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ニ話
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今日のレッスンも無事終えて、いつも通り各自解散となった。
空はすっかりほとんど黒色に近い濃紺になっていて、相変わらず星は見えにくい。
さっきの今まで踊っていたからか、この時間でも外は暑い。
帰り際に歩夢から「俺も含めて、外での行動気をつけようぜ。テレビ出たら、今までよりずっと声かけられるらしいから」
視聴率七%くらいで、そんなに変わるもんなのか?
俺の考えなどお見通しなのか、歩夢は俺に向き直って改めて言った。
「特に、晄! お前脇甘いんだから、ガチ気をつけろよ! 本屋でBL漫画買ったり、アダルトショップでTENGAで遊んだり、冗談でも『けつあな確定な』とか言ったりすんなよ!」
「なんで全部、シモなんだよ!」
「オナニー配信者だからだよ」
歩夢に加勢するように、智顕も参戦して来た。
クソったれ。お前はお貴族様だから会員制のバーとかクラブで遊んでるんだろうけど、俺は貧乏学生だ。
飲み会は安い居酒屋チェーンでしかしないし、休みの日はショッピングモールのベンチで一日無料エアコンに当たっていたし、ファミレスのドリンクバーで友達と半日駄弁っている生活なんて、お前には分からないでしょうねェ!!
お金さえあれば、俺だって会員制のバーやクラブに行くのに!
日本人の問題やないですか!! そういう問題ホォホッホー! 解決シタイガ為ニィ!!(以下省略)
腹立たしいので今回は智顕のスポーツカーで、アパートまで送って貰うことにした。
歩夢も当然乗るもんだと思っていたけど
「定期圏内だし、電車で帰るわー」と、駅まで歩いて行ったのだった。
なんなんだよ、歩調合わせろよ。
俺が、厚かましいみたいじゃん……。
*
智顕のスポーツカーがアパート前に停まりスポーツから降りると、アパートの住民と思われるスーツを着たアラサーくらいのサラリーマンに目を瞬かれた。
顔に「俺より若いチャラチャラしたガキの癖に、こんなスポーツカーで送迎って何様だよ」と書いてある。
こいつたけみっちみたく、硬貨で車に傷付けるんじゃね?
サラリーマンの様子を観察すると、無遠慮に俺の顔をジロジロと見ている。
「君、朝、グモニンファイル出てた!?」
グモニンファイルは、グッドモーニングファイルのことだ。
ええそりゃもう。バッチリ俺の勇姿が、全国に放送されてましたよ。
早速テレビ効果が、現れてるじゃん。
視聴率七パーセントくらいで。とか言って、すみませんでした。
「はい」
外行きのコウの顔を作って、にっこりと微笑んでおく。
「うわ~! すごい偶然! 彼女がファンでさぁ」
いやぁ、そんなそんな。サインくらいなら、いくらでも書きますよ。
「紫の子のサイン、貰っておいてくれない!? 宛名は明るい衣で、めいちゃんで!」
おい。俺ちゃうんかい。彼女の推しの名前、覚えてへんのかーい。
「ぼんチ。なら、運転席に……」
運転席を掌で指し示すと、サラリーマンは「本物だー!」と、声を挙げた。
話を聞いていた智顕は、運転席と助手席の間に挟まれた収納ポケットから色紙とマジックを取り出してサインを書く。
エチケット袋みたく、常に色紙を常備してんのかよ……。流石、人気メンバー。
「はい」
