光彩濁りて愛となる

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三十八話

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 静弥が眠り始めてから一時間経ったぐらいで、タイミング良くサービスエリアに到着した。
 お手洗い休憩と少し遅めのランチを摂ろうと、深優はサービスエリアの駐車場に車を停めた。
 半端なシーズンと言うこともあり、駐車場には空きが多い。
 静弥は目を覚まして深優に「おはよう」と告げて、スマートフォンの画面に目を落とした。
 深優の元にも、蒼真からのメッセージが入っている。
 蒼真はアマゾンギフトカードの写真も、ちゃんと送ってくれた。
 蒼真からの情報を纏めると、こうだった。
 ・自分が送ったパーティー界隈の広報アカウントが、小規模なクラブハウスで今日の夕方にパーティーを開くらしい。
 ・パーティー界隈に出入りしているやっちょと言う若者のエンスタグラムのストーリーで「今日も、皆様に素敵な経験をお届けします!」と、いつかのパーティーの様子の写真の上に文字を付けて投稿していた。
 ・蒼真本人の想像でしかないが、詩片 しずくは篠塚 晄と付き合っていないと思う。
 篠塚 晄が付き合っているのならば詩片 しずくの家へ行くだろうし、あの家を残しているのは沼黒 静弥への未練があるからだろう。と、言うこと。
   ・篠塚 晄本人は、パパ活などしていないだろう。と、言う蒼真の予想。静弥と言う未練があるのに、そんな行為をするぶっ飛び具合はない。ああ見えて、意外と硬派だから。と言う、蒼真の見立て。恐らく詩片 しずくの噂と混じったのではないか? と、言う推理。
 ・ただやっちょと絡んでいるから、パーティー界隈の出入りはしていると考えた方が良い。
 そんな内容だった。
 噂と言うものは、膨らむだけでなく他者の噂と混じったり第三者の憶測が真実かのように拡散されるから厄介だ。
(詩片 しずくと篠塚が付き合ってなくて、良かったわ)
 深優が安堵の息を漏らしたのを切り裂くように、静弥がスマートフォンを握り潰すかのような勢いで声を上げた。
「おかしい……っ!」
「お前の頭が?」
「違うよ! この女の人、嘘吐いてる! 晄君と、同棲なんてしてない!」
 篠塚 晄のプロフェッショナル(ストーカー)が、言うのだ。
 詩片 しずく本人の自作自演と言うのは、確定と見て良いだろう。
(あー、コレは黒確定っぽいわ)
 深優は運転頭ではそう思いつつ、静弥の言い分を聞くことにした。
「……なんで?」
 深優は運転席から、降りた。釣られて、静弥も後部座席から降りる。
 二人でサービスエリアのお手洗いへ、向かう。
 静弥が後ろから着いて来て、深優の背中へ声を投げた。
「このサラダ、ミニトマトが乗ってるんだよ。晄君、何をどうやっても、トマトは食べれないの。ドレッシングも、変! しそドレッシングなんて、使わないよ。和風ドレッシング使った後に、マヨネーズをクリームみたいに大量に絞って食べるもん。テーブルにまで吹き飛ばしながら絞るから、僕何回も怒って」
「お前、キモすぎ」
 深優は振り返り、短く吐き捨てた。
「この女の炎上商法だろ」と、言葉を続けて笑った。
 しかし、火に油を注いだらしい。
 静弥の顔色から、みるみる血の気がなくなっていく。
「なんで、晄君なの……!?」
「数字持ってるからでしょ」
「誰でも良いなら、他の人で良いじゃない……」
「他の男にしたら、その男のファンが悲しむわな」
「……あっ」
「そういう世界の男を、お前は選んだんだよ」
 静弥の瞳から、涙が溢れ出す。
 その泣き顔は、どんな画家が描いた名画の中の女の涙より美しかった。
