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幕間 静弥side二弾
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※静弥のパパ活シーン(攻めがモブに抱かれる描写)や飲尿表現を、含みます。苦手な方は、閲覧をご遠慮ください。
昔から、物語が好きだった。物語を読んでる間は、物語の主人公の人生を摂取出来て、沼黒 静弥じゃなくなるから。
昔から、物語が苦手だった。当たり前に優しい両親が居る前提で、物語が進行するから。まるで優しい両親が居ない僕が可笑しく、何か過ちを犯したと言われている気がした。
数年前。本屋大賞を受賞した、虐待されて育った女の人が親に虫と呼ばれてネグレストをされている男の子を拾って家族になる小説を読んだ。
読者からの感動と称賛のコメントが帯に書いてあって、どんな素晴らしい物語なのだろう? って期待したのに、僕は涙を流せなかった。
読んでいて、気が付いてしまった。
作家と言うのは、当たり前に目が見えて文字が読める。大学もいいところに行ってて、教養がある。
この土台を作ってくれるのは、当たり前に親だ。
物語の登場人物が受けた虐待は、誰の目から見ても分かる酷い行為ばかりだった。
作者さんは優しい親に恵まれて教養はあるのに、想像力がないんだと気付いたのだ。
自分が書いた物語を発表するなんて、自己顕示欲の塊であると同時に自己肯定感の塊でもある。
私が書いた物語、すごいでしょう? そう思えるのは、褒められて育った人だけが持てる感情だ。
きっとこの作者さんは、愛されて育った人なのだろう。
そもそも本屋に並ぶ物語の作者と言う「何者」かになれている時点で、強者じゃないか。
こちら側の気持ちなんて、理解出来る訳がない。
そんなことを、考えた。
みんなが感動した物語で涙を流せない僕自身が異端者と言われているみたいで、シーツを涙で濡らしながら無理矢理寝たのだった。
一昨年の春の話だ。
*
人間とは便利なもので、目に見えた見返りがあれば大概のことに耐えられる。
「君、こういうことよくするの?」
ラブホテルの一室。
「あんまりしないです……」
おじさんに質問されて、僕は体ごとおじさんの方へ振り返った。
シャワーを浴びてバスローブを羽織り部屋へ戻った時、おじさんの視線は僕の首に集中した。
あんまり見てはいけないと遠慮はしているけれど、チラチラと覗く不快な視線。
なんて思われようが、構わない。どうせお金だけの繋がりでしかない、相手なんだから。
おじさんは「ウブそうだもんねぇ。可愛い」と、涎を垂らしそうな物言いでそう言う。
ダブルサイズのベッドの端に寝転がり壁のシミを数えていたのに、邪魔されてしまった。
北欧を連想させる深緑のソファーに座っていたおじさんは「よっこいせ」と、号令をかけて僕の前に寝転がる。
白髪混じりの薄い頭頂部は、禿げの見本のようだった。小太りで脇に水たまりを作り、顔に痣のようなシミがあるおじさんの顔が近づいて来る。
年齢は、五十代くらいかな。
おじさんもお揃いのバスローブを羽織っているのに、同じ服とは思えない。
「シズヤ君って、本当にキレイな顔してるね。元気になって来ちゃった」
そう言って僕の左手首を掴んで、バスローブの上から自身の股間を触らせた。
「やっ……」
まずい。露骨に、嫌な態度を取ってしまった。
おじさんの眉間に深い皺が生まれて、ガタガタの前歯で分厚い下唇を噛んでいる。
「ぼ、僕、あんまり慣れてないから優しくして欲しいな。儀一(ぎいち)さんは、僕の大事な人だから、緊張しちゃって」
人間の脳は本当に便利なもので、自分の都合の良いように解釈するものだ。
儀一さんは喜色満面の笑顔を浮かべて、僕のバスローブの中に手を入れて薄っぺらい胸を摩った。
「そうだよね! 恋人を傷付けたら、ダメだよね。シズヤ君……初めてを僕にくれるなんて、なんて健気なんだ! ユートピアへ、連れて行ってあげるね」
おじさんは、犬みたいに僕の唇を無遠慮に舐め始めた。
大切な人って言っただけで、恋人なんて言ってねーだろ! 今日会ったばかりの相手に、初めてを捧げるかよ! お前の頭が、ユートピアだろ! どアホ!
