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38.気付きました
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あのきれいな人はカイルさんを未来の夫と言った。婚約者がいたんだ。僕がきてからカイルさんは仕事以外、大抵僕と過ごしてくれていた。彼女さんはほったらかしにされて、怒ったのだろう。だから、あんなに怖かったんだ。
クロスさんとは約束したけど、僕はあまり長くここにいちゃいけない。結婚してこの屋敷に住むなら、僕みたいな怪しい人間がいたら、迷惑だろう。急がなきゃ。
ドアがノックされて、入ってきたのは軍服のままのカイルさんだった。いつもより少し早めの帰宅に、考え事をして物音に気づかなかった。
「お帰りなさい。」
「ただいま。ハルカ、少し話がしたいんだけど、いいか?」
頷くと、僕の手を取りソファに並んで座った。
「ハルカ、ディルから聞いた。タリア嬢がきたそうだな。嫌な思いをさせてすまない。」
「大丈夫です。カイルさんが謝らないでください。」
伸びてきた髪をそっと梳かれる。自分の婚約者が迷惑かけたから、代わりに彼が謝っているのかと思うと、彼女のことを大切にしてるようで、どうしてか悲しい気持ちになる。
「誤解しないでほしいんだが、あの女性は、父同士が古い友人で、小さい頃、誰か子供の1人でも結婚したらいいなと、酒の肴にしていたらしい。別に許嫁でも婚約者でもないから。さっきディルを通して、正式に遺憾の意を伝えてある。もう来ないと思うから安心してくれ。」
「そんな、大袈裟ですよ。」
「いや、こんなの生温いくらいだ。……俺はいつもハルカを護りきれてないな。情けないよ。」
「カイルさん……。」
カイルさんが責任を感じることないのに。それにあの女の人もきっとすごく傷付く。
しかし、カイルさんは引く気がないようだった。ぎゅっと僕を抱きしめて、着替えてくると出て行った。
帰ってきて、すぐディルさんから話を聞いて、心配してそのまま部屋に来てれたんだ。
そう気付くと、胸がどきんと鳴った。
ーー僕はカイルさんが好きなんだ……。
離れたくないのも、美味しいって食べてくれた笑顔がまぶしかったのも、命令だから世話をしてくれてるのが悲しかったのも、過去の迷い人のことを知って騙されたようでつらかったのも、婚約者がいてショックだったのも、
全部、全部、好きになってしまっていたからだ。
唐突に気づいてしまった。
バカすぎる……。
涙は出なかった。
ただ、早く出て行かなきゃ、こんな気持ちを知られてはいけない。これ以上迷惑をかけちゃいけない。
それだけが頭の中をぐるぐる回っていた。
クロスさんとは約束したけど、僕はあまり長くここにいちゃいけない。結婚してこの屋敷に住むなら、僕みたいな怪しい人間がいたら、迷惑だろう。急がなきゃ。
ドアがノックされて、入ってきたのは軍服のままのカイルさんだった。いつもより少し早めの帰宅に、考え事をして物音に気づかなかった。
「お帰りなさい。」
「ただいま。ハルカ、少し話がしたいんだけど、いいか?」
頷くと、僕の手を取りソファに並んで座った。
「ハルカ、ディルから聞いた。タリア嬢がきたそうだな。嫌な思いをさせてすまない。」
「大丈夫です。カイルさんが謝らないでください。」
伸びてきた髪をそっと梳かれる。自分の婚約者が迷惑かけたから、代わりに彼が謝っているのかと思うと、彼女のことを大切にしてるようで、どうしてか悲しい気持ちになる。
「誤解しないでほしいんだが、あの女性は、父同士が古い友人で、小さい頃、誰か子供の1人でも結婚したらいいなと、酒の肴にしていたらしい。別に許嫁でも婚約者でもないから。さっきディルを通して、正式に遺憾の意を伝えてある。もう来ないと思うから安心してくれ。」
「そんな、大袈裟ですよ。」
「いや、こんなの生温いくらいだ。……俺はいつもハルカを護りきれてないな。情けないよ。」
「カイルさん……。」
カイルさんが責任を感じることないのに。それにあの女の人もきっとすごく傷付く。
しかし、カイルさんは引く気がないようだった。ぎゅっと僕を抱きしめて、着替えてくると出て行った。
帰ってきて、すぐディルさんから話を聞いて、心配してそのまま部屋に来てれたんだ。
そう気付くと、胸がどきんと鳴った。
ーー僕はカイルさんが好きなんだ……。
離れたくないのも、美味しいって食べてくれた笑顔がまぶしかったのも、命令だから世話をしてくれてるのが悲しかったのも、過去の迷い人のことを知って騙されたようでつらかったのも、婚約者がいてショックだったのも、
全部、全部、好きになってしまっていたからだ。
唐突に気づいてしまった。
バカすぎる……。
涙は出なかった。
ただ、早く出て行かなきゃ、こんな気持ちを知られてはいけない。これ以上迷惑をかけちゃいけない。
それだけが頭の中をぐるぐる回っていた。
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