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第23話 新しい仲間、ゲットだぜ!
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声が潰れてしまいかねないほど歌い疲れた私達は、苦笑するモンターギュ侯爵のご厚意で、次の日丸々一日を休養に当てる事が出来たのだった。
なお、私達が叫びまくった日を契機に、兵士たちが中庭でシャウトしまくってモンターギュ侯爵が頭を痛めるのは別の話である。
そんなこんなで私たちは出立の日を迎えた。
「何から何までありがとうございます、モンターギュ侯爵」
「いえ、これも家臣としての務めでありますれば。礼など不要にございます」
幌馬車には私達に必要な水や食料といった物だけでなく、グラジオスの叔父、ジュリアス・ザルバトル公爵へのお土産も積みこまれている。
こういった細かい気配りが出来るからこそ、長年この難しい土地を破綻させずに治め続けていられるのだろう。
「モンターギュ卿の心遣い、誠に感謝する」
「はっ、ありがたき幸せ」
「では、失礼する」
そう言ってグラジオスは幌馬車に乗ろうと足を上げたのだが……。
「失礼ながら殿下。一つだけこの老骨めの願いを聞いてくださいませんでしょうか。……それからイイノヤ様も」
「ぬ。別に構わんが」
なんだろう? と、私とグラジオスは顔を見合わせる。
モンターギュ侯爵の普段よりずっと低い頭の位置で、よほどの頼みでないかと少し警戒心が高まっていった。
「……その、ですな。先日、お二方と共に演奏させていただいた兵士の事は覚えておられますでしょうか?」
「……はい」
結局あの後私達は精も根も尽き果てていたため、かなりおざなりな挨拶を交わして別れてしまった。だから存在だけは覚えていたが、名前などは知らないままだ。
是非もう一度会ってきちんとお礼を言いたいと思っていたのだが……。
「その内の一人、やや話し方が無礼な方なのですが……」
ああ、あの何々っすとか言ってた方かな。なんだかノリ良さそうな人だったよね。
……ついでに巨乳好きみたいだし。
めらっと私の背中から陽炎が湧き立ち、隣に居たグラジオスが怯えた様子で一歩私から離れてしまう。
そんな私の気配に気づかないほど、モンターギュ侯爵は困り果てている様で、しきりに額を拭いながら話を続ける。
「その者がですな、どうしても同行したいと聞かないものでして……。なんなら脱走して着いて行くと……」
「はぁ……」
普通ならばそんな事許される事ではない。敵前逃亡は処刑されるのが世の常である。
とはいえ、やる気のある者が任務に志願して断るほどモンターギュ侯爵は器量でもないはずだ。
ならばいったい何に困っているのだろう。
「グラジオス、どうするの?」
「護衛が一人増えるくらい、私は別に構わないが……」
音楽の出来る人は基本的にいくらでもウェルカムだし、グラジオスも多分そうだ。
エマは……わかんないけど、ノーとは言わないはず。
「そ、そうですか。では今すぐその者を呼んで参りますので……」
「その必要はないっす!」
大声のした方へ振り返ってみれば、そこには太鼓とシンバル、それから生活用品や着替えが入っていると思しき巨大な袋を抱えた兵士が立っていた。
見た目は一言でいえばチンピラの鉄砲玉。目は細く顎は尖っており、あまり手入れをしていない短髪はそこかしこがピンピン跳ねている。
ついでにややどぎつい金髪なため、染めているようにも見えた。
……なんで楽器持ってるの? と突っ込んではいけなさそうな雰囲気である。
「姉御! 自分は姉御に一生着いていく事にしたっす! お願いします、何でもしますから自分を舎弟にしてやってくださいっす!」
ん? 今何でもするって言ったよね?
……なんて冗談はさておいて、何? 舎弟? どゆこと?
訳が分からず、私の周囲にははてなマークがいっぱい飛び回っていた。
「自分、昨日姉御の歌を聴いて痺れまくったっす。もうこれしかないって思ったっす」
「……つまりあの音楽を習いたいと?」
「出来る事ならお傍で演奏したいっす!」
兵士はそう言うと、腰を九十度どころか百二十度くらい折って、深々と頭を下げた。
「ま、まあ私は別に構わないけど……」
ドラマーは欲しかったところだし。
その言葉を聞いた瞬間、兵士は顔を上げ、もの凄く晴れやかな笑顔を浮かべた。
それに反比例するように、モンターギュ侯爵の顔は引きつっていく。
「殿下はいかがっすか!?」
「……ま、まあ雲母がいいのなら……」
「ありがとうございますっす!」
グラジオスの了承が得られた途端、何故かモンターギュ侯爵は天を仰ぎ、額をぴしゃっと叩いてしまった。
……大丈夫? え、この人に何があるの?
