『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました

駆威命(元・駆逐ライフ)

文字の大きさ
34 / 140

第34話 新しい旅立ち

しおりを挟む
 それから私はグラジオスにひたすら練習をさせ、ルドルフさまの目の前で、グラジオスにTank!を演奏させるという暴挙に出た。

 このTank!という曲、アニメのオープニング曲にしては珍しく歌がほぼ無い曲でありながらジャズとしての完成度が高く、特に海外での人気が凄まじい。

 フィギュアスケートの大会にてこれを使用した選手もいるほどなのだ。

 さすがに一人で三つの楽器は操れなかったため、ハイネがドラムとシンバルを担当したが、グラジオスは口でホルンを(さすがに私が持ってあげた)、手でリュートという荒業を披露し、見事ルドルフさまに感嘆の声をあげさせる事に成功した。

 その結果捕虜の返還は即座に行われ、オーギュスト伯爵や、ダール男爵を始めとした七人の騎士さん達とグラジオスは再会を果たしたのだった。

 その後、ガイザル帝国と連合王国軍の間には停戦が結ばれることで束の間の平和が始まり、私達はアルザルド王国への帰路に着くことができた。





 遠征に出ていた大勢の貴族たちが謁見の間で跪いて跪いている。その一番先頭に居るグラジオスが、声だかに成果を報告している。半分以上私が頑張ったのだが、まあ良しとしておこう。

「……以上で報告を終わります。陛下の望まれた通りの結果になりました」

 グラジオスが最後にそう結ぶと、一礼して跪く。

 報告されたヴォルフラム四世王は、それをどこか不満そうに聞いていた。

「ジュリアス。今の事は本当か? ちと、出来過ぎてはいないか?」

「兄上、今のは全て事実だが何か不満でもあるのか? 捕虜を銅貨一枚も払わず取り戻し、領土や賠償金もない。完全に我々の勝利ではないか」

 ザルバトル公爵、アンタ何もやってないけどね。と突っ込みそうになる自分を必死に抑え、私は人々の一番後ろで平伏しておく。

 というかジュリアスってその丸っこい体形からして名前負けしすぎ。名前をピザに変えようよ。似合ってないよ……。

 あ、ピザ食べたい。チーズが糸引くヤツ。こっちで食べられるかな? トマトは確か……観賞用とかでモンターギュ侯爵が持ってらした気が……。

 そんな風に私が対校長先生長話用として身に着けた『適当な事を考えながら時間を潰してしまおうスキル』を発動させている間に、自体は色々と動いていった。

「だから、貴様は最初に大勢の兵を失い、逃げ戻ったはずだ!」

 いつの間にか戦況は芳しくない方に傾いていたらしく、グラジオスがヴォルフラム四世王に叱責されていた。

 これからの呼び名は変態ジジイにしよっ。もちろん心の中だけだけど。なんてゆーの? 王って器じゃない感じ。ああいうのを老害っていうんだろうな。

「貴様はその罰をまだ受けておらん! 思い上がるなっ!!」

 どうやらは自分で命じておいてグラジオスが在り得ない成果を上げたことが不満らしい。

 だからいちゃもんを付けて褒美を与えないというかむしろ罰を与えたい様だった。

 ちなみに本来、遠征の責任者はヴォルフラム四世王の弟でもあるジュリアス・ザルバトル公爵であるので、罰を与えるのならグラジオスではなくザルバトル公爵であるべきなはずなのだが……。

 当然のように論理など通じないのがこのヴォルフラム四世王であるようだ。

「貴様は……」

「お待ちください、陛下」

 ヴォルフラム四世王が決定的な何かを述べようとした瞬間、オーギュスト伯爵がその間に割って入った。

「オーギュストか、なんだ?」

「確かにグラジオス殿下は兵を損ないました。ですが、そうであるのならば同じ戦場にいた我らもその罰を受けるべきであるのが筋。そしてグラジオス殿下はその罰を成果で洗い流したはず。なれば我々こそがその罰を受けるにふさわしいと存じますが?」

 オーギュスト伯爵は、ヴォルフラム四世王が武人と称えるだけあって、雄々しい性格とやや古めかしい喋り方をするとてもダンディで素敵なオジサマだ。年齢は五十路を過ぎていて、ナイスシルバーって感じ。

 というか、私的にはそういう人がグラジオスを庇っているとか状況も忘れて見入ってしまいそうになる。

 目の保養目の保養。

 グラジオスも見た目だけは悪く無いもんね……ってそんなことやってる場合じゃないんだって!

