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十一話
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静弥が去ってから、直様最寄のトイレの個室に駆け込んだ。
トイレの扉に背を預けてベルトのバックルを外して、ズボンとパンツを床に目掛けて下とす。
「……ッ」
時間が時間なだけあって、トイレは人の気配がたくさんある。
手洗い場で手を洗う音、小便器で用を足す音、うるさいくらいのジェットタオルの音。
ダメだ。こんなところで、オナニーするなんて! こんだけ沢山の音がしているんだから、却ってバレないんじゃないか?
そんな矛盾めいたことを、延々と考えていた。
現実問題こんな昂まった身体のまま、一時間も車に乗るなんて無理だ。
「ちょっとだけ、なら」
自分の性器なのに、割れ物を運ぶ時みたいにそろそろと手を伸ばす。
まだ柔らかい自身の竿を右手でそっと握り、揉み込む。
あ、気持ちいい。
最初はゆっくりと揉んでいるだけだったのに、次第に揉むスピードが上がっていく。
「はっ、はッ……」
自分で恥ずかしくなるくらい、膨張したソレは先端部分が濡れていた。
個室の薄黄色の照明に照らされて、自分の愚かさに泣き出しそうだ。
今まで浴びたどんなライトよりも、一番気持ちいいなんて嘘だろ。
気持ちいいに、逆らわなきゃダメだ。こんなので喜んでいるから、俺は凡人なんだ。
止まれ、止まれよッ……! 頭では必死にブレーキをかけているのに、性器を扱く手は勢いを増すばかりだ。
コンコン。個室の扉が、ノックされる。
びくりと俺の肩は、跳ね上がった。
長いこと入っていて、不審に思われただろうか? いや、オナニーしてることがバレたのかもしれない。
喉がヒュッと鳴り、カタカタと肩が震える。
「ひかる君」
ドアの前から聞こえたのは、静弥の海のような深い声だった。
なんで、ここに……? オナニーしたって、バレた? パンツ、受け取らないと。
疑問や恐怖やタスクが浮かび、どう言うべきか分からず俺は黙る。
「どうしたの? 気持ち悪い?」
こいつ絶対に分かってて、言っている。
言うもんか、喜ばせたら、ダメだ。
静弥みたいな変態は、いいって言おうが悪いって言おうが興奮するんじゃないのか?
「き、きもちイイ……」
俺は蚊の鳴くような声で、そう返事した。
静弥の喉仏が、ゴクリと鳴った音が微かに聞こえた。
「どんな状態なの?」
傍から見たら、体調不良の友人を気遣う青年の図だろう。
オナニーなんてやめて、個室から出ないと。こいつの言いなりになったら、なし崩し的に身体まで許してしまう。
「で、出そうで出ない……」
そう言いながら、俺はオナニーを止めない。正確には、止められない。
足がこんなにガクガクと震えて、今すぐにでも倒れ込みそうだ。
「出しちゃった方が、楽になるよ。ツボ押しの動画、送るね」
こんな時まで、老人くさい。俺は小さく笑ってしまった。
スマホがヴーッと振動したので、通知欄を見る。
「お、お前っ……」
動画のタイトルは、どう見てもツボ押しじゃない。
女用のBLの無料動画だった。
【ツンデレ美少年がアナニーしてたら、片思い中の同級生に見つかり……!?】
最近はAVまで、Webコミックみたいにあらすじがタイトルになっているのか。なんてぼんやり思う。
スマホをサイレントモードにして、動画を再生する。
ヤンチャそうな金髪が挿れられる方で、大人しそうな黒髪が挿れる方らしい。
俺達とかみたいとか、思ってないし。全然、ちっとも。俺、緑髪だし。
冒頭はモブの男子生徒達が、教室で弁当を食べたり教室でスマホをしているシーンから始まる。
時間設定は、昼休みなのだろう。
一度暗転してから、写し出されたのは制服を着た金髪の挿れられる側の男だ。
保健室の壁側のベッドで壁に背を預け、脚をM字に開いて自分の尻穴をいじっている。
