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四十八話
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ラーメンを食い終わった俺たちは、無事調剤薬局で薬を受け取った。
俺に処方されたのは睡眠導入剤だけだったけど、静弥に処方されたのは睡眠導入剤と長ったらしい名前のカタカナの薬だった。
受付の人に頭を下げて、薬局を出た。
「あのさあ、晄君……」
静弥は大手回転寿司チェーンの紅しょうがを、自分が寿司を食べた箸で食べた迷惑系WeeTuberを見るかのように俺を見て来た。
「うん?」
「調剤薬局のウォーターサーバーの水を六杯も飲むの、信じられないんだけど。どれだけ、がめついの?」
「いや、飲むだろ! 美味いし」
「一杯二杯なら、分かるよ? ウォーターサーバーの水、枯らす気なの? スーパーの惣菜コーナーの輪ゴムを、束で掴むの? プラスチックケースを、大量に持ち帰るの? スーパーの試食を、食べ尽くすの? カルデーの無料のコーヒーを、六杯飲むの?」
「大阪のおばちゃんかよ! しねえよ!」
「円亀製麺の天かすを山盛り取って、薬局のウォーターサーバーの水を六杯飲む人に言われてもなあ……」
静弥は俺を見つめながら、何かに気付いたかのように「まさか……」と言いながら、肩を震わせた。
「晄君が入った後のお風呂が、温いのってさあ……」
「あ? うん。蛇口の水、飲んでる」
静弥の顔色が、紫に変化した。鬱アニメを見ている、白人系の外国人みたいだ。
「し、信じられない……!!」
「いや! 風呂入ってたら、身体熱くなるじゃん!! 水、欲しくなるんだよ!!」
「晄君」
静弥は俺の両肩に手を置いて、肩の骨を粉砕するかのような力で握り締め始めた。
「い、痛ッ。な、なに?」
「お医者さん行く時と、お風呂行く時に水筒持って行って。お願いだから。なんなら、僕が用意するから」
「あ……はい。すみません」
余りの剣幕に、俺は謝るしか出来なかった。
*
スーパーの中に入っている小さな百均にも寄り、静弥はスケジュール帳を眺めている。
スケジュール帳かあ。買ったことねえな。
大学の時間割は学校のポータルサイトで見れるし、バイトのシフトはシフトアプリで見れるしな。
病院行くのに、買おうかな。百円だし。
……アレ? 確か、コイツのノートってさあ。
「お、お前、ま、また、大量に、お、俺のことを書く気だろ!」
「……ああ。辞めるよ。このスケジュール帳からは、自分の精神状態とか、ご飯とか、日々のちょっとした出来事を書くようにする。どうしても残しておきたいことだけ、晄君のことを書く」
「お、おお……」
なんたる進歩! 赤ちゃんがハイハイから掴まり立ちをすっ飛ばして、歩けるようになったもんだ……。
静弥が選んだのは、十月始まりのシンプルなスケジュール帳だった。
一カ月無駄になるけど、百円だし良いってことなんだろう。
俺達はシンプルで無難なデザインのスケジュール帳を、一冊ずつ手に取った。
*
帰宅して荷解きが終わり、リビングで一服している時に静弥が口を開いた。
窓から差し込む日が暖かくて、ちょっとうとうとしていた。
「……あの、晄君」
「うん?」
「お医者さんが、休職しなさい。だってさ」
「え? 仕事休むって、ことか?」
俺のアルバイト先の社員でも、マルチタスクや本社からの指示やアルバイトの言い分のダブルパンチで休職をした社員は居る。
だけどその社員は休職明け、一ヶ月くらいで退職した。
静弥が視線を落としながら、言葉を続ける。
「最低三ヶ月だって。ウーバーイーツも、タイミーもダメだってさ。お母さんが残してくれた遺産があるから、余程贅沢をしなかったら十年くらいは暮らせそうだけど……何があるか分からないし」
