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クルライリア大陸編

十八話 何やってんだよぉ

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(しかし、暑いわね。)
アリィはマルテニアの暑さに苦しんでいた。か、どうかはわからないが、マルテニアは気温が高い土地で、その上植物も育たない荒野みたいなものなので、何も考えないで砂漠に近いところに行ってるようなものである。が、道は整えられているので迷うことはない。
(先回りすると、着いた後が退屈だから、今回から後を追うようにするわ・・・)
アリィは水を少し口に含むように飲んだ。
(こんだけ暑いと、精霊の氷の干渉力も弱いかしら・・・・・)
ふとそんなことを思い、大気を見上げた。ようは空なのだが。アリィはわからないといったふうに目を瞑ると再び歩き出した。



「う~ん、暑い~・・・。」
「鬱陶しい、言うな。」
「だってぇ~。」
そう、暑いのである。まさかこんなに暑いとは思わなかった。話しに聞く砂漠程じゃないと思うけど、ちょっとこれはきっつい。
「涼しくなるような魔法とかないのか?」
「ああ、ダメ。今のあたしはアーレリィとマティアの干渉する魔法以外は、前とそんなに変わらないのよ。それとも、アリんこくらいの氷塊で満足してみるかい?」
「いや、いい・・・だけど他のも上がったって、言ってなかったか?」
「ああ、まあそうなんだけど、大気や土地といったものの状態では干渉力が変わってくるのよ。」
「つまりこんな所じゃ氷の力は弱くなるってことか?」
「簡単に言えばそんなところね。」
とまあ、知識だけはそれなりにあるんだけど、魔力が伴わないんだよね。もっとも、昔に比べれば全然違うけど。しかし、町に着いても暑いと寝苦しそう・・・。
「明日には着くよね、多分。」
「ああ、聞いたところによるとな。」


「ねぇ、これ食べられない。クサイもん。」
「・・・だな。」
あたしたちはランチにしようとして、いつも通り保存食を食べようとしたが、どうも食える状態じゃない。食べようと思えば・・・イヤ、絶対イヤ!
「なにおもいっきり首振ってんだよ。つまんねーこと考えてんじゃねーだろな。もしかして食えるんじゃないか?とか。」
「・・・。」
あたしの頬を一筋の汗が伝う。あたしはケイの方を見ると笑顔を作って。
「ま、まさかぁ・・・。」
「あのな、引きつってるぞ、かなり。」
だって、お腹空いたんだもん。なにか食べたいよ。水とお菓子ばっかじゃ満たされない。だけど知らないで来た所為だね、我慢するしかないか。ふと見るとケイが居ない。
「あぁぁぁーっ!」
何処に行ったかと思えば、少し離れたところで保存食を捨ててる。それはいいとして、こともあろうにお菓子まで捨ててるじゃん。それは食えるんだよぉ。
「どうした?気でも狂ったか?」
なに涼しい顔して言ってるかなぁ・・・。
「お菓子はまだ食えるのよ!」
「そうか、まあいいじゃん。手遅れだし。」
おのれ、ああも涼しい顔であっさり言われると、なんか無性に納得出来ないんですけど・・・。
「・・・。」
あたしは俯いて、少し沈黙した後、
『フィルリラルブリッド!』
下から手を振り上げながら叫んだ。その手から、まるで物を投げたように火球が飛び出す、しかもあたしの身長くらいの。ファイヤーボールの数倍の大きさはありそう。
「げっ!?」
ケイは慌ててその火球をかわす。かわされた火球はその先にあった枯れ木に当たって火柱を吹き上げる。そこから燃えて出てきた人が・・・って人がいたのかっ!?
「あっっっちーっ!」
「やばっ・・・」
その出てきた人は燃えているマントと、フードの付いたローブを脱ぎ捨てる・・・げぇっ!
「このバカ娘っ!私を殺す気?」
「あ・・・アリィ!なんでそんなところにいるのよ!?」
「そんなことどうだっていいじゃない!問題はあんたが私に魔法を放ったってことよ!」
「不可抗力じゃん、なにもそんな怒んなくたっていいじゃない!」
「だいだい今の魔法、自分の胸の大きさほども出せなかったヘボ魔術師のくせに、なに調子に乗ってんのよ。」
「ひっど~い。胸の大きさなんて関係ないじゃん!アリィにそこまで言われる筋合い無いわよ!」
「私だってメイにこんなことされるとは思ってなかったわ!」
「だいたい、木の陰でコソコソしてるアリィが悪いんじゃない?」
「なっ、自分の行動棚に上げて、私が悪いですってぇ!?」
「お前ら、いい加減にしろよ。」
ケイがうざったそうに言ってくる。まあ、こんなことで言い争っても体力使うだけか。
「ごめ・・・。」
アリィに謝ろうと思って、アリィの方を見ると、後ろで燃えてる枯れ木のせいか、アリィがオニババ・・・もとい、復讐の炎がメラメラと、って感じに見えるのは気のせいかしら・・・。
「まあいいわ、無事だったんだし。」
「ごめんねアリィ。でもなんでこんなところにいるのさ?」
「まあ、暇つぶしよ。」
暇つぶし・・・物好きだね。暇つぶしでこんな環境の悪いところに来るなんて。
「と言うことで、ちょっと付き合わせてもらうわ。」
そうか、そういうわけか・・・
「って、えぇぇぇっ!?」
「なにその反応は。私が一緒だと不服なわけ?」
いや、それはいいが、どういうわけだよ?
「いや、違うよ。ほら、今まで一緒に旅なんてしなかったから、してくれるなんて思ってなくてね。ちょっと嬉しいかな。」
アリィは優しげな笑みを浮かべた。
「ところでアリィ、途中からあんな怪しい格好で後付けていたのは何故だ?」
突然ケイが割ってはいる。怪しい格好?そう言えばなんか、怪しげなマントとローブ着てたっけな。
「あら、バレてたの。」
「まあ、いいじゃん。とりあえず町行こう、町。」
「その前にメイ・・・。」
アリィが真剣な眼差しでこちらを見る。え、なに?そんな深刻な顔して・・・。
「さっきの炎で私の水が無くなったの。ローブに結びつけておいたから。だからお前の水よこせぇ!」
「イヤ~ん。」