ぼんチ。が書いたサインの宛先の明衣の明は日ではなく目になっているし、衣はどう見てもカタカナのネだ。
サラリーマンの顔は劇画風の作画に変わり、青汁を一気飲みしたような声で言う。
「君ねえ。お馬鹿キャラなんて若い内しか通用しないんだから、配信なんてしてないで勉強しなさい」
さっきまでそのお馬鹿な配信者に、テンション上がってたのは何処のどいつだよ。
身も蓋もない言い方をすると俺達配信者側がファンの人生に責任を取れないように、ファンも俺達の人生の責任を取ってはくれない。
正直なことを言うと、俺はずっとコウ君を演じられないと思う。
静弥のこととか、オナニー配信とか、身バレとか、家庭の経済状況とか、炎上のリスクとか、不人気とか関係なく。
智顕はぼんチ。ってキャラで、ずっとやっていけるだろう。歩夢もなんやかんや芸達者だし、うまいこと配信者としてやっていけそうな気はする。
そう考えたら他人に愛されるって言うのも、一つの才能だと思う。
好きで配信してるんじゃないの? って言われそうだけど、本当にタップダンスを踊って動画をあげてたのを歩夢に拾って貰ったようなもんだし。
歩夢に拾って貰ってなかったら、配信活動を続けてなかったと思う。
配信者なんて、掃いて捨てる程存在する。
その中から見つけて貰えずに、消えていく人間の方がインフルエンサーよりも圧倒的に多い。
大学でも
「へー! 配信で小遣い稼ぎかー! 夢あるじゃん」
「そんだけフォロワー居るの、一つの才能だよ。お前、確かに面白いもんなー」
「晄は就活しなくても、配信者として食っていけるしな」
なんて、みんな平気で言うのだ。
配信者なんて、良いもんじゃねーよ。
動画を撮影してる時間より、編集時間の方がなげーし。
そんで視聴者が見るのは漫画と一緒で、よほどのマニアじゃない限り一瞬だし。
頑張って練習して撮影したダンス動画より、ぐだぐだ喋りながら黄猿のモノマネした動画のが再生数多かったりするし。
まるでマスコミかのように、俺の何気ない発言の裏取りをするファンだって居るし。
俺が落ち着いてられる場所は、家の中だけだ。
ガチャリと、家の扉の鍵を開けて中へ入る。
ハリネズミのメモスタンドには、新しいメモが挟まれていた。
『鬼滅の刃って、知ってる?』
知ってるに、決まってんだろ。
日本人で二十代前半で知らないのは、お前含めても五本の指で足りるわ。
メモの下に追伸と書かれていて、こう言葉が続いていた。
『お夕飯は、豚しゃぶ肉の冷製レモンパスタだよ』
そっちが、本題やろがい。やっぱりコイツ、ズレてんな。
風呂場から、シャワーを流す音が聞こえる。
静弥が、風呂に入っているのだろう。
仮にもインフルエンサーの俺に「鬼滅の刃って、知ってる?」って言うアホの質問をした刑で金玉の左右の玉を入れ替えてやろうか。
*
風呂に入る前に、洗濯籠に溜めた洗濯物を一気に洗濯に回した。
言葉通り静弥と入れ替わるように風呂に入っているので、浴室からはシャンプーのいい香りがする。
決して、変な意味ではなく。
ジップロック越しにスマホの音量ボタンを押して、ボリュームを上げる。
スマホはうぃーつべの、トラフィック*ライトのメンバーの自己紹介動画を再生している。
湯船の中で見るうぃーつべは、サイコーだぜ。
なんつーか「トラフィック*ライト」のユニット名まで、腹立って来たな。
この*、居る? コンカフェかよ。
ホモ営業してた奴居るから、けつあなマークつけましたってか?