ひかる君の声で、内心そう指摘する。
それからの行為は、まるで獣にでも犯されているようだった。
僕の後孔にほとんど黒色に近しい茶色のおじさんのペニスが挿れられ、穴の形を変える勢いで激しく動かされた。
何回も「痛い」とか「嫌だ」と言っても聞き入れて貰えず、室内のエアコンの風で流されるだけだった。
お金で性を買った相手に、人権なんか適用する訳がない。
大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫。勝本くん達にされたことと、変わらない。
お金を貰っているから、耐えられる。
平気だもん。生きてるだけで、ずっと傷付いて来たもの。
悲しくなんてない。昨日ひかる君が僕の舌を受け入れたことが、人生で一番嬉しかった。
辛くないよ。お金を稼いだら、きっとひかる君は大学に行けるし、喜んでくれる。
ひかる君の笑顔、僕を呼ぶ声、悲しさで丸まった背中、気怠げな横顔、初夏のような緑の香りを思い出してしまった。
おじさんのむせるような苦い煙草の香りで、僕の身体が侵食されていく。
イヤだイヤだイヤだ。
ひかる君の匂いが消えちゃうのは、嫌だ。
「うぅうう……」
シーツに、雫がポタリと滴った。それを涙と認識した瞬間、堰を切ったように涙が流れ出す。
「はぁ、はぁ。君は、本当にピュアな子だネ。痛みは、じきに快感に変わるよ。安心してね」
ラブホテルのネオングリーンの照明に、おじさんの脂ぎった身体が照らされる。
ゆらゆらと揺れる身体は、地球を侵略しにきたクリーチャーのようで気持ち悪かった。
おじさんの粘膜が僕の中へ入ることで、僕もクリーチャーになるような想像すら広がる。
クリーチャーになってしまっても、ひかる君は僕だと認めてくれるのだろうか。
ひかる君に会う前に、退治されてしまうかもしれない。
僕、夢ないなあ。
「シズヤ君、すごくエッチでキレイだよ……。本当に、君はいい子だね」
そう言っておじさんは僕の頭を撫でてから、トイレへ行った。
貴方が言う「いい子」は自分に逆らって来ない弱い子で、雑に扱っても良心の呵責に苛まれない都合の良い奴隷ってことでしょう。
おじさんはその後にシャワーも浴びず、僕にペニスを舐めさせた。
間近で見るおじさんのペニスは、想像以上に禍々しくて凶器のように思えた。
銃とか、槍とか、刀とか、人を傷付ける為に生まれた用具たち。
こんなものの快感を得る為に、僕に何万円も払うなんてつまらない人。
そんな人間から好意をお金に変えてる僕が、一番つまらなくて卑劣で醜い。
「言わないで、恥ずかしいよぉ……」
僕は腰を揺らしながら、顔を手で覆った。
こうしたら、喜ぶのでしょう?
分かってるよ。貴方達の汚さも、自身の穢れも。
ひかる君と共同生活を始めた、二日目のことだった。
*
おじさん達と身体を重ねる度に、ひかる君の存在が脳をよぎった。
ある意味、自傷行為なのかもしれない。
僕がどうしても手に入れられないものを、自分の身体を差し出すことで得た気分になっている。
こんなクリーチャー達から向けられた、政治家の公約みたいに本人はなんとも思ってない言葉をひかる君に置き換えている。
「静弥、エッチするの好きなの?」
うん。ひかる君になら、何されても嬉しい。首を絞められても、縄で縛られても、身体に蝋燭を垂らされても、幸せ。
「俺達、身体の相性バツグンだよな」
うん。ひかる君とはパズルみたいにピッタリとハマって、すごく気持ち良かったよね。
「俺の肉便器に、なりたいの?」
うん。ひかる君の性奴隷になれたら、気持ち悪いが全部気持ちいいに変わるんだ。きっと、幸せ。
薄汚くて気持ち悪い想像にひかる君を、使ってごめんなさい。
あるおじさんに「追加で一万円払うから、おしっこ飲んでよ」と言われ、おじさんの尿を飲んだ。
小便飲ませたいとか、お前心のノート書いたことないだろ。
頭の中のひかる君が、そう言った。
お金とひかる君に置き換える言葉欲しさに、僕は小さく頷いたのだった。
