拾われた後は

なか

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35.噂

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※カイルサイド


   夏の夜市から3日が経ち、いつもの日常が戻った。
   衝動的にしてしまったあの口付けは、記憶に残らなかったようだ。翌朝、ハルカは何時もと態度が変わらなかった。


「ねぇねぇ、カイルさぁ、今すっごい噂になってるの知ってるー?」
   
   いつもの調子でエミリオが部屋にやってくる。

「何のことだ。」

   昼食後の休憩中だったので、とりあえず彼の分もお茶を出してやる。

「夜市にハルカくん連れていったでしょ?」

   ちょっとしたトラブルはあったが、ハルカがとても楽しそうにしていた。
   あの、明らかに俺の毛で作ったつけ耳は、外に連れて行きたくないような、行きたいような複雑な気持ちにさせられた。マリアが急遽作ったとのことだったので、こっそり特別に褒美をやると言っておいた。


「ちょっとー、無表情だけどニヤケてこわい!
   そう、でね、今まで浮いた噂がなかった我がモテモテの大佐が、めちゃかわいい子を連れてた、しかも抱っこして連れ去ったとなったら、そりゃ皆ほっとかないよぉ~。
   まぁ、あの日のハルカくん凶悪なほどかわいかったもんね。他の隊の奴もめろめろにしたらしいよ。」

「何だそれは。」

   思わず不機嫌な声が出る。あの時の警備の奴か?

「まぁまぁ。人相悪くなってるよ?さらに、大佐が小さい女の子連れてた。隠し子か?もしや幼女趣味だったのか?から始まってぇー、尾ヒレついて泳ぎ出しちゃって。秋には小柄な美人と結婚するらしい、までたどり着いてるよ。」

「くだらん。お前、その話絶対ハルカの耳に入れるなよ。」

「えー。どうしようかなぁ~。」

  ニヤニヤしているのが腹が立つ。絶対面白がっている。

「それはそうとさぁ、どうすんの?最近ハルカくん元気ないよね。ちょっと痩せてきてるみたいだし、色々溜まってきてるんじゃない?」

   自分でも気になっていたことをエミリオに突きつけられる。
   ぼんやりしていることが増えた。食事の量も元々少なかったのだが、さらに減ってきている。あの夜、抱き上げた時、軽かった体がさらに軽く、その事実を腕に感じて愕然とした。
   夜もよく眠れていないようだ。寝る前に安眠効果のあるお茶を出させているが、大して効いていないようだ。

   最近笑顔にも力がなく、消えてしまいそうで怖い。

「あいつは、どんなに話を聞いても、弱音を吐かなんだ。俺は、どうしてやればいいんだろうな……。」

「珍しく弱気だねぇ。」

「いっそ仕事休んで、ずっとハルカのそばにいてやりたいよ。」

「ちょっ、仕事バカの大佐が!初恋に悩む少年みたいだよ。大丈夫~?大体、お前まで不安になったら、ハルカくんは余計不安だろ。しっかりしろよー。」


   どこか遠くでエミリオの声を聞いていた。とにかく、今日もできるだけ早く帰ろう。ハルカのそばにいて、気持ちを聞いて、不安を取り除いてやりたい。笑顔でいてほしい。
  



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