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第48話 遅れてやって来た反抗期?
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私は色んな人に迷惑をかけた。その事を色んな人に謝って回り、逆に謝られもした。
アッカマンは今後やり過ぎないようにすると約束してくれたが、ああいう手合いはどうしても出てきてしまう事だろう。
それからオルランドと部下達の処遇も決まった。部下たちは三年間の労働刑、その後はどうやらアッカマンが責任を持ってくれるらしい。
逆恨みを防止するためと説明されたが、多分嘘だろう。私の希望を聞き入れてくれたのだ。
オルランドについては……一切教えてもらえなかった。
公開処刑が無かったから、どうなったのかは本当の所分からない。でも多分、首謀者の彼は許されなかったんだと思う。その事に私は少しだけショックを受けて……でも止まらなかった。
私の歌に、そういう責任が生まれる。その事を自覚して、私は歌うようになった。
こういうの、ちょっと大人になったって言うんだろうか?
それから月日は巡り……。
「グラジオス。貴様、歌にかまけて遊び惚け、だというのに政にも口を出しているそうだな?」
謁見の間に、グラジオスは呼び出されていた。
もちろん、私も前回同様グラジオスの後ろで跪いている。私の他にはハイネとオーギュスト伯爵が付き従っていた。
「はい。自分なりにこの国を良くしたいと、微力ながら尽くさせていただいております」
グラジオスは言葉の通り、ライブや勉強の合間に各地を直接見て回り、現地の実態を調査しては国民の不満を汲み上げ、政治に反映していた。
グラジオスに執務室はない。ならば自分が調べて執務室に届ければいい。それがグラジオスの出した結論だった。
その成果は着実に積み重なり、机の上だけでは解決できない問題を、いくつも解決しては国民から感謝されていた。
それがグラジオスの自信にもつながっているのか、受け答えしている彼の顔は堂々としており、以前までの様な弱気な所は欠片も見当たらない。
「愚か者がっ! 無能者の貴様が政など百年早いわっ!!」
「お言葉ですが陛下。カシミールも納得してくれた上での事であります」
「ぐっ」
やはりこのヴォルフラム四世王はカシミールの名前を出されると弱いらしかった。
「だ、だがそれ以外もあるだろうっ!! カシミールからも聞いておる。無茶な要望が多すぎると。余が全体を見て決めている事もあるのだっ。貴様の浅慮で口出しなどするなっ」
いつものグラジオスならば、ここまで言われれば震えあがってしまい、頭を垂れて平伏することだろう。
でも今日のグラジオスは違った。
震える声を噛み潰し、己の中に眠る勇気を奮い立たせ、必死に食い下がる。それもこれもは全て、自らを慕ってくれる人たちのため。
多くの国民の命と生活を背負っているという自覚が、今のグラジオスを支えていた。
だから決して倒れない。
「陛下。確かに陛下の大きな御手は、多くの人々を救い上げる事でしょう。ですが、どれだけ大きな手であろうと必ず水滴は漏れる。私はそんな彼らを救いたいのです。未熟者の私に出来る事はその程度でありますので」
後ろで聞いていたオーギュスト伯爵が、気付かれないようにこっそり目元を拭う。
私もそうだ。ここまでグラジオスが言い返せるだなんて思っても居なかった。
今のグラジオスは間違いなく王子だ。
素直に凄いと思う。
「き、貴様は余の治政を愚弄するかっ!」
「いいえ、どれほど完璧であってもわずかながら漏れるという話をしております。完璧な王から私の様な未熟者が生まれた事が証左でありましょう」
「…………」
ちょっと訂正。なんでここで自虐ネタに走んのよ!
もっと堂々としてなさいよね!!