メンバー紹介動画を見ながら、印象をまとめていく。
赤担当、ヒョーマ。絵に描いたようなヤンキーで、ピッタピタのフレンチスリーブシャツを着ている。首にはだっさい囚人の鎖のようなネックレスをつけていて、俺は思わず「ウワァ」って、声を漏らした。
髪型も角刈りっぽい金髪だし眉毛には二本のスリットが入ってるし、そう言うドレスコードあんの? って感じ。
ヤンキーの族に入りたけりゃ、この見た目にしろ! みたいな。
「こう見えて、ブレイクダンス得意です!笑」って言ってるけど、どう見てもブレイクダンス面してんだろ。
ブレイクダンスって言ったら、智顕と被ってんじゃん。
ダンス動画見た感じ、智顕の方が上手い。
背景の美少女フィギュアが、すごく気になる。
なにこの、美少女フィギュア……。
部屋の棚にぎゅうぎゅうに飾られた美少女フィギュアは、俺が知らないジャンルばかりだった。
美少女フィギュアは、みんなもれなく巨乳。
腰にコルセットやスカートの裾にフリルのついた制服を着ていたり、白いスクール水着から乳が溢れ落ちそうになっているのまである。
メンカラが黄色のウルフカットの男が、美少女フィギュア棚を見ながら
「いいフィギュア持ってるじゃん。ラブライブ! だろ」と言い、ヒョーマは小声かつ早口で「ラブライブ! です」と、返答した。この流れ、どっかで見たことあるぞ。
ゲーっ! こいつ陰キャのチャリをパンクさせるナリしてる癖に、ヲタクなんだ!?
俺は思わず、むせ返ってしまった。
黄色担当、T.T(てぃてぃ) 黒髪ウルフカットのいかにも、サブカルっぽい奴。
なんだよ。T.Tって。kポのダンスか。
ネズミー映画とか、新海映画をめちゃくちゃ馬鹿にしてそうなタイプ。
それで好きな映画、何? って聞かれたら、夏至祭の映画とか挙げるタイプでもある。
顔は爬虫類系で、面長寄りだと思う。長い顔にコンプレックスがあるから、長い髪にしているんだろうか。
服装はネオンカラーの麻雀牌が描かれた柄シャツに、そのチェーン意味あんの? ってくらいにチェーンが垂れ下がった細身のズボン。
うわぁ~~~。雲雀丘みたいな、センスの奴居るんだ。
女ヲタクなら「マジでヤクザコーデwww」とか、自撮りをあげる服装だ。
得意なダンスジャンルは、ミームダンスって答えている。あ、アホそ~!! しばき倒してぇええ!!
ダンス動画を試しに見たら、めちゃくちゃ下手だった。まるで動画を、投稿し始めたばかりの俺みたいだった。
ダンス以外の趣味は、お菓子作りにシナモロールのグッズ集め。うわ、女に媚びやがってよ。
コイツ、絶対ファン食うタイプだよ。一番メン地下顔してもん。
趣味の欄は、まだ続いている。
PvPのオンラインゲームに、ダーツ。最初から、それ書いとけよ! どうせ配信で、七色に光るキーボード自慢すんだろ。
身体中ピアスだらけで、俺とは違う意味で穴ぼこだ。って、やかましいわ。
緑は羽狩 燐狗改め、ジュン。名前、あっさりしてない?
この「俺は配信者なんてやりたくないけど、二人に言われて仕方なくメンバーに加わりました」感、腹立つ~!
それで名前も「ハンドルネーム? なにそれ? じゃあ、下の名前のジュンで」みたいな投げやりな感じがする。なんか、俺の癪にさわる。
ダンス動画は、確かに抜群に上手い。
俺のファン、コイツに流れそう~。と、正直に思ってしまった。
赤担当のヒョーマとRuKIは系統違うし、T.Tとぼんチ。ならぼんチ。のがイケメンだから大丈夫だろう。
動画が進むにつれて、インタビュー風の画面に切り替わった。
得意なダンスは、なんでも。うわ、腹立つ。
趣味は、ないから教えて欲しい。ムカつく。
特技は、なんでも出来るから特には。なんなの? コイツ?
