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十三話
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智顕が好きな映画の一つである、人の夢に入る洋画をちょっと前に見た。
頭が悪い俺は映画の内容を理解出来ず、馬鹿って映画を楽しむことすら出来ないんだ。
好きなヤンキーバトル漫画は、馬鹿がいかに強いかを説いていたけど嘘だと気付いた。
馬鹿って、損じゃん。搾取されるだけじゃん。金持ちが楽する為に、馬鹿と言う名の奴隷が底辺の仕事をしているんだ。
社会の仕組みを理解出来る脳みそはあるのに、這い上がる為の策略や知恵を考える脳みそは俺にはない。
それって、一番キツくね……?
洋画に度々出て来る「虚無」と言うフレーズに、俺は首を傾げていた。
なんだよ、虚無って。暗闇ってこと?
今になって、分かる。
もうーー辛さも、恐怖も、空腹も、悲しみも、楽しさも、何も感じない。
ああそうか、虚無ってこういうことか。
*
今から約一時間前。俺は静弥に、家の裏にある蔵に押し込められた。
蛍光灯等の電気はなくって、言葉通りの真っ暗闇。
服は下着も含めて全て剥がれて、すっぽんぽんにされた。
静弥はまるでルーブル美術館のモナリザを見るような、うっとりとした視線で俺を見つめていた。
ガチでキモいし、怖いんですけど……。
腕は後ろに回され手の甲を尻にピタリとつけられて、結束バンドで手首をギチギチに縛られた。
荷造り紐とかガムテープとかじゃないあたり、サイコじみてて怖い。
足首はロープで縛られた挙句、ガムテープでぐるぐるに巻かれてしまった。
俺はうつ伏せで、真っ暗な床を眺めるしか出来ない。
昼間はあんなに暑かったのに、日が落ちると急激に気温が下がった。
真冬並までは言わないが、肌寒いのに全裸で放置されるとかどんな拷問だよ。
最大の問題は、尻の穴にアナルビーズをぶち込まれていることだ。
俺の尻に入れられている、アナルビーズは肉団子くらいのサイズをしている。
尻の穴をローションで慣らしたりとかはなく、快楽堕ちのあのAVみたいに無遠慮に静弥の細長い指で拡げられた。
自身の人差し指を舐めて、俺の尻の穴にそれを挿れる静弥。そんなんで、解れるかよ。
最初の一本二本は、自分で触るのと全然違う! 静弥の冷たい指に、体温が奪われていくみたいでゾクゾクする……ッ! なんて、馬鹿みたいなことを思っていたし、ゴリラみたいな喘ぎ声もあげていた。
三本目の指を挿れられた時に、自分の腿裏をどろりと滴る液体にやっと気が付いたのだ。
暗闇でぎらりと赤く光ったソレは、間違いなく俺の血だった。
やっと俺は、異常性に気付いた。
さっきの発言は、確かに失言だと思う。だけど、こんな真似をされる筋合いはない。
「や、やめろ! 嫌だ!」
「行為が、嫌なの? 僕が、嫌なの?」
「どっちもに決まってんだろ、アホ!」
こんな頭おかしい奴と、一ヶ月間も付き合うなんて無理だ。
こいつと過ごすくらいなら歩夢達みたいに、テントでも買って野宿する方が精神衛生が良い。
火おこし、食料調達、川の氾濫、トイレ問題。知るか! 静弥よりは、何とかなる!