最初は人差し指一本だけだったのに、快楽に抵抗出来なくて中指と薬指とも増えていくのだ。
金髪の頬は紅潮していて、すごく気持ち良さそう……。
ビクビクと腰を揺れさせたり、身をよじらせながら、金髪の子の口がぱくぱくと動く。
口の形的に「気持ちいい」とか「イく」だろうか。
射精寸前で黒髪の男の子に見つかり(そんな神がかったタイミングある?)、黒髪の男の指で尻の穴をいじられて金髪の男は射精した。
それだけで終わらず黒髪の男が、金髪の男をベッドに押し倒して、脚をM字に開かせる。
覆い被さるように、黒髪は金髪に身体を寄せて、金髪の尻穴に黒髪の子の性器を挿れる。
まるで金髪の子の体を貫くような勢いで、黒髪は腰を動かしている。
黒髪から金髪に唇を落として、そのままセックスに夢中になっている。
二人とも気持ち良さそうで、幸せそうだ。
本当に……? いやいや、演技演技。
AV見て、女はレイプされるのが好きなんだ! って思う奴、いねえだろ。
俺は便器に向かって一歩前に進み、後ろに腕を回す。
試しにやってみるだけだから! 先っちょだけだから! と自分に言い聞かせて、尻の穴に右手の中指の先っちょだけ入れてみる。
あ、確かに、裏側がこすられる感じっていうか、くすぐったいかも……。
「下着、下から入れるよ」
今、このタイミングで……? 鬼かよ。
そう思いながら、俺は扉の下から手を伸ばす。
掌に置かれたのは、茶色の紙袋だった。
え? プレゼント用包装ってこと?
ガサゴソと茶色の紙袋を開けた俺は、その中身に気を失いそうになった。
「こ、これ、女物の下着だろ……ッ」
大声をあげそうになったが、声のボリュームを最小限に抑えた。
淡いピンク色の、ひらひらのレース生地のTバッグ。前は前でワンピースのチーズケーキくらいの、布面積しかない。
俺が失神しそうになったのは、開かれた股の部分についた複数のパールだった。
こんなもん履ける訳がない。
「ガチでキモいって……」
「ひかるくん。はいた方が、良いよ」
「俺が頼んだ下着は?」
「ああ。車に、積み込んだよ」
さらりと、流水かのように言う静弥。
鬼通り越して、悪魔だろ……!
「ペニスに真珠が当たって、きっと気持ちいいよ。それか変態みたいに、ノーパンで帰る? 僕はどっちでも良いけど」
神様。オナニー中は知能指数が下がるだの、恋愛に関することには知能指数が下がるとよく言いますね。おっしゃる通りだと、思います。
無意識にうちに、口から漏らしていた。
「きもちいいのしゅきィ……」
「うんうん。そうだね、ひかるくんは卑猥だものね」
淫乱と卑猥って、どう違うんだっけ?
俺は靴を脱いで、流れ作業でズボンとボクサーパンツを脱ぐ。
扉一枚隔ててるとは言え静弥がすぐ近くに居るのに、下半身丸出しだ。
耐えがたい、羞恥心に襲われる。
今この場に居る人間に、自分の下半身を見られているような幻覚に襲われた。
「ヒあっ……」
ショーツのポケットに脚を通して、ショーツをずり上げる。
天井を向き膨張している男性器に、冷たいパールが当たった。
え、なに、コレ。気持ちイイ。俺は手でパールを弄り、竿に擦りつける。
「あンっ、そこ、気持ちぃイ、」
まるでAV女優みたいな言葉を吐き出すと同時に、膨張した男性器の方も精液を弾けさせた。
床に滴ったソレを見て、俺はすかさずトイレットペーパーを千切り床を拭いた。
何やってんだよ! こんなところで! 頭では分かっているのに、身体は昂るばかりだ。
「せ、せいや……」
「ちゃんと、出してえらいね。いい子」
まるで静弥に頭を撫でられてるかのような、気がした。
その言葉だけで、生きられる。
明日がいい日じゃなくっても、最悪な日でもいい。
横に静弥が居る。それだけで、いい。
大学一年生の夏休み。里帰りした俺に雲雀丘が見せて来た快楽堕ちのAV。
女優が公衆便所でたくさんの男に、輪姦されていた。
最初は嫌がる女優だが、次第には男優達の肉便器になっていく。