困惑する私達を置いて、兵士は跪いて臣下の礼を、何故か私メインに取る。
「自分は、ハイネ・モンターギュと言うっすが、姉御はお好きに呼んでくださいっす!」
「えっと、ハイネさんね…………って」
「ハイネと呼び捨ててくださいっす姉御」
今この兵士は何と名乗った!?
――もしかして――。
「は、ハイネとやら。も、もしかして貴公……いや、卿は……」
グラジオスもその事に気付いて玉の様な汗を額に浮かべている。
もしかしてもしかすると、私達はとんでもない事を引き受けてしまったのかもしれなかった。
「はっ、自分はそこに居るモンターギュ侯爵の孫に当たるっす!」
今度は私達が天を仰ぐ番だった。
もう、もうね……。何よこれ……。
「は、ハイネ卿。卿は確か一人しか居ない後継ぎだったはずだが……」
「はいっす! でも人生苦労して下の者たちの事も理解しろって言われたっす。だから問題ないっす」
侯爵家のたった一人しかいない後継ぎが出奔状態になるって、どう見ても問題ありありでしょ。モンターギュ侯爵の態度見てみなさいよ!
「い、いや、なんだ。もっとよく考えてだな……」
グラジオスが言える立場じゃないっていうかおまいう何だけど私も賛成だ。さすがに無茶が過ぎる。
「考えたっす。考えて舎弟になったっす」
「……も、モンターギュ卿」
グラジオスが助けを求める様にモンターギュ侯爵の方を見るが、モンターギュ侯爵は威厳もへったくれもあったものではないほど悲惨な表情で、ゆっくりと首を横に振った。
「きちんと説得済みっす」
そういうところは似たのね……。
他は欠片も似てないって言うのに。
「一応、危険地帯に行くってことは……」
「覚悟の上っす。というかこう見えて実戦も経験済みっす」
どうやら止められる様な覚悟ではなさそうだった。
こうなればいびっていびって叩き出すとか……しても無理そうだなぁ……。
しょうがない。一度受け入れたんだし、ドラマーも欲しかったし。
「……練習は厳しいけどできる?」
「覚悟の上っす!」
私にドラムの知識はほぼ皆無だ。ほとんど手探りになるだろう。それでも先駆者として切り開いていくだけの覚悟が、ハイネの瞳にはあった。
「なら、私から言う事は無し」
グラジオスに目を向けると、無言で首を振る。同じく無いということだろう。
むしろ気持ち的には賛成したい立場かもしれない。
「モンターギュ侯爵……」
「お願いいたします」
モンターギュ侯爵は、真剣な顔で私に頭を下げる。
「お預かりいたします」
私もそれに応じてしっかりと頭を下げ返したのだった。
なお、私達が叫びまくった日を契機に、兵士たちが中庭でシャウトしまくってモンターギュ侯爵が頭を痛めるのは別の話である。
そんなこんなで私たちは出立の日を迎えた。
「何から何までありがとうございます、モンターギュ侯爵」
「いえ、これも家臣としての務めでありますれば。礼など不要にございます」
幌馬車には私達に必要な水や食料といった物だけでなく、グラジオスの叔父、ジュリアス・ザルバトル公爵へのお土産も積みこまれている。
こういった細かい気配りが出来るからこそ、長年この難しい土地を破綻させずに治め続けていられるのだろう。
「モンターギュ卿の心遣い、誠に感謝する」
「はっ、ありがたき幸せ」
「では、失礼する」
そう言ってグラジオスは幌馬車に乗ろうと足を上げたのだが……。
「失礼ながら殿下。一つだけこの老骨めの願いを聞いてくださいませんでしょうか。……それからイイノヤ様も」
「ぬ。別に構わんが」
なんだろう? と、私とグラジオスは顔を見合わせる。
モンターギュ侯爵の普段よりずっと低い頭の位置で、よほどの頼みでないかと少し警戒心が高まっていった。
「……その、ですな。先日、お二方と共に演奏させていただいた兵士の事は覚えておられますでしょうか?」
「……はい」
結局あの後私達は精も根も尽き果てていたため、かなりおざなりな挨拶を交わして別れてしまった。だから存在だけは覚えていたが、名前などは知らないままだ。
是非もう一度会ってきちんとお礼を言いたいと思っていたのだが……。
「その内の一人、やや話し方が無礼な方なのですが……」
ああ、あの何々っすとか言ってた方かな。なんだかノリ良さそうな人だったよね。
……ついでに巨乳好きみたいだし。
めらっと私の背中から陽炎が湧き立ち、隣に居たグラジオスが怯えた様子で一歩私から離れてしまう。
そんな私の気配に気づかないほど、モンターギュ侯爵は困り果てている様で、しきりに額を拭いながら話を続ける。
「その者がですな、どうしても同行したいと聞かないものでして……。なんなら脱走して着いて行くと……」
「はぁ……」
普通ならばそんな事許される事ではない。敵前逃亡は処刑されるのが世の常である。
とはいえ、やる気のある者が任務に志願して断るほどモンターギュ侯爵は器量でもないはずだ。
ならばいったい何に困っているのだろう。
「グラジオス、どうするの?」
「護衛が一人増えるくらい、私は別に構わないが……」
音楽の出来る人は基本的にいくらでもウェルカムだし、グラジオスも多分そうだ。
エマは……わかんないけど、ノーとは言わないはず。
「そ、そうですか。では今すぐその者を呼んで参りますので……」
「その必要はないっす!」
大声のした方へ振り返ってみれば、そこには太鼓とシンバル、それから生活用品や着替えが入っていると思しき巨大な袋を抱えた兵士が立っていた。
見た目は一言でいえばチンピラの鉄砲玉。目は細く顎は尖っており、あまり手入れをしていない短髪はそこかしこがピンピン跳ねている。
ついでにややどぎつい金髪なため、染めているようにも見えた。
……なんで楽器持ってるの? と突っ込んではいけなさそうな雰囲気である。
「姉御! 自分は姉御に一生着いていく事にしたっす! お願いします、何でもしますから自分を舎弟にしてやってくださいっす!」
ん? 今何でもするって言ったよね?
