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7.書類
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ウィリアムが部屋に戻ると、すでに戻ってきていたフィリップが今からの執務に必要な書類をあらかた纏めてくれていた。
扉が開いた音でウィリアムの入室に気づいたようで、彼は振り返って軽く会釈してくる。
「おかえりなさいませ」
「早いなフィリップ!もう戻ってこれたのか?」
「ええ、まあ」
そう問うと、フィリップは苦笑を漏らし若干疲れが滲んだ声で答えて肩を竦める。
ウィリアムは額に軽く滲んでいる汗を袖で拭いながら、溜まりに溜まった書類の山が置かれている机の前の椅子へと腰掛けた。
すぐ横をすれ違った際に、彼が普段絶対につけないであろう甘ったるい香りがフィリップの鼻を刺激した。
その匂いはここ数カ月幾度となく鼻を掠めてきていたので、この香りを体に纏い主に接触したのが誰なのか、食事はどうだったのか、聞かなくてもフィリップには容易に想像出来た。
「ウィリアム様こそお疲れ様でした。あの王女と聖女を二人同時に相手するのですから、さぞ愉快なお食事会となったのでは?」
「まあな」
あの女達の不愉快極まりない態度を思い出したウィリアムは、嘲笑混じりの声音でカラカラと笑う。
その後は、すっと頭を先程の出来事から片付けるべき書類へと切り替え、執務に取り掛かる。
留学期間中とはいえ、王太子であるウィリアムの執務が返上されることなどない。
提出期限がある書類だってかなりの数存在するのだ。
どれもこれも大事な書類ばかりなので、期限は一つも破れない。
しかし、いくらウィリアムとフィリップの二人が有能であっても、妨害されればその作業スピードはぐんと落ち、執務に没頭できる時間も格段に減る。
「早急に終えなければならない書類はどれだ?」
「それらはここに。今朝方届いた物はこちらに置かせていただいています」
「最低でも、お前が机に置いてくれたやつは今日中に仕上げるぞ。残りは…」
チラリと見た、部屋の角に置かれた大量の書類。
単純計算で見積もると、軽く五日分はある。
ウィリアムは思わず頭を抱えて天を仰ぎたい気持ちになったが、グッと堪えて目の前の書類に手を伸ばした。
「……出来れば半分ぐらいに減らす」
「…御意」
~~
どのくらい経ったのだろうか。
気がつくと空は真っ赤に染まり、もう夕方の時刻へと差し掛かっていた。
(…もうこんな時間か…)
漸く、最低でも今日中に仕上げなければならなかった仕事を終わらせたところで一息つき、ふと顔を上げたフィリップは、部屋に備え付けてある柱時計に目をやった。
あと数刻程したら夕食の時間であるが、まだ終わらせたい仕事が山程残っている。
それに、ウィリアムの集中力はまだまだ切れる様子がない。
(……)
少し考えたフィリップは、ウィリアムに時間のことは伝えずそのまま作業を続行しようと、再度溜まった書類に目を落とした…が
バタンッ!
「「ッ!!」」
突然部屋に押し入ってきた人物に、ウィリアムの集中はブチ切られ、フィリップの判断は無駄にされることとなった。
「ウィリアム様~♡」
二人にとって、今一番この場に来てほしくなかった、最低最悪の魔女が来たのだ。
扉が開いた音でウィリアムの入室に気づいたようで、彼は振り返って軽く会釈してくる。
「おかえりなさいませ」
「早いなフィリップ!もう戻ってこれたのか?」
「ええ、まあ」
そう問うと、フィリップは苦笑を漏らし若干疲れが滲んだ声で答えて肩を竦める。
ウィリアムは額に軽く滲んでいる汗を袖で拭いながら、溜まりに溜まった書類の山が置かれている机の前の椅子へと腰掛けた。
すぐ横をすれ違った際に、彼が普段絶対につけないであろう甘ったるい香りがフィリップの鼻を刺激した。
その匂いはここ数カ月幾度となく鼻を掠めてきていたので、この香りを体に纏い主に接触したのが誰なのか、食事はどうだったのか、聞かなくてもフィリップには容易に想像出来た。
「ウィリアム様こそお疲れ様でした。あの王女と聖女を二人同時に相手するのですから、さぞ愉快なお食事会となったのでは?」
「まあな」
あの女達の不愉快極まりない態度を思い出したウィリアムは、嘲笑混じりの声音でカラカラと笑う。
その後は、すっと頭を先程の出来事から片付けるべき書類へと切り替え、執務に取り掛かる。
留学期間中とはいえ、王太子であるウィリアムの執務が返上されることなどない。
提出期限がある書類だってかなりの数存在するのだ。
どれもこれも大事な書類ばかりなので、期限は一つも破れない。
しかし、いくらウィリアムとフィリップの二人が有能であっても、妨害されればその作業スピードはぐんと落ち、執務に没頭できる時間も格段に減る。
「早急に終えなければならない書類はどれだ?」
「それらはここに。今朝方届いた物はこちらに置かせていただいています」
「最低でも、お前が机に置いてくれたやつは今日中に仕上げるぞ。残りは…」
チラリと見た、部屋の角に置かれた大量の書類。
単純計算で見積もると、軽く五日分はある。
ウィリアムは思わず頭を抱えて天を仰ぎたい気持ちになったが、グッと堪えて目の前の書類に手を伸ばした。
「……出来れば半分ぐらいに減らす」
「…御意」
~~
どのくらい経ったのだろうか。
気がつくと空は真っ赤に染まり、もう夕方の時刻へと差し掛かっていた。
(…もうこんな時間か…)
漸く、最低でも今日中に仕上げなければならなかった仕事を終わらせたところで一息つき、ふと顔を上げたフィリップは、部屋に備え付けてある柱時計に目をやった。
あと数刻程したら夕食の時間であるが、まだ終わらせたい仕事が山程残っている。
それに、ウィリアムの集中力はまだまだ切れる様子がない。
(……)
少し考えたフィリップは、ウィリアムに時間のことは伝えずそのまま作業を続行しようと、再度溜まった書類に目を落とした…が
バタンッ!
「「ッ!!」」
突然部屋に押し入ってきた人物に、ウィリアムの集中はブチ切られ、フィリップの判断は無駄にされることとなった。
「ウィリアム様~♡」
二人にとって、今一番この場に来てほしくなかった、最低最悪の魔女が来たのだ。
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