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18.それはやりすぎだっての、蹴撃
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「そろそろ圀光のおっさん、帰還の時期だよね?」
「そう言えばそうだね、もうそんな時期か。1ヵ月に1回は検診が必要だから、もう戻っててもいい筈なんだけ・・・。むしろ戻ってもらわないと困るんだよねぇ。」
机に両足を投げ出してディスプレイを見ている禍月が、スナック菓子のプレッツェルをぽりぽり食べながら美馬津に言う。聞いた美馬津は思い出しように相槌を打つと、眉間に皺を寄せて続けた。
「予定より2日過ぎてるね、僕もうっかりしていたよ。」
「そいや聞いて無かったけど、アッキーは知ってるんだよね、圀光のおっさんと連絡取れない理由。」
禍月はぽりぽりするのを止めず、後ろに立っていた美馬津を見上げて聞いた。
「うん。世界に馴染むためだって言ってね、切っちゃうんだよ。」
「まじかぁ、使えねー。」
呆れて言う美馬津以上に、禍月は面倒くさそうな顔をする。
「もう中の住人でいいじゃん、向こうの時間に身体が慣れて現実が分からなくなってんじゃね・・・」
「でも、圀光さんのシステムデバイスには、通常のリアル時刻に付随して色々な機能があるからね。」
「見てないんじゃね?」
禍月は袋の中の折れたプレッツェルを、上を向てい口に入れると、ごみ箱に投げ捨てる。
「必ず決まった時間にアナウンスする通知機能、帰還までの残り日数を告げるカウントダウン。それを超過すると警報と警告が流れるようになっているんだ、気付かないって事は無いと思うよ。」
美馬津は機能を口にして圀光が戻っていない事に、今更ながら現状に危機感を抱く。
「って事は・・・死んだか?」
一瞬考える素振りをした禍月だが、興味無さそうに言うと新しいプレッツェルの箱を開ける。
「それは無い、本人にトラブルがあればこの部屋への通知と、強制送還が発動する。」
「ふーん。」
圀光よりプレッツェルだと言わんばかりに、ぽりぽり食べながら相槌を打つ禍月を見て、美馬津は続ける。
「だから、何かのトラブルに巻き込まれたか、今は動けない状況にでもなった可能性が高い。」
「それを監視するのがこの部屋の仕事じゃないのか。」
確かに禍月の言う事が当たり前ではあるんだが、美馬津は溜息をつきながら首を軽く振る。
「さっきの世界に馴染むってところでね、受ける条件としてゲーム内の監視は拒否したんだ。他に適合する被検体を探す時間も無かったし。」
「あ、なんか存在自体面倒くさくなってきた。」
美馬津の説明に禍月は背もたれに体重を乗せ、面倒くさそうな顔をした。
「でもさぁ、圀光のおっさん本人も当然その機能は知っているよね?」
「あ、ああ・・・」
当然説明はしてある。それにゲーム内に居る以上、システムデバイスを起動しようがしまいが通知はされる。それが分からない禍月ではないだろうと、美馬津は疑問に思い歯切れの悪い返事をする。
「解除方法を知ってる、なんて事はないよね?」
「それはない、システムデバイスに関わるプログラムに関しては僕と主任、後は禍月、君だけだ。」
禍月の言いたい事を理解した美馬津は、咄嗟に否定した。
そもそも圀光 リュート(くにみつ りゅーと)は被検体として参加している。プロジェクトの概要すら知らないし、プログラムの内容も知らない筈だ。表側の一SEが内容を知っているとは考えにくい。
外に居る時には常に監視がついていて、不審な行動も確認されていない。自分がやっている事への不信はあるだろうが、それ込みでの事案だ。
「やっぱそうだよねぇ。」
プレッツェルを咥えたまま上下に動かしながら、そう言った禍月を見た美馬津は、鎌でもかけらたんじゃないかって気分になった。
<う・・・うん・・・>
「お、おっさん起きたじゃん。」
その時、ディスプレイの一つから呻きのような声が聞こえた。禍月はそれを見ると身体を起こすが、その反動で口の先に出ていたプレッツェルが噛み折られて落ちる。
「圀光さん、何をしていたんですか。既定の日付は過ぎているんですよ?」
