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第三話「飛散」
「飛散」(6)
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秘密基地の医務室……
イスに腰かけたまま、いらいらと貧乏ゆすりするのはエリーだった。
飲み干した疑似血液の紙パックで、テーブルの上はいっぱいになっている。経口摂取はもちろんのこと、彼女の体に刺さるのは何本もの輸血パックの針だ。点滴されるそれらの中身も無論、戦いで消耗した吸血鬼の血に他ならない。
エリーがふたたび美須賀大付属の新品の制服を着用したのは、衣服を選ぶ時間がもったいないためだ。異世界転送のどさくさで失った組織の腕時計も、その手首にきっちり復活している。
銀色の多機能時計の時刻をなんども確認しつつ、エリーは嘆いた。
「ええい、まだか。まだ召喚の準備は整わんのかや。こっちに戻ってから何時間たつと思っておる」
回答は、つつましい扉のノックとともにもたらされた。
「破壊された魔法陣の修復は、あとすこしのようだよ。失礼してもいいかい、エリー?」
「だれじゃな、こんなときに。入れ」
かすかな稼働音をひいて自動扉が開くと、現れたのはスーツ姿の若者だった。その片手には、どこかで見覚えのある頑丈なアタッシュケースが提げられている。
にこにこする若者の柔和な顔立ちは、まだ少年といっても差し支えなかった。秘密基地にいるからには組織の関係者と思われるが、彼のことはエリーの記憶にはない。
不審げにエリーはたずねた。
「だれじゃ、うぬは。新人かえ?」
くすりと頬をほころばせ、若者は返事した。
「そうだね、この姿で会うのは初めてだった。ぼくだよ、凛々橋恵渡だ」
「エド?」
口もとに拳をあて、エリーはしばし記憶をたどった。眼帯のないほうの瞳を、きゅうに見開く。
「エド! マタドールシステム・タイプOか!」
「正解。ひどいなァ、いっしょに死線をくぐり抜けてきた相棒の存在を忘れるだなんて」
「たしかにその声、聞き覚えがある……」
現在のタイプOは、幾段階にも変形するエリーの血晶呪強化装置の姿ではない。メンテナンスの名目で研究員に武器を預けたまでは覚えているが、まさかこの短時間でここまで大胆な変身をとげるとは。
頭頂から爪先までなめ回すよう観察したエドを、エリーは端的に評した。
「また、ひ弱そうな優男じゃのう」
「あらら」
さっそく自己を否定され、エドは軽くずっこけた。
「ま、人間だった時代からよく言われてることさ」
「どうやって人の姿に戻った?」
「戻ったんじゃなく、正確には新たな魂の容器を与えられたんだ。従来のタイプOを脊髄とする最新技術の機械の体をね。改めて自己紹介するよ。ぼくはマタドールシステム・タイプO、凛々橋恵渡。アルファベットのOは〝開封〟の頭文字さ。組織からは、引き続きエリーをサポートするようお願いされてる。今後ともよろしくね」
「うむ」
軽く握手して、エリーとエドは挨拶した。エドの手首にもまた、組織お手製の銀時計が輝いている。
「で、生き返った感触はどうじゃ?」
ネクタイの上に手をそえ、エドは答えた。
「組織の再現力はすごいよ。ぼく自身、人間だったころとほとんど感覚が変わらない。すこし変わったといえば、視界にいろいろな情報が自動で流れるのと、主食が電力になったぐらいかな」
「待てい。では、わらわの剣はどこへいった? 必死こいて集めた宝石は?」
「ここにある」
細かな金属音を漏らして、エドの片手は展開した。
エドの拳に埋まってきらめくのは、鳩血石、蒼玉石、金剛石、緑柱石……異世界の宝石たちだ。宝石を大事に拳の中へしまい、エドは説明した。
「幻夢境の地水火風、よっつの呪力の燃料はそろった。おかげでぼくも復活することができたよ。吸血鬼特有の〝永遠の命〟をもつ秘宝のおかげでね。ただ呪力をこめただけの普通の宝石とかじゃ、ぼくはあっという間に停止しちゃうそうだ。そして……」
