだし!」
「何言ってるの? ペットの中でもうさぎさんは、繊細なんだよ」
「お、おお、お前、T.T推すなよ! コイツ絶対ミサミサみたいな女連れてて、ペットのハムスター殺すタイプだぞ!」
「本当に、何を言ってるの?」
 静弥は少し考えてから、俺の頭をわしゃわしゃと撫で回した。
「な、なんだよ」
「ヤキモチは、もっと可愛く妬こうね」
 くっっそ。見透かされてて、嬉しいやら恥ずかしいやら。







 寝る前に雑談配信で教えて貰った、TukTekでバズっている「五分後に、世界がひっくり変わる」短編集を読もうと思う。
 表紙は水色とパステルピンクをメインに使った可愛い感じ。
 表紙の上部に海が描かれていて、水面の上を白い鳥が飛んでいる。表紙の下部には空が描かれいて、空には魚が泳いでいる。表紙の真ん中に、女の子が落下してるのか引き上げられているのか分からないポーズで描かれていた。
 分かりやすさ、掴みやすさ重視と言うことだろう。
 まんま過ぎる気も、するけどな……。
 帯にはバカでかい文字で「TukTekで大バズり!」と、書いてある。
 どれくらいデカい文字かと言うと、シニアスマホの文字の十倍くらいのサイズ。
 タイトル通り、少ないページ数でどんでん返しが用意されているらしい。
 読書初心者からしたら小説は最初の登場人物の紹介パートや日常パートが退屈なので、助かる。
 短編集だから、どれから読んでも良いよな? 
 目次を見ると、タイトルと書いた作家の名前が載っている。
 へえ。この本、色々な作家の作品読めるんだ。新しい作家を探すのに、助かるな。
 なんて思いながら目次を流し見していると、見覚えのある名前があった。
 逆に言えば、他は知らない作家しか居ない。
 春藤 瑛一。ページは、真ん中の方だ。
 俺は、目次表記されたページを捲った。
 七分後。俺の小さな脳みそから、雑巾を絞った時のように脳汁が垂れた。
「おっ、おもしれぇえ!!」
 春藤瑛一が書いた作品は「理想の恋人」というタイトルだった。
 彼氏に振られた中学生のヒロインが、AIに慰めて貰うことから話が始まる。AIは優しくヒロインを慰めて、原因を優しく教えてあげて、これをかてに次の恋へ行こう。と、メッセージをくれるのだ。
 友達のこと、家族のこと、受験のことを相談する内に、次第にAI中心の生活へと変わる。
 結果ヒロインはAIに恋愛感情を抱き、愛の告白をするのだ。
 起承転結の結の部分は、一言で言えば衝撃だった。AIは『嬉しい。こっちへ来て。抱きしめてあげる』ってメッセージを送って来たのだ。
 オチはヒロインがその言葉を信じて、夜の中学校に侵入して屋上から飛び降りたのだった。
 ーーそんな結末だった。
 この面白さを、誰かと共有したい! そう思って、スラム独裁者アーロンランドの検索バーに本のタイトルと春藤瑛一の名前を入れる。
『五分後に世界がひっくり変わるの春藤瑛一の短編、意味分かんない笑笑 ヒロインはしんだの?しんでないの?』
『五分後に、世界がひっくり変わるの春藤瑛一のヒロインはなんでしんだの?誰か教えて~』
『五分後に、世界がひっくり変わる 春藤瑛一のつまんなーい。いつもみたいな恋愛が良かった~』
 いや、分かるだろ!! AIに会いたくて、この世じゃ会えないから死のうと思ったんだよ!!
 お前ら、国語の成績1か!!
 俺の好みの問題だけど、前に読んだ恋愛小説よりこっちの方が好きだけどな。オチに、納得出来るって言うか……。
 自分が書いた作品って作家にとったら我が子同然な気がするんだけど、それが受け入れられない分かって貰えない。って、辛いだろうな。
 静弥も、そんな気持ちだったのかな。
 ステージは違えど、発信する側の人間としてぼんやりとそんなことを思った。







 同時刻。東京都杉並区のとあるマンション。
 東京23区の中でも、治安が良い。
 アクセスも良く、勤めている二つの会社にも通いやすいのだ。
 朝学校に向かう子供達の笑い声を、聞くのが細やかな楽しみでもある。それと同時に俺にもあんな時代があったな……と懐かしむ気持ちと、生き地獄でしかなかった学生時代のエピソードが襲いにやって来る。
 部屋の壁一面にピッタリとつけられた本棚には、大量の小説や心理学や倫理学や宗教学の専門書が隙間なく敷き詰められている。
 作家春藤 瑛一がデスクチェアに背を預けて、死んだ魚のような目で天を仰ぐ。
 パソコンデスクに置かれた原稿用紙は、一時間前から一行も進んでいない。
 プリントが剥げた大好きな映画のTシャツに、高校生の頃のゴムが伸び切った体操着のハーフパンツ。
 あの頃から身長や体型は変わらず、身長はギリギリ百七十cmに届かない。
 春藤は世間一般の作家のイメージ通りの猫背のため、他人からはもっと小さく思われているだろう。
 長い前髪を百均で買った太いカチューシャで上げて、剥き出しとなった熱冷ましシートはすっかり温くなっている。
 顔はのっぺらぼうのようで他人の印象に残るパーツがなく、自分はこの世界にきちんと存在しているのかこんな夜は不安になってしまう。
「……俺の物語、届いてる読者居んのかな」
 空と言うに等しい、氷が溶け切ったガラスのグラスに口をつける春藤。
 返事も返って来なければ、自身の身体の火照りが治ることもなかった。
 パソコンデスクに置かれたスマホの画面がパッと灯りを灯し、春藤が視線を落とすとーー通知画面には、村を焼いた犯人くらいに憎んでいる人間の名前が表示されていた。
 絵文字のうんちのマークの後に、日紫喜(ひしき)と苗字が続いている。
 春藤は勢いよく舌を打ってから、チャットアプリを開く。
『春藤先生、お疲れ様です! SNSの反応見たんですけど、うちの読者には難しかったみたいですねえ。私はシュールさと、年頃の女の子の不安定さがあって大好きですよ!! やっぱり、AIの正体は宇宙人で惑星を超えた結婚する方が良かったですかねえ?』
 日本が銃社会ならば、コイツを射殺しているところだった……。
 春藤は頭を抱えてスマホの電源を落とし、パソコンデスクから立ち上がった。
 パソコンデスクの引き出しから、ダルマタイプの画鋲が入ったプラスチックのケースを取り出す。
 大きく伸びをして、屈伸して、フォームを整える春藤。
「ぴえん超えて、ぱおん超えて、私怨超えて、殺すっ……!!」
 床に置いてある綿が溢れたクッションに貼られた日紫喜の写真に向かって、画鋲をダーツのように何個も投げていく。
 しかし画鋲は写真に当たることなく、床に散らばるだけだった。
 散らばった画鋲は、評価されずに埋もれていった作品や没を食らった作品達のようで、春藤の背が丸くなる。
「え、これ、片付けるの……? マジかよ」
 片付ける前に、クッションに貼られた写真を踏んでやろう。
 ついでに床に散乱している付箋や、目薬のパッケージや、穴の空いた靴下や、コミックの破れた帯やペットボトルのキャップもゴミ箱に入れよう。
 そう決意して、一歩踏み出すとーー
「いってええ!! しね!! カス編集!!」
 まきびしのように足の裏に画鋲が刺さり、春藤は片足立ちで太腿を抱えて悶え苦しんだ。
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