『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました

駆威命(元・駆逐ライフ)

文字の大きさ
47 / 140

第47話 大切だよ

しおりを挟む
 私の監禁に関わった全ての人達の拘束が終わり、事件はひとまず収束した。

 でも私はハッピーエンドと喜べる気には、まったくならなかった。私のせいで不幸になって、私のせいで人生を狂わせてしまった人が居る事を知ってしまったから。

「ほら、立て」

 拘束された男の人たちが兵士たちに引き立てられていく。

 彼ら関する処遇はこれから決まるのだろう。

「あのっ、出来ればその……。あの人たちを無罪にしてあげる事って、出来ませんか?」

 私は彼らの事を憎むことが出来ないでいた。

 だから私は兵士たちの中でもちょっと偉そうな感じの隊長格の兵士へ直訴をしてみる。

 日本で現場の警官にそんな事を言っても意味なんてないのと同じで彼らの罪を軽くすることなんて出来ないのかもしれないけど、私は言わずには居れなかった。

「姉御、それはさすがに……」

 私の舎弟であり、めったに私に意見することのないハイネですら呆れている。そのぐらい私の主張は筋の通らないおかしなことだという自覚はあった。でも彼らは私の歌を聴いてくれたし、喜んでもくれたのだ。

 私にとって、大切な観客の一人には違いない。

「私のロープを解いてくれたり、毛布を貸してくれたんだよ? その分減刑とかないの?」

 私の懇願にも関わらず、隊長は首を横に振る。

「貴族、王族の持ち物及び使用人に手を付けたとなると、如何に減刑されたとしても死罪は免れないでしょう」

「で、でも私が原因を作ったんだよ? なら……」

 少しでも助けてあげたくて、私は必死に食い下がった。そんな私の肩が叩かれる。

 振り向いてみたら、いつもの飄々とした表情とは全然違う、厳しい顔をしたハイネだった。

「姉御。アッカマンからもちょいと事情を聞きいたっすが、商売に負けたから逆恨みってどう考えてもこいつらの自業自得っす。しかも、アッカマンは一度自分の傘下に入る様に説得したっす」