「……貴様らは縄目の恥辱を受けたであろう。それが罰となっている。だがグラジオスは逃げ帰ったのだ。決して許すことは出来ん」

「そうでありますか、なれば……」

 オーギュスト伯爵はそう言うと立ち上がり、ヴォルフラム四世王の前へと進み出る。そして改めて跪くと、服の襟ぐりを大きく開け、首がよく見える様にしてから頭を差し出した。

「このオーギュスト、グラジオス殿下に命を救われました。然るにこの首を殿下の為に使うが筋。罰はこの無能者の首にてあがないましょうぞ」

 ええぇぇっ。そこまでするの!?

 って、そうか。そういう極論を言って、無茶苦茶言う変態ジジイを抑え込もうって作戦かな。すっごい、度胸ある!

「…………グラジオス」

 ヴォルフラム四世王は、口をへの字口に曲げて悔しそうに舌打ちした後、

「オーギュストに感謝せよ。無能者のお前が運よく罰を逃れられたのはオーギュストの甘さと心しておけっ」

 アンタもカシミールにクソ甘だけどね。そういえばあの劣化王子は……。ああ、椅子の横に居たのね。さすが金魚のフン。見えなかったや。

「ありがとうございます、陛下」

 グラジオスは恭しく頭を下げる。

 私の位置からグラジオスの顔を見る事は出来なかったが、もしかしたら本気で感謝しているのかもしれない。虐待されてる子どもが、たまに親から褒められたら滅茶苦茶喜ぶあれだ。

 いやまあ、褒められてないけど。

「陛下」

「……まだ何かあるのか、オーギュスト」

「グラジオス殿下が足りていないと仰られるのであれば、このオーギュストめに預けてはくださらぬか? 直々にしごいてくれましょうぞ」

 え……? それってつまり……この変態クソジジイからグラジオスを引きはがすってこと?

 うわっ、それめちゃくちゃナイスアイデアじゃんっ。

 オーギュスト伯爵最高!

 養子にして好きな色に染めるってことでしょ!? うわ~、妄想が捗る! じゃなかった虐待されてる子どもは引き離してあげないとねっ。

「…………好きにしろっ」

 自分で無能と吐き捨てた以上、それをヴォルフラム四世王自身が有能と認める人が育てると言えば、まさか無能のままで居てくれ、なんて言えるはずもない。

 ヴォルフラム四世王はオーギュスト伯爵の提案を渋々飲むしかなかった。

 まあ、王位をカシミールに渡すつもり満々だから、グラジオスが有能過ぎると困るのかもしれないけど。

 グラジオスってそこら辺どうでも良さそうだしなぁ……。

 俺は王になるんだぁ! って言ってるグラジオスなんて全然考えられないし。

「それでは陛下。失礼いたします」

「早く失せろっ」

 グラジオスをいじめられなかったせいでストレスが溜まっているのか、ヴォルフラム四世王はそう吐き捨てると王座に座り、杯を傾け始めた。

 グラジオスとその他大勢(もちろん私も入る)は、一礼すると謁見の間を後にしたのだった。




 それから三日後、グラジオスはオーギュスト伯爵の所領へと勉強の名目で旅立つこととなる。

 もちろん、私も一緒に行くし、ハイネもエマも着いて行く。

 それは以前の逃げる様な旅立ちとは違う。希望に満ちた旅路となった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?

エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。  文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。  そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。  もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。 「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」  ......って言われましても、ねぇ?  レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。  お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。  気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!  しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?  恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!? ※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。

ブラック企業に勤めていた私、深夜帰宅途中にトラックにはねられ異世界転生、転生先がホワイト貴族すぎて困惑しております

さくら
恋愛
ブラック企業で心身をすり減らしていた私。 深夜残業の帰り道、トラックにはねられて目覚めた先は――まさかの異世界。 しかも転生先は「ホワイト貴族の領地」!? 毎日が定時退社、三食昼寝つき、村人たちは優しく、領主様はとんでもなくイケメンで……。 「働きすぎて倒れる世界」しか知らなかった私には、甘すぎる環境にただただ困惑するばかり。 けれど、領主レオンハルトはまっすぐに告げる。 「あなたを守りたい。隣に立ってほしい」 血筋も財産もない庶民の私が、彼に選ばれるなんてあり得ない――そう思っていたのに。 やがて王都の舞踏会、王や王妃との対面、数々の試練を経て、私たちは互いの覚悟を誓う。 社畜人生から一転、異世界で見つけたのは「愛されて生きる喜び」。 ――これは、ブラックからホワイトへ、過労死寸前OLが掴む異世界恋愛譚。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...