浴室の壁に背を預けて、だらしなく口を大きく開ける。
餌を前に待てをさせられている、犬みたいだ。
実際には餌じゃなくて、おじさんの尿な訳だけれど。
じょうろでお花に水をあげるような音が、ラブホテル浴室に響いた。
てっきり苦いものだとばかり思っていたけれど、海水浴中に口の中に入った海水のようにしょっぱいだけだった。
余りのしょっぱさに飲み切れず、口の端からダラダラと溢したのを覚えている。
「シズヤ君、美味しそうにおしっこ飲むねえ。おじさんのオナペット一号にしてあげるよ。こんなことしてるって知ったら、親御さん泣いちゃうね」
嘘吐き。僕以外にも、居る癖に。妻子も、居る癖に。
僕の為に泣いてくれる親から生まれていたならば、こんなことをしてない。
ちょっと考えたら、分かるでしょう。
本当に、想像力がないな……木曽谷(きそや)さん。
木曽谷さんは、若作りをしていて清潔感があって、見せびらかすようにブランドものの腕時計をしている四十代半ばくらいのおじさんだ。
誰よりも特殊なプレイを要求してくる癖に、品性に拘っていた。
ラブホテル備えつけの振動する機械を使うおじさんとか、首を絞めたがるおじさんとか居たけど、木曽谷さんは群を抜いていたように思う。
「シズヤ君は本当に品があって、素晴らしいよ。前に会った子は語彙が『ヤバい』と『ガチ』しかなくって、会話が成り立たなかったんだ。シズヤ君は頭がいいから、会話が楽しいよ」
性をお金で買ってる時点で、品性なんてないでしょう。
本当に頭がいい人は、見ず知らずの人間と身体を重ねないよ。
木曽谷さんは誰よりも、僕の首を差別していたのも覚えている。
「偏見とかはないんだけれどね、その痕さ。見た人が不快にならないかな? とか、考えないの? コンシーラーとか、テープとかあるでしょう?」
口に出してる時点で、偏見しかないでしょう。
差別したら駄目。なんて建前(道徳)を説いているけれど、見目、年収、肌の色、学歴、国籍、何かしらどこかで他人を差別しているんだよ。
他のおじさん達も
「それ手術とかで、消した方がいいよ。君の今後の人生の為にもさ」と遠回しに言って来たり、もっとストレートに「え、キモ」と言う人達も居た。
首をなんて思われようがなんて言われようが、腹も立たなかったし悲しくもなかった。
おじさん達の相手を、するのとても楽。
おじさん達になにも期待せずに、求められる振る舞いをすれば良いんだから。
ロボットになれば、良いんだから。
思考の放棄。僕が一番したかったことを、すれば良いだけ。
ひかる君には、何故かそれが出来ない。
ひかる君の望むことが分からないし、ひかる君にだけは僕の気持ちが分かって欲しいし、ひかる君にだけは首を見られたくなかった。
どうしてなんだろう。分からないや。
自分のことなのにね。
僕にとってのひかる君の優しさは、きっとひかる君にとって当たり前のことなんだろう。ひかる君を信用することも期待することも、自分の首を絞めるだけだ。
おじさんに首を絞められるよりも、ずっと痛いんだ。
その認知の差の溝の深さは、分かっている。
そっか。ひかる君は、そちら側の人間なんだ。
分かり合える訳がない。
ひかる君のご両親はまだ言葉が通じるし、州崎さんも宇宙人もひかる君のことが好きだし、大学にもアルバイト先にも友達は居るのだろう。
心の何処かで、ひかる君なら許してくれる。と期待している自分が居る。その期待こそが、首を絞めているのにね。
同じことを繰り返してひかる君の優しさを浪費して、きっといつか本当に捨てられてしまう。
たくさん本を読んで、色々な人生を学んだけど、無駄だったな。
普通には、なれなかった。
もう誰かに期待するのも、誰かを信用するのも、誰かを好きになるのもやめよう。
ろくでもない人間が居る。僕である。
勝手に期待して欲しい言葉をくれなかったら、勝手に落ち込む人間が居る。これも僕である。
何をしても誰と関わっても、破滅と不幸しかもたらさない人間が居る。まさしく僕である。