王にとってはある意味クリティカルヒットな攻撃なんだろうけどさ。
「それから、私宛の手紙が全く私の下に届いていなかったことも」
グラジオスの一言で、ヴォルフラム四世王とその隣に居るカシミールの顔色が変わる。
間違いなく、この二人が手紙を止めていた張本人だろう。
私が拉致されてしまった時に聞いた、部屋いっぱいの手紙という噂。それが真実かどうかグラジオスに確かめたのだ。
グラジオスは当然のように何も知らなかった。しかも手紙など一枚も来ていなかったという。当然その後グラジオスは王城へと帰り、そこで大量の手紙をカシミールに発見してもらったのだ。
手紙は連合している他の王国を始めとして帝国からの物も含まれており、これらを無視し続ける事はとんでもない外交問題のはずだった。
自虐ネタなんて挟まずに最初っからこの事問題にすればいいのに……。
「他の国に数カ月間何も返さないというのは、些か失態と言わざるを得ません」
「……書の管理人は首にしておきました。今後はこういう事などないでしょう」
横からカシミールがすまし顔でそう主張するが、もちろん嘘だ。
尻尾切りにされた役人は何も悪くない。カシミールに言われた通り、グラジオス宛の手紙を全て保存・管理しておいただけだ。
さすがに彼が可哀そうだったので、こっそり接触して今はアッカマン商会で書類の分類を行う仕事に就いてもらっていたりする。
「親書によれば、私、それから此処に居る雲母を招いて演奏を行い、国同士の交流を深めようとありました」
「…………」
ヴォルフラム四世王の顔には、怒り、恥辱、その他にも様々な負の感情がない交ぜになった様な、見たこともない表情が浮かんでいた。
あれほどグラジオスを嫌い、貶める原因となった歌が他国に認められ、称賛されているのだ。
自分の目が節穴であったと如実に見せつけられ、面白いはずがないだろう。
「陛下、この演奏による外交を行えば、連合国内での我が国の存在感も増しましょう。更には帝国から国交を……」
「帝国なぞっ!」
ヴォルフラム四世王は怒鳴り声をあげ、玉座の肘かけに拳を振り下ろす。だが、今更そんな安っぽい恫喝ではグラジオスはびくともしなかった。
口こそ閉ざしたものの、グラジオスは自らの父親の瞳をまっすぐ見据える。
「我が国と連合の間に亀裂を入れる策略に決まっているではないかっ! それも見抜けぬか、愚か者めがっ!! 浮足立ちおって。少しばかりちやほやされたからと調子に乗るでないっ!!」
「ですが陛下。経済的な交流程度は合っても問題はないかと。連合内でも帝国と取引を行っている国はございます」
「くっ」
今までと違って反抗してくるグラジオスに、ヴォルフラム四世王は明らかに怯んでいた。しかもグラジオスの言う事が正しいとなれば、それを大勢の貴族たちの前で否定することもできない。
「陛下。どうかこの未熟者が陛下の遣いになる事をお許し願えませんか? この役目は、私にしか出来ない事だと愚考いたします」
ヴォルフラム四世王は渋面を作ってグラジオスを見下ろす。何も言わないのは王も分かっているからだろう。グラジオスを行かせることが間違いなく国益に繋がるということを。
だが、それをすればヴォルフラム四世王自身のプライドに傷がつく。さらに諸外国がグラジオスへの印象を強めてしまえば、王位をカシミールに譲る事さえ難しくなってしまう。
外交で名をあげ、政でも存在感を増せば、王がいくら望んでも民や貴族がそれを許しはしない。
「貴様如き、他国で余計な失態を見せて余の面貌に泥を塗ると決まっておるわ! そんな者を行かせられるかっ」
ヴォルフラム四世王の中で様々な計算がぶつかり合い、はじき出された答えは私欲にまみれたものだった。