そうだ。この世は生きるだけで、お金が要る。
メンタルクリニックと薬の代金合わせて約三千円が、毎月かかるのだ。
そんな状況で、お医者さんからの「休職する指示」は不安になるよな……。
「あ、あのさ。毎月折半した分を、プラス一万俺払おうか?」
流石にあの二ヶ月みたいに全額払うのは、無理だけど、一万円なら……。単価の高いウーバーを、十回ちょっと月に熟せば良い。
大学の空きコマの間とかも、走れないことはないし。
二万って言ったら、気を使わせそうだしな……。
「え……」
「困った時にはお互い様だし、俺、ウーバー得意だしさ」
自分で言いながら、ウーバーイーツ得意ってなんだよ! 自転車操業のプロってヤツか!?(違います)
静弥は少し考えた後、ゆっくりと首を縦に振った。
「お願いしようかな。復職したら、必ず返すから」
「いつでも良いよ。仕事馴染んで来たくらいの時から、返し始めてくれたら良いから」
静弥は「ありがとう」と言って抱きついて来た。
俺は、静弥の頭をよしよしと撫でる。
静弥は「あのさ」と、口を開いた。
「僕、日記デコをやりたい」
「え、なにそれ」
静弥は恐らく女性がやっていると思われるシールやマスキングテープで、日々の日記を投稿している写真を見せて来た。
林檎と女の子のイラストのシールを貼った余白に今日の日記を書いている人も居れば、女性向けファッション誌のようにゴテゴテにシールを貼り文字よりシールメインだろ! な人も居る。
「へえー。器用なもんだな。みんな、センス良いわ」
「折角だから、買って来た手帳の表紙をデコろうと思う」
静弥がデコるって言葉を使うだけでオモロいのに、光景が見れんのか……。
ごめん。おもろい。
「俺もデコろうかな。シール、取って来るわ」
「僕も」
お互いにリビングを後にして、自室へと向かった。
*
デコろうかな? と言いつつ俺が持ってるシールって、チェーンソーマンのドッキリマンコラボシールにヒロアカのウエハースについてたシールに、ポケモンパンシールくらいしかねえぞ。
まあ、良いか。おやつに買って、パソコンデスクに雑に突っ込んでたし使うか。
そう思いながら、スケジュール帳の表紙にチェーンソーマンのビーム君のシールとヒロアカのエンデヴァーのシールとポケモンパンのメガリザードンとヌオーのシールを表紙に貼っていく。
なんかヌオーと静弥って、似ている気がするな……。
体型は似てないけど、雰囲気が。
何故か静弥は木工用ボンドを、ローテーブルに置いている。
粘着力が低いシールでも、あんのか? そう思って静弥の手元を見たらーー水道屋さんが郵便受けにDMとしてポストに放り投げて来るキティちゃんのマグネットを二枚持っている。
俺は静弥の観察を、続けた。
マグネットの裏面にボンドを塗り、スケジュール帳の表紙の左下と右下に貼りました……っと。
「ファーッ!!」
俺は顎が外れそうなくらいに口を開けて、歯茎も吹っ飛ばしそうになった。
いや、確かに! 貰う度に適当に冷蔵庫や、洗濯機に貼ってたけども……!!
デコって、そうじゃねえだろ!!
今度は事務用品のカラーラベルの丸いシールをを取り、緑のシールを機械がやったように均等に貼っていく。
さ、さすがINTJ!! きめ細かい!!
俺がアドリブでシールをぺぺぺーって貼ったのに対して、この動きである!!
だけど、ズレてんだよなあ……! ズレてんだよなあ!!
「出来た」
「……うん」
「えっ。晄君の可愛い。すごい。僕には、ない発想だ……」
「いや……世間一般の方々は、お前の発想の方がないと思うぞ?」
*
俺は部屋でダラダラと、tmitterを眺めていた。
おすすめ欄にプロゲーマー兼陰キャ男子村の村長のたむかなの切り抜き動画が上がっている。
ゲェー!! コイツ、俺のこと取り上げたんだ!!