「ぼ、僕、ひ、晄君に、酷いこと、言っちゃった……」
「今更、俺が言った意味分かったのかよ」
 静弥の涙の勢いは、増すばかりだ。
「こんなことも、分からなくてごめんなさい」とか「雲雀丘君は、ずっと言ってくれていたのに」とか、ぶつぶつ言っている。
「謝れば、良いじゃん。それする為に、篠塚に会いに行くんだろ。泣いてる暇あるなら、台本でも考えたら?」
「……っ。うん!」
「まあ、とりあえずは腹ごしらえだな」
 静弥は親鳥の後を着いていく雛鳥のように、深優の後を着いて来る。
(あー……。これは、沢井も篠塚も沼るわ……)







 トイレを済ませてサービスエリアのフードコートで、二人で向かい合って座っている。
 深優は有名チェーン店のハンバーガーのセットを頼み、静弥はきつねうどんを啜っている。
 ハンバーガーやポテトやドリンクが乗ったトレーを持って深優が席に戻るなり、静弥は土産屋の小さな紙袋を渡して来た。
「な、何これ」
「お、お世話になったから、お礼」
 深優は静弥の許可を取らずに紙袋を開けると出て来たのはーー黄色の水晶玉を胸に抱えたもふもふのきつねのキーホルダーだった。
「……お前と、友達やめるわ」
「と、友達だったんだぁ……」
 まるで四葉のクローバーを見つけた子供のような目で、感動に打ちひしがれる静弥。
「あっ、いや。他人他人。超他人。スーパーですれ違うおばさんくらい、他人」
 友達宣言からの絶交宣言と捉えたのか、静弥はまた落ち込み出す。
「ギャグだよ! 落ち込むな! あとお前は、もうちょっと他人の好みを把握しろ!」
「え……? 古着が好きだから、似合うと思ったんだけど」
 深優は自分の服装とキツネのキーホルダーを、一瞥した。
「本気で言ってんなら、脳外科行けよ」







 腹ごしらえを終えて、運転が静弥に代わった。
 西日本を抜け、東日本に入ったところだ。
 深優と静弥で「もう、どん兵衛の味変わってるのかな?」なんて話した。
 深優は後部座席で、熱心にスマートフォンを打っている。
「雲雀丘君、誰に連絡してるの? 沢井君?」
「詩片 しずく」
「え? アイドルでしょう? 返事してくれるの?」
「バーカ。地下アイドルだぞ。ファンとの距離が近いのが売りだから、よっぽど変な奴じゃない限り返すわ。お前みたいなな」
 テレビに出ている地上波のアイドルと地下アイドルの決定的な違いは、ファンとの距離だ。
 ファンクラブに入りCDを何百枚も積んで、ドームライブの何万分の一の数字と埋もれて行く地上波アイドル。 
 たまに開催される小さな箱で開催されるライブに何度か参加してチェキを積んだら、覚えて貰える地下アイドル。
 どちらがアイドルとして正解かは深優は興味ないが、繋がりに飢えている人間は後者のアイドルを選ぶことは分かる。
 深優は自身のエンスタグラムの写真アカウントから、詩片 しずくの公式アカウントを検索する。
 深優の写真アカウントのフォロワーは、六百人。詩片 しずくの公式アカウントのフォロワーは、約二千人。
 詩片 しずくのアイコンの右下に、今エンスタグラムに浮上している小さな緑色の丸が出ている。
 しずくのメッセージに飛び、深優は文字を打ち込む。
『初めまして。いつもしずくんを見てます♡みゆです。しずくんのライブ行きたいんだけど、、、地方住みで行けなくてごめんね。。。冬休みに、東京行こうと思ってるんだ。しずくんにプレゼントあげたいんだけど、ほんとに田舎で何もないから、、、アマギフのコード贈りますっ』
 たくさんの顔文字たっぷりでそれっぽい女の子風を装って、蒼真が送ってくれたアマゾンギフトカードの写真も添付する。
 すぐに詩片 しずくのアイコンが、メッセージのチャット欄に浮上した。文字を打っている証拠となる、三点リーダーも表示されている。
(……来た!)