画面の中の女優は手コキをさせられ、イラマチオをされ、男優が吐いたタンを飲まされ、女性器に無遠慮に男性器が挿入され、中出しされ、男が吐いたタンまで飲まされる。
男達に好き放題蹂躙されて、最後には飲尿まで自ら志願していた。
演技だとは分かっているけど、俺は女が堕ちていく様が妙なリアリティがあって怖かったのだ。
今は、違う。
無茶苦茶に、されたい。他の誰でもない静弥に、犯されたい。
静弥のを挿れられたいし、顎が外れそうなくらいのイラマもされたいし、後ろにアナルビーズを挿れられたり抜かれたりしたい。
「せいや、おれ、もうっ……」
我慢出来ない。ヤろう? 俺が言葉を放つより前に、扉越しに静弥は言った。
「駄目。今日は、帰ろう」
その声は雪の下の土みたいに冷たくて、俺は肯定しか出来なかった。
*
山道に揺られること、一時間。無事に、山南村に到着した。
俺の身体の昂りはやっと治り、思考力が心臓と脳に帰って来た。
あれから静弥にパール付きショーツを脱がされ、ノーパンで駐車場まで歩かされた。
道行く人の視線に震えながらセダンに乗り、HUのパンツに履き変えたのだ。
日はすっかり沈んでおり、黒に近い深緑の山の中にポツポツと黄色の電気の灯りが点いている。
子供の頃より、灯りの数が減った。
車を停めるなり、虎婆さんがすっ飛んで来た。
風呂に入った後なのだろう。子猫ちゃんのフードが付いた、ショッキングピンクの豹柄のパジャマを着ている。
虎婆さんの頭には、有名なネズミの会社の暴れん坊な青い宇宙人のヘアバンドが巻かれている。
いやだから、濃いって。
「静弥ちゃん! RRRメンバーからの垂れ込みだけどね、怪しい東京ナンバーの車が郵便局のガレージに停まってるらしいんだよ!」
RRR? インド映画? 俺の疑問を感じ取ったのか、静弥は
「虎婆さんと友達のグループチャット名。ラブリー 老婆 レボリューションだよ」
と、教えてくれた。
なんで普通にしてられるんだよ、俺にあんなことをした癖に!
「ラブリーはLだろ! 老婆は、日本語かよ! 短い余生で、どう革命起こすんだよ!」
全部の単語にツッコミが必要って、どういうことだよ。もうツッコミを入れ切れないッ……!
しかし東京ナンバーの車くらいで、こんだけ大騒ぎ出来るのは流石田舎者。
「誰かが、帰って来たんじゃないの?」
普通に考えて、そうだろう。特段珍しいことじゃない。
「あんな赤いスポーツカー乗ってる奴、山南村にいやしないよ! ホストみたいな男が二人乗ってるらしいんだよ! 老人に、シャンパンを入れさす気なのさ!」
東京ナンバー。赤いスポーツカー。ホスト風の男二人。
俺と静弥は、顔を見合わせた。
「ねぇ、それってさ」
「俺も、同じこと考えてるよ……」
*
俺達は鷹戸川の下流付近にある郵便局へ移動して、やっぱりと声を上げた。
シャッターが閉まった郵便局の脇のガレージに、虎婆さんが言ってた通り赤いスポーツカーが停車している。
人や車通りはなく、さわさわと音を立てている川の水流音だけ聞こえる。
ガードレールに手をつけて、身を乗り出して川原を見下ろす。
視界の左端に、黄色いテントが見えた。
ミームの音楽の流れている方を見ると、爆音で音楽を流しながらトリニティの二人が踊っている。
二人ともダンスにキレがあり、音楽とのズレもない。
何よりどんなに急いでいる人間や、世の中に絶望している人間の視線を奪う華が、二人のダンスにはある。
どれも、俺にはないものだ。
俺は松葉杖を抱き、幅も手すりもない階段を、ケンケン歩きで下りる。
靴で石を踏んづけてしまい、ジャリと音が鳴った。
「何やってんだよ」
二人はダンスを中断して、俺と後ろについて来た静弥を振り返った。
「晄、家出中じゃないのかよ?」
「家出中の人間が、村に居たら悪いかよ」
「いやー。てっきりホテル暮らしでも、始めたんかと」
「そんな金ねぇよ。歩夢(あゆむ)がくれるってんなら、貰うけど」
「あげねーよ」
RuKIこと歩夢は燃え盛るような赤い髪をかきあげながら、笑った。