どんだけ、ボロカス言われてるんだろ!?
不安に駆られてチームトリニティの二人にメッセージを入れたら、歩夢からすぐ返事が来た。
『その切り抜き、俺も見た笑笑笑 めちゃくちゃ面白いから、見てみろよ。たむかな村長 お前のこと、悪く言ってなかったぞ』
コイツ、こう言う汚いインターネットの親和性高いな……。
今日から歩夢のことを、野次馬の悪魔と呼ぼう。
LIMEのアプリを閉じて、tmitterのアプリを開く。
例のたむかなの切り抜き動画を、俺は再生した。
たむかなはマイクを前に下ろした茶髪のロングヘアーに、ボストン型の黒縁眼鏡をかけている。
服装は、白地に黒のボーダーのタートルネック。
そうだよな。お前、監獄の女帝だもんな。
『トリニティのコウが、ちょっと前に燃え取ったらしい。言いつつ、アタシ、詳しく知らんのよなー。なんか春に同級生らと、旅館かなんかで暴れたんやっけ?』
ポン菓子が出来る時のような効果音が流れて、画面下部に「違うよ。実家の田舎の旅館に誘われたんだけど、怪我して行ってないらしい」と訂正の吹き出しが入る。
たむかなは特に動揺することなく、言葉を続ける。
『あ、そうなん? 真実は分からんけど、仮に行ってても行ってない言うやろな。ちょっと前に、この子のリアコの女さんがソレソレと凸ったんもリスナーに聞いた。みんな配信者を神格化しがちやねんけど、言ってコイツただの大学生の男の子やん。ダンスは上手いんかもしれんけど、芸能人ちゃうんやろ? 恋人居たくらいで、発狂する女さん大丈夫そ? コイツ、そこらにいそうやん』
失礼すぎんだろ!! 確かにそこらの大学生を黄緑頭にしたら、俺になる顔面偏差値だけどさ!
野次馬の悪魔が、気に入った理由が分かった気がした。
たむかなはケラケラ笑いながら、配信と言う名の場を回していく。
『今回燃えたんは、案件? っぽいことをしてたんや。へー。インフルエンサーみんなとは言わんけど、しとるやろ。それこそ女さんが、崇めてるカマキリみたいな顎しとる美容部員気取りの美容垢の奴なんか100やっとる!!』
たむかなは腕を組み、唇を尖らせながら言う。
吹き出しで『そう言う世界だしね…』と、テロップが入った。
『せやで。推し活推し活言うけどあんなん企業が、顧客に金を落とさせる為の言葉やからな? 推し活なんてのは、生活の余剰の金でするべきやからね』
またポン菓子が生まれる時のような効果音が鳴り『コウにスパチャした金返せ。言ってる奴居るらしい』と、吹き出しが現れた。
なんかそんなDM来てたな。某車の整備屋の副社長のようなメッセージだった。キモいから、スルーしてるけど……。
画面のたむかなは、口を大きく開けて笑い出す。
『はっはっは~! ヤバ! ちょっと、入っとるよなぁ?』
そう言いながら、自分のデコを人差し指で小突くたむかな。
そうだ。俺だって自分が配信者じゃなかったら、たむかなの配信を見ながら笑っていただろう。
俺にとって地獄の事態でも、誰かにとったら笑いの種。
世の中は、多面的なんだなぁ。ひかを
「こういう日は、シコるに限るぜ」
そう言いながら、パソコンデスクの引き出しを開ける。
ブックオフで買った、激安AVを隠してたんだよなー。
タイトルは「卑猥な身体過ぎて、水泳部の顧問にされたHカップ美女のフリー」
このフリーって、水泳競技と夜の営みかけてるよなぁ。
パッケージを開くと、一枚の正方形型の黄色いメモが落ちた。
メモを拾い上げると、少し崩れてはいるけど静弥の字で一言書いてあった。
「アダルト ビデオは一日三十分まで」
おかんかよ!! いや……おかんに、AVのこと触れられたことねぇわ!!
