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第14話
しおりを挟む目覚めてから2週間──。
涼太の健康的な肌は青白くなり、すっかり痩せて頬はこけ、以前の明るい笑顔を見ることは1度もなかった。
軽いノックの音がしても、涼太の瞳は色を変えることはなく、ただ全てを諦めたように俯いている。
「おっ、涼太くん、今日は半分食べられたじゃない。頑張ったね。」
宗一郎は毎日、昼過ぎに面会にやってきた。
しばらくは全く食事に手を付けなかった涼太も、ここ数日は少しずつ病院食を口にし始めた。
しかしそれは、前向きな変化ではなく、そんなささやかな抵抗になんの意味もないと悟り、全てを諦めた結果だった。
食事を下げにきた看護師にも宗一郎と同じ言葉をかけられる。
以前の涼太なら、礼を言って笑いかけていただろうが、今の彼は声の出し方を忘れてしまったように虚無なままでいた。
看護師が部屋を出ると、宗一郎はベッドの上で涼太の隣に座り、彼を抱き寄せて瞼に口づける。
「涼太くんの取引先への連絡は全部済ませたからね。……徳間さんの件も、残念だったけど、まずは治療をしっかりと受けよう。」
涼太は無表情のまま、頬を涙で濡らしていた。
「ほら、おいで、涼太くん。」
宗一郎に言われて、涼太は素直に彼の胸に顔を埋め、宗一郎の抱擁を受け入れた。
天涯孤独で、病院内では使えないからと宗一郎にスマホを預かられてしまった涼太には、宗一郎を頼る以外術がなくなってしまっていた……。
涼太は、アルファのフェロモンを微量しか感じない状態で擬似発情を起こした。
通常、しっかりとしたフェロモンの影響下でエフが発情を起こすことで、オメガフェロモンの分泌が始まり、数ヶ月から半年ほどかけて体が完全なオメガへと変化する。
涼太は、このオメガフェロモンの分泌が不安定で微量なままオメガへの変化が始まってしまい、体に大きな負担がかかってしまっていた。
今は薬でフェロモンの分泌を促し、エフからオメガになるための治療を受けている。
涼太は選択肢を与えられる機会もなく、残りの人生をオメガとして生きることになったのだ。
偽物から本物へ。それは涼太にとって、絶望の連続だった。
「こちらの愛眞会病院は、医師や看護師、病院スタッフ全員がベータです。この病院を受診されるのは紹介状持参のオメガとエフの患者さんのみです。面会のために入れる方も、ベータのご家族と、病院が許可したパートナーのアルファの方だけになります。アルファの方には面会の際、抑制剤が効いているか毎回フェロモン値を測らせていただきますのでご了承下さい。」
涼太が目を覚ました翌日から、突き刺さる現実ばかりが告げられる。
宗一郎に支えられ、笹森医師の説明を聞く涼太は、それが自分へのものだという実感すらなかなか持てなかった。
「わかりました。それで、涼太くんはどれくらい入院することになりますか?」
「体がオメガとして安定するまで、何らかの治療と管理は必要になってきます。数ヶ月……長ければ1年以上かかるかも知れません。長期の入院を覚悟して下さい。」
笹森医師の言葉に涼太は身を硬くする。
「そ…んな……。じゃあ……しご、と…は……?」
涼太のひどく掠れた声が切なく響く。
「残念ですが、現実的にオメガとして発情期が安定して、抑制剤の服用でコントロール出来るようになるまで、お仕事をされるのは無理でしょう。」
涼太の体は震えが止まらなくなっていた。
──病院での治療……?本当に?こんなの牢獄に閉じ込められただけだろ?
涼太はいたたまれなくなり、重い腕を持ち上げベッドに腰掛け涼太の肩を抱いていた宗一郎に縋りつく。
「涼太くん……。すみません、少し二人にしていただけますか?」
「わかりました。」
宗一郎は涼太を優しく包み込み背中を撫でた。
「涼太くん、すまない。まさか、こんなことになるなんて……。」
涼太は宗一郎の腕の中で目を閉じ、微かに首を横に振る。
「すぐには気持ちの整理はつかないよな。ごめん、僕が『運命』で……。涼太くんの想い人は、天宮さんだったんだろ?」
「……宗、一郎さん……?」
宗一郎の震える声に、涼太が体を少し離して見上げると、彼は瞳を潤ませていた。
「今すぐパートナーとして認めてくれなんて言わないよ。だけど、涼太くんをオメガにしてしまった責任を取らせて?」
「でも……。」
「あんな出会い方した僕じゃ信じられないだろうけど、僕は本気なんだ。……涼太くん、好きだよ。愛してる。」
「な、に……言って……。やめて、やめて下さい……!」
涼太にとって、それは別の男から聞きたい言葉だった。
それなのに、自分の『運命の番』だと言う宗一郎が、その言葉を真っ直ぐにぶつけてくる。
──嫌だ、嫌だ!だって俺は……俺は、伊織くんに……本気で……。
伊織に返事を聞きたかった。
それが涼太の望む答えでなかったとしても……。
涼太はこんな形で伊織への想いを終わらせることに耐えられず、また呼吸が乱れていく。
「涼太くんっ!」
宗一郎が慌ててナースコールのボタンを押した。
「大丈夫だよ。涼太くん、僕は待つから。怖がらなくていい。怖がらなくていいから……。」
「……っ、頼むから……優しく、しないで……くれ……。もう……イヤだよ……っ。」
「うん。そうだね。」
宗一郎がどんどんと自分の心を侵食していく……。それを心地いいと感じてしまう自分が、涼太は怖くて堪らなかった。
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