歩夢の顔立ちは、一言で表す言うとラテン的な顔立ちだ。
健康的な小麦の色の肌。歩夢の感情に合わせて生き物のように動く、キリッとした太い眉毛。生命力を感じる黒めがちな瞳は、他人の心に訴える力がある。高い鼻に、大きな口。箸が転がっただけでも、歩夢はよく口を開けて笑っている。
男らしい野生味もあり、見るからに陽キャである。
がっしりとした身体つきは、雄の強さの証だ。
「智顕(ちあき)こっち来いよ~」
ぼんチ。こと智顕は川原をぶらぶらと歩き回っていた足を止め、こちらへUターンして来た。
智顕はヨーロッパの美術館で飾られている彫刻のように、美しい。白磁の肌には、シミ一つない。垂れ下がった目は、幼さと無垢さを感じる。通った鼻筋に、小さな口。
初めて会った時は、余りの美しさに言葉を失った。
「ひかる~。この石、あげる。可愛いよ」
智顕は川原で拾ったらしい、灰色の丸い石を渡して来た。
「石に可愛いも、クソもあるか……」
智顕は静弥を見ながら、言う。
「そっちの人に、似てるよ。大事にしてね」
歩夢がすかさず智顕の頭を鷲掴みにして、下げさせる。歩夢自身も、深く頭を下げた。
「すみません……! こいつ思ったことを、そのまま言っちゃうんです! 傷つけようとか思ってなくって、本当に感じたってだけつーか」
「はい」
静弥は何処にもアクセントを置かずにそれだけ言って、話を終わらせた。
なに、この空気……。
俺は屈んで、緑がかった丸い石を拾った。
「この石、俺に似てるかも」
ホラ、緑だし! って三人に見せると、歩夢は手を叩いて笑った。
「お前、こんなに丸くねーし! 全然似てねーよ!」
「当たり前だろ、鍛えてんだから」
「性格、トガってるもんね」
智顕が、ケラケラと笑っている。
静弥も、歯を見せて笑い出す。
もしもの話をしても仕方ないのに、想像してしまう。
俺と静弥がこんなクソ田舎な村じゃなくって、もし東京に生まれていたらーーって。
トイレの扉に背を預けてベルトのバックルを外して、ズボンとパンツを床に目掛けて下とす。
「……ッ」
時間が時間なだけあって、トイレは人の気配がたくさんある。
手洗い場で手を洗う音、小便器で用を足す音、うるさいくらいのジェットタオルの音。
ダメだ。こんなところで、オナニーするなんて! こんだけ沢山の音がしているんだから、却ってバレないんじゃないか?
そんな矛盾めいたことを、延々と考えていた。
現実問題こんな昂まった身体のまま、一時間も車に乗るなんて無理だ。
「ちょっとだけ、なら」
自分の性器なのに、割れ物を運ぶ時みたいにそろそろと手を伸ばす。
まだ柔らかい自身の竿を右手でそっと握り、揉み込む。
あ、気持ちいい。
最初はゆっくりと揉んでいるだけだったのに、次第に揉むスピードが上がっていく。
「はっ、はッ……」
自分で恥ずかしくなるくらい、膨張したソレは先端部分が濡れていた。
個室の薄黄色の照明に照らされて、自分の愚かさに泣き出しそうだ。
今まで浴びたどんなライトよりも、一番気持ちいいなんて嘘だろ。
気持ちいいに、逆らわなきゃダメだ。こんなので喜んでいるから、俺は凡人なんだ。
止まれ、止まれよッ……! 頭では必死にブレーキをかけているのに、性器を扱く手は勢いを増すばかりだ。
コンコン。個室の扉が、ノックされる。
びくりと俺の肩は、跳ね上がった。
長いこと入っていて、不審に思われただろうか? いや、オナニーしてることがバレたのかもしれない。
喉がヒュッと鳴り、カタカタと肩が震える。
「ひかる君」
ドアの前から聞こえたのは、静弥の海のような深い声だった。
なんで、ここに……? オナニーしたって、バレた? パンツ、受け取らないと。
疑問や恐怖やタスクが浮かび、どう言うべきか分からず俺は黙る。
「どうしたの? 気持ち悪い?」
こいつ絶対に分かってて、言っている。
言うもんか、喜ばせたら、ダメだ。
静弥みたいな変態は、いいって言おうが悪いって言おうが興奮するんじゃないのか?
