『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第39話 頑張ってるあなたに

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 私はみんなとはぐれてしまっていた。

 もう見事なまでにみんなの背中は雑踏の中に消えてしまい、背の低い私では見つける事すら困難だった。

「いいや……帰ってくる場所分かってるし……」

 行先の飯屋とやらに心辺りは無かったが、一時間後にあの場所で歌う事はみんな分かっている。はぐれて絶対に会えないという危険性はなかった。

 でも心細いものは心細い。

 私は人ごみに流されながら不安に駆られて周囲をキョロキョロ見回していると、ちょうど折よく路地裏の様な所を発見した。

 人の波もそこには及んでおらず、ちょっとした退避場所に使えそうだ。

「う~ん、前にハイネと行った屋台かなぁ。あ、飯屋って言ってたっけ……やっぱり帰ってた方がいいのかな……」

 私が元の場所に戻るか、それとも勘に任せて進むか悩んみながら路地裏に逃げ込んで思案していた所……。

「い、いらっしゃいませ……」

 蚊の鳴く様な声がする。

 声のした方を振り返ってみると、そこには小さい台の上でアクセサリーを売っている少年の姿があった。

 年のころは十二、三歳くらいの少年は、いかにもなもやしっ子で、色も白く、自信のなさそうな顔をしている。

 そしてアクセサリーを売っているのにも関わらず、着ている服は擦り切れて汚れており、ともすれば浮浪児と言っても差し支えないような見た目をしていた。

「えっと……ここお店なの?」

 失礼過ぎる物言いかもしれないが、盗品の売り買いをしているといわれた方がまだ納得できる店構えであるため仕方がなかった。

 少年は弱々しく頷くと、

「ぼ、僕が作ったんだ」

 ちょっと自慢するように言う。

「ふ~ん」

 私は少し興味が湧いたので、しゃがみ込んでアクセサリーを手に取り……。

「えっ!?」

 心底驚いた。

 木を使って作られたと思しきアクセサリーは、十字架や輪っかに星、動物などなど多種多様でどれも非常に精緻な造りをしており、思わず声を上げてしまうほどの迫力を持っていた。

 しかも中には手作りと思えないほどの物まであり、度肝を抜かれる。

「こ、これ貴方が作ったの? すごい!!」

 私が手放しでほめたのがよほど嬉しかったのか、少年は腕で顔を半分ほど隠す様にして頭をガジガジと掻く。

 私はこの顔には覚えがあった。投稿していた動画に感想が付いて、上手いですねとか言われた時の私の顔にそっくりだ。

 見つけて貰えて、褒められた時ほど嬉しい事はない。

「木を、け、小刀で削ったり、針で、穴を開けたり……す、するんだ。で、でも僕、そういうの、す、好きだから……」

 つっかえつっかえ説明する少年の言葉を要約すれば、私と同じく好きこそものの上手なれを地で行った感じだ。とはいえ、まともに出店することも出来ず、こうして路地裏で違法に売っていたという。

「へ~、これは凄いわね。いくらなの?」

「その木のヤツは、銅貨、二枚、くらい……」

「銅貨二枚!? 安すぎでしょ!?」

 日本円で考えれば五、六百円である。私の目には、その十倍二十倍の価値がある様に見えた。

 というか私ならそのぐらい出す。出しても惜しくない。

「で、でも……君、が初めての客、だか……ら」

「じゃあもっと吹っかければいいのに、勿体ない」

「そ、かな? ふへへへ……」

 内心その笑い方はキモイわ、なんて思うが心の中に止めておく。

 言ったら泣いちゃいそうだし。

「あ、でも勝手にここで物売ると捕まっちゃうよ」

「え……」

 知らなかったんかいっ!

「出店するのには税金を払わないといけなくて……」

 とりあえず私はオーギュスト伯爵の家令さんから教えてもらったこの市場の仕組みを滔々と説いて聞かせた。

 すると少年の顔が見る間に青ざめていき、ガタガタと体を震わせ始める。

 どうやら今頃になって自分のやったことを知り、怖くなってしまった様だ。

「ぼ、ぼく……し、知らなくって。ど、どうしよ……」

「……も~、仕方ないなぁ。じゃあ私が何とかしたげるっ。大丈夫、こう見えても偉い人の知り合い多いんだから」

 一生懸命自分の好きな道をまい進する人に悪い人は居ない。私は彼を応援してあげたかった。

 ……ちょうど似たような感じのひねくれ者が近くに居るわけだし。

「あ、そうだ。あなた名前は?」






「お前は……心配かけさせるな!」

 再会して早々、グラジオスは怒鳴りつけて来た。

 息が切れ、服も乱れている。先ほどまで人ごみの中を、大声で私の名前を呼びながら探し回ってくれたのだから当然だ。

 迷惑かけて悪いなって思う心と、勝手に行っちゃうからでしょって不満がぶつかって、ちょっとどんな態度を取っていいか分からなかった。

「ん……」

 私は唇を尖らせて不満そうにふくれっ面を見せるだけにとどめておく。

「まったく……」

 グラジオスは吹き上がる額の汗を拭うと、大きく息を吐いた。

 そうやって一息つくと、私の背後に居る少年――ピーターへと視線を向ける。

「それで、ソイツは一体なんだ?」

「ひうっ」

 ガタイのいいグラジオスに睨まれ、ピーターは青い顔で震えあがる。

 あ、これ下手するとピーター逃げだしそう。

「えっとね、さっき拾ったの」

「……猫には見えんが」

 なかなか面白い事言うじゃん、グラジオス。冗談も言えるんだ。

「ん~とね。一生懸命やってる人は応援してあげたいなぁって思ったの」

「はぁ?」

 心底意味が分からないといった顔で、グラジオスは顔を歪めたのだった。
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