どうして神様は、こんな腐敗した人間をこの世に堕としたのだろう。
昔から、物語が好きだった。物語を読んでる間は、物語の主人公の人生を摂取出来て、沼黒 静弥じゃなくなるから。
昔から、物語が苦手だった。当たり前に優しい両親が居る前提で、物語が進行するから。まるで優しい両親が居ない僕が可笑しく、何か過ちを犯したと言われている気がした。
数年前。本屋大賞を受賞した、虐待されて育った女の人が親に虫と呼ばれてネグレストをされている男の子を拾って家族になる小説を読んだ。
読者からの感動と称賛のコメントが帯に書いてあって、どんな素晴らしい物語なのだろう? って期待したのに、僕は涙を流せなかった。
読んでいて、気が付いてしまった。
作家と言うのは、当たり前に目が見えて文字が読める。大学もいいところに行ってて、教養がある。
この土台を作ってくれるのは、当たり前に親だ。
物語の登場人物が受けた虐待は、誰の目から見ても分かる酷い行為ばかりだった。
作者さんは優しい親に恵まれて教養はあるのに、想像力がないんだと気付いたのだ。
自分が書いた物語を発表するなんて、自己顕示欲の塊であると同時に自己肯定感の塊でもある。
私が書いた物語、すごいでしょう? そう思えるのは、褒められて育った人だけが持てる感情だ。
きっとこの作者さんは、愛されて育った人なのだろう。
そもそも本屋に並ぶ物語の作者と言う「何者」かになれている時点で、強者じゃないか。
こちら側の気持ちなんて、理解出来る訳がない。
そんなことを、考えた。
みんなが感動した物語で涙を流せない僕自身が異端者と言われているみたいで、シーツを涙で濡らしながら無理矢理寝たのだった。
一昨年の春の話だ。
*
人間とは便利なもので、目に見えた見返りがあれば大概のことに耐えられる。
「君、こういうことよくするの?」
ラブホテルの一室。
「あんまりしないです……」
おじさんに質問されて、僕は体ごとおじさんの方へ振り返った。
シャワーを浴びてバスローブを羽織り部屋へ戻った時、おじさんの視線は僕の首に集中した。
あんまり見てはいけないと遠慮はしているけれど、チラチラと覗く不快な視線。
なんて思われようが、構わない。どうせお金だけの繋がりでしかない、相手なんだから。
おじさんは「ウブそうだもんねぇ。可愛い」と、涎を垂らしそうな物言いでそう言う。
ダブルサイズのベッドの端に寝転がり壁のシミを数えていたのに、邪魔されてしまった。
北欧を連想させる深緑のソファーに座っていたおじさんは「よっこいせ」と、号令をかけて僕の前に寝転がる。
白髪混じりの薄い頭頂部は、禿げの見本のようだった。小太りで脇に水たまりを作り、顔に痣のようなシミがあるおじさんの顔が近づいて来る。
年齢は、五十代くらいかな。
おじさんもお揃いのバスローブを羽織っているのに、同じ服とは思えない。
「シズヤ君って、本当にキレイな顔してるね。元気になって来ちゃった」
そう言って僕の左手首を掴んで、バスローブの上から自身の股間を触らせた。
「やっ……」
まずい。露骨に、嫌な態度を取ってしまった。
おじさんの眉間に深い皺が生まれて、ガタガタの前歯で分厚い下唇を噛んでいる。
「ぼ、僕、あんまり慣れてないから優しくして欲しいな。儀一(ぎいち)さんは、僕の大事な人だから、緊張しちゃって」
人間の脳は本当に便利なもので、自分の都合の良いように解釈するものだ。
儀一さんは喜色満面の笑顔を浮かべて、僕のバスローブの中に手を入れて薄っぺらい胸を摩った。
「そうだよね! 恋人を傷付けたら、ダメだよね。シズヤ君……初めてを僕にくれるなんて、なんて健気なんだ! ユートピアへ、連れて行ってあげるね」
おじさんは、犬みたいに僕の唇を無遠慮に舐め始めた。
大切な人って言っただけで、恋人なんて言ってねーだろ! 今日会ったばかりの相手に、初めてを捧げるかよ! お前の頭が、ユートピアだろ! どアホ!