別れた彼女が好きだった、漫画のヒロインの台詞を思い出した。
『弱っている時に優しくしてくれる人は、優しい人じゃないよ。自分にとって、都合が良いだけの人』
そうだ、そうじゃん。
俺と静弥はたまたま箱庭みたいなド田舎に生まれた、親に愛されなかった少数派だ。
人との繋がりが命取りで村中の人間が他人を監視し合っているこの村では、少数派中の少数派だろう。
お互いの傷を理解し合えるなんて、建前だ。
静弥が探していたのは、始めから性欲の捌け口。
そこにたまたま、傷を負った捨て猫の俺が居た。
餌を与えられた猫ちゃんな俺は、静弥を親のように錯覚してしまったのだ。
こいつが俺に与えた餌は、白米と麦茶だけだけど……。
考えれば考えるほど、人権適用されてないじゃん。
「嘘吐き」
あ、ヤバい。俺の脳内で、アラートが鳴り響く。
静弥の顔色はきっと青くなり、豹変するだろう。
来てしまうんだ、あの怪物が。
静弥は何も言わず、俺に覆い被さった。
背中に静弥の薄い胸板が当たり、耳に奴の息がかる。
ヤバい。これ、挿れられるじゃん。
サーッと全身から、血の気が引いていく。
蔵の中でレイプされるとか、嫌すぎるわ。
「こんなに乳首赤くして、嫌ってことはないでしょ」
懐中電灯で俺の乳首を照らしながら、言う静弥。
床のコンクリートで摩擦されて、腫れてるだけですけど? なんならこっちも、擦り切れて痛いですけど?
静弥の中指の腹で右向きに乳首が擦られたかと思えば、直ぐに逆方向に擦られる。また右方向に擦られて、反復横跳びみたいだ。
静弥の指が動く度に、快感が深くなっていく。
「ん、や、あっ……」
「どうしたいの?」
その質問でやっと俺に「静弥と、セックスしたい」と、言わせる為の罠だと気が付く。
俺がいつも流されると思ったら、大間違いだぞ。
今回ばかりは、本気で反抗するぞ。
今までの反抗が二歳児のイヤイヤ期なら、さしずめ第二次性徴期くらいか? 自分で言ってて、恥ずかしくなって来た。
「お前から、離れたい」
「嘘ばっかり。僕が居ないと、生きられない癖に」
静弥は俺から離れて、立ち上がった。そのまま蔵の右端にある木製の棚へ行き、棚の二段目に手を伸ばした。
何か手に取って、戻って来やがったな。
静弥は俺の前に周り、笑顔を向けながら屈んだ。
懐中電灯の灯りで箱が照らされて、大声をあげる。
デカい黒色のボールが、五つ並んでいる。長さは、二十五センチくらい……か?
こんなもん、入る訳がないッ……! 挿れられたら、死んでしまう! こんなのを覚えたら、もう後戻り出来なくなる……ッ!
「無理無理無理無理ッ! そんなの、入らないから! やだ!」
「入らないから、嫌なの?」
「そんな異物を、挿れることがだよ!」
静弥は「そっかそっか」と頷き、箱からアナルビーズを取り出した。
話、聞けよ。
箱から取り出されたアナルビーズは、中世の拷問器具のような凶悪な見た目をしていた。
デカ……。長……。
静弥はゆっくりと、俺に近づいて来る。
「やめろッ……! 嫌だ!」
俺の声などこいつに届く筈もなく、俺の声は暗闇に吸収されるだけだった。
「ンぐっ、ひギっ、おボッ……!」
俺の尻の穴に、アナルビーズが挿入された。
想像の五倍くらい、痛い。ガキの頃に、熱冷ましの坐薬を挿れられた時の比じゃねえ!!
