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番外編

Side ノア&イヴァン 十八歳 *

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* 本篇でシリアスが続いていた時に、気分転換に書いた物です。

* 本篇には直接関係ありませんが、ネタバレも含んで来ますので、第一章 15『心の重荷』まで読了後にお読み頂くことをオススメします。






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「うわぁ、やっぱり降ってきた!」
「だから、さっき私が言ったじゃないかっ。」
「ゴメン!僕が悪かったから、とにかく走って、イヴァン!」
「もう、走るのは苦手なのに…。」


 半刻ほど前。急に黒い雲が広がり始め、イヴァンはもう帰ろうと何度も言ったのに、ノアがもう少しだけと引き止め祭を見て廻っていた結果がこれだった。

 王都から馬車で三日ほど。
 豊かな実りを迎えたグラキエス侯爵領では、あちこちで収穫祭が行われる。
 ノアは久しぶりの休暇に半ば無理矢理イヴァンを誘い、収穫祭を楽しもうと里帰りしてきていた。

 次第に雨足が強まる中、二人は田舎道を必死に走り、ポツンと畑の中に一軒だけある民家の中へと駆け込んだ。


「もう、本当に……。ノアと一緒だと、身が、持たない……。」


 はぁはぁと肩で息をしながら、イヴァンが愚痴をこぼす。


「だからゴメンって。はい、タオル。」


 ノアはイヴァンの頭にファサッとタオルをのせると、暖炉に手をかざし火をつけた。


「すぐにお湯を溜めてくるから。」


 そう言ってノアが二階へ上がっていく。
 侯爵家と伯爵家の令息がいるには似つかわしくない、ごく普通の一軒家。
 今日の収穫祭の会場がグラキエスの本邸から遠かったため、ここがちょうど今空き家になっていると聞いて、休暇の間借り受けたのだ。
 何でも、何年か前に引退した侯爵家の庭師が少し前まで住んでいたらしい。


「もう……。ノアだって、濡れてるのに……。」


 素直に「ノアは平気?」と聞けない自分に、イヴァンは小さくため息をく。


 ──でも、今夜は……。素直になるって、決めたんだ。


「イヴァン、お風呂入れるよ。どうする?一緒に入る?」
「なっ、入るわけないだろ!私はいいから、先に入って。」
「でも……。」
「い、いいからっ。」


 ノアはがっかりした表情かおで、階段の手すりの上から出した顔を引っ込めた。


 ──素直になるって、難しい……。


 さっきの決意が小さく萎んでいきそうになる。
 今度はイヴァンの口から、盛大なため息が漏れ出していた。


 それから交代で風呂に入り身体を温めると、一緒にキッチンに立って簡単なシチューを作った二人。

 ノアは王立魔術学院ルナスコラで寮監を務めるようになってから、黒龍病アラルの影響で人手不足なこともあり、子供達と一緒に簡単な料理なら作れるようになった。
 一方のイヴァンも、神殿の炊き出しなどで料理をする機会が多く、神官という立場もあって貴族令息とはいえ身の回りのことを一人でするのは慣れたものだ。
 そんな彼らは執事達の同行を断わり、今この家には二人きりだった。


「ノア、味見して?」


 イヴァンが大きなスプーンでシチューを少し掬い、ノアの前に差し出す。


「うん、バッチリ。」


 ノアのクシャッとした笑顔。イヴァンは無邪気な少年みたいなその顔が大好きだった。


 パチパチとはぜる暖炉の前のテーブルで、二人は今日の祭の話をしながらのんびりと食事をする。
 食後のお茶はイヴァンが淹れると、彼はドキドキしながらトレイの上に小さな包みを添えてノアへと差し出した。