ひかる君の声で、内心そう指摘する。
それからの行為は、まるで獣にでも犯されているようだった。
僕の後孔にほとんど黒色に近しい茶色のおじさんのペニスが挿れられ、穴の形を変える勢いで激しく動かされた。
何回も「痛い」とか「嫌だ」と言っても聞き入れて貰えず、室内のエアコンの風で流されるだけだった。
お金で性を買った相手に、人権なんか適用する訳がない。
大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫。勝本くん達にされたことと、変わらない。
お金を貰っているから、耐えられる。
平気だもん。生きてるだけで、ずっと傷付いて来たもの。
悲しくなんてない。昨日ひかる君が僕の舌を受け入れたことが、人生で一番嬉しかった。
辛くないよ。お金を稼いだら、きっとひかる君は大学に行けるし、喜んでくれる。
ひかる君の笑顔、僕を呼ぶ声、悲しさで丸まった背中、気怠げな横顔、初夏のような緑の香りを思い出してしまった。
おじさんのむせるような苦い煙草の香りで、僕の身体が侵食されていく。
イヤだイヤだイヤだ。
ひかる君の匂いが消えちゃうのは、嫌だ。
「うぅうう……」
シーツに、雫がポタリと滴った。それを涙と認識した瞬間、堰を切ったように涙が流れ出す。
「はぁ、はぁ。君は、本当にピュアな子だネ。痛みは、じきに快感に変わるよ。安心してね」
ラブホテルのネオングリーンの照明に、おじさんの脂ぎった身体が照らされる。
ゆらゆらと揺れる身体は、地球を侵略しにきたクリーチャーのようで気持ち悪かった。
おじさんの粘膜が僕の中へ入ることで、僕もクリーチャーになるような想像すら広がる。
クリーチャーになってしまっても、ひかる君は僕だと認めてくれるのだろうか。
ひかる君に会う前に、退治されてしまうかもしれない。
僕、夢ないなあ。
「シズヤ君、すごくエッチでキレイだよ……。本当に、君はいい子だね」
そう言っておじさんは僕の頭を撫でてから、トイレへ行った。
貴方が言う「いい子」は自分に逆らって来ない弱い子で、雑に扱っても良心の呵責に苛まれない都合の良い奴隷ってことでしょう。
おじさんはその後にシャワーも浴びず、僕にペニスを舐めさせた。
間近で見るおじさんのペニスは、想像以上に禍々しくて凶器のように思えた。
銃とか、槍とか、刀とか、人を傷付ける為に生まれた用具たち。
こんなものの快感を得る為に、僕に何万円も払うなんてつまらない人。
そんな人間から好意をお金に変えてる僕が、一番つまらなくて卑劣で醜い。
「言わないで、恥ずかしいよぉ……」
僕は腰を揺らしながら、顔を手で覆った。
こうしたら、喜ぶのでしょう?
分かってるよ。貴方達の汚さも、自身の穢れも。
ひかる君と共同生活を始めた、二日目のことだった。
*
おじさん達と身体を重ねる度に、ひかる君の存在が脳をよぎった。
ある意味、自傷行為なのかもしれない。
僕がどうしても手に入れられないものを、自分の身体を差し出すことで得た気分になっている。
こんなクリーチャー達から向けられた、政治家の公約みたいに本人はなんとも思ってない言葉をひかる君に置き換えている。
「静弥、エッチするの好きなの?」
うん。ひかる君になら、何されても嬉しい。首を絞められても、縄で縛られても、身体に蝋燭を垂らされても、幸せ。
「俺達、身体の相性バツグンだよな」
うん。ひかる君とはパズルみたいにピッタリとハマって、すごく気持ち良かったよね。
「俺の肉便器に、なりたいの?」
うん。ひかる君の性奴隷になれたら、気持ち悪いが全部気持ちいいに変わるんだ。きっと、幸せ。
薄汚くて気持ち悪い想像にひかる君を、使ってごめんなさい。
あるおじさんに「追加で一万円払うから、おしっこ飲んでよ」と言われ、おじさんの尿を飲んだ。
小便飲ませたいとか、お前心のノート書いたことないだろ。
頭の中のひかる君が、そう言った。
お金とひかる君に置き換える言葉欲しさに、僕は小さく頷いたのだった。
浴室の壁に背を預けて、だらしなく口を大きく開ける。
餌を前に待てをさせられている、犬みたいだ。