輪姦もののAVとかで、女優が尻の穴に男性器を挿入された時
「あ~んあん(雑誌か?)、壊れちゃう~」とか言っているのだけは、本当なのではないだろうか。
食い込んで来る、残りのアナルビーズが。
また俺の身体が、熱を帯び出す。その熱で穴を溶かして、拷問器具そっくりのに形が変わってしまったかのような錯覚を覚える。
静弥は何も言わず蔵から出ていき、倉庫錠をガチャン。と、閉めた。
錆びた金属の音が、暗闇の中で鈍く響いた。
その音がまるで二人を引き離すみたいで、表現しきれない怖さが俺を襲う。
嫌だ、一人ぼっちは嫌だ。
「や、ヤダ、静弥……ッ! 酷いこと言って、ごめんッ……! チンコ舐めるし、尻の穴も舐めるし、肉便器みたいに、俺を使って良いよ! だから、だから、置いていかないで!」
目と鼻と口から出るものを出し切る勢いで、涙と鼻水とヨダレを垂れ流した。
その声も、暗闇に呑まれただけだった。
*
アタシの人生最大の汚点は、あの男と結婚してしまったことだ。
典型的な日本人男で彼奴はアイロンがけすら習得せずに、十五年前のニ月の末にくたばった。
春の太陽を浴びることなく、ぽっくりと逝ってしまった。
享年六十九歳。若くして、亡くなったと思う。
夫の葬式は親族一同が集まったことを、はっきりと覚えている。北は青森から、南は大分まで。
初めて会う人間ばかりで、流石のアタシも気疲れしてしまった。
生前の夫の希望で自宅葬をしたが、下準備三秒でやるもんじゃない。と、後悔をした。
遠方から来る親族の宿泊場所の確保をする為に民宿「香雅(かが)」に電話をかけたら予約が、無事取れた。
東京の親族に案内の電話を入れると
「そんな貧乏くさいところに、泊まらせるなんて失礼じゃない? 田舎の人には、分からないかもしれないけど」なんて、嫌味を言われた。
ハンッ! 雨風凌げるだけで、有難いじゃないか。
なんやかんやあった葬式は無事に(暴れて)、終わらせて後は残る余生を楽しく過ごそうと思っていた。
そんな矢先に、あの子がアタシの前に現れたんだ。
忘れもしない、アレは三月の上旬のことだった。
その日は一日雨が降っていて、アタシは一日家に居た。
夕刊を取りに玄関の扉を開けたら、家の庭に立てかけられた見慣れない広がった蝙蝠傘が目についたのさ。
誰かが野良猫にでも差し出したかと思ったけど、傘の中に居たのは五歳くらいの男の子だった。
ガラス玉を埋め込んだような、生気のない瞳。薄汚れた、Tシャツにズボン。髪と爪は伸び切っているし、靴の底は穴が空いていた。
この子、沼黒さん家の……。あの、ややこしい家の子か。
勝手に他人の家の敷地に入るなんて、最近の若者は碌に躾すら出来ないのかい。
こう言う場合はまず警察と言うけれど、この村の警察は屁の役にも立ちやしない。
「お家、帰りな!! 帰らなかったら、しばき回すよ!!」
アタシが脅す方が、早いだろう。そう思って啖呵を切ったのに、男の子は動かない。
「何やってんだい!! 帰りな!! 帰れ!! 煮て食べるよ!!」
男の子は、黙ったまま返事をしない。
返事くらいしたら、どうなんだい。近頃のガキは、なってないねえ! 喉まで出かかった言葉を、アタシは飲み込んだ。
こんな時間に、一人で居ること。薄汚れた服装。ボサボサの髪。
アタシの答え合わせをするように、男の子の腹の虫が馬鹿デカい鳴き声をあげた。
「ちょっと待ってな。おにぎり、握ってやるから。梅干しで、良いかい?」
「ツナマヨがいい」
「そんなもん、うちにないよ。黙って梅干しおにぎりを、食べな。美味いから」
男の子は顔はパァッと輝き「おばあさん、ありがとう」と、礼を言ってきたので、アタシは頭に拳骨を喰らわせた。
