『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第35話 お勉強しましょう

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 私達――私とグラジオスとオーギュスト伯爵――は、ポクポクと足音を立てて進む馬に三輪の馬車を引かせ、オーギュスト伯爵の所領を見回っていた。

 所領は主には田畑が多く、アルザルド王国における一大穀倉地帯となっているため、牧歌的な風景が続いていた。

 領主のオーギュスト伯爵らしい、実直な運営と言えた。

「それで殿下には領地の経営というものを学んでいただくつもりであります。今まで閑却かんきゃくされていた分、殿下は一歩も二歩も遅れておられるのですから、それを取り戻す心づもりで居て下さらなければ困りますぞ」

 オーギュスト伯爵の少々厳しめな言葉に、私は肩をすくめた。

 グラジオスもしかつめらしい表情で頷いているが、唇の端が震えている事から、内心相当げんなりしているに違いない。

「キララ殿も、殿下の従者となったからには相応の補佐を出来る様になってもらうつもりです。覚悟はよろしいですかな?」

「は、はぁい……」

 たぶんというか、間違いなく、今までの状況が甘すぎたのだろう。

 グラジオスには好きにさせてもらっていたし、モンターギュ侯爵の所ではお客様扱いだったが、今は完全に従者扱いだ。

 従者ならば相応の仕事をこなさなければならない。歌だけ歌っていればいいというものでもないだろう。

 ……政治とかやだなぁ……。交渉みたいに胃がキリキリするようなことしないといけないの? ああ……、グラジオスと歌の翻訳に勤しんでたりメイドさんの所に遊びに行ってた日々が懐かしい……。三日位だけど。

「そうですな。とりあえずキララ殿には算術でも覚えていただきますかな」

「算術……ですか?」

 あれ? ……なんかとっても簡単な気が?

「うむ。それから紋章も覚えていただき、字も書けるようになった方がよろしいでしょうな。担当の者を付けるので……」

「えっと、オーギュスト伯爵」

 私は控えめに手をあげると、馬を繰っているオーギュスト伯爵に問いかける。

「紋章は知りませんけど、それ以外は多分……できます」

 翻訳とかするってことは、メモ用紙に書くってことだからいっくらでもやって来たし、算術ってことは数学でしょ? 多分高校一年レベルまでなら完璧な私の方が下手すると得意なんじゃない?

「ほう、では少々試させていただこうかな」

 そう言うとオーギュスト伯爵は、遠くにある倉庫らしきものを指さした。

「倉庫には牧草束を二十五ずつ並べ、最大で三つまで重ねる」

 ふむふむ、つまり七十五個ね。

「それを一つの倉庫に六区画設けるが、この近くには合わせて七棟の倉庫があるので……」

 七六四十二で三掛けて四で割って百掛ければいいから……。

「三千百五十束ですね」

「…………」

 私はオーギュスト伯爵が何か言い終わるまでに、答えを出してみた。

 ……ちょっとドヤ顔してるかも。

「む、うむ。そ、そうですか。どうやらキララ殿は算術が得意の様ですな」

 まさか問題を言い終わる前に解答されるとは思っていなかったのか、オーギュスト伯爵は多少しどろもどろになっている。

 ムフフフ、こういうの気持ちいいぞ?

 もしかして私、現代知識で無双とかできちゃう? できちゃう?

 硝石丘だとか楽市楽座による市場の開放とかやっちゃう? 歴女に片足突っ込んでる私は結構詳しく知ってるゾ。

 うぇっへっへっへっ。

「ではその調子で殿下の補佐をしてくだされ」

「はいっ」

 今までずっと補佐してたりして。つまり、これからもグラジオスとの関係は変わらないってことね。

 あ~、良かった。歌う時間が少なくならなくて。

「殿下もキララ殿に負けぬよう、きちんと学んで下され」

「わ、分かっている」

「では殿下、覚える事は山のようにありますぞ。法や現地の取り決め、山や川ごとの取り分の決め方、季節ごとの……」

 オーギュスト伯爵は、私に教えがいが無いと分かると、グラジオスをロックオンしてつらつらと説教を始めてしまった。

 うひ~、かわいそ。

 でも頑張れ。

 私はそう胸の中で応援しながら、真剣な顔でオーギュスト伯爵の説教を受け止めるグラジオスの横顔を眺めていたのだった。


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