実際には餌じゃなくて、おじさんの尿な訳だけれど。
じょうろでお花に水をあげるような音が、ラブホテル浴室に響いた。
てっきり苦いものだとばかり思っていたけれど、海水浴中に口の中に入った海水のようにしょっぱいだけだった。
余りのしょっぱさに飲み切れず、口の端からダラダラと溢したのを覚えている。
「シズヤ君、美味しそうにおしっこ飲むねえ。おじさんのオナペット一号にしてあげるよ。こんなことしてるって知ったら、親御さん泣いちゃうね」
嘘吐き。僕以外にも、居る癖に。妻子も、居る癖に。
僕の為に泣いてくれる親から生まれていたならば、こんなことをしてない。
ちょっと考えたら、分かるでしょう。
本当に、想像力がないな……木曽谷(きそや)さん。
木曽谷さんは、若作りをしていて清潔感があって、見せびらかすようにブランドものの腕時計をしている四十代半ばくらいのおじさんだ。
誰よりも特殊なプレイを要求してくる癖に、品性に拘っていた。
ラブホテル備えつけの振動する機械を使うおじさんとか、首を絞めたがるおじさんとか居たけど、木曽谷さんは群を抜いていたように思う。
「シズヤ君は本当に品があって、素晴らしいよ。前に会った子は語彙が『ヤバい』と『ガチ』しかなくって、会話が成り立たなかったんだ。シズヤ君は頭がいいから、会話が楽しいよ」
性をお金で買ってる時点で、品性なんてないでしょう。
本当に頭がいい人は、見ず知らずの人間と身体を重ねないよ。
木曽谷さんは誰よりも、僕の首を差別していたのも覚えている。
「偏見とかはないんだけれどね、その痕さ。見た人が不快にならないかな? とか、考えないの? コンシーラーとか、テープとかあるでしょう?」
口に出してる時点で、偏見しかないでしょう。
差別したら駄目。なんて建前(道徳)を説いているけれど、見目、年収、肌の色、学歴、国籍、何かしらどこかで他人を差別しているんだよ。
他のおじさん達も
「それ手術とかで、消した方がいいよ。君の今後の人生の為にもさ」と遠回しに言って来たり、もっとストレートに「え、キモ」と言う人達も居た。
首をなんて思われようがなんて言われようが、腹も立たなかったし悲しくもなかった。
おじさん達の相手を、するのとても楽。
おじさん達になにも期待せずに、求められる振る舞いをすれば良いんだから。
ロボットになれば、良いんだから。
思考の放棄。僕が一番したかったことを、すれば良いだけ。
ひかる君には、何故かそれが出来ない。
ひかる君の望むことが分からないし、ひかる君にだけは僕の気持ちが分かって欲しいし、ひかる君にだけは首を見られたくなかった。
どうしてなんだろう。分からないや。
自分のことなのにね。
僕にとってのひかる君の優しさは、きっとひかる君にとって当たり前のことなんだろう。ひかる君を信用することも期待することも、自分の首を絞めるだけだ。
おじさんに首を絞められるよりも、ずっと痛いんだ。
その認知の差の溝の深さは、分かっている。
そっか。ひかる君は、そちら側の人間なんだ。
分かり合える訳がない。
ひかる君のご両親はまだ言葉が通じるし、州崎さんも宇宙人もひかる君のことが好きだし、大学にもアルバイト先にも友達は居るのだろう。
心の何処かで、ひかる君なら許してくれる。と期待している自分が居る。その期待こそが、首を絞めているのにね。
同じことを繰り返してひかる君の優しさを浪費して、きっといつか本当に捨てられてしまう。
たくさん本を読んで、色々な人生を学んだけど、無駄だったな。
普通には、なれなかった。
もう誰かに期待するのも、誰かを信用するのも、誰かを好きになるのもやめよう。
ろくでもない人間が居る。僕である。
勝手に期待して欲しい言葉をくれなかったら、勝手に落ち込む人間が居る。これも僕である。
何をしても誰と関わっても、破滅と不幸しかもたらさない人間が居る。まさしく僕である。
どうして神様は、こんな腐敗した人間をこの世に堕としたのだろう。
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