ディスプレイの向こうで、ベッドから眠そうに起き上がる圀光に、美馬津は苛立ちを隠さずに言った。圀光は苦笑いをカメラに向けて頭を掻くと口を開く。
<わりぃわりぃ、つい装備作りに夢中になってな。きりの良いところまでってやってたらこんな時間になっちまった。>
「こいつアホだろう・・・。」
反省してそうにない圀光に苛立って声を上げようとしたが、それより先に禍月が呆れたように言った事で美馬津は気が削がれた。
「圀光さん、約束を守れなかった場合、監視の話しは無効って覚えてますよね?」
禍月の発言で少し冷静になった美馬津は、冷たく言い放つ。
<あ、あぁ、そんな話し、したっけなぁ・・・>
「覚えていないなら当時サインしてもらった誓約書をお持ちしますが。」
惚けたようにカメラから目を反らした圀光だったが、美馬津の冷静な対応に諦めたように項垂れる。
<今回だけ、見逃してくんねぇかな?>
「却下ですね。」
<・・・>
「あたしはこのおっさん、クビでいいんじゃないかと思ってるぞ。」
即答されてへこんだ圀光に、禍月が容赦の無い事を言いだす。美馬津に向けられる目は細められ、幾分か本気が混じっていそうに美馬津には感じられた。
「まぁ、言いたい事は分かるけど、他の被検体を探す時間も無いし、また一からのやり直す時間も無いからね。」
「そうなるよねぇ・・・」
禍月も分かってはいるらしく、溜息混じりに同意する。
<ところで、さっきから女子の声が聞こえるんだけどさぁ、新しく来たのか?>
「あ、そうだ。この前から増員になったんだ。」
そう言えばそうだと、美馬津は言われるまで気が付かなった。一ヵ月に一度しかゲームから戻ってこないんだから知らないのも当然だが。そもそも圀光が通信を切ってなければ分かる事なんだがと思うと、美馬津は説明するのが面倒になってきた。
「そうだ。おっさんが寝ている間に来た禍月夢那だ。あたしはアッキーやしゅにんのように甘くないからねぇ、覚悟しとけよー。」
<まじか・・・>
プレッツェルを齧りながら言われた内容に、圀光は再び項垂れる。美馬津としては今まで振り回されてきたので、良い気味だと思った。
「さて、早速ですが定期報告と定期検査が待ってますよ。」
<その前にさぁ、飯食わせてくんねぇかな。腹へってよ。>
マイペースな奴だなと思うが、空腹を満たしてやる方が色々と都合がいいかと思った。
「わかった。これからそっちに行く。まずは食堂からですね。」
<さすが美馬津、話しがわかるな。>
「もうすぐ主任が戻ると思うから、少し一人で頼むよ。」
「おう、問題ない。」
部屋を出て圀光のところに向かう準備を終えた美馬津は、禍月に任せて部屋を出ようとする。が、一つ気になった事があって立ち止まった。気になったというか、前から気になってしょうがなかったという方が正解だが。
「ところで、それって美味しいの?」
やや冷めた目で禍月が食べているプレッツェルの箱を指さして美馬津は聞く。箱にはねぎ味噌納豆味と書いてあるが、どうしても美味しそうには思えなかったからだ。
「ばっかだなぁアッキー、至高だぞ。食ってみるか?」
「い、いや。遠慮しとくよ。」
プレッツェルを向けられた美馬津は、そそくさと部屋を後にした。
「さ、上がって。」
「お邪魔します。」
雛子は友達の悠美を家に上げる。活発な雛子と反するように、大人しそうな悠美は小さな声で言いながら上がると、自分のだけでなく雛子の靴も揃えた。雛子と悠美は玄関からリビングに向かい、雛子がリビングの扉を開けた時点で硬直する。
「ちょ、ちょーっと待っててくれないかな、ちょっと邪魔な荷物があるから片付けるね、すぐ済むから。」
「あ、気にしなくていいよ。」
悠美がそう言うも、雛子はリビングに凄い勢いで入って行った。
「何でリビングでゲームしてんのよ!死ねっ!!」
雛子はリビングのソファー目掛けて一気に駆け寄ると、そのままの勢いで右足を上げ始める。その足の甲は円を描いて、ソファーにもたれ掛かっていた晶杜の首筋に吸い込まれていった。
(よし、今日は蒼水晶原石を取りに行かないとな。)
今までそれほど気にしてこなかったアクセサリーの強化をしないと。黒耀のオルデラはかなり強かったから、根本的な見直しが必要そうだ。
【warning】
そう思ったところで、突然視界が赤く明滅して文字が浮かび上がる。
(はっ?)