「き、きもちイイ……」
俺は蚊の鳴くような声で、そう返事した。
静弥の喉仏が、ゴクリと鳴った音が微かに聞こえた。
「どんな状態なの?」
傍から見たら、体調不良の友人を気遣う青年の図だろう。
オナニーなんてやめて、個室から出ないと。こいつの言いなりになったら、なし崩し的に身体まで許してしまう。
「で、出そうで出ない……」
そう言いながら、俺はオナニーを止めない。正確には、止められない。
足がこんなにガクガクと震えて、今すぐにでも倒れ込みそうだ。
「出しちゃった方が、楽になるよ。ツボ押しの動画、送るね」
こんな時まで、老人くさい。俺は小さく笑ってしまった。
スマホがヴーッと振動したので、通知欄を見る。
「お、お前っ……」
動画のタイトルは、どう見てもツボ押しじゃない。
女用のBLの無料動画だった。
【ツンデレ美少年がアナニーしてたら、片思い中の同級生に見つかり……!?】
最近はAVまで、Webコミックみたいにあらすじがタイトルになっているのか。なんてぼんやり思う。
スマホをサイレントモードにして、動画を再生する。
ヤンチャそうな金髪が挿れられる方で、大人しそうな黒髪が挿れる方らしい。
俺達とかみたいとか、思ってないし。全然、ちっとも。俺、緑髪だし。
冒頭はモブの男子生徒達が、教室で弁当を食べたり教室でスマホをしているシーンから始まる。
時間設定は、昼休みなのだろう。
一度暗転してから、写し出されたのは制服を着た金髪の挿れられる側の男だ。
保健室の壁側のベッドで壁に背を預け、脚をM字に開いて自分の尻穴をいじっている。
最初は人差し指一本だけだったのに、快楽に抵抗出来なくて中指と薬指とも増えていくのだ。
金髪の頬は紅潮していて、すごく気持ち良さそう……。
ビクビクと腰を揺れさせたり、身をよじらせながら、金髪の子の口がぱくぱくと動く。
口の形的に「気持ちいい」とか「イく」だろうか。
射精寸前で黒髪の男の子に見つかり(そんな神がかったタイミングある?)、黒髪の男の指で尻の穴をいじられて金髪の男は射精した。
それだけで終わらず黒髪の男が、金髪の男をベッドに押し倒して、脚をM字に開かせる。
覆い被さるように、黒髪は金髪に身体を寄せて、金髪の尻穴に黒髪の子の性器を挿れる。
まるで金髪の子の体を貫くような勢いで、黒髪は腰を動かしている。
黒髪から金髪に唇を落として、そのままセックスに夢中になっている。
二人とも気持ち良さそうで、幸せそうだ。
本当に……? いやいや、演技演技。
AV見て、女はレイプされるのが好きなんだ! って思う奴、いねえだろ。
俺は便器に向かって一歩前に進み、後ろに腕を回す。
試しにやってみるだけだから! 先っちょだけだから! と自分に言い聞かせて、尻の穴に右手の中指の先っちょだけ入れてみる。
あ、確かに、裏側がこすられる感じっていうか、くすぐったいかも……。
「下着、下から入れるよ」
今、このタイミングで……? 鬼かよ。
そう思いながら、俺は扉の下から手を伸ばす。
掌に置かれたのは、茶色の紙袋だった。
え? プレゼント用包装ってこと?
ガサゴソと茶色の紙袋を開けた俺は、その中身に気を失いそうになった。
「こ、これ、女物の下着だろ……ッ」
大声をあげそうになったが、声のボリュームを最小限に抑えた。
淡いピンク色の、ひらひらのレース生地のTバッグ。前は前でワンピースのチーズケーキくらいの、布面積しかない。
俺が失神しそうになったのは、開かれた股の部分についた複数のパールだった。
こんなもん履ける訳がない。
「ガチでキモいって……」
「ひかるくん。はいた方が、良いよ」
「俺が頼んだ下着は?」
「ああ。車に、積み込んだよ」
さらりと、流水かのように言う静弥。
鬼通り越して、悪魔だろ……!