「えっ?これ…。」
「今日はノアの十八歳の誕生日だろ。だから……。」
「ありがとう、イヴァン!開けていい?」
「うん。」


 中身はペリドットがあしらわれた髪留めだった。


「ルナスコラでは髪を結わなきゃいけないでしょう?」
「すごく素敵だよ!大切にする。」


 ノアの満面の笑みに、イヴァンも少しだけ素直に笑顔を見せられた。


「あのさ、イヴァン?このプレゼントもとっても嬉しいけど、僕の別のお願いも、覚えてくれてる?」
「え?えっと……う、うん……。」


 急に艶めいた声でノアに聞かれ、イヴァンは俯きがちに小さく返事をする。


 『僕が十八になったら、しばらくはまたイヴァンと同じ歳でしょ?その間だけでもいいから、僕を一人の男として見て欲しいんだ。ただの幼なじみじゃなくて……。』


「イヴァン?僕に、照れてくれるの?」


 真っ赤になった彼の頬を、ノアの大きな手が包み込む。


「ねぇ、僕を見て?」


 おずおずとイヴァンが見上げたその先には、普段の彼からは想像も出来ない、ノアの熱を帯び劣情を秘めた双眸があった。


 ──ああ、こんな瞳で見られたら……。もう抵抗なんて無意味だな……。


「ノア……。キスしたい。」


 気付くとイヴァンは何も考えず、ただ素直にそう口にしていた。


「仰せのままに。」


 ノアが情熱的に唇を重ねてくる。その熱く潤んだ感触に自然とイヴァンの結ばれた唇が綻び、ノアの舌が入り込んだ。


「んぅ……ふ…んん……。」


 歯列の裏から奥へと上顎をくすぐられると、イヴァンはそれだけで膝の力が抜けそうになる。
 細身の見た目からは分からないノアの力強い腕がそれを抱きとめ、キスは深く絡みついてきた。
 イヴァンはいつの間にか夢中になって彼の舌を追いかけ、何度も混ざり合った唾液を飲み込む。


「あ、あぁ……ノア……。」
「イヴァン、ベッドに行こう。」

 すっかり蕩けたイヴァンを軽々と抱き上げ、ノアは自分の興奮を悟られないようにと慎重に階段を上がっていった。


 カーテンのない寝室の窓。雨上がりの空からは青白い月光が射し込んでいる。
 イヴァンをベッドに寝かせると、ノアは膝立ちになってボタンを上からいくつか外し、荒々しくシャツを脱ぎ捨てた。


「イヴァン、僕、もう止まれないと思う。でも痛かったら我慢しないで、ちゃんと教えてね。」


 頷くイヴァンの頬を親指で淡く撫で、彼はサイドチェストから香油の瓶を取り出した。
 それを見たイヴァンが、小さく息を呑む。


「ノア……あの、私……。」
「ん?なぁに?」
「あの……わ、私……初めて、で……。」
「えっ?」
「引いた……?」
「そんなわけない!嬉しい!優しくするから……。僕に任せて、全部委ねて?ね?」
「う、うん……っ、あっ……。」


 今度は優しくついばむキスをすると、ノアは長い指の大きな手を腰の隙間からイヴァンのシャツの中へと滑り込ませ、その引き締まった脇腹を撫で上げた。


「イヴァン、可愛い。大好きだ……。」


 鼓膜を直接震わせる甘い熱を囁かれ、耳朶を喰まれる。イヴァンはどうしようもない熱が腰の辺りに集まるのを感じて身をよじった。


「イヴァンはどこが好きか、探そうね。」


 そう言ったノアの舌と手が、イヴァンを為す術なく翻弄し始める。
 シャツの前を開かれて、首筋を下りてきた舌が、ピンと硬くなった胸のささやかな飾りに辿り着いた。


「もう、こんなになってる。」
「んっ、あ、ノア……、あ、んんっ!」


 ずっと焦らすように舐められて来たのに、突然そこを咥えられ転がすように舌で弄ばれると、快感が一気に駆け抜ける。


「あ、ダメっ、……あぁ……。」
「ここ、好き?ダメなら、止める?」


 反対も爪でカリカリと刺激され、じわじわとそこから全身へ広がる感覚が、イヴァンの身体を止め処なく敏感にしていった。


「はぁ、あんっ……ダメじゃ、ない……。ノアが、触れると、……あ、全部、いいからっ!」


 イヴァンは目を潤ませ、必死にノアの首へと腕を伸ばして抱きつく。


「っ!ああ、もう!」


 ノアが堪らずにイヴァンの服を全て剥ぎ取った。
 イヴァンの熱はその昂りに集まり、既にポタポタと雫を垂らし始めている。
 ノアは見せつけながらそれを舐めあげ、硬さを増す熱を口に咥え込んだ。