羽狩 燐狗でググってみるとウィキペディアにヒットしたので、開いてみる。
人物のエピソードとして、家が裕福と書かれている。うわ、家太かよ。
子供の頃の習い事は、書道、絵画、ピアノ、バイオリン、体操、フェンシング、水泳、英語、フランス語他。
うわあ。習い事ばかりじゃん。友達と遊ぶ暇、無かったんじゃねえの? って憐れみの気持ちと、確かになんでも出来るタイプだろうな。って納得する。
マルチタレントです。医者です。弁護士です。パイロットです。商社マンです。どんな職業を言われても「分かるわ~」って、頷く自信あるもん。
授賞歴は読み上げるのを諦める程、たくさんあった。中には、こんなコンクールあるんだ。みたいな、マイナーなものまである。
最終学歴、東大って……。東大出て児ポダンス系配信者ユニットの一人って、親泣くぞ。
スマホの画面の中のヒョーマとT.Tが、ジュンに話しかけている。
「お前、マジで鬼滅知らんの!?」
と、ヒョーマ。
対するT.Tは
「鬼滅見てるの、馬鹿しか居ねえから良いだろ」
と気怠そうに相槌を打っている。
「鬼滅は、義務教育じゃろ! 『糸恋結愛(いとこいゆうあい)』くらい、義務教育じゃ」
ヒョーマは広島出身なのか、こっちとは違う西のイントネーションで話している。
静弥以外にも、鬼滅知らない奴居るんだ!? 嘘だろ!? 配信者で、知らんことある!?
それと同時に、いとこい……なんて? って疑問が、俺の頭に浮かんだ。
動画を一時停止しタブを切り替えて、いとこいなんちゃらを検索する。
スマホの画面に映し出されたのは、二次元の女の裸の画像ばかりだった。
主人公にお風呂で、パイズリしているイラスト。主人公の部屋と思われるベッドで、がっつりセックスしているイラスト。学校の机の上で脚をM字女性器開いて、女性器を指で広げてるイラスト。
学舎で、何やってんだよ! ラブホで授業すんぞ!!
肌色が少ないイラストを見ようと、公式の立ち絵をタップすると公式サイトに飛んだ。
うぉ。公式サイトでも、エロい絵の紹介してるんだ。
デカい白い丸で乳首とか女性器が隠されてるのが、かえってエロいな……。
サンプルボイスまであるんだ。へー。
「晄君、いつまでお風呂入ってるの? ご飯食べるよ」
そう言いながら浴室の扉を開けて、乱入して来る静弥。
オカンか! いや、うちのオカンは、浴室に入って来ねえよ!!
驚きの余り、手からスマホを落としてしまう。
スマホは浴室の床を転がり、静弥の足元へカーリングかの如く滑っていく。
落とした衝撃でか『糸恋結愛』のサンプルボイスが、スマホから流れ出した。
『ひゃあん。りりさのおまんこ、みなと君のおちんちんでじゅぼじゅぼしてえ。りりさ、みなと君の赤ちゃん孕みたいのぉ』
某スタジオジブリの巨匠が言う、売春婦のような甘くて高い声が浴室内に響き渡った。
「……晄君」
「あ、違います。『トラフィック*ライト』のヒョーマが、好きなゲームでぇ。俺がプレイしようとかは一ミリも思ってないので、服を脱ぐのをやめて頂けないでしょうか」
静弥はこちらのお願いなど聞かずに、服を脱いで行く。
あれよあれよと言う間に、生まれたままの姿になっていた。
「大丈夫だよ。孕ませてあげるからね」
「中出しネタ、引っ張んじゃねえよ!」
空はすっかりほとんど黒色に近い濃紺になっていて、相変わらず星は見えにくい。
さっきの今まで踊っていたからか、この時間でも外は暑い。
帰り際に歩夢から「俺も含めて、外での行動気をつけようぜ。テレビ出たら、今までよりずっと声かけられるらしいから」
視聴率七%くらいで、そんなに変わるもんなのか?
俺の考えなどお見通しなのか、歩夢は俺に向き直って改めて言った。
「特に、晄! お前脇甘いんだから、ガチ気をつけろよ! 本屋でBL漫画買ったり、アダルトショップでTENGAで遊んだり、冗談でも『けつあな確定な』とか言ったりすんなよ!」
「なんで全部、シモなんだよ!」
「オナニー配信者だからだよ」
歩夢に加勢するように、智顕も参戦して来た。
クソったれ。お前はお貴族様だから会員制のバーとかクラブで遊んでるんだろうけど、俺は貧乏学生だ。
飲み会は安い居酒屋チェーンでしかしないし、休みの日はショッピングモールのベンチで一日無料エアコンに当たっていたし、ファミレスのドリンクバーで友達と半日駄弁っている生活なんて、お前には分からないでしょうねェ!!