……なんて冗談はさておいて、何? 舎弟? どゆこと?
訳が分からず、私の周囲にははてなマークがいっぱい飛び回っていた。
「自分、昨日姉御の歌を聴いて痺れまくったっす。もうこれしかないって思ったっす」
「……つまりあの音楽を習いたいと?」
「出来る事ならお傍で演奏したいっす!」
兵士はそう言うと、腰を九十度どころか百二十度くらい折って、深々と頭を下げた。
「ま、まあ私は別に構わないけど……」
ドラマーは欲しかったところだし。
その言葉を聞いた瞬間、兵士は顔を上げ、もの凄く晴れやかな笑顔を浮かべた。
それに反比例するように、モンターギュ侯爵の顔は引きつっていく。
「殿下はいかがっすか!?」
「……ま、まあ雲母がいいのなら……」
「ありがとうございますっす!」
グラジオスの了承が得られた途端、何故かモンターギュ侯爵は天を仰ぎ、額をぴしゃっと叩いてしまった。
……大丈夫? え、この人に何があるの?
困惑する私達を置いて、兵士は跪いて臣下の礼を、何故か私メインに取る。
「自分は、ハイネ・モンターギュと言うっすが、姉御はお好きに呼んでくださいっす!」
「えっと、ハイネさんね…………って」
「ハイネと呼び捨ててくださいっす姉御」
今この兵士は何と名乗った!?
――もしかして――。
「は、ハイネとやら。も、もしかして貴公……いや、卿は……」
グラジオスもその事に気付いて玉の様な汗を額に浮かべている。
もしかしてもしかすると、私達はとんでもない事を引き受けてしまったのかもしれなかった。
「はっ、自分はそこに居るモンターギュ侯爵の孫に当たるっす!」
今度は私達が天を仰ぐ番だった。
もう、もうね……。何よこれ……。
「は、ハイネ卿。卿は確か一人しか居ない後継ぎだったはずだが……」
「はいっす! でも人生苦労して下の者たちの事も理解しろって言われたっす。だから問題ないっす」
侯爵家のたった一人しかいない後継ぎが出奔状態になるって、どう見ても問題ありありでしょ。モンターギュ侯爵の態度見てみなさいよ!
「い、いや、なんだ。もっとよく考えてだな……」
グラジオスが言える立場じゃないっていうかおまいう何だけど私も賛成だ。さすがに無茶が過ぎる。
「考えたっす。考えて舎弟になったっす」
「……も、モンターギュ卿」
グラジオスが助けを求める様にモンターギュ侯爵の方を見るが、モンターギュ侯爵は威厳もへったくれもあったものではないほど悲惨な表情で、ゆっくりと首を横に振った。
「きちんと説得済みっす」
そういうところは似たのね……。
他は欠片も似てないって言うのに。
「一応、危険地帯に行くってことは……」
「覚悟の上っす。というかこう見えて実戦も経験済みっす」
どうやら止められる様な覚悟ではなさそうだった。
こうなればいびっていびって叩き出すとか……しても無理そうだなぁ……。
しょうがない。一度受け入れたんだし、ドラマーも欲しかったし。
「……練習は厳しいけどできる?」
「覚悟の上っす!」
私にドラムの知識はほぼ皆無だ。ほとんど手探りになるだろう。それでも先駆者として切り開いていくだけの覚悟が、ハイネの瞳にはあった。
「なら、私から言う事は無し」
グラジオスに目を向けると、無言で首を振る。同じく無いということだろう。
むしろ気持ち的には賛成したい立場かもしれない。
「モンターギュ侯爵……」
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モンターギュ侯爵は、真剣な顔で私に頭を下げる。
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