デッドエンドウォー シンフォニア

紅雪

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1.発売日に交通事故、未遂

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ついにこの日が来た。Dead End War Symphonia RT:2 の発売日が!
うちの親父が高校生の時に遊んだっていうゲームの最新版。

このゲーム発売しているCAZH社(キャズ株式会社)は、昔はFuture Cyber株式会社という社名だったらしい。
CAZHは「Cyber A to Z Happiness」の略で、最初から最後まで楽しくする会社、という意味らしい。
そのCAZH社が十年かけて開発した力作だ。

二十種類の武器と数々のスキルを組み合わせ、自分だけの闘い方を編み出せ!
仲間との共闘を行えばその組み合わせは無限大!
自分たちの色を闘いの場に響かせろ!

らしい。
実際のところイメージが沸かない。DEW自体は親父の話しでしかしらないし、今時据え置き筐体なんて流行ってもいない。
リアルタイムのイメージ転送で、携帯からゲーム内容をいろんなところに送れるため、家に居ないと出来ないゲームなんて誰もやらないんだ。
実際は携帯とかからリモートでプレイ可能だが、わざわざ家に接続して遊ぶより携帯ゲームの方が楽だし面白い。だから据え置きの筐体もソフトも、今ではそんなに出ていないのが現代だ。
物によっては画面に触れずにゲームが出来る。目の瞳孔の動きでインターフェース側が、自動認識するようになっている。その精度は、現代では誤動作3%以内と言われている。画面のコマンドに視線を動かすだけで出来るんだから楽な事この上ない。

じゃぁなぜ、俺がDEWSをやりたがったのか。

ALT社が去年発売した据え置き筐体UR2、URから十一年ぶりの更新だ。
その発売から、それに合わせるように続けて出したのがVR-HMDtypeA、つまりヴァーチャルリアリティヘッドマウントディスプレイになる。
これがアストラルダイブ型のディスプレイで、プレイヤーの精神をゲーム内に擬人化して転送する装置になる。目で見るわけではなく、実際に自分がゲーム内に入り込んだように感じるらしい。
VR-HMDには様々な機能が付いていて、次にあげるのがその一例だ。
先ず翻訳機能、160ヶ国言語変換、自動翻訳機能が付いているため、外国人相手でも問題無くプレイが可能だ。
アストラルダイブに対して重要なのが、メンタルパルス正常判定機能。これにより精神に異常が見られると判断された場合、強制ログアウトになる。
その他、不整脈感知機能やアジテーション抑制機能、37.5度以上の熱があるとログアウトさせられる体温測定機能、血中アルコール濃度が一定以上でも、血中アルコール確認機能が反応するなど。
身体の異常に関してはかなりシビアな判定に作られているらしい。何かあった時に、それが原因とされたくないんだろうって話しだけれど。
他にも便利機能がいろいろ付いてはいるが、覚えきれるわけがない。

そんなわけで俺は、DEWSのフィールドに降り立ち、実際に武器を振ってモンスターを倒したくなったんだ。


 
高校生になったばかりの俺は、雪待 晶杜(ゆきまち あきと)15歳。
私立黎光学園に通い始めたばかり。
学校を選んだ理由は、単に自転車で通える範囲だったからだ。成績が並みの俺としては、上の学校なんて行けるはずも無かったので、選ぶ理由としては妥当だった。
正直、電車での通学なんてかったるくてやってらんない。電車に乗っている時間があるなら、別の事に使いたいってのもある。
まぁ俺の場合、親父の影響もあってゲームをしたりマンガを読む事が殆どだが。

俺は逸る気持ちを抑えられず、学校が終わると自転車置き場に向かって早足になる。
昔は完全な人力(親父から聞いた)だった自転車も、今じゃアシスト性能も向上して坂道でもペダルが軽い。バッテリーの小型化とソーラーパネルで手間も少ない。フレームの軽量化と合わせ、自転車自体が軽いのも使い易い。

俺は自転車の鍵を開錠すると、乗り込んで校門に向かう。校門を出れば家までは20分程の距離だ。実際この20分も毎日だとかったるいが。

校門を出て横断歩道を突っ切ろうとした瞬間、横に黒い車が来ているのが目に入った。
逸る気持ちで注意力散漫になっていたんだろう。
慌ててブレーキを掛けたが間に合う筈もなく、横断歩道の上で立ち往生。
(やべっ、死ぬのか俺・・・)
頭の中にそんな言葉が過ぎる。
(あぁ、せめてDEWSを一回くらいプレイしたかったな・・・)
次に出たのがそれだった。将来の事とか家族の事じゃない。今、自分がしたい事を出来なくなるのが単純に悔しかった。