お金さえあれば、俺だって会員制のバーやクラブに行くのに!
日本人の問題やないですか!! そういう問題ホォホッホー! 解決シタイガ為ニィ!!(以下省略)
腹立たしいので今回は智顕のスポーツカーで、アパートまで送って貰うことにした。
歩夢も当然乗るもんだと思っていたけど
「定期圏内だし、電車で帰るわー」と、駅まで歩いて行ったのだった。
なんなんだよ、歩調合わせろよ。
俺が、厚かましいみたいじゃん……。
*
智顕のスポーツカーがアパート前に停まりスポーツから降りると、アパートの住民と思われるスーツを着たアラサーくらいのサラリーマンに目を瞬かれた。
顔に「俺より若いチャラチャラしたガキの癖に、こんなスポーツカーで送迎って何様だよ」と書いてある。
こいつたけみっちみたく、硬貨で車に傷付けるんじゃね?
サラリーマンの様子を観察すると、無遠慮に俺の顔をジロジロと見ている。
「君、朝、グモニンファイル出てた!?」
グモニンファイルは、グッドモーニングファイルのことだ。
ええそりゃもう。バッチリ俺の勇姿が、全国に放送されてましたよ。
早速テレビ効果が、現れてるじゃん。
視聴率七パーセントくらいで。とか言って、すみませんでした。
「はい」
外行きのコウの顔を作って、にっこりと微笑んでおく。
「うわ~! すごい偶然! 彼女がファンでさぁ」
いやぁ、そんなそんな。サインくらいなら、いくらでも書きますよ。
「紫の子のサイン、貰っておいてくれない!? 宛名は明るい衣で、めいちゃんで!」
おい。俺ちゃうんかい。彼女の推しの名前、覚えてへんのかーい。
「ぼんチ。なら、運転席に……」
運転席を掌で指し示すと、サラリーマンは「本物だー!」と、声を挙げた。
話を聞いていた智顕は、運転席と助手席の間に挟まれた収納ポケットから色紙とマジックを取り出してサインを書く。
エチケット袋みたく、常に色紙を常備してんのかよ……。流石、人気メンバー。
「はい」
ぼんチ。が書いたサインの宛先の明衣の明は日ではなく目になっているし、衣はどう見てもカタカナのネだ。
サラリーマンの顔は劇画風の作画に変わり、青汁を一気飲みしたような声で言う。
「君ねえ。お馬鹿キャラなんて若い内しか通用しないんだから、配信なんてしてないで勉強しなさい」
さっきまでそのお馬鹿な配信者に、テンション上がってたのは何処のどいつだよ。
身も蓋もない言い方をすると俺達配信者側がファンの人生に責任を取れないように、ファンも俺達の人生の責任を取ってはくれない。
正直なことを言うと、俺はずっとコウ君を演じられないと思う。
静弥のこととか、オナニー配信とか、身バレとか、家庭の経済状況とか、炎上のリスクとか、不人気とか関係なく。
智顕はぼんチ。ってキャラで、ずっとやっていけるだろう。歩夢もなんやかんや芸達者だし、うまいこと配信者としてやっていけそうな気はする。
そう考えたら他人に愛されるって言うのも、一つの才能だと思う。
好きで配信してるんじゃないの? って言われそうだけど、本当にタップダンスを踊って動画をあげてたのを歩夢に拾って貰ったようなもんだし。
歩夢に拾って貰ってなかったら、配信活動を続けてなかったと思う。
配信者なんて、掃いて捨てる程存在する。
その中から見つけて貰えずに、消えていく人間の方がインフルエンサーよりも圧倒的に多い。
大学でも
「へー! 配信で小遣い稼ぎかー! 夢あるじゃん」