【人体に異常が確認されたため、強制ログアウトします。】
(どういうこ・・・)
疑問に思う間もなく、俺の意識は現実に強制的に引き戻された。
「・・・って。」
首筋に鈍い痛みを感じて、HMDを外す。
(いったい何が?)
そう思ってリビングを見渡すと、鬼の形相をしたヒナが居た。まて、俺が何をした、ゲームをしていただけ・・・
あ・・・
今日、日曜だ・・・
「今日はユミが遊びに来るって、前もって言ってたよね?」
「わ、わりぃ・・・」
顔を引き攣らせながら言うヒナに、俺はそう言うと慌てて部屋に戻ろうとする。
「ヒナ、凄い音がしたけど大丈夫?」
「きゃぁユミ!入って来ないで!」
慌ててヒナは悠美の方に向かって両手を振る、こっちに来るなと。
「え!?」
「穢れるから見ない方がいいよ!」
疑問で驚いている悠美に、続けてそう言った。本気で他人の前でも言うか、さすがに俺も傷つくっての。
「何ぼうっと突っ立ってんのよ、早く部屋に行ってよ!」
予想以上にきついな、今日のヒナは。いや、他人の前でそういう扱いをされたから、余計にそう感じてしまうのだろうか。まあいい、部屋に戻って続きやろう。
「あ、あの・・・」
俺が急いで部屋に戻ろうとすると、悠美が声を少し大きくした。どうやら話しかけたのはヒナではなく俺の方らしい。
「ユミ、キモイから話しかけない方がいいって。」
ヒナは悠美の肩を抑えながら、言い聞かせるように言った。俺の存在はそこまでアレなのか。
「DEWSですか?」
俺のHMDを指さしながら悠美が聞いて来る。
「あ、あぁ・・・」
まさかそんな事を聞かれるなんて思いもしなかった俺は、詰まりながら返事をした。
「いいから部屋に行ってよ。」
「すいません、引き留めてしまって。」
ヒナはどうでもいいが、悠美はそう言うと頭を下げた。その仕種を見て、我が妹の普段が多少心配になった。してやる義理もないが、外でもこの調子だったとしたら、さすがに心配にもなる。
ちょっとだけだが。
もし外で出くわしたら多分、他人の振りをするだろうな。
「いや、いい。ゆっくりしていってくれ。」
そう言って俺は部屋に戻った。
俺が口を開いただけで、ヒナの形相が険しくなってはいたが。俺が喋ると口から瘴気でも漏れるのかよ。
なんかすっげー疲れた。うっかり忘れてリビングで始めてしまった俺も俺だが、それを差し引いてもヒナの方が酷いだろう。
首痛いし。
(とりあえず、続きやるか・・・)
(気を取り直して、蒼水晶原石だな。)
光剣ラーズヴェイトは攻撃向きの片手剣だから、氷墓竜の素材から作れる白蒼剣アーズレイアを作ろうと、俺は考えていた。防御補正が高いから、サポート向きなのは分かっていたが、困ってなかったから必要性を感じてなかった。
オルデラの攻撃力はかなり高いだろう、ダメージが痛すぎて回復が追い付かない。攻撃はアヤカに任せ、俺はサポートに徹した方がいいんじゃないかと思ったから、被ダメを減らして生き残る方を選択した。その辺の話しは既にアヤカやタッキーとも済んでいる。
(しかし、アクセサリーに武器にと蒼水晶原石どんだけ集めりゃいいんだか・・・)
「ユアキス、僕がちょうどログインしたさっき、ログアウトしてなかった?」
考え事をしているとタッキーが話しかけてくる。いつの間に近付いてきたんだ。