「勘弁してクレメンス……」
俺に処方されたのは睡眠導入剤だけだったけど、静弥に処方されたのは睡眠導入剤と長ったらしい名前のカタカナの薬だった。
受付の人に頭を下げて、薬局を出た。
「あのさあ、晄君……」
静弥は大手回転寿司チェーンの紅しょうがを、自分が寿司を食べた箸で食べた迷惑系WeeTuberを見るかのように俺を見て来た。
「うん?」
「調剤薬局のウォーターサーバーの水を六杯も飲むの、信じられないんだけど。どれだけ、がめついの?」
「いや、飲むだろ! 美味いし」
「一杯二杯なら、分かるよ? ウォーターサーバーの水、枯らす気なの? スーパーの惣菜コーナーの輪ゴムを、束で掴むの? プラスチックケースを、大量に持ち帰るの? スーパーの試食を、食べ尽くすの? カルデーの無料のコーヒーを、六杯飲むの?」
「大阪のおばちゃんかよ! しねえよ!」
「円亀製麺の天かすを山盛り取って、薬局のウォーターサーバーの水を六杯飲む人に言われてもなあ……」
静弥は俺を見つめながら、何かに気付いたかのように「まさか……」と言いながら、肩を震わせた。
「晄君が入った後のお風呂が、温いのってさあ……」
「あ? うん。蛇口の水、飲んでる」
静弥の顔色が、紫に変化した。鬱アニメを見ている、白人系の外国人みたいだ。
「し、信じられない……!!」
「いや! 風呂入ってたら、身体熱くなるじゃん!! 水、欲しくなるんだよ!!」
「晄君」
静弥は俺の両肩に手を置いて、肩の骨を粉砕するかのような力で握り締め始めた。
「い、痛ッ。な、なに?」
「お医者さん行く時と、お風呂行く時に水筒持って行って。お願いだから。なんなら、僕が用意するから」
「あ……はい。すみません」
余りの剣幕に、俺は謝るしか出来なかった。
*
スーパーの中に入っている小さな百均にも寄り、静弥はスケジュール帳を眺めている。
スケジュール帳かあ。買ったことねえな。
大学の時間割は学校のポータルサイトで見れるし、バイトのシフトはシフトアプリで見れるしな。
病院行くのに、買おうかな。百円だし。
……アレ? 確か、コイツのノートってさあ。
「お、お前、ま、また、大量に、お、俺のことを書く気だろ!」
「……ああ。辞めるよ。このスケジュール帳からは、自分の精神状態とか、ご飯とか、日々のちょっとした出来事を書くようにする。どうしても残しておきたいことだけ、晄君のことを書く」
「お、おお……」
なんたる進歩! 赤ちゃんがハイハイから掴まり立ちをすっ飛ばして、歩けるようになったもんだ……。
静弥が選んだのは、十月始まりのシンプルなスケジュール帳だった。
一カ月無駄になるけど、百円だし良いってことなんだろう。
俺達はシンプルで無難なデザインのスケジュール帳を、一冊ずつ手に取った。
*
帰宅して荷解きが終わり、リビングで一服している時に静弥が口を開いた。
窓から差し込む日が暖かくて、ちょっとうとうとしていた。
「……あの、晄君」
「うん?」
「お医者さんが、休職しなさい。だってさ」
「え? 仕事休むって、ことか?」
俺のアルバイト先の社員でも、マルチタスクや本社からの指示やアルバイトの言い分のダブルパンチで休職をした社員は居る。
だけどその社員は休職明け、一ヶ月くらいで退職した。
静弥が視線を落としながら、言葉を続ける。
「最低三ヶ月だって。ウーバーイーツも、タイミーもダメだってさ。お母さんが残してくれた遺産があるから、余程贅沢をしなかったら十年くらいは暮らせそうだけど……何があるか分からないし」
そうだ。この世は生きるだけで、お金が要る。
メンタルクリニックと薬の代金合わせて約三千円が、毎月かかるのだ。