「そんだけフォロワー居るの、一つの才能だよ。お前、確かに面白いもんなー」
「晄は就活しなくても、配信者として食っていけるしな」
なんて、みんな平気で言うのだ。
配信者なんて、良いもんじゃねーよ。
動画を撮影してる時間より、編集時間の方がなげーし。
そんで視聴者が見るのは漫画と一緒で、よほどのマニアじゃない限り一瞬だし。
頑張って練習して撮影したダンス動画より、ぐだぐだ喋りながら黄猿のモノマネした動画のが再生数多かったりするし。
まるでマスコミかのように、俺の何気ない発言の裏取りをするファンだって居るし。
俺が落ち着いてられる場所は、家の中だけだ。
ガチャリと、家の扉の鍵を開けて中へ入る。
ハリネズミのメモスタンドには、新しいメモが挟まれていた。
『鬼滅の刃って、知ってる?』
知ってるに、決まってんだろ。
日本人で二十代前半で知らないのは、お前含めても五本の指で足りるわ。
メモの下に追伸と書かれていて、こう言葉が続いていた。
『お夕飯は、豚しゃぶ肉の冷製レモンパスタだよ』
そっちが、本題やろがい。やっぱりコイツ、ズレてんな。
風呂場から、シャワーを流す音が聞こえる。
静弥が、風呂に入っているのだろう。
仮にもインフルエンサーの俺に「鬼滅の刃って、知ってる?」って言うアホの質問をした刑で金玉の左右の玉を入れ替えてやろうか。
*
風呂に入る前に、洗濯籠に溜めた洗濯物を一気に洗濯に回した。
言葉通り静弥と入れ替わるように風呂に入っているので、浴室からはシャンプーのいい香りがする。
決して、変な意味ではなく。
ジップロック越しにスマホの音量ボタンを押して、ボリュームを上げる。
スマホはうぃーつべの、トラフィック*ライトのメンバーの自己紹介動画を再生している。
湯船の中で見るうぃーつべは、サイコーだぜ。
なんつーか「トラフィック*ライト」のユニット名まで、腹立って来たな。
この*、居る? コンカフェかよ。
ホモ営業してた奴居るから、けつあなマークつけましたってか?
メンバー紹介動画を見ながら、印象をまとめていく。
赤担当、ヒョーマ。絵に描いたようなヤンキーで、ピッタピタのフレンチスリーブシャツを着ている。首にはだっさい囚人の鎖のようなネックレスをつけていて、俺は思わず「ウワァ」って、声を漏らした。
髪型も角刈りっぽい金髪だし眉毛には二本のスリットが入ってるし、そう言うドレスコードあんの? って感じ。
ヤンキーの族に入りたけりゃ、この見た目にしろ! みたいな。
「こう見えて、ブレイクダンス得意です!笑」って言ってるけど、どう見てもブレイクダンス面してんだろ。
ブレイクダンスって言ったら、智顕と被ってんじゃん。
ダンス動画見た感じ、智顕の方が上手い。
背景の美少女フィギュアが、すごく気になる。
なにこの、美少女フィギュア……。
部屋の棚にぎゅうぎゅうに飾られた美少女フィギュアは、俺が知らないジャンルばかりだった。
美少女フィギュアは、みんなもれなく巨乳。
腰にコルセットやスカートの裾にフリルのついた制服を着ていたり、白いスクール水着から乳が溢れ落ちそうになっているのまである。
メンカラが黄色のウルフカットの男が、美少女フィギュア棚を見ながら
「いいフィギュア持ってるじゃん。ラブライブ! だろ」と言い、ヒョーマは小声かつ早口で「ラブライブ! です」と、返答した。この流れ、どっかで見たことあるぞ。
ゲーっ! こいつ陰キャのチャリをパンクさせるナリしてる癖に、ヲタクなんだ!?