「せめて、おばちゃんって呼びな。お姉さんでも良いよ」
「おおばあちゃん?」
「乳歯、全部抜くよ! クソガキが!」
これが忘れもしない、静弥ちゃんとの出会いだった。
「アンタ、また来たのかい」
翌日。やらかした。と、早速後悔した。
野良猫に牛乳を一口でも与えたら住み着くように、子供だってそうだろう。
「うん」
「帰れ! お父さんと、お母さん心配するよ!」
「しないよ」
キッパリと、静弥ちゃんはそう言い切った。
子供は、すぐバレる嘘を吐く。訳分かんない老人の家に上がり込んで、心配しない親なんて居やしない。
「家には、入れないよ」
「うん」
そう言って静弥ちゃんは、郵便受けの柱に背を預けて座った。
「飯もおやつも、やらないよ!」
「うん」
その日は仕事帰りの父親が、ヘラヘラと笑いながら静弥ちゃんを引き取っていった。
何、笑ってんだい。まず、アタシに謝罪だろ。前歯を全部負ってやろうか、顔だけの優男が。
そう叫んでも「だから、すみませんって」と、父親は笑って流していた。
アタシは助走をつけて父親の背中に跳び膝蹴りを喰らわせたが、奴は「おばあさん、元気が良いですね~」と軽薄な笑顔を浮かべているだけ。
この子の言っていたことが事実だと知り、なんて残酷なことを言ってしたんだろうか。と、反省した。
亡くなった夫と口喧嘩した時よりも、後悔の気持ちは大きかった気がするよ。
次の日も、その次の日も、ずっと静弥ちゃんはうちの家にやって来た。
相変わらず郵便受けの柱に背を預けて、絵本を読んでいる。
カンカン照りの日も、雨の日も、風の日もやって来た。
流石にこの雨風の中入れないのは可哀想だと思い、家の中に入れてやることにした。
「おおばあちゃん、このもじ、よめない」
静弥ちゃんはコタツに置かれた夕刊を見ながら、そう言った。
「お姉さんだって、言ってるだろ。それはね、漢字。小学校に上がったら、習うよ」
「いま、よみたい。おしえて」
「勘弁してくれよ~。アタシは、学校の先生じゃないんだよ」
静弥ちゃんが床に置いた絵本を、アタシは摘み上げた。
女の子が読むような、お姫様の絵が表紙に描かれた可愛らしい絵本だ。
お気に入りなのか、いつもこの絵本を読んでいる。
図書館もない本屋もないこの村で絵本を買おうと思ったら、インターネット通販かアライブに行くしかない。
「アンタ、まさか、この絵本しか持ってないのかい」
「うん」
「今度の日曜日、アライブに連れて行ってやるよ。好きな絵本、一冊だけ買ってあげるから」
「うん」
口ではそう言っても、子供のことだ。コレも、買ってー! って、持って来やがるに違いない。
「良いかい!? 一冊は、一つだからね!」
アタシはそう言って、人差し指を一本立てた。
週末。約束通り静弥ちゃんは本屋で絵本を一冊だけ選んで、アタシの元へ戻って来た。
緑の表紙にライオンと男の子が描かれた、いかにも男の子が好きそうな絵本だった。
それから月に一回アライブへ、静弥ちゃんを連れて行った。
静弥ちゃんが中学校を卒業するまで、アタシは本を買い与え続けた。
頭が悪い俺は映画の内容を理解出来ず、馬鹿って映画を楽しむことすら出来ないんだ。
好きなヤンキーバトル漫画は、馬鹿がいかに強いかを説いていたけど嘘だと気付いた。
馬鹿って、損じゃん。搾取されるだけじゃん。金持ちが楽する為に、馬鹿と言う名の奴隷が底辺の仕事をしているんだ。
社会の仕組みを理解出来る脳みそはあるのに、這い上がる為の策略や知恵を考える脳みそは俺にはない。
それって、一番キツくね……?
洋画に度々出て来る「虚無」と言うフレーズに、俺は首を傾げていた。
なんだよ、虚無って。暗闇ってこと?
