5 / 34
第4話
「は?俺にお見合い?」
伊織は珍しくアマミヤホテルグループCEOの正嗣に呼び出された。何事かと思えば、父親としての話だと言う。
「伊織さぁ、少し前にマッチングのお客様に口出ししたでしょ?」
別に叱責という訳でもなく、正嗣はどこかからかってでもいる風だ。
「マッチング……?あっ!あの抑制剤飲まずに来て部屋に連れ込もうとしてた奴か。」
「そう、それ。そのお客様、このエフプロジェクトでかなりの大物のご子息だったらしいんだよね。」
「は?」
伊織にしてみれば、そんな立場の親がいるのに何考えてるんだ!という感じなのだが……。
「大物の息子って……。」
「河野って聞けばピンと来る?」
「なっ!?まさか、バース保健庁の河野事務次官か?」
「ご名答っ!」
「いや、ご名答って……。」
伊織は相変わらずマイペースな父親にどっと力が抜ける。
「なんかさ、流石にご子息がやらかしちゃったのはマズいから有耶無耶にしたみたいだけど、腹の虫が治まらなかったみたいなんだよねぇ。」
「はぁ!?それ、ただの八つ当たりだろっ。」
伊織には2つ年下の恋人がいる。大学在学中に知り合ったアルファの橘礼奈だ。
伊織は彼女にぞっこんでプロポーズもしたが、経営者でもある彼女に、アルファ同士の結婚に風当たりが強くなっている今は時期ではないと断られた。
礼奈は結婚のタイミングではないと思っているだけで、伊織にはかなりの独占欲を見せていて、自分はもちろん、伊織にもお見合いなど絶対に受けないようにと約束させていたのだ。
そんな訳で、伊織はマッチングの話が来ても全て流して1度もエフとは会っていなかった。どうやら河野はそこに目を付け、嫌がらせを仕掛けてきたらしい。
『日本を代表するアマミヤホテルグループのご子息ともあろう方が、貴重なアルファの人口維持になんの協力もされていないとは……。』
そんなセリフを経営者団体の会合で正嗣に言ってきたようだ。
「とりあえずさ、1回マッチング受けて実績残せば、穏便にすむからさ。」
ニッコリとそう言ってくる父親に伊織は反論する気力もなかった。
とはいえ、エフと会うなどと礼奈に知れたら大変なことになる。万が一エフに気に入られスッキリと断って終わらなければ尚更厄介だ。
──この忙しい時期に、なんて面倒くさい案件をっ!
伊織は自分のオフィスに戻りながら頭を抱えていた。
「あ、マネージャー、お連れ様です。」
ぐったりと歩いていた伊織は栗原に声をかけられた。
「おう、お疲れ。」
「ちょっと小耳に挟んだんですけど、この前のエフの件!」
栗原は強引に伊織をリフレッシュルームに連れ込んで、誰もいないのを確認すると、嬉しそうに話しだした。
「本当、お前の情報網どうなってるの?」
もう自分のお見合いの件を聞きつけたのかと、半ば彼女が怖くなってくる。
「マネージャー、前にボスがずっと依頼したかったのに探し出した時には亡くなってたって言ってたフラワーアーティスト覚えてます?」
──ん?何だか話が見えないぞ。
栗原が言うボスとは伊織の母親の香菜子のことだ。
今は海外事業部を任されている彼女は、1年前に伊織に引き継ぐまでウェディング事業部の統括責任者だった。栗原も以前はウェディング事業部にいたのだ。
「フラワーアーティスト?……ああ、大々的にアトリエを構えてる訳でもなく、小さい花屋をやってたって言う。」
「そう、阿部友明です!」
なんだか、えらく興奮して話しているが、もう5年以上前の話のはずだ。
マンネリ化してきていた装花のテコ入れで、雑誌の小さな写真のアレンジを見て一目惚れした香菜子が作者を探したが、記事が何年か前のものだったせいもありアーティストは既に他界していた。
香菜子は随分と惚れ込んでしまっていたから、しばらくずっと残念だと言い続けていて、まだ学生だった伊織も印象に残っていた。
「で、それと例のエフが何の……。」
栗原は待ちきれなさそうに、伊織の言葉を遮って話し始める。
「その阿部友明のパートナーだったフラワーアーティストが一色光廣って言うんです!」
──ん?一色?
ここまできて、やっと話が見え始めた。
「さっき、ウェディング事業部に営業に来たアーティストがいて、それがこの前マネージャーが助けた美人さんだったんですよ。フラワーアーティストで一色涼太って言うからピンと来ちゃって!」
「彼が営業に来たのか?」
「はい。実は帰るときに捕まえてちょっと話したんですけどね。」
「お前、何やってんだ!」
「まあまあ。それで聞いてみたら、やっぱり一色光廣の息子で、最近何ヶ所か専属切られちゃったんですって。」
栗原のペースに捕まると、気付けばペラペラ喋らされていたと言う恐ろしい事態になるのだが、どうやら涼太も餌食にされたらしい。
「ボスが聞いたら喜びますかね?」
──結局落とし所はそこかよっ。
栗原は香菜子を行き過ぎなほど敬愛しているのだ。
彼女は話すだけ話すとスッキリとして伊織を放置し仕事に戻っていった。
──エフのフラワーアーティストか……。
彼を助けてこんな面倒なことになったんだ。手を貸してもらってもバチは当たらないだろう。
伊織は早速自分のオフィスで涼太の詳しい話を部下から聞き、名刺を手に入れたのだった。
あなたにおすすめの小説
オメガの復讐
riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。
しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。
とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆
妹に奪われた婚約者は、外れの王子でした。婚約破棄された僕は真実の愛を見つけます
こたま
BL
侯爵家に産まれたオメガのミシェルは、王子と婚約していた。しかしオメガとわかった妹が、お兄様ずるいわと言って婚約者を奪ってしまう。家族にないがしろにされたことで悲嘆するミシェルであったが、辺境に匿われていたアルファの落胤王子と出会い真実の愛を育む。ハッピーエンドオメガバースです。
『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―
なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。
――はずだった。
目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。
時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。
愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。
これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。
「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、
年上αの騎士と本物の愛を掴みます。
全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像はpicrewさんよりお借りしました。
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
文章がおかしな所があったので修正しました。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
泡にはならない/泡にはさせない
玲
BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――
明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。
「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」
衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。
「運命論者は、間に合ってますんで。」
返ってきたのは、冷たい拒絶……。
これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。
オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。
彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。
——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。