光彩濁りて愛となる

RRMR

文字の大きさ
38 / 62

三十話

しおりを挟む
 日は流れるように過ぎて、あっという間に迎えた【NWF】の当日。
 俺達「トリニティ」は智顕の遅刻対策に、前日から近場のビジネスホテルに泊まっていた。
 地方からの遠征勢も泊まっているようで、廊下から俺達の話が聞こえて来た時は心臓が跳ね上がった。
 練習に明け暮れる日々だったが、小さな事に気付きを得た。
 きっかけは「トラフィック*ライト」のヒョーマとジュンの、物真似動画だった。
 なんでか知らないが、ヒョーマがソレソレの物真似をしてジュンがヒロユキの物真似をして【もしソレソレが、ヒロユキをコラボで呼んだら?】って言うタイトルの動画を上げたのだ。
 しかも二人の手描きだと思われるソレソレの顔と、ヒロユキの顔のお面までつけて。
『え~。それではですね! 今日は、ビッグなゲストに来て頂きますよ。凄すぎて、みんなびっくりしちゃうんじゃないかな? ヒロユキさんです! どうぞ~』
 本人そっくりな独特のイントネーションで、ソレソレ役のヒョーマが喋る。
 するとヒロユキ役のジュンが、頭を右手で抑えながら「あ、どもっす~。ヒロユキですー」と言うのだ。
 うわ、物真似も出来るのかよ。ってまず一番に思ったことを、はっきりと覚えている。
 ソレソレヒョーマと向かい合うように座っている、ヒロユキジュンが口を開く。
『あの~。疑問なんスけど、暴露系配信者って意味あるんスか?』
 その言葉にソレソレヒョーマは、身体を揺らしながら慌てふためくのだ。
『いきなり、辛口だな! 意味なら、ありますよ! 再生数、多いですからね!』
『いやぁ、僕思うんですけどぉ。ネットの炎上系ってわざわざ配信者の動画見なくても、Xとかエンスタとか追ってたら分かるじゃないスかぁ。どのニーズに向けての動画なのかなぁ? って』
『いや、だから、文字だけじゃ分かりにくいところもあるじゃないですか! それを、僕らみたいなね? 暴露系配信者が解説することで、分かる人らも居るんでね!』
 段々とソレソレヒョーマの語気が強くなり早口になっているのに対して、ヒロユキジュンのペースは崩れていない。
『あっ、文字を読めない層ってことかぁ~。そもそもの話、嘘を嘘と見抜けない人はネットしちゃ駄目だと思うんですよお。ソレソレさんってぇ過去に嘘情報を拡散して、炎上してましたよねぇ?』
 コイツら、勇者かよ……! 暴露系配信者と、匿名掲示板の創設者って言うある種の特級呪物だろ!! その特級呪物の物真似動画を、この内容で上げるとかどんだけメンタル強いんだよ!!
 って、肝が冷えた。
 ソレソレは自身のtmitterアカウントで
『リスナーの皆様、心配かけてすみません。僕は全く気にしてないです!笑 むしろ真似して貰って、嬉しいです!笑』
なんて、笑っている絵文字で投稿していた。
 めちゃくちゃ効いてんじゃねーかよ。とコナン君みたいな半笑いが浮かぶと同時に、俺も同じ穴に居る存在なのだと気が付いたのだ。
 そうだよな。反応するだけ、相手の思うツボだよな。
【NWF】では、コウ君の仮面を被り切ってみせる。