ていねいにテーブルへ置いたアタッシュケースを、エドは開いた。
「ぼくの魂は抜けたが、エリーの武器はちゃんとある。改良型の血晶呪増幅機構、その名もマタドールシステム・タイプ02だ」
ケース内の緩衝材に収まったエリーの武器は、初代のそれと瓜二つだが、やや肉厚になって形状も新しくなっている。
うやうやしくホルスターごと持ち上げたタイプ02を手に、エリーは溜息をついた。
「ちと期待はずれじゃ」
「そうくると思ったよ。武器はそれだけじゃない。エリーの愛車〝血晶呪マークⅢ〟も完成して発進の待機中だ。その他の銃火器や爆薬、防具や刀剣類も、こんどのぼくならきちんと異世界へ運べる。好きなだけ選んで持ってって」
「ちがう」
首を振って、エリーは苦笑した。
「頼りになる話し相手の剣が、もういないというのが寂しくての」
「驚いた。でも武器に宿った精神なら、そっくりそのままこっちへ引き継がれたよ?」
じぶんを指差すエドへ、エリーは問うた。
「人型自律兵器の体ということは、うぬも寿命は半永久的かや?」
「いちおうそうらしいね。とんでもない破損やバッテリー切れ、深刻なエラーとかがない限りは」
「心強い。こりずにわらわの相談役になってくれるな、エド?」
「もちろんだ。こんなぼくでよければ……ぅわっと?」
びっくりして、エドは目を白黒させた。
点滴につながったままのエリーが、じぶんに抱きついてきたのだ。ここまでの感謝とこれからの期待に熱くなるエリーの吐息が、じかにエドの耳たぶにかかる。
「ど、どうしちゃったのさ、エリー?」
「嬉しくっての。ともに長き時間を歩める伴侶を得たことが」
「伴侶……ぼくなんかがエリーにふさわしいとは、とても思えないよ?」
「うぬとわらわ、種族は違えど、ともに時を刻めばわかってくることもある」
密着したエドの肩越しに、エリーは遠い眼差しになった。
「今回の一連の騒動で、よく思い知った。死の恐怖を。おのれの無力さを」
死闘のフラッシュバックに強張るエリーを、そっと解きほぐす手はあった。抱き合ったエリーの細い背中を、エドが優しくさすったのだ。
人間味あふれるエドの掌のぬくもりは、とても機械とは思えなかった。反対に、闇夜の凶獣であるはずのエリーの体とは、ここまで華奢だったのか。いざ一皮剥いた彼女は、じつのところただのか弱い女子高生にしかすぎない。気丈さが売りの吸血鬼とて、困難に行き詰まって心身を病むこともある。
ちいさく震えながら、エリーは嗚咽を漏らした。
「わらわは恐ろしい。これまで生き残ってこられたじぶんの強運と、これからの戦いへの不安が。痛みが怖い。生きていたい。戦わずに逃げてしまいたい……」
「なんでもっと早くに打ち明けてくれなかったんだ。頑なに本音を隠すそのスタイル、ふだんとのギャップ。ぼくもかなり、キュンときた」
子どもそのもののエリーの頭をなでながら、エドはささやいた。
「心配ない。エリーは強いよ、じゅうぶんに」
「いや、弱い。なにが逆吸血鬼じゃ。ちょっと昼間に出歩けて、普通人よりすこしばかり運動神経がよいだけではないか。わらわがこれまで勝ち残れたのは、組織の手厚いバックアップがあってこそじゃ」
きつく瞑られたエリーの独眼の端に、年相応の涙が浮いた。
「それが丸裸で未知の世界に放り出されれば、それ見たことか。うぬという支えがなければ、わらわはとうの昔に幻夢境の強敵に仕留められておった。これまでの厚顔無恥な行いの数々、おおいに反省しておる」
エドに手渡された清潔なハンカチで目尻をおさえながら、エリーは告げた。
「わらわには、うぬがいるだけでいい。その他の武器はもう、必要最低限しか持たぬ」
鼻をすすって項垂れるエリーの肩へ、エドは柔らかく手をおいた。
「絶対に救おうね。ハオンくんたちを、異世界と現実を。ぼくらの力をあわせれば、必ずできる」
「ああ」
互いに見つめ合って意味深な時間を過ごすエリーとエドは、やがて自然に接近してその唇どうしを……
