拾われた後は

なか

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9.いってらっしゃい

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   朝食後、僕がいる部屋をカイルさんが訪れた。銀の縁取りのある黒い軍服姿で、腰には剣を差している。

   中世の騎士とか物語の中の人のようだ。耳がやはりかわいく思えてしまうけど、キリっとしたカイルさんは本当にかっこいい。女性にモテそうだ。

   ソファから小走りで彼の元に近づく。

「ハルカ、俺は仕事にいかなければならない。マリアに頼んであるが、悪いが屋敷から出ないで待っていてくれないか。
   報告もかねて王宮に行き、何かわからないか調べてみる。」

「分かりました、大人しくお留守番しておきます。気をつけていってきてください。」


   お仕事が何かとか、王宮とかよく分からないけど出勤前に足留めするのは悪いと思い、了承の気持ちだけ伝えた。
   後でマリアさんに教えてもらおう。

「一緒にいてやれなくてすまない。」

「いいえ、お仕事頑張ってください。」

「これを。」

   カイルさんが僕の首に何かをかけた。手にしてみると、小さなコインみたいなものがついたペンダントだった。コインには百合に似た花と剣がデザインされている。年代物なのか小さな傷がついているが、すごくきれいだ。

「何もないと思うが、御守りだ。何かあればそれを見せろ。」

「ありがとうございます!
あっ僕、お見送りします!」

「いやここでいい。いってくる。」

「はい。いってらっしゃい。」

   見上げるとカイルさんが大きな手で僕の前髪を上げた。そしてそこに屈んだカイルさんの唇が当たる。

   え?

   それがキスだと気付いたのはドアがパタンとしまったしばらく後だった。


   こちらの世界のいってきますの挨拶かな。日本人にはハードル高いよ……。
   額に手を当てると顔全体が熱かった。僕はマリアさんがノックするまで、その場に立ち尽くした。


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