目の前に迫る車、逃げるように反対方向に倒れていく俺と自転車。
倒れたところで車との衝突が避けられるなら、事故なんて起きないよな。

その車は俺の脚に触れるか触れないかの場所で停止していた。
驚きに思考も止まっているし声も出ない。
視界には車の運転席から飛び出す、白髪が混じり始めた中年男性が映っているが、俺自身はそれどころじゃなく何も考えられていない。
「だ、大丈夫でございますかっ!」
慌てて駆け寄ってくる中年男性。顔も蒼白になっているようだった。
「あ、あぁ・・・」
その言葉で意識がはっきりしてきて、今の現状を脳が確認し始める。
(俺、生きてるな・・・いっ!)
痛みを感じた。何処か確認すると掌からだった。倒れた時、道路に手を付いた事でちょっと擦りむいたらしい。
ただ他に何も感じない事から、傷はそれだけのようだった。
「何とも、ないらしい。」
「それはようございました。申し訳御座いません。」
「いや、俺が飛び出しちまったんだ。迷惑を掛けてすまなかった。」
俺は中年男性に謝ると、自転車を起こす。

「セバスチャン、何時まで時間を掛けているんですの?」
その時、後部座席から誰かが降りそう言った。女性の声だろうけど、若く聞こえる。
「申し訳御座いませんお嬢様。お嬢様のご学友を引いてしまいそうになりまして。」
ご学友?って事は、と思って見ると、うちの学校の制服を着ていた。
(なんか、見た事あんな。)
「見たところ何ともなさそうですわ。もう関わらなくていいから、車を出しなさい。」
おい待て。
死にそうになった相手にそれは無いだろう。
「こっちは死にかかってんだぞ、何だその言い方は?」
真っ直ぐ背中まで伸びた艶めく黒髪を掻きあげて言ったその子の目は、少しきつい感じがした。容姿端麗で見た目は可愛いが、態度が気に入らない。
「私にとっては取るに足らない事。むしろ貴重な時間を奪われているのは私の方ですわ。」
お、おぅ・・・こいつは会話の出来そうに無い相手だな。

「お、お嬢様、口が過ぎます。」
「セバスチャンは黙って家まで車を走らせない。」
「セバスチャンはお止め下さいお嬢様。私には高野修平という名前がございますと、日頃からお伝えしておりますのに。」
「あら、そんなダサイ名前よりセバスチャンの方がいいですわ。」
ひでぇ。
ってかお前らの名前の話しはどうでもいいんだよ。
あ、思い出した。こいつ同じクラスに居たよ。誰とも話しているところを見ないから、気付かなかった。確か、鳳隆院(ほうりゅういん)とかっていう財閥の娘だって聞いた事がある。
なるほど、それでお嬢様か。
「一言くらい、何か合ってもいいじゃねーのか?同じクラスの人間が死にそうになってんだからよ。」
そう言うと鳳隆院は興味の無さそうな視線を向けてくる。
「飛び出して来たのは貴方ですわよね。」
「ま、まあそうだけどよ・・・」
「それでも助かったのはこの車が持つ自動停止装置のお蔭。つまり迷惑を掛けられた事はあっても、謝る事などありませんわ。」

確かに言う通りだけどさ。一言大丈夫か?くらいあってもいいんじゃないか?
「今日は私、新作のゲームを早く帰ってやりたいと言いましたわよね。分かったら早く車を出しなさいセバスチャン。」
「し、しかし・・・」
新作ゲーム?
お嬢様が家でゲーム?うわぁ、想像つかねぇ。
「あ!そうだった、俺もDEWS早く帰ってやるつもりだったんだ。」
死にそうになった所為ですっかり頭から吹き飛んでいた。ってか、その所為でこんな目に遇ってんのか。
俺のその言葉に、興味無さそうだったお嬢様の視線が、一瞬興味を持ったように俺に向けられたが、直ぐにさっきまでの状態に戻る。多分気の所為だろう。
「ってことで、迷惑掛けてすまなかった。俺は大丈夫だからもう帰るよ。」
「申し訳御座いません。お詫びは後程改めてお伺いします。お手数ですが、住所を教えて頂けますか?」
丁寧なんだが、面倒だ。もう関わりたくないしな。
「いや、気にしなくていい。」
「そうは行きません。」
「セバスチャン。いいと言っているのですから、早く車を出しなさい。」
鳳隆院はそう言うと後部座席に戻って行った。文句だけだったら出て来なきゃいいのに。時間を伸ばしたのは自分じゃないか。
「じゃ、ほんとに気にしなくていいから。ごめんな。」
まだ何かを言いたそうにしている中年男性、確か高野って名前だった人を置き去りに僕は家に急いだ。
ただ、また同じ目に遇うのが嫌なので気を付けて帰ったが。



「早速始めねーとな。」
ダウンロードとインストールは自動で終わっている。後はゲームを起動してVR-HMDを着けて始めるだけだ。
「よし。」
「ご飯前には一旦止めなさいよ。」
着けようとした瞬間、母さんから小言をもらう。
「へいへい。」
適当に返事をしながらVR-HMDを頭にセットすると、僕はソファーの背もたれに背を預けた。
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