俺は思わず、むせ返ってしまった。
黄色担当、T.T(てぃてぃ) 黒髪ウルフカットのいかにも、サブカルっぽい奴。
なんだよ。T.Tって。kポのダンスか。
ネズミー映画とか、新海映画をめちゃくちゃ馬鹿にしてそうなタイプ。
それで好きな映画、何? って聞かれたら、夏至祭の映画とか挙げるタイプでもある。
顔は爬虫類系で、面長寄りだと思う。長い顔にコンプレックスがあるから、長い髪にしているんだろうか。
服装はネオンカラーの麻雀牌が描かれた柄シャツに、そのチェーン意味あんの? ってくらいにチェーンが垂れ下がった細身のズボン。
うわぁ~~~。雲雀丘みたいな、センスの奴居るんだ。
女ヲタクなら「マジでヤクザコーデwww」とか、自撮りをあげる服装だ。
得意なダンスジャンルは、ミームダンスって答えている。あ、アホそ~!! しばき倒してぇええ!!
ダンス動画を試しに見たら、めちゃくちゃ下手だった。まるで動画を、投稿し始めたばかりの俺みたいだった。
ダンス以外の趣味は、お菓子作りにシナモロールのグッズ集め。うわ、女に媚びやがってよ。
コイツ、絶対ファン食うタイプだよ。一番メン地下顔してもん。
趣味の欄は、まだ続いている。
PvPのオンラインゲームに、ダーツ。最初から、それ書いとけよ! どうせ配信で、七色に光るキーボード自慢すんだろ。
身体中ピアスだらけで、俺とは違う意味で穴ぼこだ。って、やかましいわ。
緑は羽狩 燐狗改め、ジュン。名前、あっさりしてない?
この「俺は配信者なんてやりたくないけど、二人に言われて仕方なくメンバーに加わりました」感、腹立つ~!
それで名前も「ハンドルネーム? なにそれ? じゃあ、下の名前のジュンで」みたいな投げやりな感じがする。なんか、俺の癪にさわる。
ダンス動画は、確かに抜群に上手い。
俺のファン、コイツに流れそう~。と、正直に思ってしまった。
赤担当のヒョーマとRuKIは系統違うし、T.Tとぼんチ。ならぼんチ。のがイケメンだから大丈夫だろう。
動画が進むにつれて、インタビュー風の画面に切り替わった。
得意なダンスは、なんでも。うわ、腹立つ。
趣味は、ないから教えて欲しい。ムカつく。
特技は、なんでも出来るから特には。なんなの? コイツ?
羽狩 燐狗でググってみるとウィキペディアにヒットしたので、開いてみる。
人物のエピソードとして、家が裕福と書かれている。うわ、家太かよ。
子供の頃の習い事は、書道、絵画、ピアノ、バイオリン、体操、フェンシング、水泳、英語、フランス語他。
うわあ。習い事ばかりじゃん。友達と遊ぶ暇、無かったんじゃねえの? って憐れみの気持ちと、確かになんでも出来るタイプだろうな。って納得する。
マルチタレントです。医者です。弁護士です。パイロットです。商社マンです。どんな職業を言われても「分かるわ~」って、頷く自信あるもん。
授賞歴は読み上げるのを諦める程、たくさんあった。中には、こんなコンクールあるんだ。みたいな、マイナーなものまである。
最終学歴、東大って……。東大出て児ポダンス系配信者ユニットの一人って、親泣くぞ。
スマホの画面の中のヒョーマとT.Tが、ジュンに話しかけている。
「お前、マジで鬼滅知らんの!?」
と、ヒョーマ。
対するT.Tは
「鬼滅見てるの、馬鹿しか居ねえから良いだろ」
と気怠そうに相槌を打っている。
「鬼滅は、義務教育じゃろ! 『糸恋結愛(いとこいゆうあい)』くらい、義務教育じゃ」
ヒョーマは広島出身なのか、こっちとは違う西のイントネーションで話している。
静弥以外にも、鬼滅知らない奴居るんだ!? 嘘だろ!? 配信者で、知らんことある!?