「えっ!?ひゃっ、あん……んぅんっ!」


 根元まで緩々と手で扱かれて、イヴァンの身体がしなりだす。


「あ、はんっ……もうっ!ノアっ!!」


 切羽詰まった彼の声にノアは口を離したものの、その手はくちゅくちゅと一気にイヴァンを攻め上げた。


「っ、あ、あぁっ……!」


 ノアの手の中がイヴァンの白濁に濡れる。


「上手にイケたね、イヴァン。」


 イヴァンの瞼に降る優しいキス。


 ──ノアに、もっと褒められたい……。


 胸に広がる甘い悦びが、イヴァンをただ素直にして、彼は舌を少しだけ差し出しキスをねだった。
 ノアがそれを甘噛みして幸せそうに絡め取る。


「はぁぁ、こんなおねだりしてくれるの?いい子……。」


 ──嬉しい……。ノア……。


 またゆっくりとノアの手が身体を這う。その手はイヴァンを焦らしながら内腿を撫で上げた。


「イヴァン、脚開いて。」


 言われるがまま膝を曲げ大きく脚を開く。イヴァンはもう、羞恥心を感じるよりノアの言うままになりたかった。
 そのイヴァンの様子に濃艶な笑みを見せ、ノアはじっとりとキスを深めて彼をとかしていく。
 香油を纏った指がクルクルとイヴァンの小さな蕾の周りを刺激して、ゆっくりと時間をかけ解しだした。
 初めて触れられる秘めた場所。身体が強張りシーツを握りしめるイヴァン。


「大丈夫だよ、イヴァン。力を抜ける?……そう、上手。」
「ふっ、んぅ……。」


 やがてくぷんと、指がなかに入り込んだ。
 グチュッと音をたてながらゆっくりと中を掻き回され、香油を足しながら抜き差しされる。
 その丁寧な愛撫に、イヴァンが違和感の中から快感を拾い出すまで、そう時間はかからなかった。


「あっ、はぁん……!やっ、そこ、なに!?」


 一際高く声があがる。
 ノアが快感のしこりを探し当てたのだ。


「ここが、イヴァンのいいとこだよ。気持ちいいでしょ?ほら、いっぱい感じて?」
「あっ、そんなっ……はぁっ、あ……あぁ……。」


 いつの間にか増やされた指が、トントンと痼を刺激し、時々胎内なかを掻き回す。
 イヴァンはもう言葉も出せず、ただ甘い声で喘ぎ続けた。


 ──早く、ノアと繋がりたい!ノアが欲しい!!


 イヴァンは彼にわかって欲しくて、必死に縋り付き唇を重ねた。


「んんっ、はぁ……イヴァン……。もう限界!イヴァンのナカに入りたい!」
「うん。来て、ノア……。」


 グチュンと指が引き抜かれたそこに、ノアの張り詰めた熱杭があてがわれる。


「息を、止めないでね。」
「っ、ん、あ……っ!」


 それは感じたことのない凄まじい圧迫感。
 ノアが挿入れてくれた喜びと逃げ出したい恐怖感が同時に襲ってきて、イヴァンは訳がわからなくなった。


「イヴァン、お願い、逃げないで。」


 苦しげなノアの声に、ずり上がる身体を必死に留めただただ頷く。
 ノアは辛そうに唇を引き結びながらも、慣らすようにゆっくりと浅い抽送を繰り返した。
 寝室に響くのは、淫美な水音と二人の荒々しい息遣い。
 しばらくしてイヴァンの声が再び甘さを持ち始めたのを確認すると、ノアはその剛直を容赦なく奥へと進めていった。
 脚を肩に担がれ、何度もその太く滾った楔がイヴァンのはらを突き上げる。


「はん、あっ、ノア!ノアっ!」
「くっ、あぁ……イヴァン、可愛い……!あっ、好き!大好きだ。」


 初めての衝撃に力を失くしていたイヴァンの昂りが、与えられる甘美な快感にまた芯を持ち始めた。
 ノアはそれを見て、楔の張り出した尖端で痼を擦り上げ、更に奥へと腰を打ち付ける。



「あん、あぁん!ノア、もうっ、欲しい!……お願いっ、来てぇ!」
「いいよ、あげる!くぅっ、イヴァン!!」


 肌と肌がぶつかり合う音が激しさを増し、ノアは欲望のまま無我夢中でイヴァンを攻め立てた。
 やがて一気に奥を突き上げたノアの熱い欲が、イヴァンのはらを満たしていく。
 と同時に、それを感じたイヴァンもまた、全てを自らの腹に放ち果てていた。


「………愛してる、ノア……。」
「……っ……。」


 イヴァンは微笑みながら無意識にそう呟いて、スーっと眠りに落ちていく……。


「僕も愛してる、イヴァン……。ルナスコラで一人前になれたら、結婚を申し込みに行くから……。」


 待ってて……。

 そう囁いてイヴァンの栗色の髪にキスを落とすと、ノアは幸せを噛み締めて最愛の人の寝顔を見つめていたのだった……。










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