「ん、ああ。ちょっと家の都合で一時的にな・・・」
ヒナの蹴りを食らって強制ログアウトとか、恥ずかしくて言えねぇ・・・。
「原石集めに行くんでしょ?」
「ああ、タッキーは確か、赤光原石だよな。」
タッキーは紅陽竜の武器を作るって話しだったから、俺とは集める素材が違う。今まではずっとパーティでクエストを進めていたから、必然的にみんながほぼ同じ素材で出来るものを使っていた。
「ユアキスは蒼水晶だから、クエストも別だね。」
「一緒に行ってたら効率悪いからな。」
オルデラにやられた後、装備の見直しでそれぞれ作る武器を決めたが、見事に素材が被らなかった。つまり、それぞれ自分で集めるって事になっている。
「さすがに、竜相手はパーティの方が効率はいいだろうけど。」
「だな。その手前までは一人でもそんな苦労はしないけど、竜はな。竜だけあって一人じゃ時間掛かって怠くなる。」
パーティで行った方が倒すの楽だからな。楽がしたいって気持ちは否定しない。
「じゃぁ、僕は早速行くね、また後で。」
タッキーはそう言うと、街の門の方へと走っていった。
「まぁ、俺も行くけどさ。」
俺も呟くと、原石集めのためのクエスト受注ボタンをタップした。
「そろそろ圀光のおっさん、帰還の時期だよね?」
「そう言えばそうだね、もうそんな時期か。1ヵ月に1回は検診が必要だから、もう戻っててもいい筈なんだけ・・・。むしろ戻ってもらわないと困るんだよねぇ。」
机に両足を投げ出してディスプレイを見ている禍月が、スナック菓子のプレッツェルをぽりぽり食べながら美馬津に言う。聞いた美馬津は思い出しように相槌を打つと、眉間に皺を寄せて続けた。
「予定より2日過ぎてるね、僕もうっかりしていたよ。」
「そいや聞いて無かったけど、アッキーは知ってるんだよね、圀光のおっさんと連絡取れない理由。」
禍月はぽりぽりするのを止めず、後ろに立っていた美馬津を見上げて聞いた。
「うん。世界に馴染むためだって言ってね、切っちゃうんだよ。」
「まじかぁ、使えねー。」
呆れて言う美馬津以上に、禍月は面倒くさそうな顔をする。
「もう中の住人でいいじゃん、向こうの時間に身体が慣れて現実が分からなくなってんじゃね・・・」
「でも、圀光さんのシステムデバイスには、通常のリアル時刻に付随して色々な機能があるからね。」
「見てないんじゃね?」
禍月は袋の中の折れたプレッツェルを、上を向てい口に入れると、ごみ箱に投げ捨てる。
「必ず決まった時間にアナウンスする通知機能、帰還までの残り日数を告げるカウントダウン。それを超過すると警報と警告が流れるようになっているんだ、気付かないって事は無いと思うよ。」
美馬津は機能を口にして圀光が戻っていない事に、今更ながら現状に危機感を抱く。
「って事は・・・死んだか?」
一瞬考える素振りをした禍月だが、興味無さそうに言うと新しいプレッツェルの箱を開ける。
「それは無い、本人にトラブルがあればこの部屋への通知と、強制送還が発動する。」
「ふーん。」
圀光よりプレッツェルだと言わんばかりに、ぽりぽり食べながら相槌を打つ禍月を見て、美馬津は続ける。
「だから、何かのトラブルに巻き込まれたか、今は動けない状況にでもなった可能性が高い。」