 当日朝のリハーサルも終わり、俺達は舞台袖に待機している。
 何回も練習で立ったステージなのに、身体がいつもより固い気がする。
 お客さんの視線、呼吸、体温、血液の流れが一体となってステージに集まっているような感覚を覚えているからだろう。
「トリニティ」の出番は、二部の真ん中よりちょっと後ろ。
 大トリと言う訳でもなく、前半のみんなが集中して見ている訳でもない絶妙な位置。
 ヒョーマが雑談配信で言っていた言葉を、思い出す。
「わしゃあ、高校ん時演劇部じゃったんよ。夏の大会で、わしらの前の学校がぶち強豪校じゃったんよ。他所の学校の親御さんとかも、せっかくじゃけんあの学校見ようみたいなもんじゃったんよ。あそこの学校の芝居が終わったら、客席ガラガラでやったけん。自分らなんか見に来とらんって分かって、あれは堪えたわあ」
 満席近かった客席が、半分以下になったけん!! って笑い飛ばしていたが、俺が同じ状況ならかなり凹むと思う。
 楽屋で見ていた客席の様子を見るに、極端に客足は遠のいてない。
 大丈夫、大丈夫、大丈夫。
 やれる!
 歩夢が落ち着いた声で「大丈夫か?」って確認を取って来たのに対して、智顕は「大丈夫でしょ。緑のサイリウムが一本でもあれば、晄は踊れるよ」と涼しげな顔で言ったのだ。
 新曲に、新しい衣装、今まで立ったことがないようなステージ。
 今までkポ寄りな露出の多い衣装を着ていたが、今回はアイドル寄りな黒地メインの生地に金色のスパンコールを散りばめた衣装にした。
 デザイナーさんにデザインを依頼して、縫製工場で縫って貰ったのだ。
 自分らで弄ったものとは出来栄えが違いすぎて、メンバー全員が感嘆の息を漏らした程だ。
 それぞれのメンカラのシースルー生地の肩マントは、エアコンの風で蝶々のようにひらひらと舞っている。
 前の演者の発表が終わり、客席から歓声が上がった。
 演者達は笑顔で手を振りながら、俺達とは逆側の舞台袖の中へ入っていく。
 歓声が落ち着いた頃に、水を打ったようにステージの照明が消えた。
 スタッフさんに呼ばれたので、俺達はステージの初期位置に立つ。
 司会役の女性アナウンサーが「トリニティ」のこと、メンバーを一人ずつ紹介し始めた。
 ステージ上から垂れ下がっている、巨大なスクリーンに俺達の顔と名前が映し出されている筈だ。
 俺達の代表曲とも言える曲のアレンジが聞こえて、色々なことを思い出す。
 最初は、見向きもされなかったこと。智顕と喧嘩ばかりしていたこと。思いもよらない動画で、バズったこと。歩夢がお化けが苦手で、遊園地のお化け屋敷で女子よりデカい悲鳴を上げていたこと。たくさん練習したダンス動画より、三人の雑談配信の方が伸びたこと。他にも、たくさんある。
 俺達の紹介が終わるなり、疾走感溢れるイントロが流れ出した。
 分かってはいたけど、サイリウム赤と紫ばっかだな……。
 緑のサイリウムは「トリニティ」箱推しと思われる、サイリウム三本構えの人しか見つけられない。
 それでも、良いんだ。誰かの一番に、なれなくたって。
 俺がタップダンスを始めたのは、下らない理由だったから。
 数字、名声、力なんて要らないんだ。
 終わらない踊りを、踊ろう。クソッタレなセカイのために。







 たった四分なのかされど四分なのかは分からないが、俺達のステージは終わった。
 舞台袖を抜けて、楽屋へ向かう途中でスタッフさんに呼び止められた。
 振り返ると、室内なのにサングラスをかけ首に柄物のスカーフを巻きつけたいかにも業界人って感じの人が居た。
 年齢は、アラフィフくらいだと思う。
 なんでポロシャツ着てんのに、首にスカーフ巻いてんだよ……。
 コンクリートの廊下に同化せず、圧倒的な存在感がある。
「やあ、こんにちは。君が『トリニティ』のコウ君?」
「え、あ、はい」
「僕、こういう者なんだけどね」
 そう言って差し出された名刺は、映画監督者の肩書きが入っていた。
 もしかして、映画に出演の依頼!? 俺が全国の映画館のスクリーンに、映る!?
「君ステージ上では、クールでセクシーだったのに実物全然だねぇ! 子供が石鹸で洗ったドブネズミみたいだ!」
 え、何、コイツ? しばいて良い?
 映画監督は歯を見せて笑いながら「まあ、頑張りなさいよ」と言って、去って行った。
 歩夢は「多分、あの人なりに褒めてんだよ。ステージで、化けてるって」ってフォローを入れたのに対して智顕は「本当に晄を褒めてるならば、仕事の話に持って行くと思うよ」と言った。
 分かんねえ世界すぎる……。