ふたりの腕時計が、そろって合図の着信を鳴らしたのはそのときだった。
はっと我に返り、エリーはエドから顔をそらしている。全身の輸血の針を手早く外すその視線には、もうためらいはない。タイプ02のホルスターを腰にとめつつ、常と変わらぬ冷静さでエリーはつぶやいた。
「召喚の準備は整った。続きはまた、戦いのあとじゃ」
数分後……
研究室に描かれた真新しい魔法陣の中央に、ふたりは立っていた。
エリーとしっかり手をつないだまま、念押ししたのはエドだ。
「いいかい。安全が確認できるまでは、なにがあってもこの手は放さないようにね」
「放さぬ、放さぬとも。しかし」
どこかすっきりした面持ちで、エリーは質問した。
「真っ赤な泥濘と化して、わらわは幻夢境に転送されるのでは?」
「いや、今回は大丈夫さ。仮想テストも問題なくクリアしてる」
エドの拳は変形し、ひかえめに宝石の光をこぼした。
「エリーがあんな姿で異世界に召喚されたのは、魔法陣の精度が低かったからだ。でもこれからはそうじゃない。マタドールシステム・タイプOの〝開封〟の呪力で、魔法陣の性能は限界まで引き出す。つまりエリーは、完全なままで幻夢境に転送されるのさ」
「まことかや? なんと恐るべき能力……」
「いまのところはまだ〝開封〟による召喚はエリー専用で、一度につきひとりを運ぶのが精一杯だけどね。ほんとに他の持ち物はいいの? かんたんには取りに戻れないよ?」
「いらん」
腰のタイプ02を自信ありげに注視し、エリーは言い放った。
「なまじ武装が充実しておると、それにばかり頼りすぎて油断が生まれる。百パーセントの力を発揮するためにも、わらわは02のみの装備で十分じゃ」
「わかった……では皆さん、お願いします」
エドの言葉を皮切りに、てきぱきと持ち場についたのはあたりの研究員たちだ。
定刻をむかえ、魔法陣はまばゆい召喚の輝きに満たされていく。
上昇する光のすじを縫って、エリーはエドにほほ笑んだ。
「またあちらで会おう、恋人よ」
イスに腰かけたまま、いらいらと貧乏ゆすりするのはエリーだった。
飲み干した疑似血液の紙パックで、テーブルの上はいっぱいになっている。経口摂取はもちろんのこと、彼女の体に刺さるのは何本もの輸血パックの針だ。点滴されるそれらの中身も無論、戦いで消耗した吸血鬼の血に他ならない。
エリーがふたたび美須賀大付属の新品の制服を着用したのは、衣服を選ぶ時間がもったいないためだ。異世界転送のどさくさで失った組織の腕時計も、その手首にきっちり復活している。
銀色の多機能時計の時刻をなんども確認しつつ、エリーは嘆いた。
「ええい、まだか。まだ召喚の準備は整わんのかや。こっちに戻ってから何時間たつと思っておる」
回答は、つつましい扉のノックとともにもたらされた。
「破壊された魔法陣の修復は、あとすこしのようだよ。失礼してもいいかい、エリー?」
「だれじゃな、こんなときに。入れ」
かすかな稼働音をひいて自動扉が開くと、現れたのはスーツ姿の若者だった。その片手には、どこかで見覚えのある頑丈なアタッシュケースが提げられている。
にこにこする若者の柔和な顔立ちは、まだ少年といっても差し支えなかった。秘密基地にいるからには組織の関係者と思われるが、彼のことはエリーの記憶にはない。
不審げにエリーはたずねた。
「だれじゃ、うぬは。新人かえ?」
くすりと頬をほころばせ、若者は返事した。
「そうだね、この姿で会うのは初めてだった。ぼくだよ、凛々橋恵渡だ」
「エド?」
口もとに拳をあて、エリーはしばし記憶をたどった。眼帯のないほうの瞳を、きゅうに見開く。
「エド! マタドールシステム・タイプOか!」
「正解。ひどいなァ、いっしょに死線をくぐり抜けてきた相棒の存在を忘れるだなんて」
「たしかにその声、聞き覚えがある……」