「流石に夜は涼しいわね。」
「あたしはむしろ寒いよ・・・。」
あたしとアリィは焚き火に当たっていた。ケイは背中を向けて何かをしているようだったが、なにかは不明なところだ。
「あ、気になってたんだけど、マルテニアに何があるの?」
「気になってたって・・・。」
(なんでアリィが気にしてるのよ。)と、口には出さなかった。
「あ・・・うん、まあ・・・ね。」
「マルテニアに行けと言われたんで。精霊がどうのこうのと。」
「へぇ、精霊ね。私でも契約できるかしら?」
「さあね、でも横取りはしないでね。」
「なに、私がそんなみみっちぃことするとでも思ってるの?」
「うん!」
「力強く頷くな!」
ガスッ!
・・・油断していた。痛いよ、久しぶりに喰らったけど痛いよ、あんたのカカト。
「出来た。」
あたしが倒れてる時にケイの声が聞こえた。何が出来たんだろう。しかし、痛い・・・強烈だよ。
「メイ、あんた貧弱になったんじゃないの?その程度でへにゃってるようじゃ。」
うるさいなぁ。多分、これが普通なのよ。アリィみたいな変人と一緒にしてほしくなわね。
「誰が、変人ですって。」
ズシャッ!
あたしが寝ているところへ再びカカトが降ってきた。あたしはそれを飛び起きながら避ける。
「危ないなぁ。」
「ふっ、まだ元気じゃない。」
「なあ、それより見てくれよ。」
ケイがさっきからなにをしていたかは不明だが、出来たモノを見せたいらしい。
「何作ったのさ?」
「この前、アリィが使った魔法撃つ魔器を見てな、俺式のナイフ撃つやつを。」
「あのね、ナイフ投げれるじゃん、しかも正確というより、精密って感じで。」
「いや、あれは2本だから出来るんだ。これは連射機能付きだぞ。ナイフの刃だけセットしてな、しかも細いナイフな。でも、鎧には無効だな。」
ったく、なんつー危ねーもん作ってるんだか。
「ついでに一つの連携も思いついたぞ。滅殺だな、こりゃ。」
「あ、それならあたしも考えた!景気のいいやつを。」
「あんたたち、旅してるあいだにたくましくなったわね・・・。」
そう言われればそうだな。アリィに言われるまで気付かなかった。やっぱり、あんな学校で勉強してるよりもこっちの方が良かったってことかな。
「でもケイの強さはもともとだよ。」
「そうなの?あんた隠してたの?」
「いや別に、隠してたわけじゃ無いが、使うことも無かったってだけのことだ。」
「そう、そうかもね、まあいいわ今更。さ、もう寝ようかしら。」
「そうだね。」
「俺も寝るか。都合良く野党が出てくるでも無し。」
「ほんとよね。」
ケイの言葉に相槌打つと、アリィが怪訝な顔で聞いてきた。
「なんのこと?」
『さあ?』
あたしとケイは同時にそういった。都合よく実験台になる夜盗なんて、居やしないのだと。
「ちょっと!気になるじゃない!」