「ペニスに真珠が当たって、きっと気持ちいいよ。それか変態みたいに、ノーパンで帰る? 僕はどっちでも良いけど」
神様。オナニー中は知能指数が下がるだの、恋愛に関することには知能指数が下がるとよく言いますね。おっしゃる通りだと、思います。
無意識にうちに、口から漏らしていた。
「きもちいいのしゅきィ……」
「うんうん。そうだね、ひかるくんは卑猥だものね」
淫乱と卑猥って、どう違うんだっけ?
俺は靴を脱いで、流れ作業でズボンとボクサーパンツを脱ぐ。
扉一枚隔ててるとは言え静弥がすぐ近くに居るのに、下半身丸出しだ。
耐えがたい、羞恥心に襲われる。
今この場に居る人間に、自分の下半身を見られているような幻覚に襲われた。
「ヒあっ……」
ショーツのポケットに脚を通して、ショーツをずり上げる。
天井を向き膨張している男性器に、冷たいパールが当たった。
え、なに、コレ。気持ちイイ。俺は手でパールを弄り、竿に擦りつける。
「あンっ、そこ、気持ちぃイ、」
まるでAV女優みたいな言葉を吐き出すと同時に、膨張した男性器の方も精液を弾けさせた。
床に滴ったソレを見て、俺はすかさずトイレットペーパーを千切り床を拭いた。
何やってんだよ! こんなところで! 頭では分かっているのに、身体は昂るばかりだ。
「せ、せいや……」
「ちゃんと、出してえらいね。いい子」
まるで静弥に頭を撫でられてるかのような、気がした。
その言葉だけで、生きられる。
明日がいい日じゃなくっても、最悪な日でもいい。
横に静弥が居る。それだけで、いい。
大学一年生の夏休み。里帰りした俺に雲雀丘が見せて来た快楽堕ちのAV。
女優が公衆便所でたくさんの男に、輪姦されていた。
最初は嫌がる女優だが、次第には男優達の肉便器になっていく。
画面の中の女優は手コキをさせられ、イラマチオをされ、男優が吐いたタンを飲まされ、女性器に無遠慮に男性器が挿入され、中出しされ、男が吐いたタンまで飲まされる。
男達に好き放題蹂躙されて、最後には飲尿まで自ら志願していた。
演技だとは分かっているけど、俺は女が堕ちていく様が妙なリアリティがあって怖かったのだ。
今は、違う。
無茶苦茶に、されたい。他の誰でもない静弥に、犯されたい。
静弥のを挿れられたいし、顎が外れそうなくらいのイラマもされたいし、後ろにアナルビーズを挿れられたり抜かれたりしたい。
「せいや、おれ、もうっ……」
我慢出来ない。ヤろう? 俺が言葉を放つより前に、扉越しに静弥は言った。
「駄目。今日は、帰ろう」
その声は雪の下の土みたいに冷たくて、俺は肯定しか出来なかった。
*
山道に揺られること、一時間。無事に、山南村に到着した。
俺の身体の昂りはやっと治り、思考力が心臓と脳に帰って来た。
あれから静弥にパール付きショーツを脱がされ、ノーパンで駐車場まで歩かされた。
道行く人の視線に震えながらセダンに乗り、HUのパンツに履き変えたのだ。
日はすっかり沈んでおり、黒に近い深緑の山の中にポツポツと黄色の電気の灯りが点いている。
子供の頃より、灯りの数が減った。
車を停めるなり、虎婆さんがすっ飛んで来た。
風呂に入った後なのだろう。子猫ちゃんのフードが付いた、ショッキングピンクの豹柄のパジャマを着ている。
虎婆さんの頭には、有名なネズミの会社の暴れん坊な青い宇宙人のヘアバンドが巻かれている。
いやだから、濃いって。
「静弥ちゃん! RRRメンバーからの垂れ込みだけどね、怪しい東京ナンバーの車が郵便局のガレージに停まってるらしいんだよ!」
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「虎婆さんと友達のグループチャット名。ラブリー 老婆 レボリューションだよ」
と、教えてくれた。
なんで普通にしてられるんだよ、俺にあんなことをした癖に!
「ラブリーはLだろ! 老婆は、日本語かよ! 短い余生で、どう革命起こすんだよ!」
全部の単語にツッコミが必要って、どういうことだよ。もうツッコミを入れ切れないッ……!