現在のタイプOは、幾段階にも変形するエリーの血晶呪強化装置の姿ではない。メンテナンスの名目で研究員に武器を預けたまでは覚えているが、まさかこの短時間でここまで大胆な変身をとげるとは。
頭頂から爪先までなめ回すよう観察したエドを、エリーは端的に評した。
「また、ひ弱そうな優男じゃのう」
「あらら」
さっそく自己を否定され、エドは軽くずっこけた。
「ま、人間だった時代からよく言われてることさ」
「どうやって人の姿に戻った?」
「戻ったんじゃなく、正確には新たな魂の容器を与えられたんだ。従来のタイプOを脊髄とする最新技術の機械の体をね。改めて自己紹介するよ。ぼくはマタドールシステム・タイプO、凛々橋恵渡。アルファベットのOは〝開封〟の頭文字さ。組織からは、引き続きエリーをサポートするようお願いされてる。今後ともよろしくね」
「うむ」
軽く握手して、エリーとエドは挨拶した。エドの手首にもまた、組織お手製の銀時計が輝いている。
「で、生き返った感触はどうじゃ?」
ネクタイの上に手をそえ、エドは答えた。
「組織の再現力はすごいよ。ぼく自身、人間だったころとほとんど感覚が変わらない。すこし変わったといえば、視界にいろいろな情報が自動で流れるのと、主食が電力になったぐらいかな」
「待てい。では、わらわの剣はどこへいった? 必死こいて集めた宝石は?」
「ここにある」
細かな金属音を漏らして、エドの片手は展開した。
エドの拳に埋まってきらめくのは、鳩血石、蒼玉石、金剛石、緑柱石……異世界の宝石たちだ。宝石を大事に拳の中へしまい、エドは説明した。
「幻夢境の地水火風、よっつの呪力の燃料はそろった。おかげでぼくも復活することができたよ。吸血鬼特有の〝永遠の命〟をもつ秘宝のおかげでね。ただ呪力をこめただけの普通の宝石とかじゃ、ぼくはあっという間に停止しちゃうそうだ。そして……」
ていねいにテーブルへ置いたアタッシュケースを、エドは開いた。
「ぼくの魂は抜けたが、エリーの武器はちゃんとある。改良型の血晶呪増幅機構、その名もマタドールシステム・タイプ02だ」
ケース内の緩衝材に収まったエリーの武器は、初代のそれと瓜二つだが、やや肉厚になって形状も新しくなっている。
うやうやしくホルスターごと持ち上げたタイプ02を手に、エリーは溜息をついた。
「ちと期待はずれじゃ」
「そうくると思ったよ。武器はそれだけじゃない。エリーの愛車〝血晶呪マークⅢ〟も完成して発進の待機中だ。その他の銃火器や爆薬、防具や刀剣類も、こんどのぼくならきちんと異世界へ運べる。好きなだけ選んで持ってって」
「ちがう」
首を振って、エリーは苦笑した。
「頼りになる話し相手の剣が、もういないというのが寂しくての」
「驚いた。でも武器に宿った精神なら、そっくりそのままこっちへ引き継がれたよ?」
じぶんを指差すエドへ、エリーは問うた。
「人型自律兵器の体ということは、うぬも寿命は半永久的かや?」
「いちおうそうらしいね。とんでもない破損やバッテリー切れ、深刻なエラーとかがない限りは」
「心強い。こりずにわらわの相談役になってくれるな、エド?」
「もちろんだ。こんなぼくでよければ……ぅわっと?」
びっくりして、エドは目を白黒させた。
点滴につながったままのエリーが、じぶんに抱きついてきたのだ。ここまでの感謝とこれからの期待に熱くなるエリーの吐息が、じかにエドの耳たぶにかかる。
「ど、どうしちゃったのさ、エリー?」
「嬉しくっての。ともに長き時間を歩める伴侶を得たことが」
「伴侶……ぼくなんかがエリーにふさわしいとは、とても思えないよ?」
「うぬとわらわ、種族は違えど、ともに時を刻めばわかってくることもある」
密着したエドの肩越しに、エリーは遠い眼差しになった。
「今回の一連の騒動で、よく思い知った。死の恐怖を。おのれの無力さを」
死闘のフラッシュバックに強張るエリーを、そっと解きほぐす手はあった。抱き合ったエリーの細い背中を、エドが優しくさすったのだ。