とはいえ如何に間違って見えようと、その答えを出したのが王となればひっくり返すことは容易ではない。
「しかし、私は……」
「くどいっ」
懸命にヴォルフラム四世王を説得しようとグラジオスが縋りつく。だが王は決して受け入れようとはしなかった。
でも、今のグラジオスは一人ではない。
「陛下。このオーギュストめが殿下に様々な事を叩き込みました。剣、社交、礼儀、ダンス、法律等々殿下はそれらを全て吸収し、自らの物にしてみせましたぞ。斯様な失態はまず起こしませんでしょう」
「実際にそれが出来るという保証はないっ」
「では此度で経験を積ませてみるのはいかがでしょう。なに、これは音楽による交流であって正式な外交交渉ではありますまい。失態を起こす可能性と得られる利益をはかりにかければ、どちらを優先すべきか陛下もお分かりのはず」
ヴォルフラム四世王に対して正面からお前がおかしいと言ってのけるなど、王にすら一目置かれるオーギュスト伯爵だからこそできる芸当だ。
というかこれも~マジでハラハラするんですけど……。
「それとも陛下はこのオーギュストめの言を信じては下さりませんかな?」
オーギュスト伯爵とヴォルフラム四世王の間で火花が散った……様に、私には見えた。
そのぐらいの視線の応酬を繰り広げた後、とうとうヴォルフラム四世王が折れた。
「予算は一切付けぬ」
うわっ、ケチくさっ。
思わず失笑しかけてしまうほど、王は情けない手段で対抗してくる。でも、そんな事何の障害にもなってないのに。ホント、分かってないんだよなぁ。
グラジオスが一瞬だけ背後を振り返り、私と視線を交わす。
そう、私達はアッカマンと契約を結んでいるのだ。どの場所に行こうとそこまでの旅費、それから衣裳に場所を提供すると。
当然海外も視野に入っている。
というかアッカマンはそのつもりでいたらしい。海外の商会とも大々的に取引を行って、更に販路を拡大しようと目論んでいたのだ。
そのためにこの演奏旅行はもってこいの名分で、しかもアッカマン商会の名前を売るビッグチャンスといえる。彼が出資しないはずがなかった。
「それで十分です。ありがとうございます、陛下」
グラジオスが恭しく頭を下げる。
まさかそれで受け入れられると思っていなかったのか、ヴォルフラム四世王は笑えるぐらいに間抜け面を晒す。
私は表情にすら出さなかったが、内心でざまあみろと言いながら王に対して思いっきり舌を出しておいた。
「後程詳細な計画書をカシミールに提出いたします。期間は一年から二年といった所ですが、その間留守にすることをお許しください」
それでは、とグラジオスは頭を下げる。
同時に私達もそれを追うように頭を下げた。
「ま、待てっ」
「……なんでしょうか?」
「帝国との交流の際、カシミールを同席させる」
「相分かりました。それでは失礼いたします」
親子とは思えない会話を終えたグラジオスは、再び一礼すると謁見の間を後にする。
その背中は、いつもより輝いて見えた。
アッカマンは今後やり過ぎないようにすると約束してくれたが、ああいう手合いはどうしても出てきてしまう事だろう。
それからオルランドと部下達の処遇も決まった。部下たちは三年間の労働刑、その後はどうやらアッカマンが責任を持ってくれるらしい。
逆恨みを防止するためと説明されたが、多分嘘だろう。私の希望を聞き入れてくれたのだ。
オルランドについては……一切教えてもらえなかった。
公開処刑が無かったから、どうなったのかは本当の所分からない。でも多分、首謀者の彼は許されなかったんだと思う。その事に私は少しだけショックを受けて……でも止まらなかった。
私の歌に、そういう責任が生まれる。その事を自覚して、私は歌うようになった。
こういうの、ちょっと大人になったって言うんだろうか?