「それを監視するのがこの部屋の仕事じゃないのか。」
確かに禍月の言う事が当たり前ではあるんだが、美馬津は溜息をつきながら首を軽く振る。
「さっきの世界に馴染むってところでね、受ける条件としてゲーム内の監視は拒否したんだ。他に適合する被検体を探す時間も無かったし。」
「あ、なんか存在自体面倒くさくなってきた。」
美馬津の説明に禍月は背もたれに体重を乗せ、面倒くさそうな顔をした。
「でもさぁ、圀光のおっさん本人も当然その機能は知っているよね?」
「あ、ああ・・・」
当然説明はしてある。それにゲーム内に居る以上、システムデバイスを起動しようがしまいが通知はされる。それが分からない禍月ではないだろうと、美馬津は疑問に思い歯切れの悪い返事をする。
「解除方法を知ってる、なんて事はないよね?」
「それはない、システムデバイスに関わるプログラムに関しては僕と主任、後は禍月、君だけだ。」
禍月の言いたい事を理解した美馬津は、咄嗟に否定した。
そもそも圀光 リュート(くにみつ りゅーと)は被検体として参加している。プロジェクトの概要すら知らないし、プログラムの内容も知らない筈だ。表側の一SEが内容を知っているとは考えにくい。
外に居る時には常に監視がついていて、不審な行動も確認されていない。自分がやっている事への不信はあるだろうが、それ込みでの事案だ。
「やっぱそうだよねぇ。」
プレッツェルを咥えたまま上下に動かしながら、そう言った禍月を見た美馬津は、鎌でもかけらたんじゃないかって気分になった。
<う・・・うん・・・>
「お、おっさん起きたじゃん。」
その時、ディスプレイの一つから呻きのような声が聞こえた。禍月はそれを見ると身体を起こすが、その反動で口の先に出ていたプレッツェルが噛み折られて落ちる。
「圀光さん、何をしていたんですか。既定の日付は過ぎているんですよ?」
ディスプレイの向こうで、ベッドから眠そうに起き上がる圀光に、美馬津は苛立ちを隠さずに言った。圀光は苦笑いをカメラに向けて頭を掻くと口を開く。
<わりぃわりぃ、つい装備作りに夢中になってな。きりの良いところまでってやってたらこんな時間になっちまった。>
「こいつアホだろう・・・。」
反省してそうにない圀光に苛立って声を上げようとしたが、それより先に禍月が呆れたように言った事で美馬津は気が削がれた。
「圀光さん、約束を守れなかった場合、監視の話しは無効って覚えてますよね?」
禍月の発言で少し冷静になった美馬津は、冷たく言い放つ。
<あ、あぁ、そんな話し、したっけなぁ・・・>
「覚えていないなら当時サインしてもらった誓約書をお持ちしますが。」
惚けたようにカメラから目を反らした圀光だったが、美馬津の冷静な対応に諦めたように項垂れる。
<今回だけ、見逃してくんねぇかな?>
「却下ですね。」
<・・・>
「あたしはこのおっさん、クビでいいんじゃないかと思ってるぞ。」
即答されてへこんだ圀光に、禍月が容赦の無い事を言いだす。美馬津に向けられる目は細められ、幾分か本気が混じっていそうに美馬津には感じられた。
「まぁ、言いたい事は分かるけど、他の被検体を探す時間も無いし、また一からのやり直す時間も無いからね。」