人間味あふれるエドの掌のぬくもりは、とても機械とは思えなかった。反対に、闇夜の凶獣であるはずのエリーの体とは、ここまで華奢だったのか。いざ一皮剥いた彼女は、じつのところただのか弱い女子高生にしかすぎない。気丈さが売りの吸血鬼とて、困難に行き詰まって心身を病むこともある。
ちいさく震えながら、エリーは嗚咽を漏らした。
「わらわは恐ろしい。これまで生き残ってこられたじぶんの強運と、これからの戦いへの不安が。痛みが怖い。生きていたい。戦わずに逃げてしまいたい……」
「なんでもっと早くに打ち明けてくれなかったんだ。頑なに本音を隠すそのスタイル、ふだんとのギャップ。ぼくもかなり、キュンときた」
子どもそのもののエリーの頭をなでながら、エドはささやいた。
「心配ない。エリーは強いよ、じゅうぶんに」
「いや、弱い。なにが逆吸血鬼じゃ。ちょっと昼間に出歩けて、普通人よりすこしばかり運動神経がよいだけではないか。わらわがこれまで勝ち残れたのは、組織の手厚いバックアップがあってこそじゃ」
きつく瞑られたエリーの独眼の端に、年相応の涙が浮いた。
「それが丸裸で未知の世界に放り出されれば、それ見たことか。うぬという支えがなければ、わらわはとうの昔に幻夢境の強敵に仕留められておった。これまでの厚顔無恥な行いの数々、おおいに反省しておる」
エドに手渡された清潔なハンカチで目尻をおさえながら、エリーは告げた。
「わらわには、うぬがいるだけでいい。その他の武器はもう、必要最低限しか持たぬ」
鼻をすすって項垂れるエリーの肩へ、エドは柔らかく手をおいた。
「絶対に救おうね。ハオンくんたちを、異世界と現実を。ぼくらの力をあわせれば、必ずできる」
「ああ」
互いに見つめ合って意味深な時間を過ごすエリーとエドは、やがて自然に接近してその唇どうしを……
ふたりの腕時計が、そろって合図の着信を鳴らしたのはそのときだった。
はっと我に返り、エリーはエドから顔をそらしている。全身の輸血の針を手早く外すその視線には、もうためらいはない。タイプ02のホルスターを腰にとめつつ、常と変わらぬ冷静さでエリーはつぶやいた。
「召喚の準備は整った。続きはまた、戦いのあとじゃ」
数分後……
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エリーとしっかり手をつないだまま、念押ししたのはエドだ。
「いいかい。安全が確認できるまでは、なにがあってもこの手は放さないようにね」
「放さぬ、放さぬとも。しかし」
どこかすっきりした面持ちで、エリーは質問した。
「真っ赤な泥濘と化して、わらわは幻夢境に転送されるのでは?」
「いや、今回は大丈夫さ。仮想テストも問題なくクリアしてる」
エドの拳は変形し、ひかえめに宝石の光をこぼした。
「エリーがあんな姿で異世界に召喚されたのは、魔法陣の精度が低かったからだ。でもこれからはそうじゃない。マタドールシステム・タイプOの〝開封〟の呪力で、魔法陣の性能は限界まで引き出す。つまりエリーは、完全なままで幻夢境に転送されるのさ」
「まことかや? なんと恐るべき能力……」
「いまのところはまだ〝開封〟による召喚はエリー専用で、一度につきひとりを運ぶのが精一杯だけどね。ほんとに他の持ち物はいいの? かんたんには取りに戻れないよ?」
「いらん」
腰のタイプ02を自信ありげに注視し、エリーは言い放った。
「なまじ武装が充実しておると、それにばかり頼りすぎて油断が生まれる。百パーセントの力を発揮するためにも、わらわは02のみの装備で十分じゃ」
「わかった……では皆さん、お願いします」
エドの言葉を皮切りに、てきぱきと持ち場についたのはあたりの研究員たちだ。
定刻をむかえ、魔法陣はまばゆい召喚の輝きに満たされていく。
上昇する光のすじを縫って、エリーはエドにほほ笑んだ。
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