【完結】フェイクオメガ

水樹風

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第4話


「は?俺にお見合い?」


 伊織は珍しくアマミヤホテルグループCEOの正嗣に呼び出された。何事かと思えば、父親としての話だと言う。


「伊織さぁ、少し前にマッチングのお客様に口出ししたでしょ?」


 別に叱責という訳でもなく、正嗣はどこかからかってでもいる風だ。


「マッチング……?あっ!あの抑制剤飲まずに来て部屋に連れ込もうとしてた奴か。」
「そう、それ。そのお客様、このエフプロジェクトでかなりの大物のご子息だったらしいんだよね。」
「は?」


 伊織にしてみれば、そんな立場の親がいるのに何考えてるんだ!という感じなのだが……。


「大物の息子って……。」
「河野って聞けばピンと来る?」
「なっ!?まさか、バース保健庁の河野事務次官か?」
「ご名答っ!」
「いや、ご名答って……。」


 伊織は相変わらずマイペースな父親にどっと力が抜ける。


「なんかさ、流石にご子息がやらかしちゃったのはマズいから有耶無耶にしたみたいだけど、腹の虫が治まらなかったみたいなんだよねぇ。」
「はぁ!?それ、ただの八つ当たりだろっ。」


 伊織には2つ年下の恋人がいる。大学在学中に知り合ったアルファの橘礼奈だ。
 伊織は彼女にぞっこんでプロポーズもしたが、経営者でもある彼女に、アルファ同士の結婚に風当たりが強くなっている今は時期ではないと断られた。
 礼奈は結婚のタイミングではないと思っているだけで、伊織にはかなりの独占欲を見せていて、自分はもちろん、伊織にもお見合いなど絶対に受けないようにと約束させていたのだ。

 そんな訳で、伊織はマッチングの話が来ても全て流して1度もエフとは会っていなかった。どうやら河野はそこに目を付け、嫌がらせを仕掛けてきたらしい。


『日本を代表するアマミヤホテルグループのご子息ともあろう方が、貴重なアルファの人口維持になんの協力もされていないとは……。』


そんなセリフを経営者団体の会合で正嗣に言ってきたようだ。


「とりあえずさ、1回マッチング受けて実績残せば、穏便にすむからさ。」


 ニッコリとそう言ってくる父親に伊織は反論する気力もなかった。
 とはいえ、エフと会うなどと礼奈に知れたら大変なことになる。万が一エフに気に入られスッキリと断って終わらなければ尚更厄介だ。


 ──この忙しい時期に、なんて面倒くさい案件をっ!


 伊織は自分のオフィスに戻りながら頭を抱えていた。


「あ、マネージャー、お連れ様です。」


 ぐったりと歩いていた伊織は栗原に声をかけられた。


「おう、お疲れ。」
「ちょっと小耳に挟んだんですけど、この前のエフの件!」


 栗原は強引に伊織をリフレッシュルームに連れ込んで、誰もいないのを確認すると、嬉しそうに話しだした。


「本当、お前の情報網どうなってるの?」


 もう自分のお見合いの件を聞きつけたのかと、半ば彼女が怖くなってくる。


「マネージャー、前にボスがずっと依頼したかったのに探し出した時には亡くなってたって言ってたフラワーアーティスト覚えてます?」


 ──ん?何だか話が見えないぞ。


 栗原が言うボスとは伊織の母親の香菜子のことだ。
 今は海外事業部を任されている彼女は、1年前に伊織に引き継ぐまでウェディング事業部の統括責任者だった。栗原も以前はウェディング事業部にいたのだ。


「フラワーアーティスト?……ああ、大々的にアトリエを構えてる訳でもなく、小さい花屋をやってたって言う。」
「そう、阿部友明です!」


 なんだか、えらく興奮して話しているが、もう5年以上前の話のはずだ。
 マンネリ化してきていた装花のテコ入れで、雑誌の小さな写真のアレンジを見て一目惚れした香菜子が作者を探したが、記事が何年か前のものだったせいもありアーティストは既に他界していた。
 香菜子は随分と惚れ込んでしまっていたから、しばらくずっと残念だと言い続けていて、まだ学生だった伊織も印象に残っていた。


「で、それと例のエフが何の……。」


 栗原は待ちきれなさそうに、伊織の言葉を遮って話し始める。


「その阿部友明のパートナーだったフラワーアーティストが一色光廣って言うんです!」


 ──ん?一色?


 ここまできて、やっと話が見え始めた。


「さっき、ウェディング事業部に営業に来たアーティストがいて、それがこの前マネージャーが助けた美人さんだったんですよ。フラワーアーティストで一色涼太って言うからピンと来ちゃって!」
「彼が営業に来たのか?」
「はい。実は帰るときに捕まえてちょっと話したんですけどね。」
「お前、何やってんだ!」
「まあまあ。それで聞いてみたら、やっぱり一色光廣の息子で、最近何ヶ所か専属切られちゃったんですって。」


 栗原のペースに捕まると、気付けばペラペラ喋らされていたと言う恐ろしい事態になるのだが、どうやら涼太も餌食にされたらしい。


「ボスが聞いたら喜びますかね?」


 ──結局落とし所はそこかよっ。


 栗原は香菜子を行き過ぎなほど敬愛しているのだ。
 彼女は話すだけ話すとスッキリとして伊織を放置し仕事に戻っていった。


 ──エフのフラワーアーティストか……。


 彼を助けてこんな面倒なことになったんだ。手を貸してもらってもバチは当たらないだろう。

 伊織は早速自分のオフィスで涼太の詳しい話を部下から聞き、名刺を手に入れたのだった。












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