「確かにそれはあのオルランドの責任で、私もオルランドは許す必要ないって思ってる。死刑は行き過ぎだとおもうけど……」

 結局オルランドですら減刑してくれと頼んでいる事に等しい。あまりにも甘すぎる、この世界の常識とはかけ離れた私の感性を、しかしハイネは笑う事などしなかった。

 どう説得したものか、といった感じでハイネはため息をついた後、ためらいながら口を開き……。

「馬鹿がっ! お前を殺そうとした連中だぞっ! 許せるわけないだろうが!」

 グラジオスが怒りをあらわにしながら、私に罵声をぶつけて来た。

 どうやらようやくオルランドを拘束できたらしい。

 グラジオスの頬に出来た切り傷から未だ血が流れ出ていて心が痛む。

「そんな事ないよ。殺すつもりは、無かったよ」

「お前を売ろうとしていたんだ、似たようなものだっ!」

 私は激昂するグラジオスに何か言い返そうとして……でもその前に自分のすべきことを思い出した。

 私は私の迂闊さをまず一番に反省するべきだし、迷惑をかけた人たちに謝罪をするのが先だ。

 これほどグラジオスが怒っているのは私が原因なのだから、まずは私が罰を受けるのが筋ではないだろうか。

「ごめんなさい」

 思い直した私は、話の途中であったのにもかかわらず、グラジオスに頭を下げる。

「ごめんね、ハイネ」

 ぽかんとしているグラジオスを置いて、次はハイネに。

「皆さんもごめんなさい。私が馬鹿で迂闊な事をしたから迷惑をかけてしまいました。なのに謝りもせずに我が儘言って、ごめんなさい」

 よし、筋は通した。本当に申し訳ないけれど、それでも私はしたい事があるのだ。

「それで、自分が馬鹿な事を言っているとは分かっています。でも、それでもこの人たちを少しだけ許してあげてください、お願いします」

 隊長さんと、グラジオスに。私は深々と頭を下げた。観客になってくれて、私の歌を喜んで聴いてくれた人たちを、私は助けてあげたかったから。

 隊長さんは困り果てた様子でグラジオスへと視線を向けている。

 確かに、隊長さんにはそんな権限などない。

 この事件を裁くのはオーギュスト伯爵で、そのオーギュスト伯爵に命令が出来るのはこの世で王族だけだから。可能性があるとすれば、この国の王子であるグラジオスだけだ。

 だから私はグラジオスへと向き直り、もう一度頭を下げた。

「……お前は……」

 グラジオスは深く長い溜息をつき、頭痛を堪えているみたいに沈痛な面持ちで額を押さえている。

 私はグラジオスの次にいう言葉が手に取る様に予想できた。

 グラジオスはいつも通り、きっとあの言葉を言うだろう。

 いつもなら腹の立つ言葉だが、今の私にはふさわしい言葉だからすんなりと受け入れる事が出来る。

「大馬鹿だ。頭がおかしいのか?」

「そうだね。うん、その通りだから……」

 私はグラオスの言葉を認めて、言い返そうとして――突然抱きしめられた。

 グラジオスのサラサラした金髪が私の頬をくすぐる。

 ツンとした汗のにおいが広がるが、悪い気はしない。こうなるぐらい、私のために動いてくれたのだから。

 グラジオスの鼓動が直接私の体を震わせる。それほど私とグラジオスは密着してしまっていた。

「お前はもっと自分の価値に気付け! 自分がどれほど大切に想われている存在か自覚しろっ!」

 痛かった。グラジオスの強い力で抱きしめられて。

 でもそれ以上に、なんて言われているのか私は理解できなかった。

 ……ううん、そうじゃない。信じられなかっただけかもしれない。まさか――。

「お前が良くても俺が嫌なんだ、お前を傷つけられるのがっ!」

 グラジオスがそんな風に想っていてくれたなんて、私は思いもしなかったから。

 焦った私は、うやむやにするため、心にもない言葉を口にする。

「そ、そうだね。グラジオス、私の歌が好きだもんね」

「お前だ、馬鹿が。歌よりも、お前なんだよ」

「な、何それ。そ、そんなの困る」

 私は焦っていた。抱きしめられて直接グラジオスの熱を伝えられ、グラジオスの人生そのものである歌よりも大切だと言われたら、もうそういう意味だとしか思えないから……。

「グラジオス……。わ、私の事……どう思ってるの?」

「だから大切だと何度も……」

「それじゃ分かんないよ」

 大切にも様々な意味がある。友愛や親愛なのか、それとも……

「……好きって、意味なの?」

 恋愛なのか。

「え……?」

 グラジオスは言われて始めて気付いたという様に少々間抜けな声を出し、そこでようやく自分が何をしているか気付いたみたいだった。

 私の顔の横で、グラジオスが首をゆっくりと動かしている気配がする。大方周りを見回しているのだろう。それが終わると腕の力を緩め、僅か数センチの近さにある私の顔を見つめる。

 グラジオスは、いつの間にコイツが腕の中に? みたいな感じの表情をしていた。

 いや、アンタが抱き着いたんだからね。

 それで理解する。ああ、コイツの大切ってバンドメンバーだからだって。

 それが分かると一気に力が抜けてしまった。

「あー、そーだね。私もグラジオスが大切。ハイネもエマも大切だしね。だから……」

 私はにこやかな笑みを浮かべる。

 とてもとても、晴れやかな笑みを。

 何故かグラジオスは顔を青くしているみたいだけど。

「あ~、なんだ。雲母……」

「軽々しく女の子に抱き着くな! この変態っ!」

 一応守ってくれたわけだしグーは勘弁しておいてあげた。

 乙女心を弄ぶなっ!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?

エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。  文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。  そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。  もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。 「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」  ......って言われましても、ねぇ?  レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。  お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。  気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!  しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?  恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!? ※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。

ブラック企業に勤めていた私、深夜帰宅途中にトラックにはねられ異世界転生、転生先がホワイト貴族すぎて困惑しております

さくら
恋愛
ブラック企業で心身をすり減らしていた私。 深夜残業の帰り道、トラックにはねられて目覚めた先は――まさかの異世界。 しかも転生先は「ホワイト貴族の領地」!? 毎日が定時退社、三食昼寝つき、村人たちは優しく、領主様はとんでもなくイケメンで……。 「働きすぎて倒れる世界」しか知らなかった私には、甘すぎる環境にただただ困惑するばかり。 けれど、領主レオンハルトはまっすぐに告げる。 「あなたを守りたい。隣に立ってほしい」 血筋も財産もない庶民の私が、彼に選ばれるなんてあり得ない――そう思っていたのに。 やがて王都の舞踏会、王や王妃との対面、数々の試練を経て、私たちは互いの覚悟を誓う。 社畜人生から一転、異世界で見つけたのは「愛されて生きる喜び」。 ――これは、ブラックからホワイトへ、過労死寸前OLが掴む異世界恋愛譚。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...