 深優は、釣れたぞ! と内心拳を握りながら、詩片 しずくの出方を想定する。
 深優の思考が纏まるより先に、詩片 しずく本人から返信が来た。
『みゆちゃんありがとう♡嬉しい…♡
だけどいーの?しずくがもらって
てか写真めっちゃ上手いね!』
 深優は、握った拳を小さく上げた。
 イケる! その確信しか、ない。
 自分の予想より知能指数は低そうなのが、気になるが……。
『いいよ。。。ライブ行けないから、、。その代わり、、。じゃないけど。あのね、写真家なりたくって、、。奨学金借りて専門学校行ったんだけど、今フツーに働いててさ、、。このまま、お弁当屋の社員で人生終わるのかな?って考えてたら、、、しずくん知って、、、わたしの人生に、、色がついたの。。。しずくんは、、、私の恩人だから。。。』
 詩片 しずくから、すぐに返事が返って来た。
『え~。うれし~♡♡♡
そうなんだ~めっちゃセンスいいから芽が出てないだけだと思う、、!』
 なんて分かりやすい女だ。自分の母親より、分かりやすい人種が居るとは思わなかった。 
『しずくん、、、ありがとう♡ しずくんに言われて、、、自信でた! やっぱり、、。東京に住まないと、、、なれないのかな。。? こっちの地域、、ほんとにそうゆう事務所?なくて。。。』
 これで釣れるかどうかは、賭けだ。地下アイドルとは言え、リスク管理のことは事務所から言われているだろう。
『え~。じゃあ冬休みのライブ来る時にパーティー行かない? しずくしょーかいするよ! だいじょーぶだよ 東京の子は、みんなしてるし!』
 深優は「確定演出じゃん、ウケる」と、歯を見せて笑いながら、ダイレクトメッセージのスクリーン ショットを撮影する。
 きっと女の子を一人紹介する度に、一万円くらい詩片 しずくにハマる仕組みなのだろう。
 飢えた田舎のお上りさんなんて、騙す為のこれとない餌だ。
 何よりしずくは、ギフトカードを貰っているのだ。
 みゆちゃんのことをダイレクト メッセージ上では、無下にはしないだろう。
『大丈夫かな? わたし、、、ほんとに芋だから』
 うるうると泣き笑いしている絵文字つきで、詩片 しずくへメッセージを送る深優。
『女の子はみんなかわいーから、だいじょーぶだよ♡』
『しずくんは、、。かわいいから、、、』
 少し間が空いてから、詩片 しずくから返信が返って来た。
『しずく整形だからさ笑笑』
 アイドルにとって、タブーを明かすと来た。深優は腹を抱えて、ケタケタと笑う。
『え、、。東京の人たち、、。JKでも二重の手術?とかしてるっていうの、ほんとなんだ。。。すごい!』
 無知な女には、無知を持って制せ。詩片 しずくに快感を与えたら、勝手に向こうが喋ってくれる。
 深優が記者時代に得た、情報を引き出すスキルの一つだ。
『みゆちゃんせっかく東京に来るんだしオシャレしておいでよ♡
しずく認知するしファンサするよ♡』
『え、、、嬉しい……。ありがと、、。でもでも、。、東京の人みたいに、、、オシャレな服屋さんないの』
『えー! HRLとかでいーよ! ぜったい似合う~♡ 
会えるの楽しみにしてるね!』
 深優は口角を上げたまま、呼吸を短く細く吐いた。
(そろそろ、仕上げるか)
 スマートフォンに、文字を打ち込む深優。
『ほんとうに、、、ありがとう。。。しずくんに話して、、よかった。。。掲示板に書いてあったことなんて、うのみにしちゃダメだよね』
 そうメッセージを送った数秒後。
 ダイレクトメッセージ欄の左下に、エンスタグラムの公式から『相手の投稿を見ることが、出来ません』と、お知らせの文章が表示された。
「確定演出二回目きちゃー!!」
 深優が自身の太腿を叩きながら笑っていたら、蒼真からメッセージが入った。
『詩片 しずくさんが、パーティー界隈に出入りしてるのは本当みたい。ウィッグか何かで髪型変えて化粧変えてるけど、耳の形や身体のラインが一緒って検証結果が出たから画像送るね』
 そんな内容だった。
「お前は、いつも遅いんだよ!」
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