今になって、分かる。
もうーー辛さも、恐怖も、空腹も、悲しみも、楽しさも、何も感じない。
ああそうか、虚無ってこういうことか。
*
今から約一時間前。俺は静弥に、家の裏にある蔵に押し込められた。
蛍光灯等の電気はなくって、言葉通りの真っ暗闇。
服は下着も含めて全て剥がれて、すっぽんぽんにされた。
静弥はまるでルーブル美術館のモナリザを見るような、うっとりとした視線で俺を見つめていた。
ガチでキモいし、怖いんですけど……。
腕は後ろに回され手の甲を尻にピタリとつけられて、結束バンドで手首をギチギチに縛られた。
荷造り紐とかガムテープとかじゃないあたり、サイコじみてて怖い。
足首はロープで縛られた挙句、ガムテープでぐるぐるに巻かれてしまった。
俺はうつ伏せで、真っ暗な床を眺めるしか出来ない。
昼間はあんなに暑かったのに、日が落ちると急激に気温が下がった。
真冬並までは言わないが、肌寒いのに全裸で放置されるとかどんな拷問だよ。
最大の問題は、尻の穴にアナルビーズをぶち込まれていることだ。
俺の尻に入れられている、アナルビーズは肉団子くらいのサイズをしている。
尻の穴をローションで慣らしたりとかはなく、快楽堕ちのあのAVみたいに無遠慮に静弥の細長い指で拡げられた。
自身の人差し指を舐めて、俺の尻の穴にそれを挿れる静弥。そんなんで、解れるかよ。
最初の一本二本は、自分で触るのと全然違う! 静弥の冷たい指に、体温が奪われていくみたいでゾクゾクする……ッ! なんて、馬鹿みたいなことを思っていたし、ゴリラみたいな喘ぎ声もあげていた。
三本目の指を挿れられた時に、自分の腿裏をどろりと滴る液体にやっと気が付いたのだ。
暗闇でぎらりと赤く光ったソレは、間違いなく俺の血だった。
やっと俺は、異常性に気付いた。
さっきの発言は、確かに失言だと思う。だけど、こんな真似をされる筋合いはない。
「や、やめろ! 嫌だ!」
「行為が、嫌なの? 僕が、嫌なの?」
「どっちもに決まってんだろ、アホ!」
こんな頭おかしい奴と、一ヶ月間も付き合うなんて無理だ。
こいつと過ごすくらいなら歩夢達みたいに、テントでも買って野宿する方が精神衛生が良い。
火おこし、食料調達、川の氾濫、トイレ問題。知るか! 静弥よりは、何とかなる!
別れた彼女が好きだった、漫画のヒロインの台詞を思い出した。
『弱っている時に優しくしてくれる人は、優しい人じゃないよ。自分にとって、都合が良いだけの人』
そうだ、そうじゃん。
俺と静弥はたまたま箱庭みたいなド田舎に生まれた、親に愛されなかった少数派だ。
人との繋がりが命取りで村中の人間が他人を監視し合っているこの村では、少数派中の少数派だろう。
お互いの傷を理解し合えるなんて、建前だ。
静弥が探していたのは、始めから性欲の捌け口。
そこにたまたま、傷を負った捨て猫の俺が居た。
餌を与えられた猫ちゃんな俺は、静弥を親のように錯覚してしまったのだ。
こいつが俺に与えた餌は、白米と麦茶だけだけど……。
考えれば考えるほど、人権適用されてないじゃん。
「嘘吐き」
あ、ヤバい。俺の脳内で、アラートが鳴り響く。
静弥の顔色はきっと青くなり、豹変するだろう。
来てしまうんだ、あの怪物が。
静弥は何も言わず、俺に覆い被さった。
背中に静弥の薄い胸板が当たり、耳に奴の息がかる。
ヤバい。これ、挿れられるじゃん。
サーッと全身から、血の気が引いていく。
蔵の中でレイプされるとか、嫌すぎるわ。
「こんなに乳首赤くして、嫌ってことはないでしょ」
懐中電灯で俺の乳首を照らしながら、言う静弥。
床のコンクリートで摩擦されて、腫れてるだけですけど? なんならこっちも、擦り切れて痛いですけど?
静弥の中指の腹で右向きに乳首が擦られたかと思えば、直ぐに逆方向に擦られる。また右方向に擦られて、反復横跳びみたいだ。
静弥の指が動く度に、快感が深くなっていく。
「ん、や、あっ……」
「どうしたいの?」
その質問でやっと俺に「静弥と、セックスしたい」と、言わせる為の罠だと気が付く。
俺がいつも流されると思ったら、大間違いだぞ。
今回ばかりは、本気で反抗するぞ。
今までの反抗が二歳児のイヤイヤ期なら、さしずめ第二次性徴期くらいか? 自分で言ってて、恥ずかしくなって来た。
「お前から、離れたい」
「嘘ばっかり。僕が居ないと、生きられない癖に」
静弥は俺から離れて、立ち上がった。そのまま蔵の右端にある木製の棚へ行き、棚の二段目に手を伸ばした。
何か手に取って、戻って来やがったな。
静弥は俺の前に周り、笑顔を向けながら屈んだ。
懐中電灯の灯りで箱が照らされて、大声をあげる。
デカい黒色のボールが、五つ並んでいる。長さは、二十五センチくらい……か?