しかし東京ナンバーの車くらいで、こんだけ大騒ぎ出来るのは流石田舎者。
「誰かが、帰って来たんじゃないの?」
普通に考えて、そうだろう。特段珍しいことじゃない。
「あんな赤いスポーツカー乗ってる奴、山南村にいやしないよ! ホストみたいな男が二人乗ってるらしいんだよ! 老人に、シャンパンを入れさす気なのさ!」
東京ナンバー。赤いスポーツカー。ホスト風の男二人。
俺と静弥は、顔を見合わせた。
「ねぇ、それってさ」
「俺も、同じこと考えてるよ……」
*
俺達は鷹戸川の下流付近にある郵便局へ移動して、やっぱりと声を上げた。
シャッターが閉まった郵便局の脇のガレージに、虎婆さんが言ってた通り赤いスポーツカーが停車している。
人や車通りはなく、さわさわと音を立てている川の水流音だけ聞こえる。
ガードレールに手をつけて、身を乗り出して川原を見下ろす。
視界の左端に、黄色いテントが見えた。
ミームの音楽の流れている方を見ると、爆音で音楽を流しながらトリニティの二人が踊っている。
二人ともダンスにキレがあり、音楽とのズレもない。
何よりどんなに急いでいる人間や、世の中に絶望している人間の視線を奪う華が、二人のダンスにはある。
どれも、俺にはないものだ。
俺は松葉杖を抱き、幅も手すりもない階段を、ケンケン歩きで下りる。
靴で石を踏んづけてしまい、ジャリと音が鳴った。
「何やってんだよ」
二人はダンスを中断して、俺と後ろについて来た静弥を振り返った。
「晄、家出中じゃないのかよ?」
「家出中の人間が、村に居たら悪いかよ」
「いやー。てっきりホテル暮らしでも、始めたんかと」
「そんな金ねぇよ。歩夢(あゆむ)がくれるってんなら、貰うけど」
「あげねーよ」
RuKIこと歩夢は燃え盛るような赤い髪をかきあげながら、笑った。
歩夢の顔立ちは、一言で表す言うとラテン的な顔立ちだ。
健康的な小麦の色の肌。歩夢の感情に合わせて生き物のように動く、キリッとした太い眉毛。生命力を感じる黒めがちな瞳は、他人の心に訴える力がある。高い鼻に、大きな口。箸が転がっただけでも、歩夢はよく口を開けて笑っている。
男らしい野生味もあり、見るからに陽キャである。
がっしりとした身体つきは、雄の強さの証だ。
「智顕(ちあき)こっち来いよ~」
ぼんチ。こと智顕は川原をぶらぶらと歩き回っていた足を止め、こちらへUターンして来た。
智顕はヨーロッパの美術館で飾られている彫刻のように、美しい。白磁の肌には、シミ一つない。垂れ下がった目は、幼さと無垢さを感じる。通った鼻筋に、小さな口。
初めて会った時は、余りの美しさに言葉を失った。
「ひかる~。この石、あげる。可愛いよ」
智顕は川原で拾ったらしい、灰色の丸い石を渡して来た。
「石に可愛いも、クソもあるか……」
智顕は静弥を見ながら、言う。
「そっちの人に、似てるよ。大事にしてね」
歩夢がすかさず智顕の頭を鷲掴みにして、下げさせる。歩夢自身も、深く頭を下げた。
「すみません……! こいつ思ったことを、そのまま言っちゃうんです! 傷つけようとか思ってなくって、本当に感じたってだけつーか」
「はい」
静弥は何処にもアクセントを置かずにそれだけ言って、話を終わらせた。
なに、この空気……。
俺は屈んで、緑がかった丸い石を拾った。
「この石、俺に似てるかも」
ホラ、緑だし! って三人に見せると、歩夢は手を叩いて笑った。
「お前、こんなに丸くねーし! 全然似てねーよ!」
「当たり前だろ、鍛えてんだから」
「性格、トガってるもんね」
智顕が、ケラケラと笑っている。
静弥も、歯を見せて笑い出す。
もしもの話をしても仕方ないのに、想像してしまう。
俺と静弥がこんなクソ田舎な村じゃなくって、もし東京に生まれていたらーーって。
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