そんな状況で、お医者さんからの「休職する指示」は不安になるよな……。
「あ、あのさ。毎月折半した分を、プラス一万俺払おうか?」
流石にあの二ヶ月みたいに全額払うのは、無理だけど、一万円なら……。単価の高いウーバーを、十回ちょっと月に熟せば良い。
大学の空きコマの間とかも、走れないことはないし。
二万って言ったら、気を使わせそうだしな……。
「え……」
「困った時にはお互い様だし、俺、ウーバー得意だしさ」
自分で言いながら、ウーバーイーツ得意ってなんだよ! 自転車操業のプロってヤツか!?(違います)
静弥は少し考えた後、ゆっくりと首を縦に振った。
「お願いしようかな。復職したら、必ず返すから」
「いつでも良いよ。仕事馴染んで来たくらいの時から、返し始めてくれたら良いから」
静弥は「ありがとう」と言って抱きついて来た。
俺は、静弥の頭をよしよしと撫でる。
静弥は「あのさ」と、口を開いた。
「僕、日記デコをやりたい」
「え、なにそれ」
静弥は恐らく女性がやっていると思われるシールやマスキングテープで、日々の日記を投稿している写真を見せて来た。
林檎と女の子のイラストのシールを貼った余白に今日の日記を書いている人も居れば、女性向けファッション誌のようにゴテゴテにシールを貼り文字よりシールメインだろ! な人も居る。
「へえー。器用なもんだな。みんな、センス良いわ」
「折角だから、買って来た手帳の表紙をデコろうと思う」
静弥がデコるって言葉を使うだけでオモロいのに、光景が見れんのか……。
ごめん。おもろい。
「俺もデコろうかな。シール、取って来るわ」
「僕も」
お互いにリビングを後にして、自室へと向かった。
*
デコろうかな? と言いつつ俺が持ってるシールって、チェーンソーマンのドッキリマンコラボシールにヒロアカのウエハースについてたシールに、ポケモンパンシールくらいしかねえぞ。
まあ、良いか。おやつに買って、パソコンデスクに雑に突っ込んでたし使うか。
そう思いながら、スケジュール帳の表紙にチェーンソーマンのビーム君のシールとヒロアカのエンデヴァーのシールとポケモンパンのメガリザードンとヌオーのシールを表紙に貼っていく。
なんかヌオーと静弥って、似ている気がするな……。
体型は似てないけど、雰囲気が。
何故か静弥は木工用ボンドを、ローテーブルに置いている。
粘着力が低いシールでも、あんのか? そう思って静弥の手元を見たらーー水道屋さんが郵便受けにDMとしてポストに放り投げて来るキティちゃんのマグネットを二枚持っている。
俺は静弥の観察を、続けた。
マグネットの裏面にボンドを塗り、スケジュール帳の表紙の左下と右下に貼りました……っと。
「ファーッ!!」
俺は顎が外れそうなくらいに口を開けて、歯茎も吹っ飛ばしそうになった。
いや、確かに! 貰う度に適当に冷蔵庫や、洗濯機に貼ってたけども……!!
デコって、そうじゃねえだろ!!
今度は事務用品のカラーラベルの丸いシールをを取り、緑のシールを機械がやったように均等に貼っていく。
さ、さすがINTJ!! きめ細かい!!
俺がアドリブでシールをぺぺぺーって貼ったのに対して、この動きである!!
だけど、ズレてんだよなあ……! ズレてんだよなあ!!
「出来た」
「……うん」
「えっ。晄君の可愛い。すごい。僕には、ない発想だ……」
「いや……世間一般の方々は、お前の発想の方がないと思うぞ?」
*
俺は部屋でダラダラと、tmitterを眺めていた。
おすすめ欄にプロゲーマー兼陰キャ男子村の村長のたむかなの切り抜き動画が上がっている。
ゲェー!! コイツ、俺のこと取り上げたんだ!!