それから月日は巡り……。
「グラジオス。貴様、歌にかまけて遊び惚け、だというのに政にも口を出しているそうだな?」
謁見の間に、グラジオスは呼び出されていた。
もちろん、私も前回同様グラジオスの後ろで跪いている。私の他にはハイネとオーギュスト伯爵が付き従っていた。
「はい。自分なりにこの国を良くしたいと、微力ながら尽くさせていただいております」
グラジオスは言葉の通り、ライブや勉強の合間に各地を直接見て回り、現地の実態を調査しては国民の不満を汲み上げ、政治に反映していた。
グラジオスに執務室はない。ならば自分が調べて執務室に届ければいい。それがグラジオスの出した結論だった。
その成果は着実に積み重なり、机の上だけでは解決できない問題を、いくつも解決しては国民から感謝されていた。
それがグラジオスの自信にもつながっているのか、受け答えしている彼の顔は堂々としており、以前までの様な弱気な所は欠片も見当たらない。
「愚か者がっ! 無能者の貴様が政など百年早いわっ!!」
「お言葉ですが陛下。カシミールも納得してくれた上での事であります」
「ぐっ」
やはりこのヴォルフラム四世王はカシミールの名前を出されると弱いらしかった。
「だ、だがそれ以外もあるだろうっ!! カシミールからも聞いておる。無茶な要望が多すぎると。余が全体を見て決めている事もあるのだっ。貴様の浅慮で口出しなどするなっ」
いつものグラジオスならば、ここまで言われれば震えあがってしまい、頭を垂れて平伏することだろう。
でも今日のグラジオスは違った。
震える声を噛み潰し、己の中に眠る勇気を奮い立たせ、必死に食い下がる。それもこれもは全て、自らを慕ってくれる人たちのため。
多くの国民の命と生活を背負っているという自覚が、今のグラジオスを支えていた。
だから決して倒れない。
「陛下。確かに陛下の大きな御手は、多くの人々を救い上げる事でしょう。ですが、どれだけ大きな手であろうと必ず水滴は漏れる。私はそんな彼らを救いたいのです。未熟者の私に出来る事はその程度でありますので」
後ろで聞いていたオーギュスト伯爵が、気付かれないようにこっそり目元を拭う。
私もそうだ。ここまでグラジオスが言い返せるだなんて思っても居なかった。
今のグラジオスは間違いなく王子だ。
素直に凄いと思う。
「き、貴様は余の治政を愚弄するかっ!」
「いいえ、どれほど完璧であってもわずかながら漏れるという話をしております。完璧な王から私の様な未熟者が生まれた事が証左でありましょう」
「…………」
ちょっと訂正。なんでここで自虐ネタに走んのよ!
もっと堂々としてなさいよね!!
王にとってはある意味クリティカルヒットな攻撃なんだろうけどさ。
「それから、私宛の手紙が全く私の下に届いていなかったことも」
グラジオスの一言で、ヴォルフラム四世王とその隣に居るカシミールの顔色が変わる。
間違いなく、この二人が手紙を止めていた張本人だろう。
私が拉致されてしまった時に聞いた、部屋いっぱいの手紙という噂。それが真実かどうかグラジオスに確かめたのだ。
グラジオスは当然のように何も知らなかった。しかも手紙など一枚も来ていなかったという。当然その後グラジオスは王城へと帰り、そこで大量の手紙をカシミールに発見してもらったのだ。
手紙は連合している他の王国を始めとして帝国からの物も含まれており、これらを無視し続ける事はとんでもない外交問題のはずだった。
自虐ネタなんて挟まずに最初っからこの事問題にすればいいのに……。
「他の国に数カ月間何も返さないというのは、些か失態と言わざるを得ません」
「……書の管理人は首にしておきました。今後はこういう事などないでしょう」
横からカシミールがすまし顔でそう主張するが、もちろん嘘だ。
尻尾切りにされた役人は何も悪くない。カシミールに言われた通り、グラジオス宛の手紙を全て保存・管理しておいただけだ。
さすがに彼が可哀そうだったので、こっそり接触して今はアッカマン商会で書類の分類を行う仕事に就いてもらっていたりする。
「親書によれば、私、それから此処に居る雲母を招いて演奏を行い、国同士の交流を深めようとありました」
「…………」
ヴォルフラム四世王の顔には、怒り、恥辱、その他にも様々な負の感情がない交ぜになった様な、見たこともない表情が浮かんでいた。
あれほどグラジオスを嫌い、貶める原因となった歌が他国に認められ、称賛されているのだ。
自分の目が節穴であったと如実に見せつけられ、面白いはずがないだろう。
「陛下、この演奏による外交を行えば、連合国内での我が国の存在感も増しましょう。更には帝国から国交を……」
「帝国なぞっ!」
ヴォルフラム四世王は怒鳴り声をあげ、玉座の肘かけに拳を振り下ろす。だが、今更そんな安っぽい恫喝ではグラジオスはびくともしなかった。
