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第一章

25 戸惑いと恥ずかしさ

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 庭園からの帰り道。
 俺がルカに抱っこされ、エルネス様がその隣をシュンとして歩いてくるという光景に、先に庭園を出た若手組は目を点にしていた。
 俺がルカに抱っこを頼んだことで、当然エルネス様は納得いかずゴネたわけで……。
 嫌な訳じゃなく俺が恥ずかしがってるだけなのは分かってくれたけど、レオと口喧嘩まで始めてしまった。
 ああ、俺が我儘言ったから……!と慌て始めた時、なんとルカの雷が落ちたのだ。


「これ以上ハヤト様を困らせて、また体調が悪くなられたらどうなさるおつもりですかっ!!」


 俺のことでは一切譲らないとでも言わんばかりに、ルカは王太子と近衛騎士団々長を黙らせ、俺を抱きかかえてスタスタと歩き出したのだった。


 ルカは怒らせないようにしよう……。絶対……。



 離宮に着くと、フィンが寝室に足湯を用意してくれていた。
 久しぶりにずっと座っていたせいか、足が随分と浮腫んでいて、ゆっくりと温めマッサージしてもらうとかなり楽になった。
 身体も拭いてもらい寝間着に着替えると、ずっとリビングで待っていてくれたエルネス様が遠慮がちに顔を出してくる。


「ハヤト、側に行ってもいいかい?」
「もちろんです!あの、もう落ち着いたので……。」


 それを聞いて安心したように寝室に入ってきたエルネス様がフィンを下がらせ、俺達は二人きりになってしまった。
 寝室で二人きり。ほんの数時間前とはいえ、俺達は気持ちを確かめ合った仲だ。
 そんな相手と一緒だと思うと、俺は意識しないようにすればするほど逆に緊張してしまい、手に汗をかいてくる。
 でも、エルネス様は側に来ると、俺をベッドに寝かせ、優しく上掛けを掛けてくれたんだ。

 
「エルネス様?」
「ハヤト。さっきは無神経な話題を出してしまい、申し訳なかった。」
「そんな、からかってきたのはレオですし……。俺もいい大人なのに、あんな反応しちゃったから……。」


 そう返す俺を穏やかに見つめながら、彼はベッドの端に腰掛ける。


「ハヤト?私達は番になることを望まれてはいるが、私はハヤトとの関係を急いで進めたいとは思っていないよ。」
「……え?」
「別に無理をして言っているわけじゃないんだ。私は何より大切に思う人と心を通わせる事が出来て、今とても幸せなんだ。だから、ハヤトが望まなければこのまま清い関係のままでもいいと思っている……。」


 戸惑う俺を穏やかな見つめながら、エルネス様はベッドに広がる髪を優しく優しく撫でてくれた。


「まぁ、キスくらいは時々出来たら嬉しいが。」


 冗談めかして言われ、俺は言葉が上手く出てこない。


「あのっ、別に、俺は……。」


 そこまで口にしてはたと気付いた俺は、続きの言葉を慌てて飲み込んだ。

 あれ?ここで嫌じゃないとか言ったら誘ってるみたいになる?でも、このままなんて寂しいし……。
 ん?それは、俺はエルネス様に抱かれたいって事!?

 そうやって考えれば考えるほど、思考がおかしな方向へ行ってしまっている気がする。


「今日は久しぶりに外へ出て疲れただろう?ゆっくり休むんだよ。」


 そして、うだうだと考えていた俺のおでこに甘いキスを落とすと、エルネス様は止める暇もなく寝室を出ていってしまったんだ。

 あれ?これでよかったのかな?
 何だか急に不安になってくる。

 しばらくベッドの中であれこれ思考を絡ませていたけれど、疲れのせいか次第に身体がベッドに沈んでいき、俺はスーッと一日を終わらせていたのだった。



 翌朝──。
 いつものように俺の体調を確認に来てくれたソルネスに、俺とレオ、それにルカまで叱られることになった。


「昨日、ほぼ一日庭園で過ごされて居たそうではないですかっ。体力が戻られていない状態で、一体何を考えておられるのです!」


 昨日は俺にとっても怒涛の展開であまり気にしていなかったけど、身体には無理がかかっていたようで、今朝は全く身体を起こせなくなっていたんだ。


「ルカ、貴方がお側にいながらこんなご無理をさせるなんて。」
「申し訳ございません、ソルネス様。侍従として、弁解の余地もございません。」


 深々と頭を下げるルカを見て、俺は慌ててソルネスに謝った。


「ごめんなさい。ソルネス、ルカを怒らないで。レオもルカも俺とエルネス様のために用意してくれたの。楽しくて時間を忘れちゃった俺がいけないんだ。」
「ハヤト様。反省はされておられるのですね。」


 ソルネスがずいっと顔を近付ける。


「はい。反省してます。」


 俺の言葉に、彼は長い長い溜め息を吐いた。


「まあ、そんなに怒るなよ。ハヤトとエルネスがやっとくっついたんだ。何よりだろ?」


 全く反省の色がないレオを、せっかく落ち着いてきていたソルネスがキッと睨み付ける。

 もうっ!これ以上を怒らせないでっ!
 俺がハラハラしていると、ソルネスはとんでもないことを言い出したんだ。


「ステルクス騎士団長殿には、後ほどゆっくりと事の重大さをご説明申し上げるとして……。」
「ソ、ソルネス?悪かった、悪かったよ。」

 レオが焦りながら機嫌を取り出す。
 普段優しい人程、怒ると怖いっ。


「そうですか、殿下とハヤト様が……。実に喜ばしいですね。」


 うぅ……。ニッコリ笑うソルネスが怖いよ!?


「それでは殿下にお会いして、ご無体をなさらないように釘を刺しておきませんと。」
「えっ?いや……、ごむ…ご無体って!?」


 もう、昨日から皆んな何なの!?
 その言葉にルカが神妙な面持ちでソルネスに耳打ちする。
 するとソルネスは、目を見開き息を呑んで、慌てて俺に謝ってきたんだ。


「ハヤト様。私としたことが、大変失礼致しました。」
「え?あの、ルカ……?ソルネスに一体何を、言ったの……?」


 ルカはただ微笑むだけ。
 羞恥に染まる俺は、レオに肩をポンポンと叩かれ慰められてしまったのだった……。










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