「これでも町?」
アリィの呟きにあたしもケイも首を傾げるしかなかった。はっきり言って返事なんか出来るような状態じゃないものを目の当たりにしていた。
「人が少ないのはいいけど、なんつーか活気が無いわね。」
「活気以前に、やる気すら無さそうだな。」
そうなのだ。あたしたちの目の前を通る人も、お店も、町の雰囲気すらどうでもよさそうな感じだ。
「あ、そう言えばお腹空いたから、どっか店行こう。」
「緊張感の無い娘ね、と言う私も腹減った。」
「あそこ、開いてるぜ。」
うし、行くか。

その店に客は居なかった。店員は、カウンターの中で煙草を吸ってる姐さんって感じの女の人が一人。その姐さんはこっちに気付くと、
「あんたら客かい?」
「うん、そうだよ。リシュアから来たんだけど、食べ物途中でダメになっちゃって、お腹空いてるの。」
姐さんはその言葉に、煙草を一息吸って吐くと、
「悪いが、ろくに食料が無いんだ。あり合わせでいいなら作るが、金はちゃんと貰うよ。」
「ああ、それで構わねぇ。とりあえず食えればな。」
「じゃあ、暫く待ってな。」
そう言うと姐さんはカウンターの裏で作り始めた。
「姐さん、この町なんかやる気無いよねぇ?」
(ばか、メイ、なに言い出してんのよ。)
お、あたしなんか言ったか?
「さあね、いつからこんなになったのか。それより、私にはディニィって名前があるんだ。姐さんはやめてくれないか?ディニィでいいよ。」
そう言うと微かに微笑む。
「ところで、あんたらガキ三人がなんでこんなところ彷徨いてるんだい?」
「ちょっと野暮用でね。」
「ま、事情はどうであれ、長居はしない方がいいよ。じゃないと、町の連中みたいになっちまうよ。」
いったい何がどうなってんのさ。
「ディニィさん、良かったら聞かせて貰えないかしら?私たち、魔術師なんですけど、なにか力になれるかもしれませんし。」
アリィが人助け?・・・今日はもう出歩くのやめた方が身のためいでっ・・・。
「叩くなよ!」
「つまんないこと言ってるからよ。」
「でも、用事があるんじゃないのかい?」
「この二人は目的があるみただけど、私は無いのよ。」
それから沈黙の時が流れた。そんなに長くは無いだろうけど、ちょっと重かった。

「はい、お待たせ。これしか無いんだよ。」
出されたものは、野菜炒め。でも肉は無い。そして味っけの無さそうなパンに、具の殆ど入ってないスープ。
「十分だよ。それじゃ、頂きま~す。・・・って、美味しいよ、これ!」
シンプルだけど、美味しい♪
「ほんとね。」
アリィも満足そうだな。
「話すだけなら、いいよ。」
突然姐さんがそう言った。あたしも、それに興味があった。町そのものがこんな状態になるなんて、いったい何があったのか。
「お願いします。」
そして姐さんはゆっくりと語り始めた。
「二ヶ月くらい前かな、この近くに・・・。」
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