口こそ閉ざしたものの、グラジオスは自らの父親の瞳をまっすぐ見据える。
「我が国と連合の間に亀裂を入れる策略に決まっているではないかっ! それも見抜けぬか、愚か者めがっ!! 浮足立ちおって。少しばかりちやほやされたからと調子に乗るでないっ!!」
「ですが陛下。経済的な交流程度は合っても問題はないかと。連合内でも帝国と取引を行っている国はございます」
「くっ」
今までと違って反抗してくるグラジオスに、ヴォルフラム四世王は明らかに怯んでいた。しかもグラジオスの言う事が正しいとなれば、それを大勢の貴族たちの前で否定することもできない。
「陛下。どうかこの未熟者が陛下の遣いになる事をお許し願えませんか? この役目は、私にしか出来ない事だと愚考いたします」
ヴォルフラム四世王は渋面を作ってグラジオスを見下ろす。何も言わないのは王も分かっているからだろう。グラジオスを行かせることが間違いなく国益に繋がるということを。
だが、それをすればヴォルフラム四世王自身のプライドに傷がつく。さらに諸外国がグラジオスへの印象を強めてしまえば、王位をカシミールに譲る事さえ難しくなってしまう。
外交で名をあげ、政でも存在感を増せば、王がいくら望んでも民や貴族がそれを許しはしない。
「貴様如き、他国で余計な失態を見せて余の面貌に泥を塗ると決まっておるわ! そんな者を行かせられるかっ」
ヴォルフラム四世王の中で様々な計算がぶつかり合い、はじき出された答えは私欲にまみれたものだった。
とはいえ如何に間違って見えようと、その答えを出したのが王となればひっくり返すことは容易ではない。
「しかし、私は……」
「くどいっ」
懸命にヴォルフラム四世王を説得しようとグラジオスが縋りつく。だが王は決して受け入れようとはしなかった。
でも、今のグラジオスは一人ではない。
「陛下。このオーギュストめが殿下に様々な事を叩き込みました。剣、社交、礼儀、ダンス、法律等々殿下はそれらを全て吸収し、自らの物にしてみせましたぞ。斯様な失態はまず起こしませんでしょう」
「実際にそれが出来るという保証はないっ」
「では此度で経験を積ませてみるのはいかがでしょう。なに、これは音楽による交流であって正式な外交交渉ではありますまい。失態を起こす可能性と得られる利益をはかりにかければ、どちらを優先すべきか陛下もお分かりのはず」
ヴォルフラム四世王に対して正面からお前がおかしいと言ってのけるなど、王にすら一目置かれるオーギュスト伯爵だからこそできる芸当だ。
というかこれも~マジでハラハラするんですけど……。
「それとも陛下はこのオーギュストめの言を信じては下さりませんかな?」
オーギュスト伯爵とヴォルフラム四世王の間で火花が散った……様に、私には見えた。
そのぐらいの視線の応酬を繰り広げた後、とうとうヴォルフラム四世王が折れた。
「予算は一切付けぬ」
うわっ、ケチくさっ。
思わず失笑しかけてしまうほど、王は情けない手段で対抗してくる。でも、そんな事何の障害にもなってないのに。ホント、分かってないんだよなぁ。
グラジオスが一瞬だけ背後を振り返り、私と視線を交わす。
そう、私達はアッカマンと契約を結んでいるのだ。どの場所に行こうとそこまでの旅費、それから衣裳に場所を提供すると。
当然海外も視野に入っている。
というかアッカマンはそのつもりでいたらしい。海外の商会とも大々的に取引を行って、更に販路を拡大しようと目論んでいたのだ。
そのためにこの演奏旅行はもってこいの名分で、しかもアッカマン商会の名前を売るビッグチャンスといえる。彼が出資しないはずがなかった。
「それで十分です。ありがとうございます、陛下」
グラジオスが恭しく頭を下げる。
まさかそれで受け入れられると思っていなかったのか、ヴォルフラム四世王は笑えるぐらいに間抜け面を晒す。
私は表情にすら出さなかったが、内心でざまあみろと言いながら王に対して思いっきり舌を出しておいた。
「後程詳細な計画書をカシミールに提出いたします。期間は一年から二年といった所ですが、その間留守にすることをお許しください」
それでは、とグラジオスは頭を下げる。
同時に私達もそれを追うように頭を下げた。
「ま、待てっ」
「……なんでしょうか?」
「帝国との交流の際、カシミールを同席させる」
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親子とは思えない会話を終えたグラジオスは、再び一礼すると謁見の間を後にする。
その背中は、いつもより輝いて見えた。
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