【完結】フェイクオメガ

水樹風

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第19話 **


 宗一郎が病院に着いたのは、空のオレンジが消えかかる夕方のことだった。


「涼太くんにヒートが来たって、どういうことですか!?」
「正確にはヒートではなく擬似発情なんですが、体はエフのまま、アルファフェロモンを感じずに本格的なヒートに近い発情を起こしてしまっています。」


 困惑しながら説明する笹森医師に宗一郎が詰め寄る。


「薬は、抑制剤は使えないんですかっ?」
「それも考えました。が、今の一色さんのヒートを無理やり薬で抑え込むのは危険だと思います。」
「そんなっ。」
「河野さん、一色さんをパートナーとして助けてあげて下さい。」


 宗一郎は笹森に抑制剤を注射され、最後まで性行為をする場合は必ず避妊具を着用するようにと念を押された。


「セックスは強制ではないですよね?」
「はい、もちろんです。一色さんのオメガフェロモンは微量なままで、今河野さんに抑制剤を打ちましたし、理性がなくなるような状態にはならないはずですが、モニターしている一色さんの心臓の状態とフェロモン値によっては部屋に入らせていただきます。ご理解下さい。」
「わかりました。」


 ──まさかヒートとはな。こんなことなら、あいつとヤるんじゃなかった。


 病室から離れる病院スタッフを見送りながら、宗一郎は小さく舌打ちする。
 宗一郎が病院からの連絡を受けた場所、それは出張先でも会社でもなく、ベータの愛人の部屋だった。


 ──流石にまたヤる元気はないが……。まぁ、ペットと戯れるのは悪くないか。


 病室から漏れ聞こえる涼太の艶めく嬌声。宗一郎は冷笑をしまい込み、目の前の扉を開けた。


「涼太くんっ!」


 理想の恋人を演じ涼太を抱きすくめた宗一郎は、涼太に唇を塞がれ一瞬身を硬くする。
 まさか自分を求めるほどヒートに飲まれているとは思っていなかったのだ。


 ──いいねぇ。楽しめそうだ。


 宗一郎は涼太のその甘い舌を絡め取り、自身が主導権を握っていく。
 次第に宗一郎のキスのリズムを覚え、それに従い溶け始めた涼太を、宗一郎がベッドに押し倒した。


「涼太くん、こんなに汚して……。」


 宗一郎がそう言いながら涼太の腹に溢れた白濁を広げるように撫でまわす。


「ゆる……許して……。ん、うん……。」
「いいんだよ。一人で辛かったね。」


 涼太は涙の滲む目元に優しくキスを落とす宗一郎に、甘い吐息で誘いねだる。


「体……熱いよ……あ、ああっ!」
「大丈夫、いっぱい感じさせてあげるよ。」


 宗一郎の舌がうなじをくすぐり、器用に胸に繋がるコードを避けながら白い肌を指でなぞっていく。


「あん、あ、……ふぅん、ンんっ……。」
「凄いよ、涼太くん。ほら、指でくすぐるだけで、いっぱい垂れてきてる。」
「あ、やっ、ヤダっ……ああんっ……言うなぁ……。」


 今度は涼太の愛らしい胸の尖りをなぶり出した宗一郎に、涼太が涙を零しながら訴えた。


「んん?イヤ?」


 宗一郎が意地悪く、胸の尖端を爪で引っ掻く。身震いする快感に襲われた涼太は、色をなくし始めた欲望を放ち苦しげに息をした。


「もう、随分と一人でイったんだね。そろそろ限界?」


 宗一郎にそう問われ、涼太は必死にコクコクと頷く。


「そう……。でも、奥をまだ可愛がってないね。」


 宗一郎の指が涼太の欲で濡らされ、まだ誰も触れていない窄まりに辿り着いた。


「あ、ヤダ、イヤだっ……あ、ああっ、ダメッ!」


 そこを暴かれたら、もう二度と後戻りは出来ない……。
 その事実に涼太は怯え、逃れようと体をよじる。
 そんな涼太の抗いはアルファの力に敵うわけもなく、宗一郎の支配欲を満たしただけだった。
 宗一郎の大きな手で、頭の上に持ち上げられた両手首を押さえつけられ、涼太は初めて支配者アルファへの恐怖に震える。
 宗一郎はそんな涼太を嗜虐的な瞳で微笑んで見下ろし、呪いの言葉を再び口にした。


「言っただろ?逃さないよって……僕の『運命』……。」
「……ッ!あ、あぁぁ!イヤだぁぁっ!」


 容赦なく突き入れられた指が、ぬちゅぬちゅといやらしい音を響かせ、抗う理性と快感に溺れる体のはざまで涼太を引き裂いていく……。
 宗一郎は涼太の唇を塞ぎ彼の拒絶を奪うと、自身の唾液を与え涼太にオメガの性を思い出させた。


 ──どうしよう……気持ちいい……。気持ち、いい……。


 涼太の口から漏れる声が、また甘く艶を帯び、その喘ぎは宗一郎を悦ばせ水音を激しくさせる。


 ──もっと……もっと奥に……。


 涼太ははらの最奥まで穿たれる熱を請い始める。
 しかし、宗一郎のそれは熱を帯びる気配はなく、涼太の疼きは救いを失くしてしまった。


「ん、ンんっ、あぁんっ!……もっと……もっと……!」
「もっと?どこがいい?」
「奥が……奥に、ほしっ……あぁっ、そこじゃっ……。」


 涼太が奥を強請れば強請るほど、宗一郎の指は浅い凝りをいじめてくる。
 胸のピンと誘うそこをチロリと舐められ、涼太は大きく背中を反らせた。


「涼太くん、気持ちいいかい?」


 泣きながら頷き、宗一郎が自分を求めていないか視線を移す。


 ──やっぱり、宗一郎さんは責任を感じてるだけで……。俺じゃ、ダメなんだ……。


 宗一郎の指が舌が、涼太を絶頂へといざない、長い快感の余韻の中涼太は意識を手放し始めた。
 

 ──この人に、俺は運命じゃ、ないって……教えて、あげ……。



「おやすみ、涼太くん。」

 本当は宗一郎も自分を求めてなどいない。
 涼太はどうしようもない孤独を抱えて眠りについた。

 涼太の乱れる姿を堪能し、十分に愛人ペットの体を楽しんだ宗一郎が、その孤独に気付くはずもない。

 ズレ始める思惑──。
 動き出した歯車が、予期しない形で伊織を巻き込み始めたことも知らず、宗一郎はただ目の前の「今」を味わい続けていた。












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