こんなもん、入る訳がないッ……! 挿れられたら、死んでしまう! こんなのを覚えたら、もう後戻り出来なくなる……ッ!
「無理無理無理無理ッ! そんなの、入らないから! やだ!」
「入らないから、嫌なの?」
「そんな異物を、挿れることがだよ!」
静弥は「そっかそっか」と頷き、箱からアナルビーズを取り出した。
話、聞けよ。
箱から取り出されたアナルビーズは、中世の拷問器具のような凶悪な見た目をしていた。
デカ……。長……。
静弥はゆっくりと、俺に近づいて来る。
「やめろッ……! 嫌だ!」
俺の声などこいつに届く筈もなく、俺の声は暗闇に吸収されるだけだった。
「ンぐっ、ひギっ、おボッ……!」
俺の尻の穴に、アナルビーズが挿入された。
想像の五倍くらい、痛い。ガキの頃に、熱冷ましの坐薬を挿れられた時の比じゃねえ!!
輪姦もののAVとかで、女優が尻の穴に男性器を挿入された時
「あ~んあん(雑誌か?)、壊れちゃう~」とか言っているのだけは、本当なのではないだろうか。
食い込んで来る、残りのアナルビーズが。
また俺の身体が、熱を帯び出す。その熱で穴を溶かして、拷問器具そっくりのに形が変わってしまったかのような錯覚を覚える。
静弥は何も言わず蔵から出ていき、倉庫錠をガチャン。と、閉めた。
錆びた金属の音が、暗闇の中で鈍く響いた。
その音がまるで二人を引き離すみたいで、表現しきれない怖さが俺を襲う。
嫌だ、一人ぼっちは嫌だ。
「や、ヤダ、静弥……ッ! 酷いこと言って、ごめんッ……! チンコ舐めるし、尻の穴も舐めるし、肉便器みたいに、俺を使って良いよ! だから、だから、置いていかないで!」
目と鼻と口から出るものを出し切る勢いで、涙と鼻水とヨダレを垂れ流した。
その声も、暗闇に呑まれただけだった。
*
アタシの人生最大の汚点は、あの男と結婚してしまったことだ。
典型的な日本人男で彼奴はアイロンがけすら習得せずに、十五年前のニ月の末にくたばった。
春の太陽を浴びることなく、ぽっくりと逝ってしまった。
享年六十九歳。若くして、亡くなったと思う。
夫の葬式は親族一同が集まったことを、はっきりと覚えている。北は青森から、南は大分まで。
初めて会う人間ばかりで、流石のアタシも気疲れしてしまった。
生前の夫の希望で自宅葬をしたが、下準備三秒でやるもんじゃない。と、後悔をした。
遠方から来る親族の宿泊場所の確保をする為に民宿「香雅(かが)」に電話をかけたら予約が、無事取れた。
東京の親族に案内の電話を入れると
「そんな貧乏くさいところに、泊まらせるなんて失礼じゃない? 田舎の人には、分からないかもしれないけど」なんて、嫌味を言われた。
ハンッ! 雨風凌げるだけで、有難いじゃないか。
なんやかんやあった葬式は無事に(暴れて)、終わらせて後は残る余生を楽しく過ごそうと思っていた。
そんな矢先に、あの子がアタシの前に現れたんだ。
忘れもしない、アレは三月の上旬のことだった。
その日は一日雨が降っていて、アタシは一日家に居た。
夕刊を取りに玄関の扉を開けたら、家の庭に立てかけられた見慣れない広がった蝙蝠傘が目についたのさ。
誰かが野良猫にでも差し出したかと思ったけど、傘の中に居たのは五歳くらいの男の子だった。
ガラス玉を埋め込んだような、生気のない瞳。薄汚れた、Tシャツにズボン。髪と爪は伸び切っているし、靴の底は穴が空いていた。
この子、沼黒さん家の……。あの、ややこしい家の子か。
勝手に他人の家の敷地に入るなんて、最近の若者は碌に躾すら出来ないのかい。
こう言う場合はまず警察と言うけれど、この村の警察は屁の役にも立ちやしない。
「お家、帰りな!! 帰らなかったら、しばき回すよ!!」
アタシが脅す方が、早いだろう。そう思って啖呵を切ったのに、男の子は動かない。