それと同時に、いとこい……なんて? って疑問が、俺の頭に浮かんだ。
動画を一時停止しタブを切り替えて、いとこいなんちゃらを検索する。
スマホの画面に映し出されたのは、二次元の女の裸の画像ばかりだった。
主人公にお風呂で、パイズリしているイラスト。主人公の部屋と思われるベッドで、がっつりセックスしているイラスト。学校の机の上で脚をM字女性器開いて、女性器を指で広げてるイラスト。
学舎で、何やってんだよ! ラブホで授業すんぞ!!
肌色が少ないイラストを見ようと、公式の立ち絵をタップすると公式サイトに飛んだ。
うぉ。公式サイトでも、エロい絵の紹介してるんだ。
デカい白い丸で乳首とか女性器が隠されてるのが、かえってエロいな……。
サンプルボイスまであるんだ。へー。
「晄君、いつまでお風呂入ってるの? ご飯食べるよ」
そう言いながら浴室の扉を開けて、乱入して来る静弥。
オカンか! いや、うちのオカンは、浴室に入って来ねえよ!!
驚きの余り、手からスマホを落としてしまう。
スマホは浴室の床を転がり、静弥の足元へカーリングかの如く滑っていく。
落とした衝撃でか『糸恋結愛』のサンプルボイスが、スマホから流れ出した。
『ひゃあん。りりさのおまんこ、みなと君のおちんちんでじゅぼじゅぼしてえ。りりさ、みなと君の赤ちゃん孕みたいのぉ』
某スタジオジブリの巨匠が言う、売春婦のような甘くて高い声が浴室内に響き渡った。
「……晄君」
「あ、違います。『トラフィック*ライト』のヒョーマが、好きなゲームでぇ。俺がプレイしようとかは一ミリも思ってないので、服を脱ぐのをやめて頂けないでしょうか」
静弥はこちらのお願いなど聞かずに、服を脱いで行く。
あれよあれよと言う間に、生まれたままの姿になっていた。
「大丈夫だよ。孕ませてあげるからね」
「中出しネタ、引っ張んじゃねえよ!」
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※ご都合主義のため、整合性は無いに等しいです、雰囲気で読んでください。
※自分の性癖(誤用)にしか配慮しておりません。
※書き溜めたストックが無くなり次第、ノロノロ更新になります。
【連載中/BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
架月ひなた
BL
異世界に召喚されたけど、即クビ!?
しかも壊した魔法陣を直せと無茶振りされ、住む場所として案内されたところも廃墟のような別邸。
食事は小さなパンのカケラにグラスに三割しか入っていない水のみ。
帰還手段もなくどうやって生きていこうか悩んでいた千颯の前に現れたのは、もふもふ癒し系のホワイトタイガーだった(のち超絶イケメンに変化)。
「名をくれたお前をこれから先ずっと守ると誓おう」
溺愛MAXのもふもふイケメン精霊獣に「駆け落ちするぞ」ともちかけられ、元の世界へ戻る為に旅をする事になった平凡社会人(無自覚チート精霊術師)の契約異世界BLファンタジー。
行方不明になっていた祖父がこの世界で聖女に拉致されたのを知り、探し出して一緒にニホンへと帰るつもりだったが!?
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。
※ざまあ展開にもなりそうな予感。
※想定文字数10万〜13万文字くらい。
病み墜ちした騎士を救う方法
無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。
死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。
死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。
どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……?
※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です
モブなんかじゃ終わらない!?
MITARASI_
BL
気がつけばそこは、人気BLゲームの世界。
けれど与えられた役割は、攻略対象でも悪役でもない――ただのモブ。
本来なら物語の外でひっそりと生きていくはずだった。
だが、そんな彼の存在が、少しずつ“運命のルート”を揺さぶっていく。
選ばれないはずのモブが紡ぐ、新たな恋の物語。
ゲームの定めを超えて、彼が辿り着く未来とは――。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
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