「そうなるよねぇ・・・」
禍月も分かってはいるらしく、溜息混じりに同意する。
<ところで、さっきから女子の声が聞こえるんだけどさぁ、新しく来たのか?>
「あ、そうだ。この前から増員になったんだ。」
そう言えばそうだと、美馬津は言われるまで気が付かなった。一ヵ月に一度しかゲームから戻ってこないんだから知らないのも当然だが。そもそも圀光が通信を切ってなければ分かる事なんだがと思うと、美馬津は説明するのが面倒になってきた。
「そうだ。おっさんが寝ている間に来た禍月夢那だ。あたしはアッキーやしゅにんのように甘くないからねぇ、覚悟しとけよー。」
<まじか・・・>
プレッツェルを齧りながら言われた内容に、圀光は再び項垂れる。美馬津としては今まで振り回されてきたので、良い気味だと思った。
「さて、早速ですが定期報告と定期検査が待ってますよ。」
<その前にさぁ、飯食わせてくんねぇかな。腹へってよ。>
マイペースな奴だなと思うが、空腹を満たしてやる方が色々と都合がいいかと思った。
「わかった。これからそっちに行く。まずは食堂からですね。」
<さすが美馬津、話しがわかるな。>
「もうすぐ主任が戻ると思うから、少し一人で頼むよ。」
「おう、問題ない。」
部屋を出て圀光のところに向かう準備を終えた美馬津は、禍月に任せて部屋を出ようとする。が、一つ気になった事があって立ち止まった。気になったというか、前から気になってしょうがなかったという方が正解だが。
「ところで、それって美味しいの?」
やや冷めた目で禍月が食べているプレッツェルの箱を指さして美馬津は聞く。箱にはねぎ味噌納豆味と書いてあるが、どうしても美味しそうには思えなかったからだ。
「ばっかだなぁアッキー、至高だぞ。食ってみるか?」
「い、いや。遠慮しとくよ。」
プレッツェルを向けられた美馬津は、そそくさと部屋を後にした。
「さ、上がって。」
「お邪魔します。」
雛子は友達の悠美を家に上げる。活発な雛子と反するように、大人しそうな悠美は小さな声で言いながら上がると、自分のだけでなく雛子の靴も揃えた。雛子と悠美は玄関からリビングに向かい、雛子がリビングの扉を開けた時点で硬直する。
「ちょ、ちょーっと待っててくれないかな、ちょっと邪魔な荷物があるから片付けるね、すぐ済むから。」
「あ、気にしなくていいよ。」
悠美がそう言うも、雛子はリビングに凄い勢いで入って行った。
「何でリビングでゲームしてんのよ!死ねっ!!」
雛子はリビングのソファー目掛けて一気に駆け寄ると、そのままの勢いで右足を上げ始める。その足の甲は円を描いて、ソファーにもたれ掛かっていた晶杜の首筋に吸い込まれていった。
(よし、今日は蒼水晶原石を取りに行かないとな。)
今までそれほど気にしてこなかったアクセサリーの強化をしないと。黒耀のオルデラはかなり強かったから、根本的な見直しが必要そうだ。
【warning】
そう思ったところで、突然視界が赤く明滅して文字が浮かび上がる。
(はっ?)
【人体に異常が確認されたため、強制ログアウトします。】
(どういうこ・・・)
疑問に思う間もなく、俺の意識は現実に強制的に引き戻された。
「・・・って。」
首筋に鈍い痛みを感じて、HMDを外す。
(いったい何が?)