「何やってんだい!! 帰りな!! 帰れ!! 煮て食べるよ!!」
男の子は、黙ったまま返事をしない。
返事くらいしたら、どうなんだい。近頃のガキは、なってないねえ! 喉まで出かかった言葉を、アタシは飲み込んだ。
こんな時間に、一人で居ること。薄汚れた服装。ボサボサの髪。
アタシの答え合わせをするように、男の子の腹の虫が馬鹿デカい鳴き声をあげた。
「ちょっと待ってな。おにぎり、握ってやるから。梅干しで、良いかい?」
「ツナマヨがいい」
「そんなもん、うちにないよ。黙って梅干しおにぎりを、食べな。美味いから」
男の子は顔はパァッと輝き「おばあさん、ありがとう」と、礼を言ってきたので、アタシは頭に拳骨を喰らわせた。
「せめて、おばちゃんって呼びな。お姉さんでも良いよ」
「おおばあちゃん?」
「乳歯、全部抜くよ! クソガキが!」
これが忘れもしない、静弥ちゃんとの出会いだった。
「アンタ、また来たのかい」
翌日。やらかした。と、早速後悔した。
野良猫に牛乳を一口でも与えたら住み着くように、子供だってそうだろう。
「うん」
「帰れ! お父さんと、お母さん心配するよ!」
「しないよ」
キッパリと、静弥ちゃんはそう言い切った。
子供は、すぐバレる嘘を吐く。訳分かんない老人の家に上がり込んで、心配しない親なんて居やしない。
「家には、入れないよ」
「うん」
そう言って静弥ちゃんは、郵便受けの柱に背を預けて座った。
「飯もおやつも、やらないよ!」
「うん」
その日は仕事帰りの父親が、ヘラヘラと笑いながら静弥ちゃんを引き取っていった。
何、笑ってんだい。まず、アタシに謝罪だろ。前歯を全部負ってやろうか、顔だけの優男が。
そう叫んでも「だから、すみませんって」と、父親は笑って流していた。
アタシは助走をつけて父親の背中に跳び膝蹴りを喰らわせたが、奴は「おばあさん、元気が良いですね~」と軽薄な笑顔を浮かべているだけ。
この子の言っていたことが事実だと知り、なんて残酷なことを言ってしたんだろうか。と、反省した。
亡くなった夫と口喧嘩した時よりも、後悔の気持ちは大きかった気がするよ。
次の日も、その次の日も、ずっと静弥ちゃんはうちの家にやって来た。
相変わらず郵便受けの柱に背を預けて、絵本を読んでいる。
カンカン照りの日も、雨の日も、風の日もやって来た。
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「お姉さんだって、言ってるだろ。それはね、漢字。小学校に上がったら、習うよ」
「いま、よみたい。おしえて」
「勘弁してくれよ~。アタシは、学校の先生じゃないんだよ」
静弥ちゃんが床に置いた絵本を、アタシは摘み上げた。
女の子が読むような、お姫様の絵が表紙に描かれた可愛らしい絵本だ。
お気に入りなのか、いつもこの絵本を読んでいる。
図書館もない本屋もないこの村で絵本を買おうと思ったら、インターネット通販かアライブに行くしかない。
「アンタ、まさか、この絵本しか持ってないのかい」
「うん」
「今度の日曜日、アライブに連れて行ってやるよ。好きな絵本、一冊だけ買ってあげるから」
「うん」
口ではそう言っても、子供のことだ。コレも、買ってー! って、持って来やがるに違いない。
「良いかい!? 一冊は、一つだからね!」
アタシはそう言って、人差し指を一本立てた。
週末。約束通り静弥ちゃんは本屋で絵本を一冊だけ選んで、アタシの元へ戻って来た。
緑の表紙にライオンと男の子が描かれた、いかにも男の子が好きそうな絵本だった。
それから月に一回アライブへ、静弥ちゃんを連れて行った。
静弥ちゃんが中学校を卒業するまで、アタシは本を買い与え続けた。
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