どんだけ、ボロカス言われてるんだろ!?
不安に駆られてチームトリニティの二人にメッセージを入れたら、歩夢からすぐ返事が来た。
『その切り抜き、俺も見た笑笑笑 めちゃくちゃ面白いから、見てみろよ。たむかな村長 お前のこと、悪く言ってなかったぞ』
コイツ、こう言う汚いインターネットの親和性高いな……。
今日から歩夢のことを、野次馬の悪魔と呼ぼう。
LIMEのアプリを閉じて、tmitterのアプリを開く。
例のたむかなの切り抜き動画を、俺は再生した。
たむかなはマイクを前に下ろした茶髪のロングヘアーに、ボストン型の黒縁眼鏡をかけている。
服装は、白地に黒のボーダーのタートルネック。
そうだよな。お前、監獄の女帝だもんな。
『トリニティのコウが、ちょっと前に燃え取ったらしい。言いつつ、アタシ、詳しく知らんのよなー。なんか春に同級生らと、旅館かなんかで暴れたんやっけ?』
ポン菓子が出来る時のような効果音が流れて、画面下部に「違うよ。実家の田舎の旅館に誘われたんだけど、怪我して行ってないらしい」と訂正の吹き出しが入る。
たむかなは特に動揺することなく、言葉を続ける。
『あ、そうなん? 真実は分からんけど、仮に行ってても行ってない言うやろな。ちょっと前に、この子のリアコの女さんがソレソレと凸ったんもリスナーに聞いた。みんな配信者を神格化しがちやねんけど、言ってコイツただの大学生の男の子やん。ダンスは上手いんかもしれんけど、芸能人ちゃうんやろ? 恋人居たくらいで、発狂する女さん大丈夫そ? コイツ、そこらにいそうやん』
失礼すぎんだろ!! 確かにそこらの大学生を黄緑頭にしたら、俺になる顔面偏差値だけどさ!
野次馬の悪魔が、気に入った理由が分かった気がした。
たむかなはケラケラ笑いながら、配信と言う名の場を回していく。
『今回燃えたんは、案件? っぽいことをしてたんや。へー。インフルエンサーみんなとは言わんけど、しとるやろ。それこそ女さんが、崇めてるカマキリみたいな顎しとる美容部員気取りの美容垢の奴なんか100やっとる!!』
たむかなは腕を組み、唇を尖らせながら言う。
吹き出しで『そう言う世界だしね…』と、テロップが入った。
『せやで。推し活推し活言うけどあんなん企業が、顧客に金を落とさせる為の言葉やからな? 推し活なんてのは、生活の余剰の金でするべきやからね』
またポン菓子が生まれる時のような効果音が鳴り『コウにスパチャした金返せ。言ってる奴居るらしい』と、吹き出しが現れた。
なんかそんなDM来てたな。某車の整備屋の副社長のようなメッセージだった。キモいから、スルーしてるけど……。
画面のたむかなは、口を大きく開けて笑い出す。
『はっはっは~! ヤバ! ちょっと、入っとるよなぁ?』
そう言いながら、自分のデコを人差し指で小突くたむかな。
そうだ。俺だって自分が配信者じゃなかったら、たむかなの配信を見ながら笑っていただろう。
俺にとって地獄の事態でも、誰かにとったら笑いの種。
世の中は、多面的なんだなぁ。ひかを
「こういう日は、シコるに限るぜ」
そう言いながら、パソコンデスクの引き出しを開ける。
ブックオフで買った、激安AVを隠してたんだよなー。
タイトルは「卑猥な身体過ぎて、水泳部の顧問にされたHカップ美女のフリー」
このフリーって、水泳競技と夜の営みかけてるよなぁ。
パッケージを開くと、一枚の正方形型の黄色いメモが落ちた。
メモを拾い上げると、少し崩れてはいるけど静弥の字で一言書いてあった。
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