そう思ってリビングを見渡すと、鬼の形相をしたヒナが居た。まて、俺が何をした、ゲームをしていただけ・・・
あ・・・
今日、日曜だ・・・
「今日はユミが遊びに来るって、前もって言ってたよね?」
「わ、わりぃ・・・」
顔を引き攣らせながら言うヒナに、俺はそう言うと慌てて部屋に戻ろうとする。
「ヒナ、凄い音がしたけど大丈夫?」
「きゃぁユミ!入って来ないで!」
慌ててヒナは悠美の方に向かって両手を振る、こっちに来るなと。
「え!?」
「穢れるから見ない方がいいよ!」
疑問で驚いている悠美に、続けてそう言った。本気で他人の前でも言うか、さすがに俺も傷つくっての。
「何ぼうっと突っ立ってんのよ、早く部屋に行ってよ!」
予想以上にきついな、今日のヒナは。いや、他人の前でそういう扱いをされたから、余計にそう感じてしまうのだろうか。まあいい、部屋に戻って続きやろう。
「あ、あの・・・」
俺が急いで部屋に戻ろうとすると、悠美が声を少し大きくした。どうやら話しかけたのはヒナではなく俺の方らしい。
「ユミ、キモイから話しかけない方がいいって。」
ヒナは悠美の肩を抑えながら、言い聞かせるように言った。俺の存在はそこまでアレなのか。
「DEWSですか?」
俺のHMDを指さしながら悠美が聞いて来る。
「あ、あぁ・・・」
まさかそんな事を聞かれるなんて思いもしなかった俺は、詰まりながら返事をした。
「いいから部屋に行ってよ。」
「すいません、引き留めてしまって。」
ヒナはどうでもいいが、悠美はそう言うと頭を下げた。その仕種を見て、我が妹の普段が多少心配になった。してやる義理もないが、外でもこの調子だったとしたら、さすがに心配にもなる。
ちょっとだけだが。
もし外で出くわしたら多分、他人の振りをするだろうな。
「いや、いい。ゆっくりしていってくれ。」
そう言って俺は部屋に戻った。
俺が口を開いただけで、ヒナの形相が険しくなってはいたが。俺が喋ると口から瘴気でも漏れるのかよ。
なんかすっげー疲れた。うっかり忘れてリビングで始めてしまった俺も俺だが、それを差し引いてもヒナの方が酷いだろう。
首痛いし。
(とりあえず、続きやるか・・・)
(気を取り直して、蒼水晶原石だな。)
光剣ラーズヴェイトは攻撃向きの片手剣だから、氷墓竜の素材から作れる白蒼剣アーズレイアを作ろうと、俺は考えていた。防御補正が高いから、サポート向きなのは分かっていたが、困ってなかったから必要性を感じてなかった。
オルデラの攻撃力はかなり高いだろう、ダメージが痛すぎて回復が追い付かない。攻撃はアヤカに任せ、俺はサポートに徹した方がいいんじゃないかと思ったから、被ダメを減らして生き残る方を選択した。その辺の話しは既にアヤカやタッキーとも済んでいる。
(しかし、アクセサリーに武器にと蒼水晶原石どんだけ集めりゃいいんだか・・・)
「ユアキス、僕がちょうどログインしたさっき、ログアウトしてなかった?」
考え事をしているとタッキーが話しかけてくる。いつの間に近付いてきたんだ。
「ん、ああ。ちょっと家の都合で一時的にな・・・」
ヒナの蹴りを食らって強制ログアウトとか、恥ずかしくて言えねぇ・・・。
「原石集めに行くんでしょ?」
「ああ、タッキーは確か、赤光原石だよな。」
タッキーは紅陽竜の武器を作るって話しだったから、俺とは集める素材が違う。今まではずっとパーティでクエストを進めていたから、必然的にみんながほぼ同じ素材で出来るものを使っていた。
「ユアキスは蒼水晶だから、クエストも別だね。」
「一緒に行ってたら効率悪いからな。」
オルデラにやられた後、装備の見直しでそれぞれ作る武器を決めたが、見事に素材が被らなかった。つまり、それぞれ自分で集めるって事になっている。
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「だな。その手前までは一人でもそんな苦労はしないけど、竜はな。竜だけあって一人じゃ時間掛かって怠くなる。」
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「じゃぁ、僕は早速行くね、また後で。」
タッキーはそう言うと、街の門の方へと走っていった。
「まぁ、俺も行くけどさ。」
俺も呟くと、原石集めのためのクエスト受注ボタンをタップした。
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