【NWF】が終わり、俺は帰りの電車でエゴサーチをしていた。
 車窓から差し込む夕陽が、眩しい。
 全てやり切った達成感を今更ながら感じて、脚が重たくなってきた。
 帰宅ラッシュの時間だけど、運良く座れて良かった……。
 目に付く俺への投稿が炎上じゃなくって、ステージ上での俺に塗り替えられている。
 空気が、洗浄された気がする。
『コウ君かっこよかった~。新衣装、似合ってた』
 うんうん。そうだろう。だって、デザイナーさんに依頼したもん。
『思ってたより、ちゃんと踊れてて安心した。担当だけど、心配してたんだよね笑』
 さては反転アンチだな、おめー。
『新しいトリニティを見た気がする。コウのパフォーマンスが上がったのはもちろんだけど、RuKIのパフォーマンスも上がってた。ぼんチ。は相変わらず上手い』
 お前は、批評家かよ。
『色々考えたけど、コウのこと推してて良かったよ』
 ありがとう、俺を素直に評価してくれて。俺を、見てくれて。
 就活しながらだけど、頑張りたいな。
 tmitterを閉じてエンスタのアプリを開くと、予想以上に通知が来ていた。
 おそらく楽屋で撮影した、RuKI、ぼんチ。とのスリーショットや、新衣装の写真の反応だろう。
 DMも、すごい数来てんな……。
 普段からDMは来てるけど、今日はいつもの比じゃない。
「……え」
 俺の元へ届いた、一通のDM。
 それは地獄への片道切符か、天国への往復切符か。
 この頃の俺は、知る由もないのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

氷の檻に閉じ込められた月~兄上のすべては、私のもの~

春野ふぶき
BL
『兄上は私のものだ。魂も、肉体も。永遠に―—』 アーヴェント侯爵家の長男ライカは、妾腹として正妻に虐げられ続けてきた。 唯一の救いは、次期当主を目される異母弟カイエンの存在。 美しく聡明で、氷の騎士と呼ばれる彼だけは、常にライカの味方だった。 だが、その愛情は兄を守るものではなく、深く歪んだ執着だった。 母を排除し、兄を囲い込み、逃げれば鎖で捕らえる。 そしてついに、ライカの心身は限界に追い詰められていく。 ——カイエンが下す「最後の選択」とは。 ふたりが辿る結末は、幸福か、それとも狂気の果てか。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

強欲なる花嫁は総てを諦めない

浦霧らち
BL
 皮肉と才知と美貌をひっさげて、帝国の社交界を渡ってきた伯爵令息・エルンスト──その名には〝強欲〟の二文字が付き纏う。  そんなエルンストが戦功の褒美と称されて嫁がされたのは、冷血と噂される狼の獣人公爵・ローガンのもとだった。  やがて彼のことを知っていくうちに、エルンストは惹かれていく心を誤魔化せなくなる。  エルンストは彼に応える術を探しはじめる。荒れた公爵領を改革し、完璧な伴侶として傍に立つために。  強欲なる花嫁は、総てを手に入れるまで諦めない。 ※性描写がある場合には*を付けています。が、後半になると思います。 ※ご都合主義のため、整合性は無いに等しいです、雰囲気で読んでください。 ※自分の性癖(誤用)にしか配慮しておりません。 ※書き溜めたストックが無くなり次第、ノロノロ更新になります。

【連載中/BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

架月ひなた
BL
異世界に召喚されたけど、即クビ!? しかも壊した魔法陣を直せと無茶振りされ、住む場所として案内されたところも廃墟のような別邸。 食事は小さなパンのカケラにグラスに三割しか入っていない水のみ。 帰還手段もなくどうやって生きていこうか悩んでいた千颯の前に現れたのは、もふもふ癒し系のホワイトタイガーだった(のち超絶イケメンに変化)。 「名をくれたお前をこれから先ずっと守ると誓おう」 溺愛MAXのもふもふイケメン精霊獣に「駆け落ちするぞ」ともちかけられ、元の世界へ戻る為に旅をする事になった平凡社会人(無自覚チート精霊術師)の契約異世界BLファンタジー。 行方不明になっていた祖父がこの世界で聖女に拉致されたのを知り、探し出して一緒にニホンへと帰るつもりだったが!? ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。 ※ざまあ展開にもなりそうな予感。 ※想定文字数10万〜13万文字くらい。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

モブなんかじゃ終わらない!?

MITARASI_
BL
気がつけばそこは、人気BLゲームの世界。 けれど与えられた役割は、攻略対象でも悪役でもない――ただのモブ。 本来なら物語の外でひっそりと生きていくはずだった。 だが、そんな彼の存在が、少しずつ“運命のルート”を揺さぶっていく。 選ばれないはずのモブが紡ぐ、新たな恋の物語。 ゲームの定めを超えて、彼が辿り着く未来とは――。

処理中です...